金光瑤

金光瑤 魔道祖師グッズ アクリルスタンド/amazonより引用

陳情令・魔道祖師

血族ガチャの呪縛に苦しむ金光瑤を歴史面から考察! 陳情令&魔道祖師

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なにが明暗を分けたのか?

結果的に悲運に斃れた金光瑤。その最期は、魏無羨と対照的です。

ふたりとも隣には藍氏の兄弟がいました。

かたやとどめを刺され、かたやこれ以上がないほど幸福を味わう。

出発点からして二人は似ています。

身分が高くない、いわば”血族ガチャ“のはずれです。

金光瑤は自分を弾き出した儒教規範の内側に、策を用いて入り込み、支配しようと嘘を重ねました。

魏無羨は儒教規範をむしろ拒み、誠意と義侠心で弱き者たちを救おうとしました。策謀と誤解で破滅しかけたけれども、嘘をつかず、誠意を尽くして幸福を掴みます。

似たもの同士が、嘘と誠をぶつけ合い、決着をつけた。それがこの世界と言えます。

侠、誠、そして愛によって救われるなんて、綺麗事だのなんだの言われそうで、実はもっとも大切なこと。生まれついての血よりも、どう振る舞うかどうか、それが大事だ。そう伝えてくるような物語なのです。

それでいておもしろいからこそ、ファンを獲得しています。

そしてそう伝えるためにも、憎まれ役は大事。

魏無羨だけでなく、金光瑤の選択と過ちを考えてこそ、作品はより深く楽しめるのでしょう。

 


東瀛(とうえい)で幸せになろう

金光瑤が幸せになる選択肢は、彼自身が示していました。

東瀛(とうえい)――そんな謎めいた地名が劇中に登場します。

金光瑤自身がその東瀛に行くことを条件に、助命嘆願をしていたのです。

東瀛は謎めいた邪曲集があった土地らしい。さて、どこでしょう?

文字からして東にあるらしい。

瀛(えい)とは海のこと。

海を隔てた東にある国といえば、日本ということになります。

日本をそんな邪悪な土地にされたからといって、怒らないでくださいね。

蓬莱(ほうらい)、方丈(ほうじょう)とならぶ伝説の神仙が住む土地ともされています。

始皇帝が不老不死を求め、方士・徐福を派遣した場所ともされます。この徐福は若い男女三千人を連れていたとされます。

この徐福が日本にたどりついて暮らし始めたという「徐福伝説」が各地にあります。

「秦(はた)」という名は徐福の子孫であるとされます。

日本と中国をつなぐロマンある名前です。

この徐福が日本に住み着いた設定を活かした映画が『テラコッタ・ウォリア 秦俑』。ご興味があればぜひご覧ください。

 

この世界の時代背景モチーフが魏晋南北朝と推察される根拠として、この東瀛の扱いがあげられます。

日本史の授業でもおなじみの『魏志倭人伝』は、魏の歴史を記した書物のこと。

魏晋南北朝における日本の認識とは、まだぼんやりとしていて、神仙が暮らしていそうなイメージがあります。

それより古いと、航海技術が未発達で往復することが難しい状態でした。

時代が降ると、変化してゆきます。隋となると、遣隋使が行き来します。神仙ではなく人間の住む国家として認識されるのです。

そのあとの唐代は遣唐使によって日中間交流の熱気が最も高かった時代です。

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元代は元寇がある。そして次の明代こそ、武侠もので最も日本の存在感が濃くなる時代です。

明は海禁政策を強化するものの、当時の明は世界一の富が渦巻く場所。

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日本はじめ周辺国家は「貿易をしてくれ! 明のものならなんでも高値がつく!」と武装した密貿易に挑みます。

その結果が倭寇です。

ゆえに明代を舞台とした作品では、武士と忍者が出てきます。日本への悪意ではありませんので、誤解なきよう。

中国語圏でも『信長の野望』や『戦国無双』シリーズは大人気。よっしゃ、明が舞台ならあいつらを出しちゃえ!

そんなサービス精神で「東洋的武士」「東瀛忍者」なる謎の日本人がしばしば出てきます。大抵やられ役ですが。

例えば『笑傲江湖』は明代が舞台です。

原作では出てこないものの、映画やゲームになると謎の日本人が出てくることがお約束です。

悪く思わないでくださいね。日本人だってさんざん、謎の中国人武術家をしょっちゅうフィクションに出しているのだから。そこはお互い様です。

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さて、そんな東瀛こと日本に、金光瑤を連れてきて幸せに暮らしてもらうことは可能でしょうか?

この際原作を無視してそう二次創作してしまっても一向に構いません。

二次創作とはそもそもがそうした選択肢があるものですが、これは日本ならではの伝統と言えます。

山口県長門市にある二尊院には、楊貴妃の墓伝説があります。

玄宗の寵愛を受けながら、安史の乱の最中に悲劇の死を遂げてしまいます。楊貴妃に不満を抱く兵士の不満をしずめるために、絞殺されてしまったのです。

楊貴妃をモチーフとした漢詩を日本人は鑑賞してきました。白居易「長恨歌」は有名です。

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どうしたって、楊貴妃はバッドエンドを迎えてしまう……。

しかし、墓が空っぽであるとか。替え玉とか。そんなロマンが残されています。

そこで日本の楊貴妃ファンがこう考えたようです。

「実は楊貴妃は生きていて、日本までやって来たんだ!」

そして墓設定の五輪塔を建て、平成になってから大理石の像と中国風の公園まで造られました。

◆楊貴妃の里(→link

◆楊貴妃伝説(→link

 

あまりに突拍子もない伝説に、思わず唖然としてしまう話ではあるのですが、なまじ隣り合う国だけに、こうしたことが成立するとも言えます。

今ならばそっとアクリルスタンドを立てて風情を味わってもよさそうな。

中国らしい情緒あふれる公園ですね。

金光瑤の口から「東瀛」という地名がでて、それが日本だとたどり着くこと。これこそ華流を楽しむ醍醐味ともいえます。

物語をよみとき、歴史までたどってゆく。そんな楽しみができるのは華流だからこそ。

東瀛にいるものとしても、この世界観を愛してゆきたいです。


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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link

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金光瑶アクリルスタンド(→amazon

【参考文献】
会田大輔『南北朝時代―五胡十六国から隋の統一まで』(→amazon
川本芳昭『中国の歴史5 中華の崩壊と拡大 魏晋南北朝』(→amazon
井波律子『中国文章家列伝』(→amazon
井波律子『中国の隠者』(→amazon
井波律子『奇人と異才の中国史』(→amazon
佐藤信弥『戦乱中国の英雄たち』(→amazon
岡崎由美『漂泊のヒーロー: 中国武侠小説への道』(→amazon
岡崎由美/浦川留『武侠映画の快楽』(→amazon

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