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【尊厳王フィリップ2世】
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リチャードと同じベッドで眠るフィリップ
1180年、ルイ7世が崩御すると、僅か15才のフィリップ2世が即位しました。
父にとって待望の男子であったフィリップ2世は「デュドネ(神の賜物)」と呼ばれ、英才教育を受けて育ちました。
そして周囲の期待通りに、彼は聡明な少年に成長します。
父の死後、まもなくして親政を始めると、彼の聡明さと野心が際立つようになります。
反抗的な貴族を抑えるその手腕には、周囲も感服するほど。
フィリップ2世が父から引き継いだ使命は、プランタジネット家をフランスから駆逐することでした。
そうした背景や彼の行動からすると
『プランタジネット家の奴らなんて顔も見たくない』
と思っていそうですが、話はそう単純でもないようです。
当時の両家は、姻戚関係もあり、親戚感覚でした。
便宜上イングランドの王族は英語名で表記しているものの、実際に彼らはフランス語で話し、フランス語でその名を呼び合っていました。
バカンスともなれば温暖なフランスでくつろぎ、ちょくちょくやって来るわけで、フィリップ2世も彼らと親戚づきあいをしなければなりません。
当時の王たちの様子を、ロジャー・オブ・ホーヴデンはこう書き残しています。
「(英国王の)リチャードはフィリップを心から尊敬していたのです。
彼らは同じテーブルで食事を取り、夜寝るときもベッドが別であることはありませんでした。
フィリップはリチャードのことを己の魂であるかのように愛していたのです。
彼らはお互いに心から愛し合い、その情熱は驚くべきほどのものでした。」
リチャードとは、ヘンリー2世の二男で、のちのリチャード1世。
「獅子心王」という、これまた屈強そうな異名でも有名です。
戦では無類の強さを誇ったものの、内政手腕は無に等しい、持てる能力値のほぼ全てを戦にだけ割り振ったような王でした。
同床異夢
さて、このフランス王と未来のイングランド王。
食事はともかく何故ベッドまで一緒なのか。
なんなんでしょう、この「史実が小説より奇なり」状態は。
「ベッドが同じ」というクダリについては、ただの親愛表現という説もあります。
「なぁに、ベッドを体温であたためるのは信頼のあかしで、性的なものではありませんよ」
秀吉が信長の草履を暖めた逸話のように、リチャードとフィリップは互いのためにベッドを暖めていただけ、というわけです。
そういえば劉備も、関羽と張飛と同じ床で寝ていたそうです。
「いや、フィリップはリチャードの愛人だったんだよ!」という説も、あるにはあるようで。
その方が話としては面白いかもしれませんが、真相は不明です。
ちなみにリチャードは、女性に性的な興味を抱かなかった、とも言われており、その辺が噂を助長させているのでしょう。
いずれにせよ「同床異夢」という言葉がこれほどしっくりくる関係もなかなかありません。
※ちなみに海外のファンがドラマをもとに編集した、二人のカップリング動画まで存在します
プタンタジネット家の喧嘩に介入しま~す♪
フィリップとリチャード。
単に親友なのか、それとも愛人なのかはさておき、二人の間に奇妙な愛憎があったことは確かなようです。
ほどなくしてリチャードは兄ヘンリーを失い、イングランド王の嫡子となります。
ところが父ヘンリー2世は末子ジョンを溺愛し、リチャードにこう言ってきたのです。
「ジョンは領地がなくて可哀相だから、お前がママからもらったアキテーヌの分は譲ってあげなさい」
「誰が譲るか! そもそもお前じゃなくてママにもらったんだよ、バーカ!」
リチャードは大激怒。ぶっ飛び母ちゃんのアリエノールも、ここはリチャードに味方します。
こうしてプランタジネット家は、またどうしようもない親子喧嘩に突入してしまいました。
フィリップ2世としては、もう笑いが止まらないでしょう。
あれほど憎たらしいプランタジネット家が、内輪もめで勝手に自滅するのですから。
「僕はリチャードと仲良しだからね! 味方してあげるよ」
「やっぱりお前は頼りになるわ~、持つべきものは友だよな」
フィリップ2世はこの親子喧嘩に介入し、英国へ侵入すると、皆で一致団結してヘンリー2世をシノン城に追い詰めます。
さらにフィリップ2世は、ヘンリー2世が溺愛するジョンまで味方につけてしまうのですから、さすがヤリ手というほかありません。
ヘンリー2世は、愛するジョンまで敵に回ったと聞いて、精神的な打撃のあまり死を早めます。1189年のことでした。
リチャードもジョンも、策略に満ちたフィリップ2世と比べれば、あまりにシンプルな世界に生きていました。
手玉に取るのはわけのないことなのです。
「親友だと思っていたのにひどいよ、フィリップ!」
この頃になると、リチャード1世もだんだんとフィリップ2世の本音が理解できるようになっていました。
フィリップ2世からすれば、「本当は、お前なんてずっと嫌いだったわ! フランスに図々しくでかい領地を持つお前なんか、誰が愛するかッ!」といったところですかね。
ジョナサン・ジョースターとディオ・ブランドーの関係を思い出します。
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