おんな城主直虎感想

『おんな城主 直虎』感想レビュー第8回「赤ちゃんはまだか」 側室問題とがっぷり四つに組む

体の重心を落として下から突き出す……本気で殺す気だ

直盛がしのを気遣い複雑な顔をする一方、千賀はテキパキと側室を迎える手はずを整えます。直親の側室捜しとともに、今川から割り当てられた槍の手配が進みます。ここで戦は支度で勝敗の八割が決まると説明されるわけです。桶狭間の戦いの結果は言うまでもありません。今川が油断していたように思われるかもしれませんが、準備万端であったのです。

直親の側室候補も絞り込まれました。しのは父の奥山朝利から側室を認めるよう説得されます。その側室候補は前夫を早くに亡くしているのですが、二人子を授かっているそうです。
しのは顔をゆがめ、こうつぶやきます。
「……あの女のせいじゃ!」
いやそれは違う、怒りの矛先が違いますよ、しのさん! まず直親とじっくり話し合いましょう。
近くにしのがいたら、肩を叩いてそう忠告したいところですが、しのの暴走は止まりません。

かくして、次郎の元に衝撃の知らせが届きます。しのは「あの女を恨みます」と書き置きを残し失踪したのでした。次郎は今回二度目のマジギレをして、しのを探しに行きます。
井伊家の人は悩みがあるとだいたいがあの井戸に行きます。行動パターンを読み、首尾良く懐剣を握りしめたターゲットを発見した次郎。
「逆恨みはやめろ! 意味がわからない!」としのから懐剣を奪い突き飛ばします。

しのは悔しそうにこう言います。
「みんな、しのがおとわであったら、って思っているの知っているもん。子供ができたらそれでも見直してくれるって思っているのに、全然できない……毎日子作りのことばかり考えていて辛い……悪いのは私なの? 他に誰を恨めばいいというの……」
次郎は「理由はわかったけど、それってやっぱり八つ当たりだと思うんですけど……」と言いたげな微妙な顔をしながらも、ふっきれます。

「わかったよ。もう勝手に死ねば? お前が死ねば、流石に私の還俗を認めてもらえるだろうし。ちょうどいい薬もあるし、懐妊なんて超楽勝。死ねよ。なんならとどめさしてやるよ」

「髙砂」を謡っていた真田信繁並のドヤ顔で、しのを煽りまくる次郎。しかし、武器がない状態で刃物を持った相手を煽るのは、作戦であっても危ない! 懐剣を殺すモードで構えたしのが飛びかかろうとします。
腰を落とし、しっかりと懐剣を構えるしの。これは完全に殺すモード、本気です。はい、もう一度彼女のポーズを見て下さい。それから昨年の春(真田信繁正室)が火箸を構えた時のことを思い出してください。振り上げるよりも、体の重心をぐっと落とし、下から突き出す方が危険です。春はあくまで威嚇で、しのは必殺の構えです。しのの恐ろしさが、おわかりいただけたでしょうか。

 

何、他人事みたいな顔をしているんだよ! 子供は二人で作るんだろ!

しのが次郎の腹を本気で抉ったらば、「おんな城主直虎 完」とテロップが出るところです。
ここで今年のセコム枠(昨年は直江兼続)・傑山宗俊が止めに入ります。女性とはいえ刃物を構え完全に精神が高揚した相手を止めるのですから、傑山の強さは相当なものでしょう。怨念の一撃を外し、泣き崩れるしの。

そこへ「やれやれ、俺のために争うなよな」という顔をした直親がやって来ます。どうしてこの状況でやれやれ顔、どこか他人事なんだとこちらがイライラしていると、次郎が視聴者の苛立ちを代弁します。

「何、他人事みたいな顔をしているんだよ! 子供は二人で作るんだろ、部外者みたいな顔するな、なんで一緒に悲しんでやれないんだよ、お前の妻ならお前が何とかしろよ!」

ありがとう次郎、よくぞ言った次郎! 彼女が視聴者の意見を堂々と代弁するので溜飲が下がります。政次も、直親にこれくらい強く言い返せたらよいのですがね。

直親はここでハッとし、やっと妻に心の底からの気遣いを見せます。次郎に叱り飛ばされてやっとそうなるというのはどうかと思いますが、それでも進歩であることは確かです。先ほどまでとは一変し、しのの肩に手を置くしぐさや口調まで優しさが加わっています。仕草で直親の変化を表現する、そんな三浦春馬さんの演技力に驚かされます。

しのの暴走行為を聞いた直親と千賀は呆れています。どうしたものかと話し合っていると、障子をスパーンと開けて次郎が乱入します。
「しのはとんでもなくて危ない女です、私も襲われました。きっとこのままでは側室も私のように危険な目にあうでしょう。でも、子供ができたら、その子のために容赦なく敵を殺す強い母親になることでしょう! 私が言いたいのはそれだけです、夜分に失礼しました!」

しのへのフォローを叫ぶだけ叫ぶと、雨の中を「何をやっているのだ私は!」と戻ってゆく次郎でした。こういう次郎の直情径行型の性格、私は結構好きです。

 

直親・しの夫妻は決意 一年以内に子ができねば側室を持つ

こうしたすったもんだを経て、直親としのはあと一年以内に子ができねば側室を持つと結論を出します。
しのはもし一年立っても子ができれば実家に戻るとまで言い切り、覚悟を示します。千賀は「わかりました。二度と私の娘を襲わないでください」と条件をつけるのでした。ここで一瞬、千賀に対して「次郎様が……」言い返そうとするしのは、なかなか気が強いですね。この先猛将となる井伊直政からも、母親ゆずりの負けん気の良さを感じることになるのでしょう。

今週の世継ぎ騒動をしょうもないと思う方もいるでしょう。
しかし個人的には、近年の大河が避けてきた側室問題とがっぷりと四つに組む本作の意欲と思い切りは積極的に評価したいところです。直江兼続と黒田官兵衛は側室がいないから主役になったという噂もあるほど、大河はここを避けて通ってきたのです。

愛する人の子供を産めない女は苦しく不幸だという台詞を言わせる一方で、政略結婚や「子を産む腹」として扱われる女性という側面はスルーすることも多かったわけです。しかし、ここ二年の大河はそこから逃げなかったわけです。『江』や『花燃ゆ』と比べると、たいしたことがないようで偉大な正常化と言えるのではないでしょうか。

年があけて永禄三年、井伊家最大の悩みが子作りなのはここまでです。
まさか負けるとは夢にも思わない晴れやかな顔をして、武功をあげることに喜びすら感じつつ、井伊谷の男たちは運命の戦場へと出陣してゆきます。小さな谷の、検地や子作りに悩んでいた穏やかな日々は終わります。この愛すべき凡人たちを乗せた小舟は、歴史の荒波に翻弄されることになるのです。

 

MVP:しの

日本一の八の字眉美人といえば貫地谷しほりさんです。彼女が目に涙をため、眉を八の字にしている表情は、もはや反則だと言いたくなるほど素晴らしいのです。彼女がそんな顔をしていたらいつまでも見ていられるんじゃないと思うほど可憐です。健気で耐える役が多いのはそうした魅力ゆえでしょう。

しのという女性は暴走暴発せず、おとなしくじっと堪え忍んでいるだけでもよかったかもしれません。それが今作では暴走し、卑劣な策まで使い、しまいには刃物まで持ち出して次郎と対峙します。
ここまでやる必要があるのか? ありました。本作はキレる貫地谷さんも実はマーベラスだった、という結論を引き出しました。ボロボロになっていく高橋一生さん、爽やかクズの三浦春馬さん、ドヤ顔で煽る柴咲コウさん、毎週魅力の再発見をする本作。おそろしい作品です。

ちょっとギャグ調で、しかもチャーミングではありますが、しのの壊れ方には理由があります。
直親の態度も大問題ではあるのですが、この辛さは彼女の身分にも関係しています。もしもおとわが嫁いで四年間子が授からなかったとしても、ここまで追い詰められたとは思いません。井伊家の姫である彼女の身分は安定しています。子が出来なくとも、尊敬され発言権もある正室として家に君臨できるでしょう。昨年の真田信之正室の稲(小松姫本多忠勝の娘)がこのタイプでした。

しかし、しのの場合、所詮家臣の女(むすめ)に過ぎません。子ができなければ実家に戻されてしまうのです。
夫の直親は元婚約者の次郎を唯一無二の敬愛できる「人」として見ています。周囲は次郎を「井伊家の姫」として見ています。しかししのは、直親からも周囲からも「子を産む腹」としてしか見られていないのです。その務めすら果たせないのならば、しのに存在理由はなくなるのです。そんな彼女の、「私を見て、人として見て、妻として見て!」という心の叫びが暴走につながったのでしょう。

この「子を産む腹」を選ぶ感覚の、はっきりと言葉にならないけれども、嫌な義務であるということは、直盛や直親の態度からもうかがえます。必要悪なのだから受け入れてこそ武家の女性だという覚悟は、千賀から伝わってきます。側室=愛人という雑なくくり方をしてしまう大河もある中、本作は「戦国のリアル」として側室とお世継ぎ問題を物語に投げ込み、それに対する反応を描きました。しのの側室問題に対する反応から、彼らの過去にあった物語を視聴者に伝えた井伊直盛・千賀夫妻の演技も見事でした。

 

総評

先週が、井伊直親小野政次の魅力や困った面を引き出したとすれば、今週は女性たちが様々な面を引き出されました。
暴走していたしの、しのに引きずられてドヤ顔で挑発し、ブチギレていた直虎。優しいだけではなく、しのの気持ちを理解しながらテキパキと側室を選ぶ千賀の沈着冷静さ。そして夫を深く愛する瀬名のかわいらしさ。昨年に引き続き、今年のヒロインたちも元気で躍動感があり、型にはまらない魅力があると示された回と言えるでしょう。

井伊直虎という一人の女性が、井伊家のピンチヒッターとして家を守るのは先のこと。今はまだ、むしろ人々の間を引き裂く元凶となってしまっています。
先週の直親と政次は、間に彼女さえいなければよい主従となれたかもしれないと示しました。今週は直親としのの間で、しのを傷つける存在として彼女がクローズアップされています。

それでも先週と違って今週は後味が悪くなく、むしろすっきりとしています。
先週のコンビが決裂するのに対し、今週はむしろ今後共闘します。
先週がひきつった笑顔で腹の探り合いをする陰性の対立であったのに対して、今週は刃物まで持ち出しているものの、言いたいことを言い合ってすっきりした、一昔前の漫画にあるような「拳で語り合ったあとにわかりあう」的展開でした。

女子のマウンティング合戦というと陰湿なイメージがあるのですが、この作品の場合はむしろ逆です。ベタなようで、実はその性別らしさ、ジェンダーという観点で見るとなかなかおもしろい逆転現象を起こしています。これは例えば、直親の側室を選ぶ話をしている時、男である直盛がしのの気持ちを想像して複雑な顔をしているのに対して、女である千賀が微笑みながらテキパキと手配している場面もそれに当たると思います。ベタなようでヒネリを入れているところが、本作の奇妙な隠し味になっています。

今年は子役時代が長いと言われましたが、各人のキャラクターを描いてきたいわば助走期間は今週で終わります。
『真田丸』では第一回のラスト、落ち武者狩りから逃げる真田親子を映すことで彼らが乱世の大海に漕ぎ出していきました。それが今年は二月の終わりまでかかったわけです。そしてここからの乱世の荒波は実のところ真田家がかぶるものより大きく、漕ぎ出す船は真田丸よりずっと頼りないのです。
今回までも楽しませていただきましたが、次回からこそが正念場です。井伊家を襲う荒波と、それを乗り越えてゆく直虎たちの姿を楽しみにしています。

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