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【『べらぼう』感想あらすじレビュー第13回お江戸揺るがす座頭金】
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西の丸で進物盗難騒ぎが起きた
田沼意次が息子の意知や三浦と話していると、田沼意致(おきむね)がやってきました。意次の甥(弟の子)にあたります。
夜半に来るとは異例のこと。座りながら挨拶をする意致の所作が実に美しいですね。
この時代は、日本史上、所作が完成されて実に厳しいと思います。このドラマはきちんとこなしていて眼福です。
ただらなぬ甥の様子に、さしもの意次も心配しています。
なんでも近々公(おおやけ)に知らされる人事があるそうです。
西の丸で進物(贈答品)盗難事件が発生し、その責任を取らされてしまうとのこと。
実際には盗まれておらず、紛れていたとはいえ、目付である田沼意致の管理不足ということになったそうです。
紛失事件くらいで大袈裟な!
そうなるかもしれませんので、補足でも。
江戸時代には歌舞伎の題材にもなった「細川血達磨」という事件があります。
細川家に仕える大川友右衛門という武士が、屋敷が火災になった際、家康からの御家領土を安堵する朱印状を腹を切ってその中にいれ、焼け落ちることから守ったとか。

『蔦模様血染御書』大川友右衛門市川左団次/東京都立図書館
これをそのまま作品にすることは憚られるため、家宝の達磨の絵としたのです。
切腹して守ったから「血達磨」。この大川友右衛門を美談にした演目が作られました。
それが歌舞伎になった際、大川友右衛門には相思相愛の美小姓がいたとされました。この最愛の美少年のために仇討ちを遂げた最中に火災が発生することになったのです。
なぜここまで長々と書いているのか?と言うと、これが通し狂言『染模様恩愛御書 細川の血達磨』として上演され、最愛の美少年小姓を演じたのが片岡愛之助さんだからなのです。
あの美童が、15年後、巻き舌が素晴らしい鱗の旦那になっていると「こりゃ奇跡なんじゃないか、夢じゃないか」と思ってしまうんですね。
片岡愛之助さんの素晴らしさに脱線しました。主の大切なものならば、命を懸けてでも守り抜くのが江戸時代です。それなのに、西の丸で進物盗難騒動とは、由々しき事態ということですな。
とはいえ、これは田沼派を嫌う連中の嫌がらせであることくらい、わかっているのです。
アンチ田沼である家基のお膝元である西の丸ですから、そこは針の筵というわけですな。
田沼の大博打
そこで田沼意次は、一橋治済の一橋家に甥の田沼意致を推挙します。そもそも彼の父であり意次の弟は、元は一橋家に仕えておりました。
治済は「当家の家老に取り立てる」と、太っ腹ぶりを見せつけます。
田沼の者はよう働く。金繰りにも長けておる。そう言われ、意次もすっかり安堵しております。
とはいえ、そこはモンスター治済ですので、微笑む顔も何か脂ぎっていると言いますか、いかにも毎朝生卵を食していそうな生々しさがあるんですね。
おもしろがるように立ち上がり、意次の前にまでわざわざ来て、「相当西の丸に嫌われておるようだ」と語りかける治済。
ただの悪口でなく、次期将軍に嫌われているとなると、将軍の寵愛を頼りにしている田沼派は立ち行かなくなるということです。
「このままでは早晩、田沼は干されてしまうのではないか?」
「仰せの通りにございまする。このままではこの流れは止められませぬ。故に大博打を打ってみようかと考えております」
「ほう、大博打とな」
「はっ」
そう語り合う二人は共犯者のようです。さしもの意次も、ちょっと警戒心が緩んでおりませんか。
事は密なるを以って成り、語は泄(せつ)を以って敗(やぶ)る。そう言われておりますが。
座頭金を暴け
田沼の大博打とは、座頭金の実情を明らかにすることでした。
意知や松本秀持にそう打ち明ける意次。不法な貸付や取り立てをしている者たちを一網打尽にするわけです。
確かに高利貸しの札差を取り締まろうと座頭金に手付かずでは画竜点睛を欠くといえる。しかし、このことを聞かされた側は驚きを隠せません。
意致がここで長谷川平蔵宣以を連れてきます。西の丸で進物番を勤めているそうです。平蔵は父の名により、意次も知っていました。
何故西の丸を出たいのかと尋ねられると、日がな一日人の噂や悪口ばかりで合わないと平蔵はこぼします。
そういえば鱗形屋の偽板捜査の際にもそんなことを言っていましたっけ。
意次に言わせれば、進物番は目立つし役得もある。蔑ろにされてはいないと言います。
しかし、そのせいでやっかみが多いそうで、親の名前だの七光りだの言われてしまうとか。吉原では親の名前を自慢していたものの、勤務先でそれをされると鬱陶しいようです。
さらに小さなミスまでネチネチ言われる。しょうもないいじめに、平蔵は限界に達し、こう返します。
「てめえら、そんなに進物番になりたきゃ、男前に生まれ直してきやがれ」
そうフッと笑ったそうで、以来、ますますいじめが激しくなってしまったのだとか。
進物番は贈り物を恭しく捧げる役目です。
現在、廃止へ向かっている職業として、麗しい女性が表彰台でトロフィーを渡すポディウムガールというものがあります。
それと同じ理屈で容姿端麗であればあるほど有利で、かつ、贈り物のおこぼれにあずかることもあるのでしょう。華のある役目ですな。
ルッキズムというと女性の問題とされがちですが、歴史的に見ていくとそう単純なものでもありません。
『鎌倉殿の13人』の時代ですと、坂東武者随一のイケメンとされる畠山重忠は、美味しい目立つポジションに任命されることが多かったとか。逆にそうでない坂東武者は目立つ場に配置されず、悔しがったそうですよ。

畠山重忠(月岡芳年画『芳年武者无類』)/wikipediaより引用
軍隊の近衛兵や親衛隊も、容姿端麗であることがしばしば採用条件に入ったものでした。
平蔵の男前自慢の話を聞いて、意知も三浦も納得しています。
確かに平蔵はどこからどう見ても、江戸前寿司のようにピチピチした男前でさ。しかも江戸前仕様。キリリとした眉に筋の通った鼻。目力。これは確かに男前でしょう。
平蔵はその男前ぶりで選ばれたことが不満であり、役目のための修練稽古、全てが苦痛なんだとか。
あー、平蔵。おめえさん、やる気を出すと突っ走れるけど、そうでねえと何もしたくねえタイプだね。花の井の心を得るためには、やる気出して暴走してたもんな。
だもんでこの嫌な役目から抜け出したくて、田沼様の力を頼ってきたわけですよ。
意次は平蔵の熱意を汲み取り、難しい役目を授けます。なんと、勤めをこなしつつ、西の丸にいる座頭金に手出ししている連中を探れと。これは相当なキレ者でなければこなせない役でしょう。
平蔵は「頼もしき仲間がおりますゆえ!」と自信満々です。
頼もしき仲間というのは、吉原でもそばにいた仙太と磯八であり、首尾よく江戸市中を探索しておりやす。これも伏線で、町人、しかも遊び人のネットワークを使って火付盗賊改をこなす彼の資質が見えてきます。
仙太と磯八のいた家は、森という武士のものでした。
座頭に迫られ、相談があると付け込まれる森。果たして何でしょうか。
他人の弱みにつけこむことはできない蔦重
蔦重は北尾重政のもとへ来ています。
そこには北尾政演(まさのぶ)という若い弟子がおりました。
なかなか筋が良く、達者な絵を見せてきます。なんでも絵にも女にも手が早いんだとか。
さっそく「褒美に吉原で遊びたい」と言い出す政演。仕草がいちいち愛嬌があって、とても愛くるしいボンボンといったところですね。
誰がいいのか?と問われて、ウキウキワクワク、冒頭で書いていた吉原案内本『娼妃地理記(しょうひちりき)』を取り出して熱く語り出しています。
タイトルもダジャレで笙(しょう)と篳篥(ひちりき)とかけてんのな。

笙(しょう・左)と篳篥(ひちりき)/wikipediaより引用
「もう誰でもいいんじゃねえか?」
そう蔦重がまとめています。
このボンボンは吉原女郎にとっちゃ上客ですぜ。顔はいいし、遊び方は粋だし、身請けできるだけの金はあるし、親に溺愛されているもんだから甘やかされちゃってる。
江戸随一のリア充だからね。
後に山東京伝となるのは一体どれほどのイケメンが演じるのかと思ったら、古川雄大さんです。
しかもいざ動いているところをみたらしっかり江戸前、醤油味に仕上がっていていいじゃねえすか。
重政はズズイと青本ナビ『辞闘戦新根』(ことばたたかいあたらしいのね)を持ち出してきます。
恋川春町作で実におもしろい。さすがの鱗形屋だと蔦重は誉めております。
重政はもっと評判になってもいいのに、鱗の名が入っているだけで避けられちまうと残念がっています。
「いっそ、お前さんが板木を買い取って出し直すなんてなぁ、ねえの?」
蔦重は「いやぁ……」と言葉を濁しながら、市中の本屋さんが申し出ていて俺なんてお呼びじゃねえと返します。
そういう相手の弱目につけこみたくないんでしょう。
しかし、業績からするとそうは思えず、むしろ油揚げをさらった鳶のように思えてしまう。それが蔦重の悲哀さね。
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