『真田丸 完全版ブルーレイ全4巻セット』/amazonより引用

真田丸感想あらすじ

『真田丸』感想レビュー第31回「終焉」 真夏の夜に寒気を感じる、孤独で無様な秀吉の死

こんばんは。
リオ五輪がいよいよ開幕しました。放送日程にも今後影響があるかもしれません。
選挙と五輪と、なかなか視聴率的には厳しい試練、さらに数字が落ち込む夏本番です。果たして今年はどうなるのでしょうか。
先週はこんな「オーパーツ」事件が話題になりました。本能寺の満月ミスに続くカットとなったようです。

◆大河ドラマ「真田丸」に“紙おむつ”が映り込み視聴者騒然 → 再放送ではカットに(→link

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秀吉亡き後を巡り水面下での権力闘争が激化

さて本編です。いよいよ最期の時が迫る豊臣秀吉。信繁は枕元に鐘を置き、ナースコールとして使うように秀吉に説明します。
ところが秀吉は何度もしつこくこの鐘を鳴らすのでした。先週に引き続き相変わらずリアルな描写で視聴者のSAN値を削りにかかっております。

石田三成は秀吉死後の人事案を練ります。本作は従来の「五大老」ではなく「老衆(おとなしゅう)」という名称を用います。来週続々と登場予定ですが、現時点ではとりあえず老衆・徳川家康、五奉行・石田三成という対立構造を頭に入れておけばよろしいかと。ちなみに奉行には大谷吉継の名もあがっていたのですが、病が悪化している吉継は固辞しました。三成はかなりショックを受けている様子です。

三成は今後暴走しそうな家康を止めるべく奔走することに。
その家康の謀将二名、本多正信と阿茶局は「ここはもう、天下を取るしかありえない!」とけしかけ始めます。
となると邪魔になってくるのは、行動を制限する奉行の三成です。三成は先手を打ち、自らが九州で朝鮮から撤退する軍勢を迎える間、伏見であやしい動きをしないように、と家康に告げに来ます。

家康は「そんなに留守が不安なら、私が九州に行こうか」と提案するのですが三成は一蹴。戻って来た軍勢を率いて謀叛を起こされたら困る、というわけです。
「チッめんどくせーな。わかりました、留守を守るからね〜」
本音を隠して三成をあしらう家康ですが、もちろん約束を守る気なんてさらさらないわけです。そこで、正信がある策を提案。
「こちらに都合のいい新しい遺言を、秀吉に出させればいいんですよ」
おお、火曜サスペンス劇場じみてきた! 今も病院でよくあるパターンだ、遺産をめぐって親族が揉め出すパターンだ!

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五奉行を排除した遺言書をムリに書かせ……

一方、真田昌幸は孫二人(信幸の子、仙千代と百助)を膝に乗せ、「鬼に犬を使者として送り込んで、油断したところを一気に討ち取る」という、桃太郎謀略風味を聞かせています。あの油断のならない昌幸も、すっかりよいおじいちゃんになってしまいました。

家康、本多正信・正澄父子は、織田信長拝領の甲冑を持参し、秀吉の病室に乗り込みます。留守番をしていた片桐且元は、これを止めるうえでまるで役に立ちません。

家康は秀吉の半身を起こし、筆を無理矢理握らせると、「秀頼のことを頼む」と繰り返す秀吉を罠にかけます。遺言の内容は言うまでもなく、五奉行を排除し、老衆だけで物事を決めてもよいというものでした。悪いなあ、本多正信、このおっさん、本当にワルいよ!

このことを知った三成は当然ながら激怒。且元を叱り飛ばします。三成は策をめぐらし、遺言状の行間に「五奉行のこと」を加筆することにし、さらに末尾に「以上」と書かせこれ以上加筆できないようにします。

強引に秀吉を再度起こし書かせるわけですが、秀吉は体力を消耗しているのか「眠い」とつぶやきます。その瞬間三成は「眠くはないッ!」と一喝。三成の秀吉への敬意を知っていると驚きの場面です。ところがこの声が寧に聞こえてしまい、いい加減にしろと怒られてしまいます。うーんやっぱり、生々しい。

一方、刻一刻と秀吉の死が迫るのに、茶々は秀頼を父親にあわせようとはしません。茶々は「元気なころは隠れていた、秀吉の心の卑しさ、醜さ、冷たさまで秀頼は感じてしまう」と信繁に漏らします。そういえば秀吉と茶々のカップルって、かつてあった親愛の情が今はすっかり消えたように見えます。もしかすると、はじめから茶々の方にはそんなものがなかったのかもしれませんが。

 

家康を殺してやってもいいぞ

すっかり好々爺になった昌幸を焚きつけるのは、出浦昌相です。秀吉死後の天下動乱を期待する昌相は、さらに家康も殺してやってもよいぞ、と主君に持ちかけます。角が取れた昌幸は流石に引き気味。

この頃、最強の舅こと本多忠勝は孫の顔を見るため、真田邸にやって来ておりました。祖父・忠勝に抱かれ、本気で泣いている百助。一方、仙千代は母のおこうに抱かれて隠れ潜んでいます。薫はうっかり百助を仙千代と呼んでしまい、周囲からたしなめられます。

実は信幸は仙千代の存在を舅に打ち明けておりませんでした。やっぱり正室側室ほぼ同時懐妊は伝えにくかったか……ここで昌幸が息子を叱ります。

「何をぐずぐずしておる。世の中先延ばしにしてよいことなぞ、何一つない!」

この一言にしらける一同。上洛をさんざん引き伸ばして痛い目にあったのは誰でしたっけ? そうです、昌幸です。

信繁はきりから寧の手作り菓子(おそらく生せんべい)を渡されます。秀吉を憐れむ信繁にきりは「今までさんざん悪いことしてきたんだから、自業自得でしょ」と冷たく言い放ちます。二人は秀吉の死後どうなるのか、語り合います。そこへ、家康が来訪しているとの知らせ。一人残されたきりちゃんは、思い人の間接キッス狙いか、食べ残しをパクリと口に運びます。

最近おとなしくなったきりですが、相変わらず個性派ヒロインぶりは健在です。よいこの模範的ヒロインなら、どんな嫌な奴でも死にかけているとなれば眉をくもらせ「おかわいそうに」なんて言うはずです。思ったことをハキハキと口にするきり。さらに食べ残しすら口をつけてしまう行儀の悪いきり。この型破りぶり、嫌いじゃありません。

 

「天下の覇者のわびしい最期に、諸行無常を感じている」

秀吉の枕元で家康は、「先日は手荒なまねをしてしまった」と反省の弁を漏らします。これはおそらく、半分本心でしょう。遺言偽造の時、本当に悪い顔で笑みすら浮かべていた本多父子とちがって、家康は若干後ろめたそうな顔をしていましたからね。秀吉のように振り切った悪に染まりきらないのが、家康という男なのでしょう。

信繁は家康に応対しながら、秀吉の枕元にある燭台を取り替え「この火は絶やさないようにしています。これが消える時が、命の消えるときなのです」と語ります。「最後の一葉」のようですね。

家康は秀吉の様子に、「天下の覇者のわびしい最期に、諸行無常を感じている」と語ります。さらに続けて「本当は戦なんて大嫌い、伊賀越え(第五回)は一度でたくさん、戦場で命からがら逃げ惑うのはもうごめんだ、秀吉の死で天下を乱れるのは困る」と本音を語ります。
残念ながら、家康は最晩年に今目の前にいる男=信繁から命からがら逃げ回ることになるのですが。

真田丸徳川家康霜月けい

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そこへタイミングよくやって来たのは、秀吉の甥である小早川秀秋です。おずおずと偉大な叔父に近寄った秀秋の言動はどこか奇妙です。「お元気で」と死にかけの病人に声をかけ、秀頼について頼まれたところ「できる限りで」という、どこか迷いのある返事です。さらに秀秋気を利かせた信繁と家康がふと離れたと隙に、あの大事な蝋燭を吹き消してしまいます。思わず叫んでしま信繁、家康、そして秀吉。この夜から秀吉の容態は急変します。
この秀秋が蝋燭を消すという構図、解説するのも野暮ですが、のちの関ヶ原での伏線となります。

 

褌一丁の三成が二度目の水垢離

秀吉の死が迫り、今夜が峠となった今、信繁は茶々の元へ向かいます。大蔵卿局から茶々の死を恐れる心を聞かされている信繁の前に、秀頼の手を引いた茶々本人があらわれます。茶々は覚悟を決めたのか、どこかさっぱりとした顔です。

ここで三成、二度目の水垢離(みずごり)。今度は下半身まで映り、褌一丁の尻まで見えます。前回(第二十五回)は上半身のみでしたので、サービス度がアップしています。サービスシーンに前のめりな今作スタッフの姿勢、嫌いじゃありません。

真田丸石田三成

毎年大河のゴシップ記事で「テコ入れのためにヌードシーンか?」という記事が出ます。毎年外れますが、今年は当たっているようです。ただし、ゴシップ記事が要求する裸体は女優で、大河が実装してくるのはビルドアップされた男の肉体という大きな違いがあります。

茶々は気丈に振る舞おうとしますが、それ以上に立派な態度なのは幼い秀頼でした。

茶々の言葉通り、秀頼は聡明そうな目をしています。茶々は甘えるような声で秀吉に呼びかけますが、耐えきれず泣き出して寧に慰められます。茶々の甘い声を久々に聞きました。鶴松の死以来、彼女は明るい声すら出さなくなっていたのです。

その夜、秀吉は馬の駆けてくる音とともに、不気味な夢を見ます。枕元の信長の甲冑が光り、血を滴らせた少年の幻影が秀吉の前にあらわれます。恐怖のあまり秀吉は絶叫。

この少年はちょっとわかりにくいのですが、公式サイトの小日向さんのインタビューによれば、浅井万福丸だそうです。

万福丸は茶々にとって兄にあたる浅井長政お市の方の間に産まれた嫡男です。かつて秀吉は、浅井の血を引く男子である万福丸を、後顧の憂いを絶つために磔にして処刑しました。その万福丸の幻影が示唆するのは、「後顧の憂いを絶つために、幼い子だろうが容赦なく殺す者はいる」ということでしょう。

錯乱した秀吉は、駆けつけた三成に「家康を殺せ」と告げます。三成はここでいったん、秀吉の精神状態を確認すべきだったと思いますが、この言葉を額面通り受け止めます。

 

三成ついに決断 家康を殺してくれと昌幸に

三成は真田屋敷にやってくると、昌幸に「家康を殺せ」という秀吉の言葉を伝えます。何故ここに来たかというと、忍城攻め以来、三成は昌幸を師匠と思っていたからだとか。

真田丸真田昌幸霜月けい

流石の昌幸もいったんは断ろうとするのですが、「真田が関係ないってことにするなら……」と言い出します。そして昌相に家康暗殺を依頼する昌幸。昌幸は、たとえ失敗しても、命を粗末にするなと念押して昌相を送り出します。一番鶏が鳴く前に帰ると告げ、佐助の同行を断り、昌相は出発します。佐助は「俺がし損じたら、お前が家康を討ち果たせ」と昌相から託されますが、これものちの伏線になるのでしょうか。

このとき徳川屋敷で家康と差し向かいで話しているのは、なんと信幸です。隠し子告白を自力でするとなると舅に殺されかねないので、なんとか家康の助けを借りたいという依頼でした。
「稲は私の娘だし、未亡人になられても困るしな」
と不吉なことを言いながらも、家康は信幸の依頼を承諾します。

この間、天井裏には昌相が潜んでいました。昌相は瓶の栓を抜く音をさせてしまい、信幸だけが気がつきます。

家康のもとから去る信幸を案内するのは、家康の嫡男・秀忠。秀忠は苦笑しながら、「私も嫁(江、茶々の末妹で2011年大河ドラマ『江 姫たちの戦国』では主役。演じたのは上野樹里さん)を迎えたが、なかなか大変でな。今度話を聞いてくれ」と信幸に言います。

ちなみにこの秀忠は、家康とは異なり正室一筋。ところが火遊びで隠し子ができてしまい、なかなか面倒なことになります。この隠し子こそが、のちの会津藩松平家の祖・保科正之です

 

敵に囲まれ絶体絶命のピンチで驚きのニンジャショー!

家康のもとに忠勝が呼び出されます。
そこへ、信幸は何か気になることがあると部屋に引き返します。信幸は家康に、何か異音がした、忍者の火遁の術で聞いた音と同じだと告げます(信幸が火遁の術を見たのは第十五回)。

忠勝は槍を手にすると、曲者が潜む天井を槍で突きます。時代劇のお約束を久々に見ました。

こうなると昌相は任務失敗、逃走する他ありません。追っ手を次から次へと気合いの入った殺陣で倒す昌相の前にあらわれたのは、本多忠勝。コーエーテクモのゲームだとBGMが変わるところです。昌相は忠勝に槍の柄を切断するという妙技でしのぎ、さらに煙玉で視界をふさぎ逃げようとします。

逃げようとする昌相の前に立ちふさがったのは、なんと信幸でした。

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真田丸本多忠勝霜月けい

戸惑う昌相は背後から忠勝に斬られ、敵に囲まれて絶体絶命のピンチです。手負いながら敵を退け、昌相はとっておきの爆発忍術を用い、姿を消すのでした。とんだびっくりニンジャショーだ!

真田屋敷では信幸と信繁が、父がやらかしたを知り愕然とします。そこへ佐助がやってきて、昌相の帰還を告げます。「わしと……したことが……」と言うのだけがやっとの昌相ですが、ここで退場してしまうのでしょうか。史実では長生きするんですけどね。

昌相を抱きしめ泣く昌幸は、今までにないほど感情を剥き出しにして見えます。公式サイトの寺島さんのインタビュー曰く、二人は「男が男に惚れる関係」だそうです。

そして今週のラストは秀吉の部屋。まさか来週まで引っ張るのか、もう時間がありません。秀吉はたった一人で、鐘を拾おうとしてベッドから転げ落ち、目を見開いたまま力尽きるのでした。

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今週のMVP:出浦昌相

演技面だと秀吉が最高だと思います。が、ここまで気合いの入ったニンジャショーを見せられて出浦昌相をMVPにしないなんてことができるわけがないのです。

真田丸出浦昌相霜月けい

総評:今週は珍妙な回でした。前半は認知症老人を狙った遺言詐欺という、サスペンスドラマ調の展開。なんとも嫌な生々しさがありました。

前半から一変し、後半は忍者愛が炸裂したニンジャショー。本作でも一番凝りに凝った、かつ殺陣のうまい寺島さんと藤岡さんによる迫真の場面でした。忍術効果担当スタッフも頑張りました。
今までも第十一回「祝言」のような転調はありましたが、今回ほど珍妙ではなかったと思います。前半は今までの生々しいリアル路線として、後半の唐突にあふれ出す忍者愛は何だったのか。予兆は偽吉野太夫が出てきた前回あたりからあったのかもしれませんが、完全にシナリオが忍者のため、出浦昌相のためにあったとしか思えません。

今回の家康暗殺計画、ハッキリ言ってザルでした。三成は暗殺できる人材がいなかったのか。そもそも秀吉があんな状態なら、遺言だの何だのにかこつけて呼び出して手をくだすこともできたのではないか。秀吉が言ったその晩を狙うのではなく、もっとよいタイミングがあったのではないか。何故よりにもよって信幸が徳川屋敷にいる晩に実行しようとしたのか。流石の昌相でも一人で暗殺は無理ではないか。自信満々だった昌相だが、音を立てて感づかれるくらい、油断があったのではないか。

疑問は山のようにわき上がるし、今週後半を「バカげた展開」と評する人がいたら同意せざるを得ないでしょう。

だがしかし、全ては忍者への愛だと説明がつく気がしないでもありません。

真田といえば忍者、忍者といえば真田。立川文庫や『真田太平記』から、コーエーテクモのゲームまで、真田といえば必ず忍者が重要な役割を果たします。それと比べると、本作の忍者成分、忍者愛は薄かった。そこでテコ入れとして、唐突の暗殺計画。本多忠勝との決戦。爆発する庭。そんなニンジャショーをぶち込んできたわけです。

「真田十勇士? そんな荒唐無稽なのを出すわけがないでしょう。プロモでパロディやるからそれで我慢してね」
と、本作は一見クールに振る舞っておきながら、「俺たちの考えた最高の忍者」出浦昌相を作り上げてきたわけです。夏になったら冷やし中華を食べたくなるように、真田となったら忍者が欲しくなる。そんな理由があったのではないでしょうか。

さらに今回、もうひとつ大きな要素があったと思います。それは「秀吉への悪意」です。スタッフが秀吉を心底嫌っているのか、作劇場の要素か、おそらく後者でしょうが、今回は秀吉への悪意に充ち満ちた回でした。

よってたかって遺言を無理矢理書かされる、老人虐待のような描写。
きりの「今までひどいことをしたんだから、自業自得でしょ」発言。
茶々の「心の卑しさ、醜さ、冷たさ」という駄目出し。
ニンジャショーで押しに押された残り時間数分、たった一人でベッドから転落し、鐘を握ろうとしたまま絶息、「終」が出る余韻も何もあったもんじゃない秀吉の最期。

秀吉の最期の描写は酷いと感じますね。今まで武田勝頼、室賀正武、北条氏政豊臣秀次らの死を情感たっぷりに描いて来たのと比べると、なんともドライです。ユーモアが持ち味のように語られる本作ですが、時折底意地の悪さを感じさせる冷たさが肌を刺すように感じます。

秀吉の無様な死に様からは、真夏であるのに冷たさを感じたのでした。

著:武者震之助
絵:霜月けい

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