ドイツ 週刊武春 WWⅡ

ヒトラーに歯向かい死んだドイツの若者【白バラ抵抗運動】の壮絶覚悟

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その死から70年以上が過ぎても、今なお何かと話題にのぼるヒトラー。

中には、歴史に断罪されてしまったけれども、本当は寛大であったとか、むしろ現在を生きる私たちの味方になるような考え方であったとか、そんな声すら聞こえるときがあります。
なにゆえ、そんな恐ろしい考えに至るのか。

いくら手を変え品を変え、肯定する理由を持ってこられても、私には全く理解ができません。

ユダヤ人やマイノリティに対する迫害は云うまでもないことです。
ヒトラーの政権下では個人の自由すら圧迫され、趣味や娯楽、自由な言動すら制限されていたことを、思い出さなくてはいけないでしょう。

優しさなんてトンデモナイ。
寛大さからは最も遠い人物であり、当時のナチ支持者だったドイツ国民に対して、怒りの感情を抱く方もおられるかもしれません。

しかしドイツ国内にも、ヒトラーに反抗する者はおりました。

「ヒトラーの思想のもとで生きるなんて最低! 全然楽しくないよ」
「これって何かおかしいだろ。好きな歌も口ずさめない」
「私はもう親友と遊ぶこともできない。彼女はユダヤ人だから」

彼らは果敢に立ち上がり、抵抗を続け、その勇気は現在も称えられています。

白いバラ(白バラ抵抗運動)」です。

 

ショル一家の幻滅

1935年、ドイツ南部のウルムに暮らすハンス・ショルは、ワクワクした気分で17才の誕生日を迎えていました。

ハンスは六人兄弟の長男。一人の姉と弟、三人の妹(うち一人は夭折)がいます。
明るくハンサムで、いきいきとしたハンスは皆に慕われるリーダー気質で、ナチスの青少年組織「ヒトラーユーゲント」加入後は、めきめきと頭角を表しました。そしてその気質を認められ、ヒトラーユーゲントのウルム代表に選ばれたのでした。
ニュルンベルクで開催されるナチス党大会に参加する権利を得たのです。

「ハンスってば本当に素敵よね」
「党大会に参加できるなんて凄いわ」

周囲からそう褒められ、意気揚々とナチスの旗で飾られた列車に乗り込み、党大会へ向かうはんす。
そんな我が子の背中を、父のローベルトは苦々しい思いで見つめていました。

ローベルトはかつてフォルヒテンベルク市長もつとめたことのある人物です。彼はヒトラーのやり方に反発を覚えていました。

「ヒトラーは嘘つきで残忍だ。いつか私たちドイツ国民を地獄に落とすに違いない」

ローベルトはそう語り、ハンスら我が子がヒトラーユーゲントやドイツ女子同盟(BDM)に加入することに反対していました。
しかし息子も娘もそんな父に反発します。

「父さん、どうしてそんなことを言うんだい? 落ちぶれていたドイツを立て直し、強い国にしているのはナチスだよ。ぼくは愛国心をもって彼らに賛同したい」

ハンスやショル家の子供たちに限らず、当時のドイツの少年少女たちはほぼ全員が強い情熱を抱き、ナチスに忠誠を誓っていました。ローベルトは我が子の行動を止めることはできませんでした。
しかし……。

大会後、ハンスは出発前とはうってかわった様子で帰宅します。

「父さんが正しかったんだ……党大会は何もかもおかしかった」

ハンスはうんざりした様子で、一週間にわたる党大会での経験を語り始めました。

 

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「ヒトラーとナチスを讃美させられ、ぼくはもうウンザリだ!」

党大会では知らない人たちと知り合い、楽しくいろいろと学んで経験できるはずだ。
ハンスはそう期待し、胸をふくらませていました。

しかし、それは大きな間違いだとすぐわかります。

読んでいる本をチェックされ、ユダヤ人著者のものだとわかると没収。
外国民謡を皆で歌っていたら怒られ、退屈なナチスの歌にしろと言われる。
オリジナルの団旗を作ったら取り上げられ、ナチス以外のものは駄目だと言われる。
誰かと交流するどころか、自由行動すらできませんでした。

息詰まるような規律にがんじがらめにされて、ハンスの生き生きとした心は疲れ果てました。
「ずっとヒトラーとナチスを讃美させられて、ぼくはもうウンザリだ。まともな会話すらできないんだよ」

ハンスの愚痴をじっと聞く、両親と姉弟たち。
彼らも、当たり前だった日常が段々オカしくなっていくのを感じていました。

幼い頃から遊んでいた友達が、ユダヤ人という理由で引き離されてしまい、愛読していたハイネがユダヤ人だからと詩集を読むことすらできない。
大好きだった学校の先生も突然消息を立ち、強制収容所に送られたと噂が流れてきました。

ショル一家は、豊かな自然の中で生き生きと暮らしていました。
美しい祖国に誇りを持って生きてきました。
しかし今やこの美しい祖国は、暴力的で異常な国へと変わりつつあったのです。

 

誠実なドイツ人がいた 反抗するドイツ人がいた

自然豊かなドイツの南部でノビノビと育ったショル家の子供たち。彼らの青春に、ナチスが暗い影を落とします。

反ナチス的な言動による逮捕拘禁。
学業を阻む勤労奉仕。
それでも彼らは自分の信じる道を歩む勇気を持っていました。

1942年、ハンスにとっては三歳下の妹であり、ショル家の三女であるゾフィーはミュンヘン大学に進学します。
当時のドイツの大学では、女子学生の割合を10パーセントに抑えると決めていました。

「女性の居場所とは大学ではなく、家庭であり、よき夫の隣だ。女性とは肉体を学業ではなく、健康な子供を産むために使うべきである。よき夫を見つけるため、魅力的になることだ」
ナチスの考えはこのようなものでした。

「ナチスはがんばる女性の支援に積極的でした」と讃美する人が今でもいるようですが、ナチスが支援する「がんばる女性」とは極めて限定的であったことは考慮すべきでしょう。

ミュンヘン大学には、ショル兄弟以外にも志を同じくする青年たちがいました。

「黄色い星をつけた可哀相なユダヤ人たち。彼らはどんな酷い目に遭っているのだろう? ぼくはこんなことには耐えられない」
「フランスの戦線は酷い有様だ。ヒトラーが勝ち続けるなんてありえない」
ハンスには、暗い顔をしてそう囁く友人がおりました。

戦後、「ユダヤ人が強制収容所でどんな目に遭っているかなんて、知らなかった」と主張するドイツ人が大勢いました。
それは確かにその通りでしょう、ヒトラーやナチスは自分たちが何をしていたか。明かすことはありませんでした。

それでも噂は流れていて、何か酷いことが行われているに違いないと確信している人々もいたのです。
ハンスが出会ったのは、そんな敏感な青年たちでした。

医学部に所属していたハンスと仲間はこう語り合いました。

「ぼくたちは医学を学び、人を救う術を学んでいる。それなのに外では大勢の人が殺されている。この状況を黙って眺めていてよいものだろうか?」
「ぼくたちの考えていることは、ヒトラーとは違う。行動で、そのことを示そう」

誠実なドイツ人がいた。
反抗するドイツ人がいた。

そう歴史に示すため、彼らは立ち上がったのです。

 

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闇に咲いた白いバラ

1942年6月。
ミュンヘンの郵便受けに「白バラのビラ」と書かれたビラが入っていました。

携帯型のタイプライターで打ち込まれ、謄移機(とうしゃき・ガリ版のこと)で擦られたわずか100枚のビラ。ドイツ人に目覚めるよう呼びかけ、自由を求めたそのビラは、思想に賛同しそうな人々にだけ密かに送られたものでした。

ゾフィーもこのビラを手に入れました。彼女は疑念を抱き、兄ハンスに尋ねます。
「このビラの筆者は誰? 私が知っている人ではないの?」
「違うよ、馬鹿なことを言うな。命に関わるぞ」

しかしゾフィーはあきらめません。ハンスはついに、仲間のアレクサンダー・シュモレル(通称アレックス)のものだと認めます。

「私も運動に参加したい」
ゾフィーは強く主張し、ハンスも折れました。

こうしてゾフィーが加わった「白バラ」の仲間たちは、協力者が提供した地下室で、危険に身をさらしながらビラの第二弾を作り始めるのでした。

彼らは白いバラのように純粋で、そして棘のあるビラで、彼らは戦い続けたのです。

ハンスやアレックスらは、その途中でロシア戦線に送られ、ゾフィーも軍需行動で働くことを余儀なくされました。
その間にも、彼らはドイツのあやまち、戦争の惨禍や矛盾を目に焼き付けていました。
彼らの体験は、次のビラに生かされることになるのです。

あるとき、ビラの配達途中であったゾフィーは、父ローベルトの元に向かいました。
自分たちの行動を父に認めて欲しかったのでしょう。
ローベルトはビラを読み感心しました。

「抵抗するドイツ人がいるのは素晴らしいことだ。けれどゾフィー、お前やハンスが関わっていたりはしないだろうね」
「当たり前よ、父さん。これはその……たまたま見つけただけ」

ゾフィーはそうごまかしました。
しかしローベルトは、薄々真相に気づいていたのかもしれません。

 

「白バラ」たちは逮捕されてしまった

1943年2月18日。
ショル兄妹はカバンいっぱいにビラを詰め、足早にミュンヘン大学を目指していました。
第6弾のビラを大学で配布するつもりだったのです。

ミュンヘンで抵抗の機運は高まっていました。

スターリングラードでの大敗により、ドイツ国民の間では不満が爆発寸前。
この一ヶ月前には、大勢の学生たちが抗議デモを行い、ミュンヘンを練り歩きました。

ナチスへの公然とした反抗でした。

二人は大学構内の何カ所かにビラを置きました。
それからゾフィーは残ったビラを手に取り、3階からホールの吹き抜けにバラ撒いたのです。




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「お前たち、そこを動くな! 逮捕する!」
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