女面 「増女(ぞうおんな)」/photo by Daderot wikipediaより引用

文化・芸術

能に関する疑問マトメ→面の種類は?シテやワキって?演目の内容は?

戦乱ばかりと思われがちな室町時代

実は、現代に繋がる日本文化も数多く生まれ、その一つに【能】(当時は”猿楽の能”)が挙げられるというのは、以下の記事でも触れました。

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能って、もともとは庶民も楽しんだミーハーな芸能なんですよ。

なんて説明されても、やっぱり、とっつきにくい内容だったでしょうか?

それで終わらせるのが実にもったいない……ということで今回は、もう一歩だけ踏み込み、

・能面
・シテ
・ワキ

といった具体的な舞台用語の説明から

・どんな物語があったの?

なんて本質的な部分にも触れてみたいと思います。

【日本史受験生の皆様へ】苦手なジャンルを克服すると、一気に有利になりますよ!

 

◆能の舞台に立つ人々

いわゆるキャストやスタッフのことです。

実は、それぞれの役割を担当する家系が決まっています。

例えば、観阿弥の子孫である”観世流”は「シテ方」と呼ばれる代々シテを務めてきた家のひとつです。

舞台の裏で衣装の乱れを直したり、細かいことにまで気を使う裏方仕事も多いそうで。

また、織田信長が好んだ梅若大夫は”梅若家”というシテ方の人でした。他の家も三つほどあります。

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では、それぞれを細かく見て参りましょう!

・シテ(主役)

漢字では「仕手」とか「為手」と書きます。

能でワキがいない曲はありますが、シテがいない曲はありません。

主役だから当たり前ですけれども、最近の小説やドラマなどでは群像劇=決まった主役がいないものも珍しくありませんから、「必ず主役がいる」のは能の特徴と言っても良いのではないかと。

ただし一つの曲で一人とは限らず、話の前半・後半で入れ替わるものもあります。

シテは物語の主役ですが、能では生身の人間よりも神や亡霊、鬼を演じることが多いようです。

・ワキ(シテの相手役)

現実の人間として表現するため、面をつけないのが特徴です。

「直面(ひためん)」といい、生身の顔ではなく、あくまで「面」として振る舞うため、表情で演技することはありません。

直面は、演じる時間が長ければ長いほど難しいそうで。

そりゃ、ずっと無表情でいるのは難しいですものね。

ワキは脇役ではなく、むしろシテの相棒といったほうがいい立ち位置です。

上記の通り、シテが人間以外の存在である事が多いため、ワキはそういった存在の無念や真意を聞くことになります。

そのため、僧侶がワキとして登場する演目が多くなっています。

・狂言方(アイ、間狂言)

能の合間、シテなどが衣装を変える間に、物語の舞台となっている名所の由緒や名物などを語る役目です。

小説や文章でいえば注釈って感じでしょうか。

マンガでコマの外にちょっとした解説が書いてあったりしますが、能ではそこに人を当てて語らせるんですね。

曲によっては狂言を挟まないこともあります。

・囃子方(はやしかた)

舞台上で楽器を演奏し、場の空気を作る人達です。

オペラでオーケストラが生演奏するような感じですね。

ただし、能の囃子方はオーケストラよりずっと小規模で、

・笛
・小鼓(こつづみ)
・大鼓(おおつづみ)
・太鼓

が基本です。

演目によっては、この4つが揃わないこともあります。

それぞれの楽器に専門家がおり、他の楽器を兼ねることはできません。また、能の場合は楽譜や指揮者がないのも特徴です。

掛け声でリズムを取ったりするのも、囃子方の重要な役目です。

戦後になってから能の舞台における女人禁制は解かれたのですが、謡は元より、この掛け声が女声だと迫力が出にくいという面があり、女性の進出は進んでいないようです。

こればっかりは差別ではなくて特性ですから、いかんともしがたいですね。

とはいえ、近年では外国の人物をモチーフにした曲も作られています。

そのうち女性の立ち居振る舞いや声を活かすような作品も出てくるかもしれません。変革を急ぐとロクなことがないですしね。

 

◆能面の種類

さて、次は能面のお話です。

「能面のような顔」=「無表情」というイメージがありますが、実は無表情な能面、あるいは無表情に近い面というのはごく一部。

意外と(?)表情豊かです。

身も蓋もないことをいうと、舞台から遠く離れた位置からでも表情がわかるように、大袈裟な顔をしているもののほうがいいのでしょうね。

能面には大きく分けて6つのカテゴリがあり、それぞれのカテゴリ内でさらに細かく分かれています。

女面 「般若」/photo by Kakidai wikipediaより引用

・翁系

「この面の人物は神様である」ことを示す面です。

歳とった男性の顔が多いのですが、ごく一部に若い男性の面もあります。

全体的に、肉付きのいい顔で笑みをたたえています。

「福々しい」という表現が一番合うでしょうか。

・尉面(じょうめん)

おおむね、老人の面のことです。

翁系に比べると少し痩せた顔といいますか、現実のご老人に近い感じの顔になっています。

能面の中で一番リアルかもしれません。

人間よりも神様に近いような、神霊を表すのにも使われます。

・鬼神面

書いて字のごとく、恐ろしい形相の面のことです。

意外にも、角が生えているものはごくわずかです。

目をひん剥いていたり、口が大きく開いていたり、まさに「鬼のような」顔といえます。

・怨霊の面

たぶん最も有名な能面である「般若」=女性の怨霊の面はここに入ります。

もちろん男性の怨霊を表した面も多いのですが、他の怨霊の面と比べてあまりにも般若が特徴的なので、代表格のように思われたのでしょうね。

般若に限らず、他の面と描き方や材料を変えてあって、いかにもこの世のものではないおどろおどろしい雰囲気を出しています。

どれも割とガチで怖いのですが、中でも水死者を表す「蛙(かわず)」の面は緑がかった白い肌が生々しく恐ろしい面です。

・女面

これまた文字通り、女性を表す面です。

喜怒哀楽のはっきりしない表情が多く、「能面のようだ」という表現の元である「増女(ぞうおんな)」もここに入ります。

増女は達観した女性の顔なので、ただ単に無表情なだけではないのですが。

女性の年齢ごとに別の面があり、表情の差異だけでなく髪の生え方などでも表現しています。

・男面

年齢や立場によって髪型等に差があるのは女面と同じ。

武将を表す「平太」、公家を表す「中将」などがあります。

また、男面は「景清」や「蝉丸」、「俊寛」など、同名人物を演じるための専用の面が多いのも特徴です。

伝統的な能面は木材(特に檜)で作られているため、硬質な雰囲気が漂います。

それに合わせて、能では強装束(こわしょうぞく)のような直線的な衣装が用いられるようになりました。

面を使って演じていた最古の記録は、弘安六年(1283年)に春日神社で演じられた猿楽だそうで。

14世紀中頃から面を使う能が主体となり、室町時代には十人の優れた能面職人のことを「十作」と呼んでいたようです……が、その中には実在が疑われている人物もいます。まあ、この手のものにはよくある話ですね。

また、観阿弥・世阿弥以前の時代の面は「古能面」と呼ぶこともあります。

最も古い曲である「翁」では、その頃使われていたのと同じ造形の面が使われているとのことです。

世阿弥の頃までは能面の種類は十数種ほどだったそうですが、室町時代の後半から増え始め、安土桃山時代には文献に書かれているだけで60種を超えていたといいます。

この後の時代には、「新しい面を作る」というよりも、個々の職人や役者の好みに合わせるほうが多くなっていきました。

このためか、世界的に見ても能面は「一つの芸能に関わる仮面」としては稀有なバリエーションの多さを誇るといわれています。

老若男女や役柄で分けた上に、個々の好みが加わるのですから、当たり前といえば当たり前でもありますが、表情やパーツの大小だけでなく、髪の生え際や色の濃淡、はたまた面によっては、人間でないことを表すのに泥まで使います。

能面の製作工程/photo by かなぷー wikipediaより引用

 

◆能の演目

さて、次に「能の演目には、いったいどんなジャンルがあるのか?」というところをみていきましょう。

正式な能だと「この系統の曲は何番目に演じる」というのが決まっていて、「◯番目物」と呼んだりします。現代ではそこまで厳密にやることは少なくなっているようですけれども。

最初から順にざっくり

「神・男・女・狂・鬼」

といわれます。

「狂」は他の4つ以外の能がすべて入る「その他」のようなカテゴリです。

よりによって「狂」とは穏やかならぬ表現ですけれども、「感情が極まった人間は、何をするかわからない」というような意味合いなんですかね。

・脇能物(初番目物)

神様がシテ(主役)のめでたい雰囲気の曲です。

・修羅物(二番目物)

死んだ武士が生前犯した殺生の罪で苦しむ様子を中心にしたものが多くなっています。

「修羅」という字面がいかにもそれっぽいですね。

ほとんどは源平の合戦(治承・寿永の乱)の戦いで活躍したり、討ち死にした武士が主役です。

有名な「敦盛」や「忠度」「実盛」の他、「巴」もここに入ります。

・鬘(かずら)物(三番目物)

平安王朝時代の女性がシテとなっているものが多く、他の曲と比べて優美な歌舞を行います。

・雑能(四番目物)

狂おしいほど強い感情を持つ人物が主役の「狂乱物」、死者が生を恋うる「執心物」などが多くなっています。

異常といえるレベルの強い感情をテーマとしている、といえば近いでしょうか。

・切能(五番目物)

五番演じる正式な能だと、締めくくりとなる演目です。

山奥や月などの「(古い時代における)異世界」からやってきた人物や、亡霊が出てきます。鬼退治や妖怪退治の話もあり、一番わかりやすいかもしれません。

また、「翁」という曲は別格扱いで、本来はこれを最初に演じてから上記の五番を演じることになっていました。

時代が下るごとに、何かの祝い事のときにだけ演じられる特別な曲に変わっていったとされています。

作者や成立時点は不明ですが、能の形式が整うずっと前、平安時代には存在していた曲だといいますから、別格中の別格になるのもうなずけますね。

内容としては物語ではなく、儀式の一貫という感じで舞と謡を行うものです。

最近は動画サイトなどでも能を見ることができますし、寺社や庭園などの屋外で行われる「薪能」も意外と頻繁に行われています。

何か気になる曲があれば、見てみるのが一番かと思います。

動画だと、謡に字幕がついていることもありますよ。

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長月 七紀・記

【参考】
国史大辞典「能面」
狂言/wikipedia
能面/wikipedia
『能楽ハンドブック』

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