古典的名作と呼ぶには最近の作品過ぎ。
大ヒット作と呼ぶには視聴率が少し足りない。
傑作と呼ばれるには何かが少し足りないかもしれないけれども、ファンの熱い支持がある大河ドラマ『風林火山』。
どんな作品であったか?
『麒麟がくる』がしばしお休みとなる局面ですので、ここは過去作品でも楽しんでみよう!ということで振り返ってみましょう。
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謙信にGackt起用で戦国ファンがザワザワザワ
今となっては考えにくいのですが、放送前の本作はイロモノ扱い、NHKが「やらかしやがった」という下馬評も少なくありませんでした。
その最大の理由が、Gacktさんが演じた上杉謙信です。
「イケメンを起用して女に媚びる気かよ」
「あいつが上杉謙信? イメージ違い過ぎる」
そんな声すら少なくなかった本作。
詳しくは後ほど記しますように、Gacktさん起用がヒットの要因にもなるのですが、当時は『利家とまつ』や『功名が辻』と比べられて批判され、視聴率も高いとは言えませんでした。
イマイチ冴えない大河が、Gacktさんのような隠し球で話題を作りたいだけではないか、そんな扱いだったのです。
脚をひきずった隻眼の男はむさくるしく……
本作の主人公である山本勘助からして、むさくるしく薄汚れた中年男であり、愛くるしい子役が愛嬌を振りまく序盤の幼少期パートもありません。
どこか屈折し、脚をひきずった隻眼の男。
彼が就職活動を繰り返す序盤は華やかさもなく、地味でした。
ふてぶてしく、哀れで、腹黒いようで、どこか純情。そんな複雑で、一見すると愛されにくい主人公を、内野聖陽さんは熱い役者魂で演じます。
それがじわじわと口コミで評価があがりだしたのは、春あたりからです。
「今年の大河は面白いって!」
その頃は現在のようにSNSは発展しておらず、インターネット上での感想拡散はネット掲示板や個人ブログ頼りでした。
そういったところで徐々に口コミ的に広まりだしたのです。
地味だけれども、噛みしめると味がある――そんなスルメ大河としての評価がネットを活用する若年層に広がりつつあるとき、起爆剤となる女優が出現しました。
勘助と恋に落ちる農民の娘・ミツを演じた貫地谷しほりさんです。
上田原で重臣を失い「いたがぁきぃ~~!!!!」
素朴ながらも愛らしく、勘助との間に子まで宿したミツ。
なんと甲斐の大名・武田信虎に理不尽なかたちで惨殺されてしまいます。
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仲代達矢さんの信虎が、これがまた憎々しい!
ここで視聴者と勘助の怒りがひとつになり、武田への憎悪が燃え上がるのですが、この勘助がどういうわけか武田家に仕官してしまうわけなんですね。
勘助が武田に仕えるということは見ている側は皆わかっているわけで、それがこういうねじれた形のスタートでどうしてしまうんだろうか、そこが序盤のポイントであったと思います。
本作は井上靖氏の原作があるものの、原作は一年持つほど長くはありません。
脚本家の大森寿美男氏が、プロットをうまく作っていたと思います。
中盤からは武田晴信(後の武田信玄)という青年大名がのしあがっていく様と、それを支える勘助の活躍がメインとなります。
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晴信を演じるのは2代目市川亀治郎さん(当時、現4代目市川猿之助さん)。
このキャスティングについても賛否両論ありましたが、前半の揺れる青年としての心理と、中盤の傲慢さ、終盤の円熟を巧みに演じ分けていたと思います。
同時に武田家臣団の豪華さ、渋さが際立っていました。
板垣信方役の千葉真一さんは、あれほどのキャリアを持ちながら本作が初の大河出演です。
円熟の殺陣、存在感は作品の厚みを増しました。ちなみに千葉さんの娘にあたる真瀬樹里さんも真田の女素破役で出演していました。
板垣信方と、竜雷太さんが熱演する甘利虎泰が、夏までの本作を支え、この二人が討ち死にする【上田原の戦い】で中盤のクライマックスに!
「いたがぁきぃ~~!!!!」
そう絶叫する晴信の声は未だ脳裏に焼き付いて離れません。
両雄を失った武田晴信ですが、欠けた穴と補うように真田幸綱(真田幸隆)が仕官し、宿敵・村上義清にも勝利をおさめます。
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