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【『光る君へ』感想あらすじレビュー第10回「月夜の陰謀」】
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MVP:まひろ
大河ドラマはじめ時代劇を見ていて、私が面白いと感じる点に「思想」があります。
本作スタッフは韓国や中国の時代劇を意識しているとか。
その要素として、為政者としての資質や思想があります。
韓国の場合、高貴な人々は世の中をより良くするために生まれてきているのだから、それができているのか自問自答することがお約束。
本作の花山天皇の描写は、白居易『長恨歌』が根底にあるようで、圧倒的な純愛があるのです。
ロマンチックだからよいかというとそうではなく、政治的混乱をもたらしているから悪いと。
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為政者としての志を問いかけて突き放しつつ、一生忘れられない相手になるという高度な戦略をまひろは駆使しました。
こんな面倒くさいヒロインがいていいのでしょうか?
すごくロマンチックで好きだけど、これをよくNHKは許したものだと思います。
比較対象として『青天を衝け』の千代を考えてみたい。
実際の千代は儒教倫理が大変強い女性でした。
この夫妻は深い愛情に溺れて大志を忘れてはいけないと考えていたのか、千代は敢えてそっけなくしていたとか。
それをドラマでは「ともかくラブコメにすれば数字が取れる」とでも言わんばかりに甘ったるくしてしまい、侮辱ではないかとすら思えました。
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そして『どうする家康』の瀬名にも注目です。
カルトじみたお粗末な慈愛の国構想のせいで、彼女自身だけでなく嫡男が死に、家康も大変な目に遭い、悪女を払拭するはずが、愚かさまで加えられたかのような設定でした。
それでもやたらと甘ったるくロマンチックな描写をして、これで悪名を晴らしたと製作者が語っていたのだからどうしようもない。
おまけにキーアイテムはニコライ・バーグマン風の花です。
悪しき例だけではなく、革新的なヒロインを挙げるなら『鎌倉殿の13人』の北条政子でしょう。
彼女は改めて凄まじい女性です。
坂東に生まれ、おそらく文字すらまともに読み書きがおぼつかなかったはずなのに、ついには『貞観政要』を読みこなしたとされるほどのジャンプアップを遂げた。
そして民衆を慈しむことを求め出す。よりよい政治をめざした。
赤染衛門の子孫でもある大江広元は、仁を成し遂げる理想の為政者を見出し、感動していたものです。
それほど慈愛溢れる女性なのに、自分の策に溺れてあまりに酷いことをしていた弟を許せず、結果的に相手の命を縮めるという結末を見せます。
『光る君へ』で一条天皇も愛読の『貞観政要』は泰時も家康も参考にした政治指南書
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『麒麟がくる』の駒にも注目したい。
彼女が語る「麒麟」とは儒教思想のことを指します。
「麒麟がくる」とは、「朱子学を広めて日本人の倫理観をあげよう」と解釈できます。
駒が光秀に好意を抱いたのは、そんな倫理を理解できたから。確かにまだ若いうちは、それを恋と混同して光秀に憧れを抱いていました。
戦災孤児である駒は、自分のような境遇の人を減らす政治を求めていました。
足利義昭には、それができるかもしれないと希望を抱かせた。
義昭は信長に対抗して戦をする。そのことを恥じた義昭は、駒の前で己の首を絞めます。
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恋をすればよいのではなく、自分さえ楽ならばよいのではなく、世の中をもっとよくして欲しい――そう求めるヒロインは実に面倒なのです。
まひろは全身に毒を含んだ花のようです。花に触れたら甘い香りがするけれど、毒が染み込んでくる。
道長がこのあと権力を手にした時、その毒が身を蝕む。
まひろの目が「直秀に合わせる顔があるのか?」とじっと見てくる。まひろは縁を捨ててでも、道長という権力を見つめる道を選びました。
自分は男でないから。女であることを生かし、そうするしかない。
そう身を委ねるまひろは、なんという存在なのか。圧巻です。
月は見ている
今回は月が大変印象的でした。
月岡芳年『月百姿』を彷彿とさせます。
花山天皇と藤原道兼を描いた珍しい絵であるため、よく引用されるこの作品は連作。
月が歴史的な場面や、庶民の暮らしぶりを見下ろしているというテーマです。
太田記念美術館で4月3日から5月26日まで展示されますので、ぜひご覧ください。
アジアドラマと比較すると答えが見えてくる
最近嬉しいことがあったので、共有させてください。
『光る君へ』を見た中国の方から「打毱」について聞かれました。
日本ではまだあるのか?と問われたので、保存していると答えると、ものすごく感激されました。中国にはないそうです。
これぞ大河ドラマの意義かもしれない――文化の交流ができて、それを誇りに思えることこそが意義なのだなと。
周明は、直秀のようなことにならないか?と不安な方もおられるかもしれません。
しかし、彼の場合は殺害すると外交問題になりかねませんので、そこは安心して良さそうです。
東洋の時代劇における医者は大変便利な存在です。
貴人のそば近くに行ける。技術を尊重される。天下の行末を見据える目があるとされる。慈愛の心を持つとされる。
『麒麟がくる』の東庵と駒が「ありえない」と叩かれましたが、彼らの職業特性をふまえればそうおかしくもない。
周明はそんな便利な医者枠ですので、期待しましょう!
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さて、まひろと道長の二人が、道長の思い通りになったらどうなっていたか?
あくまで道長の理想ではありますが、世俗から隔絶され、大自然に抱かれて、二人で楽器でも奏でていくことでしょう。
「琴瑟(きんしつ)相和す」と言います。
あまりに現実が辛い!もういっそ隠棲して楽器演奏してゆったり暮らそう!
こういう隠遁を究極の勝利とする思想は、中国史ではおなじみです。
陶淵明も生きた魏晋南北朝は、戦乱、政変、身分制度などなど、憂鬱な状況があまりに多すぎました。
前述の通り、全力で隠棲宣言する文人も多かったものです。
そんな時代をモチーフとしたドラマが『陳情令』、およびアニメ『魔道祖師』です。
あの作品の究極の愛とは、山の上で楽器を演奏し合う二人の姿で表現されます。
しがらみを捨てて、二人きりになって、こうして生きていくなんてこれ以上幸せなことはあるだろうか? そんな姿です。
それまで積み上がった屍も、流された血も消えていくような、そんな愛のかたち。
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中国の視聴者からすれば、道長の願いは「それな!」とすっと入ってくるのではないかと思えます。
陶淵明を敢えて出してきたし、誘導されていくだろうと。
それを拒んででも世を糾せと突きつけてくるまひろは、なんと素晴らしい女性なのかと思われるかもしれない。
文化とは水のようなもので、国で区切ろうとしても流れ出しでゆく。
そういう水の如き魅力が、このドラマにはあると思います。
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【参考】
光る君へ/公式サイト