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【ドラマ大奥医療編 感想レビュー第12回】
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源内の望むもの
赤面撲滅が見えてきた――。
源内が田沼にそう伝え、褒美が欲しいと続けます。
それはなんと「口吸い」(キス)でした。
その望みがあっさり叶えられ、いつも他愛ないものばかり欲しがると微笑む田沼。これは惚れてしまいますまぁ。
十年前、初対面であったとき、源内は田沼が好みの美女すぎて、ぼーっとしたものでした。
彼はこの時、火浣布(かかんぷ)を披露しました。アスベストを用いた燃えない布です。火災対策になると売り込んだのでした。
そのお礼に何を欲しいのかと田沼に問われ、ここでも口を吸って欲しいと訴えていた。
ちなみにこの火浣布は大量生産ができず、アイデア倒れで終わっております。
その夜、源内は暴漢に襲われました。
途中、店先に立てかけてある竹を倒すところが時代劇のお約束で実にいい。
襲われた後の源内が、これまでのことを思い出しています。
婿もとらずにフラフラとして、怒られていた。家を継ぎたくなくて、江戸、長崎をフラフラしていた。弟の彦次郎が赤面で亡くなったあと、彼女は男装します。
人生は短い!
着たくもない着物を着て、したくもないことをしている暇はない!
赤面治療のために本草学を学ぶ――そう決意を固めたのです。
この描写から、彼女、もとい彼は、トランスジェンダーのようにも思えます。源内は源内ですね。
それしにても源内襲撃の黒幕は誰だったのか?
御高祖頭巾で顔を隠し、依頼していたのはなんと一橋治済の懐刀・武女でした。頭巾からのぞく顔の禍々しくも美しいこと。
「赤面のサボン」の開発は進んでいます。
しかし、源内は最近来なくなっているとか。
何かあったのか……と心配そうになっていると、神出鬼没の源内がやってきて、工夫を凝らした針を持ってきます。
伊兵衛がふざけて黒木を刺し、またもいつものドタバタに。
源内は、青沼に自分を診察して欲しいと頼みます。
肩の内側に赤い発疹がありました。はじめは足の付け根が腫れ、その後、身体中にできているとか。
青沼は険しい顔でその症状を見ています。二人とも嫌な予感があるようです。
田沼意次vs松平定信
今回は身分制度の転換点が示されました。
小身でありながら成り上がった田沼と、吉宗の孫である定信。
この対比から、実は江戸時代の身分制度には穴が空いているということも見えてきます。
そして、穴を開けた側の田沼は経済重視である。
経済力が卑しいとされてきたのは、何も日本だけでなく、普遍的な現象といえます。
しかし経済力を蓄えると、学ぶことができる。そうして知識を蓄えたものは成り上がる機会がある。身分を金で買うことすらできます。
江戸時代も、旗本御家人の身分は売買されていました。
血筋ではなく経済力で身分秩序が歪むこと。これを忌避したいがために既得権益層が「カネは卑しい!」ということにするわけですね。
変化を起こしたい田沼意次。
変動を嫌う松平定信。
この二人は、時代そのもののせめぎあいでもある。
背がスラリと高く、しっとりとしたアルトで、微笑む様が美しい松下奈緒さん。
小柄で愛くるしく、声は高く、怒る様が激しい安達祐実さん。
絵では表現しきれない声のトーンや、存在の質感まで宿り、圧巻の対峙でした。
この二人でしかありえないと思えるほど見事です。
さて、そんな二人を江戸っ子はどう見ていたのか。川柳があります。
田や沼や 汚れた御代を改めて 清く澄ませ白河の水
白河の 清きに魚を棲みかねて もとの濁りの田沼恋しき
どちらもやりすぎはいけない。そんな思いがあったということです。
学ぶことで近代がやってくる
近代への入口には、平賀源内と田沼意次、それに杉田玄白もおります。
隣の中国や朝鮮では、勉強に励んで科挙に合格すれば出世できます。
そのため恋物語は男が科挙に合格するハッピーエンドがお約束。書を読め、その中に美女も立派な屋敷もあるぞ! と励ましていたものです。
一方で日本では、勉強ができても美女と財産が得らるわけではない。それゆえに、見返りなく、好きだから学ぶという動機が浮上してきます。
武士だけでなく、実に広い階層が趣味として学ぶ。
そんな独特で高度な社会が生み出されました。
たとえば浮世絵を見てみましょう。
源内の時代ともなってくると、題材が『三国志演義』や『水滸伝』のものが生まれてきます。庶民でも漢籍を読みこなしたからこそ、そんな題材も売れる。
幕末にはなんと、ナポレオン伝記普及版みたいなものまで読まれていたのだから、驚かされます。
幕末ナポレオンブーム!『那波列翁伝初編』を耽読した西郷や松陰
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こうした日本らしい近代への突入は、強調したいところ。今回でてきたロシアとは対称性があります。
ロシアは、敢えて農奴から学問を取り上げました。
貴族階級はフランス語で読み書きをする。農奴はむしろ学べないようにする。
そのため、ロシア革命までの助走期間で、革命家たちはまず教養を身につけさせねばならなかった。大変長い道のりです。
第二次世界大戦末期、ソ連の侵攻により、満洲や樺太から日本人が連行されていきました。
そのとき、ソ連兵が人数を数えても、何度も何度もやり直すことがある。そこで日本人が工夫して5人組を作って並んで解決したという話があります。
日本人捕虜があまりに物知りだと驚いたソ連兵が「こいつはきっとスパイだ!」と誤解した悲劇も起こりました。
教育とは、世の中を変える力になる。燃料になる。
そこを危険視したロシアと、徹底できなかった日本の差があります。
帝政ロシア・ロマノフ朝が滅亡しロシア革命が起きるまで
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日本も蘭学は禁じようとするものの、その穴は埋められなかった。
平賀源内たちが開けた穴が、幕末から明治へと繋がってゆきます。
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文:武者震之助
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考・TOP画像】
ドラマ『大奥』/公式サイト(→link)