大河ドラマ『真田丸』に始まり、『おんな城主 直虎』と来て『麒麟がくる』に至るまで。
かつての戦国大河と比べ、大きく変わったのが【国衆】の描き方でしょう。
戦国大名は、国と国の戦争を手掛けるだけじゃない。
むしろ周辺エリアの小領主(=国衆)たちと行われる小競り合い・交渉などのほうがはるかに重要だった――そんな彼ら国衆に注目した書籍が『全国国衆ガイド』(→amazon)です。
これが非常に面白い!
発売から時間が経ち、今となっては定番の一冊だけに、ご存知ない戦国ファンの皆さまへご紹介させていただきます。
【TOPイメージ・富永商太】※上記書籍に収録されているイラストではございません
三英傑が甲子園優勝校だとすれば
本書はタイトル通り国衆がテーマ。
いわば「地方予選で負けた高校まで網羅した甲子園ガイド」のようなものです。
三英傑(信長・秀吉・家康)が甲子園優勝の常連校だとすれば、上杉武田北条クラスはベスト8進出の強豪校ってところでしょうか。

左から北条氏康・上杉謙信・武田信玄/wikipediaより引用
一方、本書に出てくる国衆は真田家や井伊家を例外として、あとは各地の予選でいいとこ準決勝やベスト4クラスというところです。
各市町村史にひっそりと出てくる、関連史跡といえば町はずれの風化した石碑くらい、そんなマイナーな武家も網羅しているのが本書です。
そんな内容ですから、まず手に取ってみて驚きます。
分厚いのです。
五百ページ近いボリュームは、もう新書でよいのか悩ましいほど。
さらにパラパラめくると、文字の小ささに驚きます。本文はもちろんのこと、語彙解説にいたっては六段組でびっちりと細かい文字が並んでいる。
なぜこうもみっちりと記載しなければならないのか?
それはあまりに小さな家まで網羅しているからです。
西馬音内、土佐林、額田小野崎
そして目次を見ても驚かされます。
西馬音内、土佐林、額田小野崎、波々伯部、鶏冠井、物集女、三刀屋、問注所、頴娃……。
パッと見て馴染みのない、読み方すら推測が難しい名前がズラリ!
なじみがある名前が並んでいるのは、国衆が多く出仕した武田家領の甲信地域辺りでしょうか。
自分の出身地ですら初めて聞いた名前ばかりで、あとはチラホラと聞いたことのある名前がある程度。
まさに、未知の戦国時代に迫る一冊です。

しかし、未知の分野であるからこそ、そしてマイナーな分野を取り上げているからこそ、本書は読む意味があるのか、わからないところもあるかもしれません。
もっとはっきり言ってしまいますと、一冊まるごと通読する意義はあまりないかもしれません。
ガイドですので、気になる地域、気になる一族だけを読むのでもまったくもって問題ナシ。
また、いざ目的の一族を見つけても、十分な情報量があるとは限りません。
真田、井伊、九鬼といった国衆から大名にまで出世した一族は、もっと詳しい別の本があるでしょう。
それ以外でも、その一族が居住していた各市町村史を調べた方がよい場合もあるし、そもそも史料が極端に少なく、専門家が調べても行き止まりだった、という例もあるかと思います。
要するに、本書でカバーできる範囲は限られていて、目的を達成できるとは限らない、ということです。
あくまでタイトル通りガイドであって、入り口を案内するものだということは頭の隅に入れておいた方がよいでしょう。
また、本書を読んでいくと、だんだんと儚い何かを観察しているような虚しさを感じるようになるかもしれません。
なぜなら、多くの国衆が、争いの中で滅び歴史から姿を消してしまうからです。
弱小校が地区予選で敗退するように、彼らは消えてしまいます。
そのパターンもいくつかあり、生き残っていく場合も含めて、主に5つのルートが彼らには用意されています。
武士として負けてはいない!
本書は『真田丸』考証の丸島和洋氏が甲信地域の執筆を担当。
国衆研究が『真田丸』にかなり反映されていることがよくわかります。
『真田丸』に登場する国衆の去就は、他の地域でもあてはまるものであり、本書片手にドラマを見るとより理解でき、またドラマを思い浮かべることで国衆のたどる命運もわかりやすくなります。
そこで甲信エリアを舞台に、国衆の行先を5パターンに分類してみましょう。
A:大名に成り上がる(真田信之)
B:大名家臣として存続(小山田茂誠)
C:他国衆との争いに敗北し滅亡(室賀正武)
D:従属大名滅亡に巻き込まれ、滅亡(春日信達)
E:豊臣政権に認められず滅亡
従来取り上げられるのはせいぜいAかBまでで、CやDパターンは「時代が読めない残念な人もいたんだね」で終わりとなったはずです。
そこを『真田丸』では掘り下げました。
中でも室賀正武が真田昌幸に「武士として負けていると思ったことはない!」という台詞(第十一回)には誇りがこもっていました。

真田昌幸/wikipediaより引用
室賀正武が「黙れ小童!」の名台詞とともに有名となるとともに、室賀一族の墓所を訪れる人は増え、子孫も墓参しました。
このように、時代の流れに翻弄されて消えていった「国衆」がいたこと、彼らが決してのちに名を残した者たちと比べて劣っていたわけではないこと、それを示すことができた意義は大きいと思います。
室賀正武のような国衆はどこへ消えたのか?
自分にとってなじみ深い土地にもいるのではないか?
そう思ったとき、まさしく役に立つのが本書というわけです。
不如帰の声を聞かなかった者にも歴史あり
本書をめくり、さらにそこから調べることで、日本全国津々浦々に国衆がいたことが確認できるでしょう。
そして彼らのあとをたどると、風化して墓碑銘すら読めない墓、草木の覆われた城址、自治体の教育委員会が設置したさび付いた案内板といった、ひっそりとした史跡が見当たることもあるでしょう。
その瞬間、今まで気にもとめなかったようなそうした史跡に血が通うはずです。
時流に取り残された愚かな人々、『信長の野望』にすら出て来ない雑魚といった雑なくくりではなく、戦国の世を懸命に生きた人々の息吹が耳元をふっと通り抜けるように感じられます。
本書と『真田丸』は、国衆を研究してきた方々が育て上げて収穫までこぎつけた果実と言えるでしょう。
こうした小さな歴史の歩みまでたどることができることこそ、本当の意味で歴史の豊穣さといえるかもしれません。
敗者にも光をあて、天下取りの不如帰の声を聞かなかった者にも歴史はあった――。
そんな認識を新にする本書こそ、真の歴史好きに読んで欲しい一冊と言えるのではないでしょうか。
全部は読まずとも本棚に置き、旅行のお供のするのもおすすめです。
行き先の国衆に思いを馳せる旅は、きっと有意義なものとなるでしょう。
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【参考】
大石泰史『全国国衆ガイド 戦国の‘‘地元の殿様’’たち (星海社新書)』(→amazon)






