ゴールデンカムイ 明治・大正・昭和

危険なヒグマと歴史的にどう付き合ってきた? アイヌの知恵と開拓民の対処法

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ヒグマの歴史
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ヒグマと人の不幸な誤解とは?

ツキノワグマにせよ、ヒグマにせよ、熊は猛獣であり、恐ろしいことは確か。

しかし、それは熊からすれば同じことで、熊にしても人との遭遇は危険で恐ろしいものです。

大声で叫ぶし、恐ろしい武器を持っているし、知恵が回る。クマにとって人は危険極まりない存在であり、できることならば遭遇を避けたい状況は同じです。

ヒグマは用心深く、臆病です。遠くから人の声を聞くだけで、危険を察知し、隠れてしまうのが大半。

しかし、ヒグマにも個体差や事情があります。

そしてその体格ゆえに、ひとたび人と戦う気持ちに火がつけば、極めて危険であり、不幸な結果をもたらしかねません。

◆若いオスは遊び好きで冒険を求める

人でも、まだ若い青少年男性となれば、スリルを求めて冒険しがちです。勇気を見せたい――そうして無謀なこともします。

これはヒグマも同じ。小熊がレスリングや相撲をしてじゃれあう姿は、しばしば観察されております。

もちろん熊同士であれば無害ですが、人間と出会った際に、まだヒグマとしての経験が浅く、度胸があればこうなりかねません。

「オッス! なんかおめえ面白そうだな、俺と遊ぶか?」

「なんで走んだ? おいかけっこだな! かくれんぼか? そうか!」

好奇心が旺盛であるため、ヒグマと人の遊びというおそろしい状況に突入しかねないのです。

相手にとっては遊ぶつもりでも、人相手では恐ろしい結果が待ち受けています。

◆母は子を守る

生物としての闘争心と義務感が発揮される局面。それは我が子を守る親としての気持ちがそうでしょう。

おそろしい人間と遭遇してしまった際、子連れのメスは警戒心を強めます。

「危険が迫っている! よし、私が赤ん坊を守らなくちゃ!」

我が子を守るために勇気を振り絞る。感動的ではあります。

ただ、それがヒグマであり、こちらが人間となると、危険なのは言うまでもないでしょう。

大正4年(1915年)の「三毛別羆事件」は、成人女性の被害者が多いため、ヒグマが成人女性の味を好んだとする解釈もあります。

ただ、それが果たして事実であるかどうかは考える必要があります。当時、事件現場には成人男性が少なく、女性が我が子を守るためにヒグマと立ち向かわねばならなかったのです。

人もヒグマも、我が子のために母が死闘に突入する点は一致するのです。

◆グルメのためには手間暇を惜しまない

この点、人がヒグマのことをどうこう言えるわけでもない。

おいしいラーメンのために隣町までわざわざ行くとか。グルメを求めて北海道旅行をするとか。生きるということは、そういう探究がありますよね。

ヒグマにとって最高の珍味とは、甘く、カロリーが豊富で、香りがよい人間の食べ物です。

人が自分たちの食べ物やゴミを放棄すると、ヒグマはそれを食べ、グルメに目覚めます。

「なんかあいつら、この前、うまいもん残してったんだよな」

「なんだかんだであいつら、足遅いし、びびるし。脅したらあれを落としていくんじゃないか?」

そしてここから先が問題です。

ツキノワグマであれば、狙いは人間の残してゆく残飯や、育てている農作物で止まります。

しかし、ヒグマは肉食性です。

「あいつらの住んでいる所にでかくて、逃げない肉の塊(つまりは家畜)がいるんだよな!」

「それに、あいつらそのものも食べられるからな……」

閉じ込められている家畜。鎖に繋がれているペット。

そしてヒトそのものを食べてしまったヒグマは、積極的に肉を食べることを覚えてしまいかねません。

◆パニックに陥ると危険です

繰り返しますが、ヒグマは臆病です。

「ギャッ! やめて、近寄らないで!」

こうなると、相手が近づいて来ないように威嚇したくなるのはヒグマも同じ。結果、腕を振り回されて、人に当たったら?

万が一、北海道でヒグマに出会ってしまい、威嚇して追い払おうにも距離が短い場合は、木や岩に登り、ゆっくりと腕を振って、穏やかに話しかけて人間であるとアピールする。

「なんだ、怖くないんだ。じゃあね」

結果、そう立ち去ってもらえば、お互い幸せなのです。

 


ヒグマ相手にしてはいけないこと

ヒグマの気持ちや習性を考慮して行動しないと、不幸にもおそろしい結果が待ち受けています。

北海道開拓史には、苦い失敗と教訓があふれています。

和人にとっては開拓でも、ヒグマにとっては居住地に見知らぬ生き物がやって来る危機。ゆえに、不幸極まりない事件が発生してきたのです。

「そりゃ当時は知識が足りないから事件もあったよね」

今なら大丈夫……とは言い切れないでしょう。

ヒグマに対する歴史がある道民ですら犠牲になった事件はあります。

通学路でランドセルやカバンを残し、消えてしまった女の子。兄を待つわずかな間に、ヒグマに襲われてしまった――。

三毛別ヒグマ事件復元地(10/31以降は冬季閉鎖で5月上旬に再開)

こうした惨劇については道民以外の方も頭に入れておくべきではないでしょうか。実際、その習性を知らないだけに、惨劇に繋がった例もあります。

では、具体的な対策とは?

いくつか見ていきましょう。

◆死んだフリをしても意味がなく危険

ゴールデンカムイ』1巻では、ヒグマが食い残しを土饅頭に埋めた死体が発見されます。

人間の死体は、ヒグマにとって食料です。

死んだフリをしても全く意味がないどころか、危険なだけ。

もしも相手が襲ってきたら、首の後ろと頭部を守り、うつぶせになるのがよいとされます。

バックパックが防御に役立ちます。

仰向けにしようとされても、なるべくうつぶせになって、腹部を露出しないように。

◆走って逃げない

走って逃げても、ヒグマは人間よりもずっと素早く走行できるため意味がありません。

むしろヒグマの好奇心をかき立て、刺激し、反射的に追わせてしまうので危険です。

『ゴールデンカムイ』でも、“時速60キロのトラックと並走し続けた”目撃談について言及されています。

マウンテンバイク等で遭遇しても、逃げ切れるかどうかは保証できない速度です。

◆ヒグマが狙っている食料は即座に置き去りに

リュックや荷物を置き去りにして逃げる――登山等では抵抗感があるとは思います。

しかし、食べ物を持ち歩いているとヒグマを刺激することになりかねません。

『ゴールデンカムイ』でも、杉元が刺青人皮をのついた死体を運ぼうとし、アシリパが止めています。

ヒグマは一度目をつけた獲物に執着します。

彼らにとっての食料は、なるべく早く手放し、与えてしまうほうが安全です。

リュックの食物を狙ったヒグマの習性を知らなかったために起こった惨劇として、昭和45年(1970年)「福岡大学ワンダーフォーゲル部ヒグマ事件」があります。

wikiにも詳細な記録がありますね。

◆福岡大学ワンダーフォーゲル部ヒグマ事件(wikipedia

ただし、三毛別羆事件と同様に凄まじく恐ろしい内容ですので、調べる際は覚悟を決めて自己責任でお願いします。

◆ゴミは持ち帰りましょう

食べ物を放棄するのはあくまで逃走状態になった場合のことです。

そうでもない時は、食べ物の味を覚えさせないためにも、ゴミは捨てないようにしましょう。


◆餌付けは絶対に禁止

ヒグマの餌付けをする人はいないと思います。

けれども、他の野生動物にも絶対にしてはなりません。

・自力で餌を取れなくなる

・調味料や刺激物が有害

・感染症を広げる一因になる

・生態系を乱す

観光客による一時の楽しみの結果、道民の生活や野生動物の生態系を乱すことにつながりかねないのです。

絶対にやめましょう。

 

北海道を訪れる機会があれば、現地のヒグマ注意喚起にぜひともアクセスしておきましょう。

地域によっては、ヒグマ除け、対策グッズのレンタルもあります。

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