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おんな城主直虎レビュー

『おんな城主 直虎』感想レビュー第31回「虎松の首」

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「案ずるな。地獄へは俺がゆく」

雨の中で血まみれの短刀を握る政次。足下には子供の死体が転がっております。

「何をためらう。この首一つで関口様は満足し、井伊は小野のものになるのだぞ」

政次はそう言うのですが、周囲の者も「これでは流石に……」とおののきます。

ここで政次は覚悟の一言。
「案ずるな。地獄へは俺がゆく」

翌朝、直虎は虎松の首を改めるために館の庭に引き出されます。
首桶に入っているのは、化粧を施された子供の首でした。

化粧の濃さを問い糾された政次は、「虎松君は疱瘡を患っていた」と告げます。首のあまりのむごさに周囲も後ずさるほどです。
ご存じの通り虎松は疱瘡を患ってはいません。この時点で、井伊の者だけが首は偽物であるとわかるのです。

虎松は死んではいない、しかし犠牲になった者はいる。

直虎は首を抱きかかえ、すすり泣き、読経します。
その嗚咽は罪のない子供を憐れんだのか、それとも修羅道に踏み込んだ鶴に絶望を感じたためか。

 

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病気の子供が親に売られた、という龍雲丸の話は作り話か

そのころ、何故か龍潭寺には龍雲丸が訪れていました。
ここで南渓は井伊一族は危機を逃れたものの、虎松の身代わりに罪のない子供が犠牲になった、と相手に告げるのでした。

龍雲丸は名もなき子供を埋めるために地面を掘る直虎に、声を掛けます。

その子供の親はもはや病に罹り助からない子を売ったんだ。
子供だってあとは死ぬだけなのに銭を親に与えられてよかったのさ。
と直虎を慰めます。

しかし直虎は「そなたに何がわかる!」とすすり泣くのでした。
確かにこのタイミングで龍雲丸にそんなことはわかったとは思えないんですよね。

龍雲丸の言葉が真実かどうかはわかりません。直虎を励ますための作り話ではないでしょうか。
かつて龍雲丸から「人なんて買ってくればいいんでさあ」と助言をされ、明るい笑顔でそれに賛同していた直虎が(第16回)、実際に人を買って窮地を脱した結果にすすり泣いています。

 

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覚悟はできている! つもりだった

この回は、昨年の『真田丸』で、父の策を見習いたいと願っていた信繁が、その策で春日信達を犠牲にしたことを目の当たりにした展開に通じるものがあります。

とっくに覚悟は出来ていて、乱世を生き抜くと決意を固めていた主人公が、その残酷さを目の当たりにして心が揺らぐわけですね。
昨年は磔にされた無残な信達の死体が視聴者の心をも揺さぶりましたが、今年は映らなかったもののそこにある子供の首が、見ている側を何とも嫌な気分にさせます。

そして昨年、父の策を目の当たりにした信繁は、どう考えたか?
と言いますと、彼は父のような策士として生きるのではなく、義に生きて散るというある意味正反対の道を進みました。

父と子の生きる道は、同じように見えて別れてしまったのです。政次の策がもたらした冷酷さを目の当たりにした直虎も、信繁のように相手とは違う生き方を選ぶのでしょうか。

亥之助は、虎松を殺さなかったことに対して、政次に礼を言います。

しかし、亥之助は許しても、直虎はそうではありません。
胸の奥には井伊を復活させる決意と、直之の言葉や名も無き子供の犠牲をきっかけに芽生えた黒い思いが渦巻いているように、私には思えるのですが……。

 

MVP:井伊直虎

小野政次が妥当だとは思うんです。

ただし演技の深みが出てきた成長を評価してこの位置に。

政次を信じていた今までにはなかった、相手を疑う黒い疑念、無念、復活への意志が表情ににじみ出ていました。

田植えをし、綿毛を育て、ニコニコと笑う彼女も魅力的でしたが、凄味が出てきました。乱世を生きていくうえで何を犠牲にするのか。それに気づき、悟った緊張感が溢れています。

 

総評

何度かあった主人公のターニングポイントです。

今までは城主といえども、農業だの政治だの、血腥いところには踏み込まず、政治家として対処してきた直虎。その彼女に突きつけられたのは、無辜の子供の生首という、政次の策でした。

こういうとき身代わりを使うのはありえることです。
『軍師官兵衛』でも松寿丸(のちの黒田長政)の身代わりになって死んだ子供がいたのです。

身代わりの子供の命は極力無視する、軽いものと扱うのがセオリーの気がします。いくら仕方ないとはいえ、無辜の子供を殺すことを肯定的には描けないのです。

ところが今年は、名も無き子供の命とは何かを問いかけ、主人公も悩み、仕掛けた政次も「地獄に墜ちる覚悟」を示しました。
戦国を描く覚悟があります。
過去に「人なんて買えばいいでしょう」と示していたのも、ここへの伏線かもしれません。このロングパスの妙味に思わず唸ってしまいます。

視聴率では伸び悩んでいる本作ですが、評価はやはり高いままです。
戦国の痛みをここまで描くとなると、今後のハードルをあげてしまうと思うんですよね。この先、身代わりの子供を出す策が出てきたら、本作の直虎の涙を思い出して「そんなに軽く描くなよ」と言いたくなってしまうのではないかな、と。

そしてこの展開で最も注目すべきなのが、やはり直虎と政次の関係です。

先週までの完全に意志の疎通がはかれ、信じ合えていた関係に、中野直之の言葉をきっかけにして細いヒビが入りました。

これが衝撃的な予想外でした。
ここまで尽くしても直虎に疑われる政次が気の毒で、あまりにも酷い展開ではないかと。

情け容赦なく戦国の厳しさ、人の心の残酷さを突きつける本作。記憶に残る作品になりそうです。

武者震之助・記
霜月けい・絵

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