朝、布団の中から出てこられない蔦屋重三郎。
菜を刻んで味見をしているのは、恋女房の瀬以です。
「いつまで寝ているんだい」と女房が言えば、「なんでおめえはそんなに朝に強えんでえ」とぼやく夫。なんでも主役の横浜流星さんも朝は弱いそうですが。
蔦重の平凡で、幸せな朝――しかし、それは所詮夢で、現実は一人きりの目覚めでした。
蕎麦屋の半次郎は、耕書堂で日がな一日煙管をふかす蔦重を「野郎の根付け」だと言います。
「野郎の根付け」とは、根付けが台座にちんまりと置かれているように、座布団でしょぼくれている男のこと。
吉原で女郎に袖にされた男が座布団の上にいる様をそう呼んだそうで、辛いねぇ。
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エレキテルに追い詰められた平賀源内
蔦重が江戸の街を歩いてゆくと、エレキテル体験が1回4文でできるようになっていました。
江戸の物価基準である蕎麦が一杯16文としますと、ほんの小銭すね。蔦重は見せ物になってしまったことに無情を感じています。
すると平賀源内が子どもに怒鳴り散らす声が聞こえてきました。
なんでもイカサマだと罵られたそうで、その子の母が「言っていない」と庇うと、竹光を振り翳して迫ります。
竹光たぁ、金に困って売っちまったのかな。
源内が蔦重に止められると、エレキテルはイカサマ、源内は口だけだと言っていると不服そうに話すのですが……どう見ても目つきが尋常ではありません。

平賀源内作とされるエレキテル(複製)/wikipediaより引用
須原屋では、近頃おかしいと市兵衛も言っています。
何かというと誰かに食ってかかるんだとか。偽物を作られ、イカサマ呼ばわりされて悔しいんだとか。
すると、ここで医者が通りかかり「エレキテルについてはイカサマじゃないとも言い切れないですからねぇ」と告げます。
オランダ本国でも使い道はなく、バチっとなる原理すらわかっていない。悪い気が出て万病に効くわけじゃないのか、と蔦重も気づく。
「それは源内の作り話だ」と言い切りながら、医者は店の奥へと上がってゆきました。
この医者こそ『解体新書』の筆者たる杉田玄白でした。

杉田玄白/wikipediaより引用
元々は源内の弟子のような存在で、今は当代一の蘭方医なんだってよ。それが応えているのかもしれないと須原屋は理解しています。
「そういうことを気にするのか……」と蔦重が軽く驚いていると、「そもそも源内だって元は学者だ」と須原屋は言います。
これがまさに平賀源内のややこしいところかもしれません。器用貧乏と言いましょうか。マルチタレントではあるけれど、どれも一流にはなりきれていない。
ちなみに杉田玄白がなぜ須原屋にいるのか?
というと、須原屋市兵衛は意欲的な書籍問屋でして、いくら『解体新書』が素晴らしくても売る店がなければどうしようもないため、その販売を引き受けていたのですね。
『解体新書』の翻訳チームに源内は参加していません。地道な作業に向いていないと判断されたのでしょうか。
すると、蔦重お目当ての品が運ばれてきました。
『吉原細見』です。こうやって買い占めて配ることで、蔦重は鱗の旦那の力になりたいわけですね。
しかし、そんな童話の『ごんぎつね』みたいなことをしても、相手にはわかるんですかね?
こういうところが蔦重らしいし、瀬川が愛したところなのだろうけれど。
蔦重が鱗の旦那のことを須原屋に聞いてみると、来年はもう青本は出せないのではないかと言われているのだとか。
はたして須原屋から出た蔦重が目にしたのは、荷物を背負い、とぼとぼと道を歩いてゆく鱗形屋の姿でした。なんとも切ねえ話ですよ。
家基に手袋の贈り物をと提案する高岳
江戸城では、徳川家基が米の価格の仕組みについて熱心に学んでいました。
その様子を、高岳が田沼意次に報告しています。
不仲はおさまったのか?と問われ、「どうかのう」と笑うしかない意次。

田沼意次/wikipediaより引用
意次としては家基と仲良くしていたいようです。
すると高岳が、意次の懐からはみ出ていた布に目をとめ「洒落ておりますね」と興味を示す。
聞けば、五郎蔵という職人に作らせた品だとか。
これも細やかな演出で、意次が経済のために特産品を作らせていることが見えてきますね。
肌触りを確認しながら、高岳が「お願いがある」と切り出してきました。
なんでも種姫から家基へ贈り物をしたいとのことで、この布の模様で手袋を作れないか?と持ちかけてきます。
意次も「それはいい」と賛同。
なんでも、家基は近々鷹狩りにいくそうで、その贈り物にしたいようです。非常に微笑ましい展開ですが……。
蔦重、才能ある遊び人どもに群がられる
つるべ蕎麦に場面は移り、蔦重が、美味そうに蕎麦を啜っております。
江戸っ子は蕎麦を噛まずに飲むと言います。
できるかどうか試してみてくだせえ。難しいんですよ。その点、横浜流星さんはいい蕎麦の食べ方をするとしみじみ思いますね。
同席しているのは朋誠堂喜三二でした。

朋誠堂喜三二(平沢常富)/wikipediaより引用
どうやら蔦重に青本を出して欲しいんだそうで、蔦重が困惑しながら「書いてもらえるならボタ餅でツラを張られるようなもんだ」と答えます。
アホボンの次郎兵衛は、自分の髪をペタペタ触っていますね。
蔦重が「鱗の旦那はどうか?」と尋ねると、なんでも春町だけで手一杯なんだとか。
喜三二もぼやいていて、蔦重は「俺と組むと市中には流れない」と言います。しかし、売れる売れないは問題ではなく、遊びなんだから楽しけりゃそれでいいとのこと。
では、誰とやるのが一番楽しいか?と問われたら、蔦重だってよ。
「まぁさん……」
感激する蔦重。こいつァとんでもねえ魔性の男だな。
「なんたってお前さんの礼は吉原だからな!」
「えっ、そこ」
そっちかい!
蔦重の名前を出せば、あっちこっちに敵娼(あいかた)作っても許されるんだってよ。
吉原は一応擬似結婚システムなので、一度に複数の馴染みは作れない。その縛りが外れるそうです。
「つったじゅうさ〜ん!」
ちょうど、そこへキャピキャピした声でやってきたのが、江戸のギャル男じみた北尾政演(山東京伝)です。

山東京伝/wikipediaより引用
「ちょっと絵師はお入り用じゃありませんか?」
小走りでやってきて、くねくねしてやがります。
蔦重が忙しいはずだろと素っ気ない態度でいると、実際、表紙絵も挿絵も手掛けているそうで、もう、この時点で私の「脳内曲亭馬琴」がイラついています。なんだ、この軽薄さは!
どうやら政演は仕事が早いそうで、なぜここへ売り込み来ているかというと、こうだぜ。
「払いは、吉原でいいんで」
「なんだいお若えの、お前さんもこっちのクチかい?」
喜三二が仲間を見つけて喜んでいます。
「あたぼうでさ! 絵なんて、モテるために描くもんでしょ。ねえ蔦重さん」
「んなこと言ったって、いますぐ頼めるものなんてねえよ!」
そう、ぼやく蔦重。
「じゃあ今日は遊びましょうか」
と、次郎兵衛が突然ろくでもねえこと言い出しやがりました。
「いや、なに言ってんすか義兄さん!」
「だって俺、茶屋だもの。遊びてえ人たちを前にほっとくわけにゃ……」
「気が向いた時だけ仕事しないでくだせえ! タダじゃねえんだから。お代は俺につけられるんすよ!」
いくら蔦重が抗議しても、いいものを書くと喜三二はいい、政演はいい挿絵にするという。すると次郎兵衛が、打ち合わせでもしようと誘う。ろくでもねえトリオが結成されました。
「じゃあ行くべえ獅子!」
借金がまた増えると嘆く蔦重のもとへ、富本本を求めた客がきて、その接客しているうちに皆は行ってしまいました。
にしても蔦重、遊び人ホイホイみてえになってっけど、大丈夫か?
その後のふじとの会話で10両と蔦重が確認していますが、それだけ遊んだってことですかね。
女たちも心から笑い、とても楽しかったそうです。
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