『西郷どん完全版第壱集Blu-ray』/wikipediaより引用

西郷どん感想あらすじ

『西郷どん』感想あらすじスペシャル編4/1「病巣がハッキリ見えてきた」

本来ならば例年序盤の盛り上がりどころを迎えているはずの、4月です。

『真田丸』では第一次上田合戦、主人公最初の妻の戦死。
『おんな城主 直虎』では、井伊直親の死を乗り越え、直虎が城主として歩き出したところです。

それが今年はこのスペシャル。
懸念については、以下のインタビュー記事でジェームス三木氏が指摘されております。

◆西郷どん特別編放送にJ三木氏が苦言「視聴者シラケる」(→link

脚本家も“視聴者が途切れずに見続けてくれる”という前提で物語を作り込んでいきます。その流れを途切れさせた上に、撮影裏のちょんまげ姿の西郷や斉彬がスタジオを歩く映像を流したりしたら、3か月かけて作ってきた世界観が台無しでしょう。(NEWSポストセブンより引用)

上記、三木氏の懸念通り、実際、番組の中身はこんな感じでした。

・レジェンド政宗のケン・ワタナベが出ているよ
・鈴木亮平さんも頑張っているよ
・アドリブ入れたりしているよ
・ロケも頑張っているよ
・頑張っているから『西郷どん』よろしくね!

いや、ほんと、もうね……。
本編もつまらないのですが、スペシャルはつまらないというか、白々しい。
親切にナレーションが見所を解説してくれますが、ドラマを見ている限りでは、解説のようには全く感じられないという。

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本作を蝕む病巣がハッキリ見えてきました

もちろん鈴木亮平さんと渡辺謙さんの役者としての姿勢などに唸らされる部分は多々ありました。
様々なアドリブ。
会話一つ一つへの気遣い。

特に独眼竜政宗における
【勝新太郎秀吉との対面】
はトラウマになるほど怖いシーンだったことを思い出しました。

しかし、裏を返せばそれだけ。

『西郷どん』という作品そのものへの評価が好転するハズもなく、むしろ
『こんな名俳優たちを無駄遣いしよって……』
とチカラなく笑ってしまいましたよ。

特に脱力してしまったのが
「磯田屋で日本を変える男と出会う!」
でした。
時代考証の先生の名前を付けた、悪ふざけみたいな遊郭で出会っていることに、本作の制作者は何も感じないのでしょうか。

日本の未来が遊郭で決まるなんて恥ずかしい歴史捏造を、明治維新150周年の節目にやるとは。
冗談きついです。

ただ、何の収穫もなかったわけではありません。
本作を蝕む病巣がハッキリ見えてきました。
それは何か。

「忖度」です。

無理矢理、時事ネタにこじつけたわけじゃありません。
ご説明申し上げたいと思います。

 


斉彬の人物像が無茶苦茶なのはナゼか

まず、思い出していただきたいのが、島津斉彬の死生観です。
これがグチャグチャ。

「俺は死ぬのは怖くないと言っていると思ったら、一つしかない命は大事に使えと言い出す斉彬がおかしい」と、先週、ツッコミました。

その一因は、演じる渡辺謙さんがアドリブを入れている結果とわかりました(一つしかない命は大事に使え)。
確かに台詞単体で見ればとても良い言葉なのですが、人物像の混乱につながっているわけです。

たとえ大御所役者のアドリブであろうと、人物像の混乱につながるような台詞はNGを出すべきでしょう。

しかし、本作はそうしていない。

脚本の魅力より、役者のオーラや雰囲気頼りで、書いている側もアヤフヤな理解なのかもしれません。
あるいは、役者に頼り過ぎてNGを出すことすらできない空気なのか。

要するに大御所役者に忖度しているって話です。

私自身もアドリブの面白さに一瞬心を奪われそうになったのですが、それはあくまで人物像を歪めない範囲ですべきものであって、最も大事なのはストーリーと人物像の“芯”だと思います。

まぁ、ほかならぬ渡辺謙さんが本日のインタビューの中で
「西郷があまりにも“命を捨てる捨てる”と言うから、しつこくて、大事にしろと言ってやった」
と堂々おっしゃっていたぐらいですので、誰もそのアドリブには突っ込めなかったのでしょう。

元はと言えば、渡辺謙さんに、しつこいと感じさせた脚本が一番悪いんですけどね。

 


過去大河の模倣をありがたがれという「忖度」

そしてスペシャルを見ていて鼻についたのが、ほかならぬ『独眼竜政宗』。

勝新太郎さん(豊臣秀吉)と渡辺謙さん(伊達政宗)のエピソードに震えそうになったのは前述の通りです。

しかし、です。
それはあくまで『独眼竜政宗』という作品の凄さ。
当時のスタッフの熱量と、役者さんのお話です。

なんだか、今回のスペシャル編では、その虎の威を借りて、
「ホラホラ! あの名作と同じようなコダワリをもって作っているんだよ! 大河ファンなら垂涎もんでしょ!」
と視聴者に言いたげな雰囲気を出していたことが気になりまして。

そもそも『独眼竜政宗』のコダワリを、安易に二番煎じしたところで今の視聴者は知ったこっちゃないんです。

名作の栄光にすがりつくよりも、新たな地平を切り拓く――そういう姿勢が必要ではないですか?

2010年代、ワールドワイドで名作歴史ドラマと評価されている『ゲーム・オブ・スローンズ』に対抗意識を見せていた、『真田丸』の屋敷CPに今更ながらAmazonギフト券を贈りたくなりましたよ。
彼は、過去の栄光を尊重しつつも、アップデートの必要性を理解していました。

それに引き換え、貴重な放映時間を削ってスペシャル編を作り、30年前の大河を持ち出す本作スタッフは、何を考えているのでしょうか。
進歩を捨てて、過去の栄光にすがるしかない、そんな本作に憐憫すら感じてしまいます。

 

幕末大河は失敗作工場と化している

皆さんも疑問を抱いているとは思うのですが、ナゼ最近の倒幕大河は地雷原になりやすいのか?

ぶっちゃけ、この答えも、
「忖度」
じゃないですかね。

愛に満ち溢れた西郷どんだのなんだのって。そんなもん、鮪を材料にビーフカレーを作ると宣言しているようなもんじゃないですか。
組み合わせが根本的に間違っております。

明治維新150周年だ!
ラブ&ピースで維新持ち上げドラマを作ろう!
とか、誰が言い出したのかしら。
はっはっは、幕末はそんな品行方正な時代じゃないですよ。

松下村塾でラブコメだの、西郷隆盛をテーマにして明るくキラキラLOVEに満ちたドラマだの、そんな前提は最初から破綻しているのです。

『花燃ゆ』にせよ『西郷どん』にせよ、後ろ暗いところは目をつぶって、誤魔化すためにおにぎりだの、相撲だのをぶちこんでくる。
西郷どんは、西郷隆盛の持つ陰翳を全部無視して、常時ギンギラギンの照明あてているようなものじゃないですか。

光あるところに影は生まれるものです。

しかし、こういう作品は「全部カーッと明るく! 明るく照らしているうちに幕末動乱終わるような流れにしよう!」ってやるから駄目なんでしょうね。
本当にマトモで、見るに値する維新側大河は、「忖度」をどこかに捨ててこないと制作不可能。
そして、どでかい地雷ができるわけです。

私が幕末大河なんてもうやらなくてもいいと思う最大の理由はソコです。

忖度という毒がある限り、幕末大河は手足を縛られているようなもの。
一度、すべての戒めをといてから作った方がよいのでは?
もう、幕末大河は失敗作工場と化しているのです。

主役が男でも女でも、脚本家が誰であっても、これではマトモな作品なんて無理でしょう。

 


西南戦争までどう描く?

うんざりしながら特番を見ていると、今後の見所とやらが流れてきました。

常にワーギャー叫んでいる単調な演出。
薄っぺらくて綺麗事満載の台詞を大仰に吐く役者のアップ。

まったく期待できない……。

今年、西南戦争まで描けると思いますか?

私は半分諦めました。
西郷どんと篤姫が見つめ合ってラブラブ江戸無血開城――それが最終回かもしれません。

 


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著:武者震之助
絵:小久ヒロ

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【参考】
西郷どん感想あらすじ
NHK西郷どん公式サイト(→link)等

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