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聖オリガ/Wikipediaより引用

ロシア 週刊武春

キエフ大公妃・聖オリガは復讐の女神 スマイル浮かべて、生き埋め、斬殺、炎風呂

更新日:

プロポーズの瞬間は、女性にとって最も幸せな時間――。
と思われておりますが、正直、状況次第でしょう。

彼女の場合、プロポーズされた瞬間絶対にこう思ったはず。

「こいつら、絶対ぶっ殺す!」

だって相手は、
「おたくの旦那さん、俺が暗殺しました。つまりあなたは未亡人でフリーですから、俺たちのボスと再婚しませんか」
というものだったのです。

キエフ大公妃・聖オリガ――。

聖人でありながら復讐の女神になった。
北の大地に仇の血を流した。
絶対に喧嘩したくない歴史上の人物。

しつこいようですが、キリスト教的には「聖人」である聖オリガの生涯を振り返ってみましょう。

 

ウクライナにあったキエフ大公国

ウクライナ首都・キエフ。
この地に9世紀後半から13世紀前半にかけて、キエフ大公国という国がありました。

オリガの孫にあたるウラジーミル1世の記事でも地図を掲載したので、覚えている方もおられるでしょうか。

【関連記事】ウラジミル1世

オリガはプスコフという町に生まれ、903年前後にキエフ大公イーゴリ1世の妃となりました。

村娘でありながらその美しさを見そめられたという説もあれば、貴族の娘という説もあります。

いずれにせよ少女時代はハッキリしません。
結婚生活もまた不明です。

彼女の名が歴史に刻まれるのは、夫の死後、945年以降のことでした。

 

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ヒャッハー系キエフ大公イーゴリ1世

オリガの夫イーゴリ1世は、割とイケイケ……と言いますか、ヒャッハー系のキエフ大公でした。

944年、はるばるビザンツ帝国まで遠征するも、「ギリシアの火」(原始的な火炎放射器)相手に苦戦し、撤退。
むしゃくしゃしたイーゴリ1世は、ドレヴリャーネ族の集落に立ち寄ります。

当時のキエフには、イーゴリ1世の父の代から年貢を納める取り決めがありました。

しかしドレヴリャーネ族は、943年から支払いを拒否しておりまして。
敗戦でイライラしていたイーゴリ1世は、手ぶらで帰国するのもむしゃくしゃしていたのか、ドレヴリャーネ族の集落へ立ち寄ります。

こうした取り立ては巡回徴貢(ポリュージエ)と呼ばれていました。

年貢取り立てにやって来たイーゴリ1世/wikipediaより引用

「オラオラ、年貢をとっとと納めろ!」

オラつくイーゴリ1世は「支払いが遅れたからには倍払えや」と、ドレヴリャーネ族の長であるマルに要求します。

「わかりました。残金を確認するので少々お待ちを」
マルはそう言うと、側近にこう漏らします。

「羊の群れに狼が入れば、狼は殺されるまで羊を食い尽くすだろう……」

マルと配下の者は準備を整えました。
そしてイーゴリ1世の元に兵士を送り込むと護衛たちを殺害したのです。

イーゴリ1世は生け捕りにされました。
そして木に縛り付けられ、真っ二つ。
マルは、さてこれからどうしたものか、と考えます。

「ここまでやったんだ。どうせならとことんやってやろう」

キエフに残されている未亡人オリガを娶って、2人の幼い息子を殺せば、キエフは己のものになるはず。

まったくもってワケわかりませんが、思うが早いがマルは早速、オリガに求婚しました。

 

「あんたの旦那殺しました」からのプロポーズ

夫の帰りを待っていたオリガの元に、夫が殺されたという最悪の知らせが届きます。

ほぼ同時に、城の門前にマルが送り込んだ20名ほどのドレヴリャーネ族使節団が来ていました。
彼らは堂々とイーゴリ1世暗殺を認めた挙げ句、こう言ったのです。

「ハッキリ言いますけど、おたくの旦那さんは殺されて当然のクズでしたね」
「狼みたいに貪欲で、狡猾で、強欲で。死んでよかったと皆思っています」

さらにぬけぬけとこう言ったのです。

「まぁ、終わってしまったもんは仕方ないでしょう。悲しい過去のことは水に流して。うちのマル公は寛大な御方です。貴女との結婚を熱望しておられます」

使節団は舐めきっていました。
夫の死で動転して、オリガはろくな判断もできないだろうとたかをくくっていたのです。
幼子を抱えた未亡人なんて、怒っても怖くはないだろう、と。

これは最悪の判断でした。
彼らはヒグマに素手で挑むよりも危険なゲームを始めたことに、まだ気づいていません……。

激しい怒りをぐっとこらえて、オリガはこう応じました。

「ありがたいお申し出ですわ。マル公との結婚は願ってもないことです。それに夫が生き返らないのは確かですもの」

でも、とオリガは続けます。
「あまりに急なお話で、心の準備ができませんの。明日改めていらしてくだされば、お返事できると思いますわ」

使節団はうまくいったと大喜びで、深々とお辞儀をして出て行きました。

「チョロいもんでしたな」
「女っちゅうのはね、やっぱりね、男がいないと心細いのよ」
「マル公も喜ぶでしょうなあ」

なんて言い合いながら、上機嫌で帰って行きます。
一方のオリガは、困惑した様子の家臣を前にして、冷たい声で命じました。

「城の周りに穴を掘れ。深い穴だ」

喧嘩を売ってはいけない女・オリガ/wikipediaより引用

 

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オリガのおもてなしその1「キエフへようこそ♥」

翌朝、使節団はよい返事を求めて、オリガの城までやって来ました。

しかし返事はありません。
それどころかオリガは家臣にこう命じたのです。

「奴らを引きずり出し、穴の中に叩き込め!」
使節団はできたばかりの深い穴に叩き込まれました。

オリガは穴の淵に立つと、こう尋ねました。
「キエフにようこそ! 訪問をお楽しみですか」

使節団は叫び返します。
「なんということを! イーゴリがやられたより酷いぞ!」
「助けてくれえーッ!」

しかしオリガは助命嘆願を無視します。そして護衛兵たちにこう命じます。
「奴らを埋めて、黙らせろ」

かくして20人の使節団は、生きたまま埋められてしまったのです。

生き埋めになる使節団/wikipediaより引用

 

オリガのおもてなしその2「熱いお風呂で疲れを癒してね♥」

使節団が生きたまま埋められている頃。仕事のできる女オリガは休みません。
「マルに使者を送るぞ」

オリガの伝言はこうでした。

「求婚の件、とても嬉しく思いますわ。
すぐに素敵なマル様にお目にかかりたい♥
確かに今回の使節団は立派な方々ですけれども、私の身分を考えますと、ちょっと不釣り合いではないかしら。
もっと重要な人物を、敬意をこめて送ってください。
あなたのオリガより」

この彼女の伝言を受け取ったマルは大喜び。
「オリガちゃん、かわいいことを言うのう。よし、ここはドレヴリャーネ族でも有力な貴族を送らねばな」

マルに命じられ、貴族たちは着飾ってオリガの城へと向かいました。
オリガは笑顔で彼らを出迎えます。

「ようこそお越し下さいました。遠路はるばるお疲れでしょう。お風呂を用意しましたので、ごゆっくりおくつろぎください」

貴族たちはオリガのあたたかいおもてなしの心に感動しました。

「気の利く方だなあ」
貴族たちが浴室のある建物に入ると……その背後で扉が固く閉じられました。
そして……。

オリガの熱い風呂/wikipediaより引用

浴室は炎に包まれました。
「今日の宴のメインディッシュは、ドレヴリャーネ野郎どものローストだ……」

オリガは家臣に命じて、浴室に火を放ったのです。

 

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オリガのおもてなしその3「蜂蜜酒で乾杯♥」

浴室で生きたまま焼かれるドレヴリャーネ貴族の悲鳴をBGMとして聞きながら、オリガは再びマル使者を送ることにしました。

マルはオリガから、なんとも健気な知らせを受けるのです。

「なになに……結婚が待ちきれないから今そちらに向かっていると。結婚の前に夫の墓前で彼を偲んだあと、我々と弔いの宴会をしたいと。いやあ〜、かわいいことを言うもんだねえ」

鼻の下を伸ばしたマルは、早速オリガを迎えにゆきます。
ドレヴリャーネとキエフの人々は合流し、イーゴリ1世の墓参りをしました。

夫の遺体と対面するオリガ/wikipediaより引用

葬儀が終わると、宴会となります。

宴会場には数百人もの人々がいました。
オリガは女主人として、蜂蜜酒(ミード)を一人一人に注いで回ります。

「お妃様は優しくて、気が利くいい人だねえ」

ドレヴリャーネの人々は、疑うことなく蜂蜜種を飲み干します。
しかしキエフの人々は、誰一人として酒に口を付けていませんでした。

数時間後、マル以下ドレヴリャーネの人々は皆意識を失い、寝込んでいました。

「殺れ。ドレヴリャーネどものはらわたの色を確かめてやるのだ」

オリガが命じると、キエフの人々はドレヴリャーネ族を一人残らず斬殺したのでした。

 

オリガの総仕上げ「私に小鳥をくださいな♥」

マル以下有力貴族に倍返しどころではない復讐を果たしたオリガ。
しかし、彼女の心はまだ満たされません。

殺戮の宴から立ち去ると、オリガは素早くキエフに引き返しました。
そして軍隊を率いて、ドレヴリャーネ族の集落・イスコロステニに進軍したのです。

「オ、オ、オ、オリガが来たぞーッ!」

血に飢えたオリガの姿を見て、ドレヴリャーネの人々はすっかりパニックに。
代表団をオリガの元に送り込みました。

「どうかお慈悲を! 金ならばいくらでも、言われるままに支払います!」
オリガは優しい声音でこう言いました。

「あらまあ、私は亡夫とは違いますわ。あなたたちから莫大なお金を取ろうなんて考えていませんのよ。私の望みはささやかなもの。あなたたちの家に巣を作っているハトと雀をちょうだいな。それで私は満足します」

小鳥を欲しがるなんてそんなに悪い人じゃないんだなあ、よかった……と代表団はホッとしました。
安堵した顔の代表団が帰ると、オリガの顔には冷たい笑みが浮かびました。

「本当に残念だわ……悪いけど、あなたたち、ここでオシマイなのよ」

オリガは恐ろしい策を兵士に伝授しました。
小鳥たちの羽根に小さな布片をつけ、そこに火をつけて放せと命じたのです。

「さあ兵士たち、可愛い小鳥に火をつけて放ちなさい!」

元の巣を目指して飛び立つ鳩たち。
不思議な光が集落の木造家屋に飛来しました。

住民たちは空から降る火に驚愕するばかり!
あっという間に、集落は猛火に包まれます。

集落の人々は門に押し寄せ、命だけはと慈悲を乞いました。

しかしそんなものは今更あるわけもなく……オリガは生き残りを全員捕らえると奴隷として売り払ったのです。

オリガの復讐/wikipediaより引用

仇の町を滅ぼし、部族をまるごと消滅させ――やっとオリガの気はおさまりました。

小鳥を飛ばした話は伝説で、火矢をしこたまぶち込んだだけという説もありますが、ともかく集落を焼き払ったことは確かです。

 

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そして聖オリガになった

本人の名誉のために申しておきますと、オリガは恐ろしい復讐心だけの女性ではありません。

幼い息子が成人するまで、摂政として国を立派に統治。
彼女は夫の死に怒り、その復讐をしたものの、その統治でよいとは考えていませんでした。

領内を安定させるため、強引な年貢の取り立てをやめ、税制改革に取り組んだのです。

オリガは、殺伐とした領民の心に安寧をもたらすために、キリスト教を広めたいとも考えました。

息子すら反対する中で、コンスタンティノープルに向かい、洗礼を受けます。
聖書やイコンもキエフに持ち帰り、神の教えを広めようとしたのです。

しかし教えは広まらぬままでした。
オリガは心を痛めつつ、969年に世を去ります。

死後、彼女は祖国にキリスト教を広めた第一人者であるとされました。
そして、その功績によって、教会により聖人とされます。

「聖オリガ」とも称され、正教会では「亜使徒(使徒に次ぐ者)」としました。

オリガの願いは、孫のウラジーミル1世によって叶えられました。
彼も洗礼を受け、キエフをキリスト教の国に変えたのです。

キエフは美しく洗練された国となり、オリガとウラジーミル1世の祖母と孫は、キエフを代表する偉人として讃えられることになります。

生きたまま敵を焼いたり、集落を焼き滅ぼしたり、ロシアンマフィアの女幹部も驚くような女性・オリガ。
彼女こそ、絶対に喧嘩を売ってはいけない聖人なのです。

聖人として描かれる彼女は美しく、優しそうで、まったくそんな風には見えないのですけれども……。

聖オリガゆえに肖像画では十字架を掲げています/wikipediaより引用




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文:小檜山青

【参考文献】
図説 蛮族の歴史 ~世界史を変えた侵略者たち』トマス・クローウェル

 



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