『おんな城主 直虎 完全版 第壱集 [Blu-ray]』/amazonより引用

おんな城主直虎感想あらすじ

『おんな城主 直虎』感想レビュー第44回「井伊谷のばら」

2017/11/06

こんばんは、武者震之助です。

順調に出世を遂げる若芽のような万千代(菅田将暉さん・井伊直政)。

一方で役目を終え静かに散ろうとする祐椿尼(財前直見さん)。

今週はこの二人の対比がポイントとなるようです。

新野千賀(祐椿尼)直虎を産んだのは敵対一族の娘だった

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徳川四天王の所作に本音が垣間見える

井伊万千代と小野万福は「甲冑着初め式」を追え、田中城攻めでは何ができるのかな、とワクワクしています。

しかし先輩たちからは「きみらは殿の大事な色小姓だからね! 働きぶりを見学していればいいよ」と、なんだかなぁな態度。

ここはじめ、万千代以外の「徳川四天王」の反応が面白い。

酒井忠次:どうでもいいわ

本多忠勝:ドンマイ、ガンバレ、ファイトだぞ! そのうち一緒に軍議に参加しような!

榊原康政:軍議は機密扱うんだから下っ端は入ろうとするな! しかし万千代、おそろしい子……

自分と似た境遇、かつ同じタイプだと感じていて、将来絶対に万千代は出世するだろうと確信している康政の、冷静なようで嫉妬と焦りを感じさせる顔がたまりません。

忠勝は「色小姓だから無理すんなよ」は、からかいではなく本心から言っていそうなところも、いいですね。

ともかく万千代は悔しがり、そして軍議には参加できません。

一生色小姓として終えたくないから、早く元服したいと焦り出す万千代。

色小姓という特権は小姓同士では有利に働きますが、あくまで限定的なものなのです。

戦国時代にそんな言葉はなくてもセクハラはあったでしょう。

色小姓になるということは、嫉妬と好奇の目によるこうしたハラスメントを受けることにもなったでしょう。

色小姓(本当は違うけど)の本音トークがいいですよね。

脚本家の森下さんがいろいろと想像し、考えて展開を練っているんだなぁ、と嬉しくなってしまいます。

 


これくらい強引な自己PRをするかも…

そこへ徳川信康(松平信康)が、近藤武助という若侍を連れて薬をもらいに来ました。

出世したい万千代は、「元服のためお口添えできませんか?」と信康に言い出します。

万千代は本当に前のめり。

でも、出世する有能な人物は、これくらい強引な自己PRをするかも……と考えさせられます。

特に戦国時代ですからね。

攻め込んだところに「自分の名を記した木札を置いてきた」という塙団右衛門のエピソードが一瞬アタマをよぎりました(真田丸でも同シーンあり)。

信康は、徳川家康が万千代に戦働き以外のことを求めているのだろう、と言います。

万千代はまたそのことかと身構えるのですが、信康は彼にヒントを出したいのです。

武功意外の働きで出世目指したら、ということですね。

しかし武功が欲しくてたまらない万千代はどうにも納得できないのでした。

ここで万千代が薬を調合しようとするのですが、武助は自分が作ると言います。

結局、ため息ばかりの万千代です。

 

その晩、寝所を万千代と万福が見張っているとき

居眠りした万福を槍の柄で衝き「たるんでおるぞ!」と一喝する万千代。

ここでドスドスと衝く万千代と、「痛い! 痛い! 痛い!」と叫ぶ万福が面白くて。演じるお二人とも、仲良しで幼なじみという雰囲気が出ています。

気のせいなのか、それとも……物陰に一人の男が隠れます。

翌朝、曲者の件を家康に報告すると「気のせいだろ?」と軽くいなされます。

万千代はこの日も軍議に出られません。もとより家臣団でも上位の者しか出られないのですから、それも当然なのですが。万千代は粘って、戦働きが見たい、と主張します。

「戦といっても、今日は焼き畑刈田狼藉するだけだよ」

そう言われてしまう万千代。

ここで面白そうに笑う忠勝はいいですねえ。

 


薬箱の紐の結び方が違う

この時代の武士というのは武器だけではなく、農具も持ち歩いています。

槍で敵を刺すだけではなく、耕地をひっくり返して稲を刈り取るのも、彼らの役割なのです。

ただし、自分のものではなく敵のものをかすめとり、農地を“耕す”のではなく“荒らす”のですが……こうして華々しくない、むしろ黒歴史とも言うべき合戦事情も同時に描いているところがいいですよね。

「むしろ寝所にいた曲者をつかまえたらどうだ」

万千代は家康と先輩からそういなされます。

榊原康政だけは、真剣な顔で万千代を見つめています。

この時点で、おそらく万千代の言葉を信じているのは彼だけなのではないでしょうか。

万千代はせっかちなので「このまま飼い殺しにする気か? 他の小姓は出世しているのに!」と焦りまくります。このやたら粘着質で短気なところは誰に似たのかな。母のしのかな?

万福は夜の警備にそなえ、仮眠を取ります。

しかし万千代は眠ることすらできず、陣中を調べ見回り、罠を作ります。

一晩寝てもハードワークできるのが、十代の若さだなぁ。

そんな万千代は、薬箱の紐の結び方に目をとめるのでした。

 

「毒味をしろ」と武助に迫ると……

その晩、家康が戻ってくると万千代は寝所で寝ていました。

康政は「殿の寝所で眠りこけているのか!」と怒るのですが、家康は暢気なものです。

康政は家康が万千代に甘い態度を取ることにも思う所がありそう。いつもクールなのに、時折万千代への焦りを見せる康政です。

万千代は、家康や万福が起こそうとしてもピクリともしません。

家康が、薬湯を作るように命じますが、やっぱり動かない。

家康は他の者に薬湯を作らせることにし、近藤武助に命じるのでした。

武助が茶碗を差しだす腕を、万千代が止めます。

寝たふりをしていたのです! 道理で起きないと思ったら。

万千代は「毒味をしろ」と武助に迫ります。

この迫力ある、しかしそれでいて粘っこい迫り方は小野政次ゆずりかも。

武助は茶碗を飲み干すことなく、やおら立ち上がり家康に斬りかかります。

身を挺して家康を守った万千代は、荒々しい槍さばきで相手を圧倒します。

ここの殺陣がいいんですよ。

室内戦闘らしさがあって、万千代が荒々しく若さとワイルドさのある動き。

万千代は、肩を斬られつつも、武助から守りました。

菅田さんの所作、いいですぞ~!

 

自分に似た才能を持つ男 しかし自分にはない物も

刺客を退けた万千代が傷を治療していると、康政がやって来ます。

なぜ刺客に気づいたのか、と尋ねられた万千代は答えます。

薬箱の紐の結び方が違った。

そのため何者かが自分のせいにして殿を殺したいのだと悟った、と。

目を見開き、万千代の才知に驚きを見せる康政。

康政はあまり表情豊かではありませんが、その中に複雑な思いが込められています。

自分に似た才能を持つ男。しかし自分にはない物も持つ男……高潔な彼は決して嫉妬すまいと抑えているのでしょうが、それがチラリと見え隠れしています。

このあと万千代は、怪我のせいか、熱を出して寝込んでしまいます。

 

孫を抱かせることもできなかったと母に詫び

一方、井伊谷では。

なつ経由で万福からの連絡が届きました。

初陣から無事に戻ったことを安堵するおとわ。

戦では何があるかわからない、絶対安全なんてないから……父を桶狭間で亡くした女性だからこその、喜びがそこにはあります。

しかしここで、佑椿尼が心臓病で倒れてしまいます。

おとわは母に対して親孝行ができなかったことを悔やみます。孫を抱かせることもできなかった、と。

おとわは、なつはじめ井伊谷の人に、祐椿尼のためにここに立ち寄って欲しいと頼むのでした。

万千代には、自分の手紙で呼び出そうとするおとわ。

おとわは万千代には話もありました。

 

せっかくの活躍も色眼鏡で見られてしまう

身を挺して刺客を倒した万千代は、そのおかげで一万石の知行を得ることになりました。

将来のことを考えればまだまだ出世ルートの途中。

しかし、もはや彼は立派な若きエリートです。

他の家臣たちは……嫉妬しているようで。

「寝所で手柄だってよ!」

「槍で立てたって~」

「凄い槍じゃね~の~」

と、セクハラ全開の噂話をしています。

色小姓は辛いよ!(本当は違うけど)

もう我慢ならねえ、元服して小姓卒業だ、と息巻く万千代。

しかしそうなると、おとわに家督を譲ってもらわねばなりません。

「あのクソババアに弱み握られるとかムカつくし!」

万福が取りなしても、万千代の苛立ちはおさまりません。

井伊谷では、「長春」という荊棘(いばら)の一種を植えていました。

薔薇というと西洋の花というイメージがありますが、アジア原産の「荊棘(いばら)」が日本にもありました。

そこへ「万千代が一万石に加増されましたよ」というニュースがなつから届き、驚くおとわと祐椿尼。

自らの最期を悟った祐椿尼は、南渓に万千代宛の書状を託します。

近藤康用は、万千代が一万石加増されたなら井伊は再興されたようなもの、井伊万千代に井伊谷を安堵されるのではないか、とおとわ相手に気を揉んでいます。

うーん、その不安はもっとも。

いつ万千代が井伊谷を取り戻してもおかしくありません。おとわは否定するのですが、安心はできないでしょうね。

おとわが近藤のもとから物憂げな顔で戻って来ると、そこには万千代がいました。

井伊谷での万千代は、もとの虎松の面影が濃くなるようです。

おとわと万千代は二人きりになりました。

 

「戦いから降りたくせに戦いに口を出すなよ!」

万千代はおばばさまが呼んだから来た、お前のためじゃない、と牽制。

おとわは話があると井伊の井戸の前へと万千代を連れて行きます。

一万石ともなれば家来がいるのでは、とおとわに言われた万千代。

松下家にいた小野の家臣を使うと返答します。よかった、小野家臣団元気そうで。

おとわからさらに進路設計を聞かれると、万千代は「もしかして再興された井伊の殿に戻りたいの?」と言い出します。

おとわは「井伊谷を取り戻したい気じゃないだろうな? 余計なことをして波風を立てるなよ。今、近藤殿のもとでうまくやってるんだから」とジャブ。

と、ここで万千代が激怒となって議論が熱くなります。

「政次を殺してここをかすめとった近藤をなんで許すの? 馬鹿じゃないの? 誇りはないの? 取り戻して何が悪いんだよ?」

「お前はただ取り戻して褒められたいだけだろう。くだらない」

「アァ? 武家はそういうもんだろ」

万千代は、武家の戦いから降りて、超然としているおとわにますます激怒。

「できぬことから逃げ出しただけだろ! 戦いから降りたくせに戦いに口を出すなよ! 負け犬が戯言をほざくなぁ!」

これはなかなかの決め台詞です。

「左様なことなら家督は譲らぬぞ!」

「のぞむところです。ならば力づくで引き剥がすまで!」

「できるものなら、やってみるがいい」

完全に決裂……です……。

 

おんな城主ゆえに見えたことも多々あった

万千代のあの剣幕に一歩も退かないおとわ、すごいと思います。

そして彼女の中には、政次と龍雲丸の魂が生きていますねえ。

喧嘩腰でクールにいなすところは政次。

武家なんかくだらねえと言ってしまうところが龍雲丸。

おとわが最近政次に似てきました。

イラスト・霜月けい

万千代を呼び出してくれた礼をおとわから言われた祐椿尼は、自分は役立たずだった、と振り返ります。

井伊家当主に嫁ぎながら女児一人しか産めなかった頃から抱いていた思いだったのでしょう。

自分が男児さえ産めば、こんな人生を娘に送らせなかった、そうずっと自分の娘の苦労に胸を痛めてきたのでしょう。

しかし、おとわはそれを否定します。

すべて望んだ道、今となってはこの立場だからこそ知れたことが山のようにあったと。

もし、兄弟がいてどこかの奥方になっていたら、知らないことがたくさんあったはず。

百姓達はただ米を運んでくるもの。

ならず者は世を見出す悪党。

商人は銭ばかり追い求める卑しきもの。

乗っ取りを企む家老は敵。

きっとそう思っていたに違いない。でも、女城主だったからこそ、そうではなかったのだ、と。

「己で頭をぶつけたからこそ、得られる喜びも多うございました。私は幸せですよ。母上のたった一人の娘に産まれて」

これほどの果報者はそうそういない、母上が一人娘に生んでくださって、この人生を与えてくれて、本当に嬉しいと語るおとわでした。

自分の人生を心から肯定することで、母への感謝を伝えます。

ずっと、そんな娘を案じていたい、万千代を助けてやって欲しい——祐椿尼は最愛の娘にそう告げ、亡くなります。

最期には、皆に手紙を託して。

 

赤鬼の家臣団デビューが始まった

手紙を読みながら大泣きする奥村六左衛門と、その背中をさする中野直之がいいコンビです。

井伊谷で、長春が赤い花を咲かせました。

人の死は寂しいだけではありません。

先週、甚兵衛の死後は緑の松が伸び、祐椿尼の死後は赤いばらが花開きます。

そこには寂しさだけではない生命の営みがあります。花を見る傑山の慈愛の微笑みが尊いですね。

そして万千代は、ついに家臣団の末席に加えられることに。

「エー、マジ家臣の末席に?」

「寝所の活躍で出世が許されるのは小姓までだよね~」

「キモーイ」

譜代の家臣団がニヤニヤヒソヒソする中、ここで万千代が驚きの自己紹介をします。

片肌を脱ぎ、寝所で負った傷を見せ、家臣団相手にポーズを決めるのです。

まるで遠山の金さん。

賛否両論でそうなシーンですが、『何やってんの???』と思わず見入しまった時点で菅田将暉さんの勝ちではないでしょうか。

赤鬼の家臣団デビューは、こうして始まります。

康政はやはり万千代の才能に脅威を感じている顔です。

一方、家康を襲った武助は処刑、一族も成敗されることに。信康と瀬名の元に不穏な雰囲気が迫ります。

万千代出世の糸口となった、武助の成敗。

それは、信康と瀬名には悲劇をもたらすことになるのです。

 

MVP:祐椿尼とおとわ

今週は番宣で「文句があるなら井伊谷にいらっしゃい!」と言っていたので、そちらかと思っていた『ベルサイユのばら』パロディ。

実はそこではなく、母娘の会話の元ネタが『ベルばら』。

オスカルが自分を男として育てた父に語る言葉が、オマージュ元でした。

なんと幸せで満ち足りた時間であったことか。

真っ赤な花がよく似合う場面でした。

 

総評

後半の本作はおとわと万千代が両輪となって進むので、どちらのパートも大事なのだと思いました。

ゆったりとした時が流れ、夕暮れの穏やかさに満ちた井伊谷。

生き急いでいるかのような、ギラギラした時が流れる万千代の周辺。

このふたつの道が交錯するところが今週のみどころようで、実はタイトルにもあった「井伊谷のばら」が大事な場面でした。

母に対して、女でありながら別の道を生きたからこそ、幸せだったと語るおとわ。

『ベルばら』オマージュとしてだけではなく、このドラマの主役が何故彼女なのかという問いへの答えも用意しています。

地に足を付け、男でありながら小さな家の当主となった井伊直虎が主役だからこそ、彼女の目を通して戦国の世を見ることができたのです。

逃散して抵抗を見せ、荒れ果てた山野に緑を取り戻した百姓たち。

戦国の片隅で自由に生きて、その結果堀川城で散った龍雲党の者たち。

金儲けのために知恵を見せる商人たち。

そして、悪名を背負い歴史の中に消えようとしていた小野政次

今までの私たちの見方は、おとわの語った「もしも私が武家の夫人だったら」と同じものであったと思うのです。

為政者、支配者目線の、上からの見方だけであったと。

それがいかに浅いか、思い知らされました。

本作の魅力は、戦国時代の見方を変えてしまうところです。

城めぐりをしたら、石垣を積む人の姿を想像し、墓や古い慰霊碑を見れば家族を失い悲嘆に暮れる人々の姿が浮かび上がってきます。

そういう歴史の狭間に消えてしまうような、そんな姿を見せてくれたのです。

そのことを、母娘の会話を通して総括してくれました。

毎年秋ともなると、物語が閉じ始めた大河に寂しさを覚えます。

今年はむしろなんだか幸せな気分になるのは、得るものが大きかったからなのだと今週は感じました。

それともうひとつ。万千代の機転と出世がある人々を窮地に追いやるという、皮肉。

しんみりさせたあとで不幸にたたき落とす森下さんの脚本、流石だと思います。


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絵:霜月けい

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【参考】
NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』公式サイト(→link

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武者震之助

2015年の大河ドラマ『花燃ゆ』以来、毎年レビューを担当。大河ドラマにとっての魏徴(ぎちょう)たらんと自認しているが、そう思うのは本人だけである。

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