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『光る君へ』感想あらすじレビュー第10回「月夜の陰謀」

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『光る君へ』感想あらすじレビュー第10回「月夜の陰謀」
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同じ月の下で

藤原道長は月を眺めています。

すると兼家が、よい月だと声をかけてきます。関白に知らせるだけでは物足りないか?と言われると、道長は否定します。

兼家は、道長に真意を告げます。

もしも失敗したら、道長だけは内裏に行かず、父の策は知らなかったふりをせよ。そして関白に策を告げれば生き残れる。そういう意味なのだと。

道長は唖然とします。その役割は道隆ではないか?と問うと、ここが兼家の妙手でもあります。

成功した際、最も取り分が大きいのは道隆。

失敗した際、そうなるのは道長。

そんな真意を語られ、道長は困惑しています。結局のところ、自分は手駒にされている。それでも道兼や、異母兄の藤原道綱よりはマシでしょう。

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一方、まひろは月の下で琵琶を奏でています。

縫い物をしている“いと”は、どこか憂鬱そうな表情で、まひろが父の帰宅が遅いことを気にしていると、いとは解説します。

なんでも為時は高倉の女の元へゆき、帰ってこないのかもしれない。そんないとの胸に、琵琶の響きが入り込むのだとか。

ここでちょっと補足でも。

かつての日本では、女性を住んでいる場所(ここでは高倉)で呼びます。

いとは縫い物をしています。主人の服を繕うことも、妻や妾の役割であり、為時は別の女のもとへ行き、縫い物だけをやらせている。

いとはかなり悲惨な状況といえます。

兼家は、寧子(藤原道綱母)に同じことをして、彼女が決定的に絶望する契機を作り出しています。

縫い物だけで利用してんじゃないよ!

そういう怒りがフツフツといとには湧いてくるし、実質的に妻ではなくとも「妾」といえる立場なのでしょう。

そんないとは、まひろに何か悲しいことでもあったのか?と尋ねます。

「生きていることは悲しいことばかりよ」

これぞネガティブな彼女らしい言い分でしょうか。

いとはたまらず悩みをぶちまけます。殿は帰ってこない。藤原惟規が婿入りしたら自分の居場所はない。この家に置いて欲しい。

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まひろは快諾し、さらに惟規の婿入りについて行けばよいと言います。

「まことでございますか!」

大喜びのいと。若様についていけるのならば、殿はどうでもいい。高倉にくれてやると言い出します。

結局、生活基盤が大事なのですね。まひろは「くれてやらなくても……」とちょっと引いて、父はいとも大事に思っていると言います。

いとと為時の間には性的な関係はあるとわかります。

それなのに、生々しさよりも、切迫していてロマンチックでないのがこの時代らしいかも。貞操観念もまだ発達しておりませんので。

それにしても、まひろは気になってきました。いとを嫉妬させる高倉の女とは、どういう相手なのか。

 

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まひろは乙丸と共に高倉へ向かいます。

するとそこには病気の女に食事を与えている為時の姿がありました。

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為時はまひろと乙丸に気づくと、素直に謝ります。

長く家をあけているが、身寄りもなく、一人で食事もとれぬ。見捨てられない。まもなく命も終わる。一人で死なせるのは忍びない……と。

まひろは感銘を受け、言ってくださればよかったとホッとしている様子。

父が内裏に行っている間は自分が面倒を見ると提案します。それだけでなく、胸が熱くなった、立派な人だと感銘を受けています。

父は穢れも気にしていない。

当時は腹を刺されたり、頭の骨を砕かれたような人が、穢れになるからとふらふら歩いて去って行くようなことまで記録に残っているほど。

そこまで【穢れ】は重要なのに、為時の愛はそれを超えました。

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娘に褒められ、照れてしまう父。気持ちは嬉しいが、それはできないと断ります。娘の世話になるのは相手にとって気づまりだろうと気遣っているのです。

そこでまひろは、乙丸に着替えを届けさせ、そのときできることがあれば告げて欲しいと言います。

こうして娘は父を見送るのですが、今回のシーンにも『源氏物語』に通じる価値観があります。

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末摘花のようにハズレな相手であろうと、一度関係を持てば見捨てず、生活の面倒は見る。最低限のハードルは超えているのですね。

作者としてそこは譲れなかったのかもしれません。

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和歌に漢詩で返す

百舌彦がまひろの元にきて、青い書状を渡しました。

よほど嬉しかったのでしょう。全力でいとの前を駆け抜け、手紙を開きます。

そして直秀のことを思い出しました。

あの人の心はまだそこに……。

まひろは漢詩で返事を書きます。

それでも道長は、またも和歌で返す。

まひろは漢詩で返す。

そんな道長の和歌から注目してみましょう。

思ふには 忍ぶることぞ 負けにける 色には出でじと 思ひしものを

お前を思う心の強さに、耐え忍ぶ心が負けてしまった。決してその表に見せようなんて思っていなかったのに。

 

死ぬる命 生きもやすると こころみに 玉の緒ばかり 逢はむと言はなむ

好きだ、好きすぎて死にそうだ、そんな私の命を長くするためにも、玉の緒ほどの短い間でも会えないか?

 

命やは なにぞは露の あだものを 逢ふにしかへば 惜しからなくに

命などどうでもいい。露のようにはかなくたよりないものじゃないか。愛するお前と逢える時と取り替えられるならば、命なんて惜しくはない!

筆跡は少し上達していますが、まだまだいまひとつ。

うますぎるとかえっておかしいので、そこはうまく書いています。

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一方、まひろの漢詩は?

『帰去来辞』

田園将蕪胡不帰 田園 将に蕪れなんとす 胡(なん)ぞ帰らざる

既自以心為形役 既に自ら心を以て形の役と為す

奚惆悵而独悲   奚(なん)ぞ惆悵して独り悲しむ

悟已往之不諌   已往の諫めざるを悟り

知来者之可追   来者の追う可(べ)きを知る

実迷途其未遠   実に途(みち)に迷うこと 其れ未だ遠からずして

覚今是而昨非   覚る 今は是にして 昨は非なるを

さあ帰ろう、田園が荒れてしまう。どうして帰らないことがある?

今まで我慢して、心を押さえ込んできたけれど。もう一人悲しんでいられない。

私は間違っていた、過去は取り返せない。

未来を見ていくべきだとわかった。

今までは迷っていた。でもまだ遠くまできてはいない。

わかった。今なのだ。昨日までは間違っていた。

陶淵明の作品です。

陶淵明は『三国志』のあと、中国史でも最難関ともいえる魏晋南北朝時代、東晋から南朝宋の詩人です。

このころは貴族制度の時代。

陶淵明のように身分が低い「寒門」は出世できません。

アホでオシャレばかりしているボンボンのために宮仕えするハメになる。

そんなことやってられるか!

陶淵明はそうしてキッパリ政治を拒否した典型的な人物です。彼の作品には、身分制度やアホなボンボンへの怒りが沸々と激っているようにも思えるんですね。

当時のユニットとしては「竹林の七賢」がいます。

竹林で能天気に過ごしているようで、一歩間違えたら処刑という、ギリギリのデスゲームをしているようなもの。

魏晋南北朝は生きることそのものがギャンブルのような厳しい時代です。

陶淵明は桃源郷という言葉の由来となる『桃花源記』でも知られていますが、そう理想郷を想像して書くしかないほど現実が辛かった。

会田大輔先生の『南北朝時代』がオススメです。

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それにしても、よりにもよってこれですか……これは厳しい。激辛にもほどがある。

なんせ彼女は「今までが間違っていた」と全力で拒んでいますからね。

漢詩でもロマンチックなものはあります。

「閨怨」というジャンルは、夫と離れて寂しい女性の気持ちを歌い上げる定番です。

それが、よりにもよって『帰去来辞』では、パンチが強すぎて言葉になりません。

男性官僚の立場になって、くだらぬ身分制度社会に拒否を突きつけているとも思える。相手は愛を訴えているのに、「くだらんお勤めなんて、やってられん!」と返しているわけです。

ここまで拒まれても、しつこく和歌を送る道長もわからないほどです。

ちなみに『源氏物語』には「漢詩好きな女はウザいよねえ」という場面があるし、『紫式部日記』にも漢字を読めることを隠し通した話があります。

実に凄まじい展開です。

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