三国志 Secret of Three Kingdoms

『三国志 Secret of Three Kingdoms』/amazonより引用

歴史ドラマ映画レビュー

マニアも唸る『三国志 Secret of Three Kingdoms』23の疑問に答えます!

こちらは4ページ目になります。
1ページ目から読む場合は
三国志 Secret of Three Kingdomsの疑問
をクリックお願いします。

 

曹植が詩人なのに武人として活躍しているのってありでしょうか?

それを言うのであれば、彼の父・曹操や兄・曹丕もそうです。

詩人であり武人であることが、彼ら父子の特徴とも言えます。

そういう人物はそこまで多くもなく、曹操は後世「槊(ほこ)を横たえて詩を賦す」(蘇軾『前赤壁賦』)と称えられています。

そういう人ばかりでもない……というよりも、曹父子は特殊例ではありますが。

そう考えてみて、また曹丕と後継者争いをしたとなれば、曹植が武功を立てたとしてもおかしくはありませんし、実際のところ彼には剛直なところがありました。

戦場にいる曹植が不自然に思えるとしたら、悲劇の詩人としての彼を強調しすぎた後世のフィクションの影響でしょう。

答:曹父子は智勇兼備です

 

曹操の『短歌行』って、赤壁で詠んでいた気がするのですが?

本作では赤壁の戦いがセリフのみで処理されます。

有名な合戦であろうと、名場面であろうと、作り手が重視しなければカットすることは歴史劇の手法です。

となると、あの場面もないのかと思うかもしれませんね。曹操が代表作である楽府『短歌行』を作り、詠む場面です。

あの詩は赤壁の戦いの前に詠むことが、定番になっている……そんな認識がある方もおられるかとは思います。

ドラマや映画『レッド・クリフ2』でもその場面は登場します。

しかし、実はこの作品の制作時期や背景は特定できていないのです。

前述の蘇軾『前赤壁賦』のイメージが強いとか。赤壁の戦いを盛り上げるためとか。そういう理由で、あのタイミングがフィクションの定番となったに過ぎません。

いつどのタイミングで入れるか、実は理由にアレンジできます。

最近は赤壁以外のタイミングで入れることが増えてきています。曹操の見せ場として、そこは入れたいところですね。本作にも、バッチリとよい場面が入ります。必見ですよ!

ちなみに、この『短歌行』はなかなか悩ましいものでして。

なんだかノリノリで一貫性がないし、テンションの浮き沈みが激しく、研究者を悩ませています。

「誰かと即興で詠んだとか?」

「酒で酔っ払ってベロベロになって作ったんじゃない?」

まあ、ありえるとは思います。曹操は酒好きだし、テンションの浮き沈みが激しく「俺、キレて人殴りすぎるからマジ反省してる……」と言い残していますし、実際怒ると家臣を殴っていたそうです。

酒も大好き!

高い場所に登るとテンションがウヒャハー!

とあがって詩を詠んでいたそうですので、そういう性格なのでしょう。曹操はハイテンション野郎なんですよ。

本作の曹操も落ち着きがなく、テンションの浮き沈みが激しく、いきなりキレ散らかします。これも史実準拠です。

答:『短歌行』は好きなタイミングで使えます。映像化された曹操の中でも、細かいところが史実準拠!

『三国志』一緒に飲みたくない上司ランキング! アルハラ1位は誰だ?

続きを見る

 

曹植の妻・崔夫人とは?

曹植の妻である崔夫人が本作には登場します。

そこに何か違和感があるとすれば、甄宓との創作由来のロマンスの影響でしょう。

崔夫人は不可解かつ影が薄いと思えます。

前述の通り、曹植と対になるヒロインはどういうことか甄宓です。

崔夫人は「禁止令を出していたにも関わらず、華美な服装をしている」という理不尽な理由で義父・曹操から自害を命じられていまう。歴史のミステリーとも言える彼女の死の動機を本作は推理しています。

後継者争いをした曹丕と比較すると、曹植は名門の妻を娶っている。しかも、ドラマの設定ではむしろ服装が地味であり、周囲から驚かれているほどなのです。

つまり、彼女が不注意から華美な格好をするとは考えにくい。

劇中で何かとややこしいことになっている崔琰がらみ、曹丕の陰険な謀略……そんな要素が想像できる見事な作りとなっています。

劇中ではその死までは描かれません。しかし、曹操が死を命じたということは、時系列的には自害しています。そのあたりを補完しつつ見るとより楽しめるかもしれませんね。

答:脳内補完できる材料は揃っており、これまた秀逸です

 

曹節とは?

劇中の後半で目立つ人物といえば、曹操の娘であり、曹丕と曹植の妹である曹節です。

おてんば、天真爛漫、素直。

そんな彼女は、他のヒロインと同じく、名前と設定を借りた程度、かなり自由な造形であることはご理解ください。

曹操と卞氏以外から生まれた兄弟姉妹は大胆にカットされていることも、本作の特色です。

彼女が献帝の皇后となったことは、史実を見てゆけば政略結婚です。姉一人、妹一人も同時に後宮に入っております。

とはいえ、皇后になったことは確かであり、一番目立ちます。

曹操の娘というだけで、夫である献帝に酷い態度を取る悪女扱いをされたこともありますが、これはあくまでも創作の話。

むしろ禅譲を迫る兄・曹丕に怒り玉璽を投げつけた逸話があります。

毛宗崗によって『三国志演義』にもこの話が採用されました。

本作では「もう曹丕お兄ちゃんのバカァ!」と、兄の冷血を責め立てる名場面として登場します。

史実では兄に直接ぶつけてはおりませんが、ナイスアレンジということでよいでしょう。曹丕がとことんろくでもないとわかる演出をされており、大変秀逸。見逃さないでくださいね!

答:玉璽を投げる曹節の使い方として最高です。お見逃しなく

 

任紅晶の正体ってアリなの?

重大なネタバレがあります。ご注意ください。

本作で驚かされる設定といえば、あの伝説の美女・貂蟬が任紅晶という名で郭嘉に接近し、活躍を遂げることでしょう。

彼女が登場した時点で、正体に気付いた方は相当の通。そもそも貂蟬は実在しません。それを踏まえまして、時代がくだると彼女はこんな設定となります。

貂蟬は、貂や蟬といった服飾品の飾りのこと。その管理をしていた担当者だから“貂蟬”。

本名は任紅晶です。

ただ、これもちょっとおかしいのです。

後漢から三国時代は、は男女ともに一文字が多い。任晶ではなく、任紅晶というあたりに、時代が降ってからの創作だという雰囲気は出ています。

相当のマニアであれば、この名前の時点でピンとくるわけです。

そんな彼女の年齢は?

董卓の死が192年で、官渡の戦いは200年。

董卓の死の時点で16であったとすれば、24歳ですね。本作ではさらに若く、作中初登場時22歳の設定です。

「でも貂蟬は、もう死んでいるんじゃないの?」

そう思ったとすれば、それはあなたが日本人だからかもしれません。

日本の『三国志』ものでは、貂蟬が「連環の計」を叶えたあと、ほどなくして自殺なり他殺なりで死ぬことが多いのです。

これはあくまで日本独自の現象で、本場中国では呂布の側にいます。正室ではなく、あくまで側室扱いであり、その後どうなったかはわからない。フェードアウトが主流です。

ただ、この流れになるまでにも紆余曲折があり、関羽を誘惑した挙句に斬殺される設定もあったほどでした。

あれだけのことを成し遂げながら、ふっと消える貂蟬。それはそれでよいものの、21世紀の新解釈ではどうするのか?

そこに本作は挑みます。

貂蟬は、時代ごとに最高にクールなヒロイン像も反映されます。本作にも、そんな願望が詰まっています。

最愛の人・呂布が死んだ。後追いせずに、深い愛を証明するにはどうすればよいのか?

呂布の愛娘を守ろう――本作での貂蟬は、そのために危険も顧みない、義侠の人になったのです。

呂布の娘・本作では呂姫とされている女性は、袁術の子との縁談があったとされるのみで、これまた結末が不明です。

ただ、袁氏との縁談があったからには保護されて、かつ屈辱的な目に遭っていてもそこまでおかしくもありません。本作の任紅晶と呂姫のストーリーは、無理のない創作範囲かつ、今時でクールな設定と言えます。

ちなみに呂布の娘が呂玲綺であるというのは、あくまで創作上の名前です。

答:これが21世紀版のあの最強ヒロインだと思えば、極めて素晴らしいとしか言いようがありません

貂蝉
絶世の美女・貂蝉とは? 董卓と呂布に愛された美女 伝説の真相

続きを見る

 

原題『三國機密之潛龍在淵』とはどういうこと?

これは本編最終盤に意義が語られます。

人の意識という深淵に潜むもの。そこから出てきた龍のような何かが姿を見せるそのとき、どうなるのか?

深い淵は何のことで、龍とはどういうことなのか?

はっきりとした答えはなく、問いを投げかけられ考える作品となっています。

答:その答えは、見る者の中にあります

本作は極めて緻密に作られており、今できる『三国志』ものでもトップクラスの出来といえます。

華流時代劇でも上位に入ると思える傑作です。

ただし、いろいろと複雑な要素があり、勧めにくい。

「えっ、なんで諸葛孔明出てこないの?」

こうなりそうですよね。

しかし、諸葛孔明はいなくとも満寵がいればよい。そう自信を持って勧められます。

心理描写中心、オリジナルキャラクターや女性の活躍。

英雄の躍動感を扱うという意味では『麒麟がくる』とも共通要素が多いといえます。

これが世界的に到来する2020年代歴史劇の流れだ!

そう意識して観たい傑作です。

文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link

【参考】
『三国志 Secret of Three Kingdoms』(→amazonプライムビデオで無料

TOPページへ

 



-歴史ドラマ映画レビュー