こちらは3ページ目になります。
1ページ目から読む場合は
【辻殿】
をクリックお願いします。
お好きな項目に飛べる目次
お好きな項目に飛べる目次
頼家の横死と混乱
公暁といえば、後の三代将軍・源実朝を暗殺した者としてよく知られています。
そのイメージが強いかもしれませんが、生まれた当時は、頼朝の遺志による結婚で生まれた源氏の血を引く子といえました。
そして、この善哉が生まれた歳、おそるべき事件が起きます。
二代目の鎌倉殿となった頼家のもとで【十三人の合議制】が発足して、まだ1年も経っていない正治2年(1200年)2月、梶原景時が一族と共に滅ぼされてしまったのです。
なぜ梶原景時は御家人仲間に嫌われた?頭脳派武士が迎えた悲痛な最期
続きを見る
頼朝による数多の粛清が終わったかと思えば、その死後は有力御家人たちによって熾烈なパワーゲームが始まる。
梶原一族の滅亡で、ますます存在感を増してゆく比企一族。
彼らには二代目将軍・頼家の寵愛を受ける若狭局(せつ)と、長男・一幡がいました。
頼朝の遺志で結婚した辻殿(つつじ)より、若狭局(せつ)が重視されてもおかしくはありません。
そんな比企にとって最大のライバルは北条一族。
彼らを追い落とす動きが勃発します。
梶原景時を讒言し、滅亡に追い詰めたとされたのが、北条政子の妹である実衣(阿波局)なのですが、その実衣(阿波局)の夫である阿野全成が建仁3年((1203年)、謀反を企てたとして誅殺されるのです。
占いで頼朝に重宝された阿野全成(義経の同母兄)最期は鎌倉の権力闘争に巻き込まれ
続きを見る
義時の妹・阿波局は野心家だった?実朝を将軍にするため景時に仕掛けた陰謀
続きを見る
このとき実衣(阿波局)も捕われそうになりながら、姉の政子に守られました。
北条としては大ピンチ。力を落としてもおかしくない状況です。
そんな状況の最中、源頼家が病に倒れてしまい、次の鎌倉殿に向け、またも陰謀が蠢きます。
三代将軍となるのは、頼家の弟・千幡か、あるいは頼家の長子である一幡か――。
千幡の乳母は北条政子の妹である実衣(阿波局)夫妻で、一幡は比企一族の若狭局(せつ)が母です。
一見、比企一族が有利に見える場面ですが……。
先に動いたのが北条時政でした。
時政の命令により、比企能員が謀殺され、比企一族は、一幡を抱えて屋敷である小御所に立て篭もり、北条義時に攻められます。
義時の妻は比企一族出身の比奈(姫の前)です。
しかし、そんな姻戚関係などなかったように比企の邸に火が付けられ、燃え盛る炎の中、一族は滅びたのでした。
義時がベタ惚れだった姫の前(比奈)北条と比企の争いにより引き裂かれた二人
続きを見る
比企能員はなぜ丸腰で北条に討たれたのか? 頼朝を支えてきた比企一族の惨劇
続きを見る
助命され 出家した母と子
若狭局(せつ)と一幡はこのとき焼死したとされます。
そして建仁4年(元久元年・1204年)7月――父である源頼家は、幽閉されていた伊豆修善寺で惨たらしく暗殺されてしまいました。
源頼家は風呂場で急所を斬られて暗殺?二代将軍も粛清される鎌倉幕府の恐ろしさ
続きを見る
三代目の鎌倉殿には、千幡から元服した源実朝が就任。
頼家の遺児で辻殿(つつじ)を母とする善哉は邪魔者になりそうなところですが、誅殺まではされません。
出家を条件に助命されたのです。
結果、承元4年(1210年)、辻殿(つつじ)は出家を果たし、その翌建暦元年(1211年)、善哉も出家して公暁となりました。
現在辿ることができる、辻殿(つつじ)の生涯はここまで。
その先は公暁の物語となります。
公暁の凶行
建保7年(1219年)1月27日――公暁は叔父にあたる源実朝を暗殺しました。
なぜそんな凶行に走ったのか?
実朝は子が生まれず、四代目の鎌倉殿候補が不在という異常事態が続いていました。
史実の源実朝は男色ゆえに子供ができなかった?鎌倉の源氏が三代で途絶えた理由
続きを見る
実朝には、後鳥羽院の子を迎えて鎌倉殿にする構想があったとされます。
源氏の血を引く公暁にとって、このことはどう映ったか。
母であるつつじ(辻殿)は、我が子の陰鬱な殺意を嗜めたのか。それとも煽ったのか。
黙っているしかなかったのか。知らなかったのか。
いずれにせよ辻殿(つつじ)は重要な人物であるにも関わらず、ふっと歴史の中に消えてしまったかのように思える。
妙な存在だったりします。
あわせて読みたい関連記事
なぜ公暁は叔父の実朝を暗殺したのか?背景には義時の陰謀があった?
続きを見る
源頼家は風呂場で急所を斬られて暗殺?二代将軍も粛清される鎌倉幕府の恐ろしさ
続きを見る
義時がベタ惚れだった姫の前(比奈)北条と比企の争いにより引き裂かれた二人
続きを見る
比企能員はなぜ丸腰で北条に討たれたのか? 頼朝を支えてきた比企一族の惨劇
続きを見る
占いで頼朝に重宝された阿野全成(義経の同母兄)最期は鎌倉の権力闘争に巻き込まれ
続きを見る
義時の妹・阿波局は野心家だった?実朝を将軍にするため景時に仕掛けた陰謀
続きを見る
文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考文献】
坂井孝一『源氏将軍断絶: なぜ頼朝の血は三代で途絶えたか』(→amazon)
野口実『武家の棟梁源氏はなぜ滅んだのか』(→amazon)
他