荒木村重が逃亡し、妻の荒木だしが処刑された大河ドラマ『豊臣兄弟』の第24回放送。
三木城の攻防にも決着がつきましたが、非常に“綺麗”な描かれ方であり、悲惨だったとされる「三木城の戦い」って実際どうだったの?という疑問を持たれた方も多いかもしれません。
加えて印象的だったのが村重の妻・荒木だしの強烈な恨み節。
史実と照らし合わせながら、今回のレビューを進めて参りましょう!
2.5km先にどんちゃん騒ぎは届くの?
天正七年(1579年)、東播磨の平井山。
遠くに三木城を眺める羽柴軍が、突如どんちゃん騒ぎを始めます。
鈴を鳴らし、鉄砲を撃ちまくり、「エイエイオー!」と大声を張り上げる。

いったい何事か?
と思ったら、三木城で籠城している別所長治が「またか……」と表情が曇り、空腹に我慢できなくなった雑兵が乱心して米袋を引きちぎり、生米を食べ始めます。
玄米だろうから、血糖値は上がらんでええか。
なんて言うはずもなく、その背後から脇差でぶっ刺す別所賀相(よしちか)。
秀吉らが仕掛けていたのは「詞戦(ことばたたかい・言葉戦い)」みたいなものですね。
戦場では、大声で相手の弱点を突き、敵兵の士気を下げる戦術が有効だとして『鎌倉殿の13人』でも描かれていました(北条時政が失敗)。
他にも法螺貝を鳴らしまくったり、戦国時代であれば鉄砲を撃ちまくるというのは史実に則した描写ですね。
ただ、ちょっと疑問もありまして……。
羽柴軍の本拠地は「東播磨平井山」と記されていましたように、現在も「平井山ノ上付城跡(羽柴秀吉本陣跡)」としてGoogleマップに記されています。
問題は三木城までの距離です。
両地点間の距離は、現在の道路で約4km、直線で2.5kmでした。
どんちゃん騒ぎ、届きますかね?
「どんちゃんさわぎ」の「どん」ぐらいでは?
史実の秀吉は、三木城を取り囲むと昼夜問わずかがり火を炊いてプレッシャーをかけ、人の出入りを厳しく確認しながら、兵糧の持ち込みを徹底的に封じました。
24時間見張られている上に極限の空腹という状況は本当に地獄に近いものがあったでしょう。
ゆえにこの合戦は「三木の干し殺し」などとも呼ばれるわけですが、今回はどんな落城の様子が描かれるのか?
と、その前に、もう一つの包囲戦を繰り広げている有岡城へ。
織田軍の横流しで今日もメシが美味い!
荒木村重が籠る有岡城は、織田信忠軍が包囲していました。
思うように攻略が進まず、ブチ切れる信忠。
織田信忠は当時すでに家督を継承していましたが、やたらと「父ちゃんなら許さねーぞ!」と家臣たちに凄むのがちょっと痛々しい。
信忠は、そんなボンボン気質なんですかね。
まぁ、そこに居た小一郎(豊臣秀長)を目立たせるためなのでしょう。
秀長は、十ヶ月も籠城している有岡城の士気がやたらと高いことを指摘。
すぐさま調べさせると、織田軍から有岡城へ兵糧が横流しされており、荒木村重が妻だしに向かって「今日もメシが美味い!」と『食いしん坊万歳』みたいな絵面になります。

実際、織田軍から有岡城へ兵糧が売られていました。
それをカネで解決する秀長。
超久々に来ましたね、秀長がお金を武器にする場面。
「死後に莫大な蓄財が発見され、吝嗇家だったのでは?」とも指摘される秀長ですから、カネに関して敏感な性格はドラマを通じて描かれるのかな?と思っていました。
しかし、第一回放送の直とのやりとりや、「褒美はお金で!」と信長に言ったシーン以来、かなり久々の印象です。
今後は、もう少しギアアップしていくのかもしれません。
いずれにせよ秀長の「STOP!横流し大作戦」により、メシを思いっきり食えなくなった荒木村重は、恥も外聞もなく土牢に幽閉されている黒田官兵衛に知恵を授けてもらおうとします。
って、んなもん無理だと、見た瞬間わかるやろ!

廃人同然の官兵衛から、どんなアイデアが出ると思ったのよ……。
こんな状態なら、村重が牢の前に来た瞬間、黙ったまま「あかん……」とだけ言って立ち去るほうがおもろかったすわ。
「おまえがそうしたんだろ!」と総ツッコミの場面ですね。
実際、黒田官兵衛はこんな仕打ちを受けていたのか?というのは以下の記事に譲りまして、
-

黒田官兵衛は本当に“地獄の土牢”に監禁されたのか?有岡城幽閉の真相
続きを見る
ついに荒木村重は降伏を決意します。
小一郎に頭を下げ、有岡城は開城される運びとなったのです。
しかし……。
だしの恨み節「おのれ!村重~!」
降伏する織田信長に献上して、ご機嫌でもうかがおうと思ったのか、荒木村重が茶器を整理しております。
ところがその途中で茶碗を落として指を切っていまい、何を思ったか、今度は身体ごとズッコケて他の茶器も粉々にしてしまう。
茶器と炎に囲まれながら腹を斬った『麒麟がくる』の松永久秀とは雲泥の差だな!
と思っていたら、さらにどうしようもない村重が描かれます。
妻子や家臣を捨てて、逃げ出してしまったのです。
脇差饅頭(刀ぶっ刺し饅頭)で知られる荒木村重。

荒木村重/wikimedia commons
松永久秀と共に、戦国のネタ武将としてかなり美味しい存在ではあります。
ゆえに、どうしたって誇張して滑稽に描きたくなるでしょう。
しかしその手法は、古いギャグ漫画を見させられているようで、なんとも後味が悪い。
大河ドラマ『軍師官兵衛』のときは、今回安藤守就を演じている田中哲司さんが村重役を演じ、まだ誠実さを感じさせました。
今回は、メシ食って逃げるだけかよー!
実は荒木村重は、単に逃げ出したのではなく、決死の思いで毛利の援軍を求めに行ったのではないか?という研究者の指摘もあります。
だからこそ後に茶人や御伽衆として秀吉にも相手にされたというわけで……。
「妻も家臣も処刑されても構いません!私は自分の命が惜しいから逃げ出しました!テヘペロ!」
そんなヤツ、発見次第、磔(はりつけ)でしょ。
妻の荒木だしも、処刑間際になって「殿をお慕いしておりました」というのは辻褄が合わなくなりません?
信長から離反して籠城したのに土壇場になって一人だけ逃げ出した――という設定であれば、夫を憎む姿のほうが自然でしょう。
彼女が「おのれ!村重~!」と暴れまわり、怨みが大爆発しときは「そうだ!そうだ!」と思っただけに残念でした。

あの言葉、嘘だったとかありえないっすよね……。
なお、史実における荒木村重は単なる逃亡ではなかったとすれば、荒木だしも恨み節は残していないはずです。
三木城の餓死者は描かれず
有岡城が落ち、毛利の援軍も望めない今、もはや落ちるしかない三木城。
小一郎がどれだけ人道主義を説いても、織田信忠は「一人も許すな!」と強硬手段で城攻めを続けさせようとします。
そこへ現れたのが、足を引きずる黒田官兵衛でした。
「別所を皆殺しにすれば城も領地も容易いですが、播磨の心は手に入りません!」
そんな言葉にほだされ、秀吉に判断を委ねる信忠。
そもそも三木城へ兵糧攻めを仕掛けたのは秀吉と官兵衛であり、凄まじい数の餓死者が出たとされます(記録によっては数千とか)。

黒田官兵衛と豊臣秀吉/wikipediaより引用
しかもその後の鳥取城では、将兵だけでなく城内に民衆まで共に籠城させ、食糧が尽きるのを早め、ここでも多くの餓死者も出させています。
-

鳥取の渇え殺しと三木の干し殺し|秀吉と官兵衛が仕掛けた凄絶な飢餓の包囲戦
続きを見る
それだけに三木城(と後の鳥取城)は秀吉にとっても大きなポイントとなるところ。
必然的に注目度は高くなるのですが、やたらと「人に優しい豊臣兄弟さん」路線で終わってしまいました。
天正八年(1580年)1月に別所長治は切腹。
長治の命と引き換えに城内の命は救われた――という展開ですが「ここまで兄弟の経歴を綺麗にするのはやり過ぎでは」という思いは、やっぱり残りました。
三木城と鳥取城で大量の餓死者
前述の通り、一説には数千人ともされる大量の餓死者を出した三木城の戦い。
「三木の干し殺し」とも呼ばれ、数千人というのは誇張にしても、城内が凄惨すぎる状態になったことは間違いありません。
ここは秀吉の物語で、いつも問題になるところです。
秀吉と官兵衛はその後、鳥取城でもキツい追い込みをかまし、「馬や蛙やネズミ、さらには草木だけでなく人肉まで食した」とされるほど凄まじい状況となったのです。
秀吉がそうした戦術を選んだのも自軍の死傷者を減らすためであり、それはそれで堂々と主張すればよいだけのことだと思うのですが、何を描いて何を描かないか、というのは作り手の自由。
ゆえに、こうした凄惨な場面とは向き合わないという選択を取ったのでしょう。
もしかしたら「そういうのは書籍や他メディアで読めるよね」という作り手側の判断もあるのかもしれません。
気になる方は以下の記事をご参照ください。
極限の空腹状態でメシを食うとどうなるか、という医師の考察も入っております。
-

鳥取の渇え殺しと三木の干し殺し|秀吉と官兵衛が仕掛けた凄絶な飢餓の包囲戦
続きを見る
また、官兵衛の土牢幽閉についても、研究者の見解ではフィクションとは異なっています。
-

黒田官兵衛は本当に“地獄の土牢”に監禁されたのか?有岡城幽閉の真相
続きを見る
物語を見て、その後、どんな思いを巡らせるか、というのはあくまで視聴者側の意識次第。
今後も本作は、綺麗な『豊臣兄弟』路線で進んでいくのでしょう。
参考文献
- 天野忠幸『荒木村重(シリーズ・実像に迫る)天野忠幸』(2017年5月 戎光祥出版)
- 河内将芳『図説 豊臣秀長 秀吉政権を支えた天下の柱石』(2025年 戎光祥出版)
- 岡田正人編著『織田信長総合事典』(1999年 雄山閣出版)
- 黒田基樹『羽柴秀長とその家臣たち 秀吉兄弟の天下一統を支えた18人』(2025年10月 KADOKAWA)


