◆「自民党総裁として申し訳ない」馳氏視察への抗議に首相(→link)
男性政治家が女性支援団体の支援に訪れたところ、その言動に問題があり、安倍首相が謝罪するほどの事態に至ったというものです。
この手の騒動が持ち上がると、こんな気持ちも湧き上がってきたりしませんか?
「じゃあ男は女を助けるなってこと?」
「どうすればいいのよ。めんどくせえな〜」
普段から、女性支援の書物なり、コンテンツなりに目を通すのは面倒だ。SNSで質問するにも、ハードルが高い。
そんな方に一つオススメなのがこれ。
映画『マッドマックス 怒りのデスロード』を見よう!
と同時にもうひとつ、歴史サイトならではの作品を紹介させていただきます。
山田風太郎原作&せがわまさき作画の
『Y十M(ワイじゅうエム)~柳生忍法帖~』(→amazon)
です!
ハチャメチャな剣術ワールドを楽しめることもさることながら、同時に『十兵衛流 #HeForShe』を学べてしまう、この名作。
何言ってるかわからない?
すみません、これから解説させていただきます!
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あらすじ:女の城を穢した者は女の手により
江戸時代初期、寛永19年(1642年)――。
陸奥の要衝・会津を治める加藤明成は、暴虐の限りを尽くしていた。
主君を見限った国家老・堀主水は、一族郎党ともども会津から退転する。
この【会津騒動】では、下剋上を根絶したい幕府の意向もあり、堀一族の男が処断されたが女に罪はない。剃髪し、仏門に入ることで許されるはずであった。
堀一族の女たちは、鎌倉の東慶寺に入る。
この尼寺を襲ったのが「会津七本槍」と呼ばれる猛者たちであった。
東慶寺は女の城であり、女を守るべきものである。それを男である「会津七本槍」が汚した――。
寺を保護する天樹院(千姫※本項ではわかりやすく千姫とします)はこのことに激怒。
堀一族の女七人で、必ずや七本槍を討ち果たせ。されど、女七人であれほどの武芸者を斃せるのか?
仇討ちを果たすために七人の女を鍛え上げ、尼寺を穢した者どもに天誅を加えるのだ。
と、その助っ人に選ばれたのが柳生十兵衛三厳であった。
柳生一族に生まれた酒乱の嫡男・柳生十兵衛はこれでヒーローになりました
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千姫の意地と誇り~この世にはアジールがある
歴史に詳しい方であれば、あらすじを読んだ時点で、突っ込みたい気持ちが湧いてくるかもしれません。
「千姫って、当時の将軍・徳川家光の姉でしょ? だったら家光に頼んで処罰すればいいじゃん」
実はこのことを、十兵衛を遣わした沢庵も言っているのです。
それでも千姫は、断固として女自身の手による仇討ちを主張します。
なぜか?
千姫の意地と誇りがある。彼女は山田風太郎作品で複数登場しておりますが、女性としてはほぼ最強の知恵と勇気があります。
『くノ一忍法帖』では、千姫が豊臣の誇りを背景に、忍法勝負を仕掛けております。
せがわまさき作画の若き千姫は『山風短』にも登場しますので、興味がある方は是非お読みいただければ。
史実の千姫も、男たちの思惑で人生を無茶苦茶にされています。
親のいいつけで嫁いだ先の夫・豊臣秀頼だけでなくその子も殺され、豊臣家は滅亡。何もかも失った彼女にも意地と誇りがありました。
秀頼の血を引く天秀尼を守り抜き、尼寺に入れた。それが東慶寺なのです。
東慶寺とは、千姫の意地と誇りでした。
女の意地と誇りなんてどうでもいいでしょ。そういう意地悪な見方に、千姫は断固立ち向かうことにしたのです。
他に、東慶寺には女のためのアジール(聖域)という意味もありました。
宗教的な場所であるから、俗世のルールは通じない。ここに逃げ込めば、暴虐から守られる。そんな縁切寺としての意味がある。当時のシェルターですね。
アジールは過去のもののようで、保護団体というシェルターは存在する。
※『駆け込み女と駆け出し男』
そういう、暴虐から逃げてきた人々がいる場所に、部外者がズケズケと入っていけばどうなるか?
危険です。
やってはならぬことなのです。
ズカズカと入って重たいものを持ってあげたからいいじゃん♪ そんな甘っちょろい見方は危険であると、本作は教えてくれます。
柳生十兵衛のHeforShe
彼が彼女のために尽くすこと――。
エマ・ワトソンのスピーチから広まった#HeForShe。
この概念の完璧な体現者が、本作の主人公である柳生十兵衛です。
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沢庵経由でこの仇討ちを頼まれたとき、十兵衛はそんなことには無理があると困惑。その上で命を捨てる覚悟で特訓するように告げます。
この時点で十兵衛は半端ない。
◆実はボランティア(志願)です
十兵衛は諸国放浪をし、剣術修行をしている。
けれども依頼内容は、彼自身の武芸者としての履歴書には書けないものです。
匿名の助力が条件なので、般若面を被った「般若侠」(はんにゃきょう・般若面を被ったナイスガイ)として行動する。
金銭的にもどこまでお得なのか、ちょっとわかりません。
あくまで十兵衛は自発的なのです。
◆セクハラは絶対にしない
女体化ゲームが花盛りです。
戦国武将が美少女化していて、アドバイスをする主人公に惚れてくる。
どの美少女を攻略しようかな♪
そういう流れが楽しいことは否定しませんが、本作の十兵衛は真逆を突っ走っています。
堀一族七人の女たちは、会津でも噂に上った美女揃い。
そんな美女を指導するうちに、「十兵衛先生……❤︎」となってもおかしくない。十兵衛はイケてますので、それも理解できる展開ではあります。
が、十兵衛はその気持ちに応じない。
それどころか自分に対して愛情を見せた女に驚くほどなのです。これは鈍感というより、彼なりの生真面目さゆえ。十兵衛は、ラッキースケベとも無縁の男でした。
エロが多いことで有名な山田風太郎作品ですので、ともかく肌が露出する場面は多い。
しかし、そういう場面でも十兵衛はちょっと気まずそうな顔になって、早く服を着なさいと指導する。最終盤は絶世の美女が愛して欲しいと迫ってくるのですが、困惑するばかりなのです。
こういう性格だからこそ、沢庵が彼を推薦したのだとわかります。ハーレムでヨダレまみれになるようでは指導ができませんし、敵にやられてしまうでしょう。
千姫も依頼の際に「女相手だからと浮かれるなよ」と釘を指しております。
十兵衛はものすごく強い。
けれども、強いだけではつとまらない。十兵衛にならないと、女の団体を助けられないのかよ!
それはそういうものです。
映画『マッドマックス 怒りのデスロード』でもありました。
主人公であるマックスが、フュリオサを助けるだけだ。なんで? マックスが女どもを直接助ければいいだろ。そういうツッコミはあった。
これはジョージ・ミラーが、フェミニズムの専門家と話してこうしたのです。
男に囚われた女が、別の男によって救われるのでは、所有権の移動であり、解放ではない。
ゆえに、マックスはああいう立ち位置なのです。
これは十兵衛も同じで、エンディングで彼が特定の誰かと結ばれることはありません。
けれども……。
◆差別しない、優しい
ネタバレになるのであっさりと書きます。
本作は最後の場面で、十兵衛はある女性への優しさを示します。その相手は敵側にいた存在であり、罪がないわけでもない。
それでも十兵衛なりに、彼女もまた逆らえぬ立場を利用された、哀れな籠の中の鳥だとわかっているのです。
そんな彼女のことを気にかけられるのは、俺だけだ。彼はそんな思いを胸に抱いています。
十兵衛の女性相手への思いは、性欲抜き。プラトニックラブですらない。支配欲がない。
ただ、助ける。義侠心を証明することを目的としているのです。
すごすぎるぜ十兵衛……って、ここで気になるのが十兵衛そのもののキャラクター。
なぜ、こういう人物になったのでしょうか?
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