青天を衝け感想あらすじ

青天を衝け第27回 感想あらすじレビュー「篤太夫、駿府で励む」

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青天を衝け第27回感想あらすじレビュー
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トシさん死ぬ死ぬ詐欺の効果

渋沢コンビがノイズとなってしまい、客寄せだったトシさん。

先週こう書き、言い過ぎかと思ったら予測通りの反応が見られました。

露骨な視聴率稼ぎの手段として「クリフハンガー」という用語があります。

この手法は、観劇する者に「自由に物語の結末を想像させる」ことが特徴となる。しかし、海外ドラマ(特にアメリカ)の用語としては、やや原義とは異なり、中途半端な終わり方でその続きが気になるようなシーズンエンド(つまり作品全体の大団円ではなく、1シーズンの最終回)での物語の進行を遅延・未解決にする作劇手法を指す。そのため、一般的にアメリカのテレビドラマの場合、「シーズンエンド」と同義語である。

Wikipediaより

典型例が『ゲーム・オブ・スローンズ』シーズン5最終話。

作中屈指の人気キャラクターであるジョン・スノウが刺され、生死不明のまま次シーズンへと持ち越しになったのです。

このクリフハンガーが陳腐化しなかった理由を考えてみますと……。

・圧倒的人気

・ジョンのいないドラマなんて考えられないほど重要

・まだ未回収の伏線がある

・原作にはない展開でもあり、予想ができない

とまぁ、ファンが激論を交わす余地がありました。

では、こちらのクリフハンガーは?

◆町田啓太演じる土方、壮絶激闘予告に「泥と血にまみれても美しい」「来週しっかりと見届けます」の声(→link

「来週しっかり見届けます」……つまりは死ぬとわかっています。史実ですからね。

ゴールデンカムイ』のような土方生存ならば別ですけれども、要するにまとめるとこうです。

・土方は人気だから

・町田啓太さんのファンが熱心に盛り上げているから

本作の土方は、初登場時から数秒しか出番がない細切れ状態でした。

唯一の長い出番は、初対面の栄一に自分語りをするわざとらしい場面のみ。おまけに照明がやたらと暗く、よく見えませんでした。

しかも“ぼっち新選組”状態で、近藤勇と会話する場面すらありません。近藤について語ることすらない。ソロ活動です。

土方でありながら、他の隊士との関係性もわからない。土方らしい戦闘術も用いていない。

断片的な材料で何も判断しようがないというのが、私なりの“判断”です。

作り手が狙っていた、視聴者の反応は、土方の死を目撃し、SNSに書き込み、盛り上がることでしょう。

町田さんの演じる土方は視聴者からの評判がよく、ドラマに登場するたびに「大河ドラマ史上最高の土方歳三」「大河ドラマ史上1番カッコイイ土方歳三ですね」「史上最強の土方歳三」などの声がSNSで殺到しました。

ファン層は「ナンバーワン」であることを強調します。

しかし、具体的にどこがよいのか、他作品との比較といった指摘もなく、根拠は薄弱です。

これで良いのでしょうか。

箱館戦争を描くなら、今後、大河に出るかどうか未知数な、渋沢成一郎を盛り上げるのが本来の展開では?

武士としての生き方を貫こうとしているところは一見の価値ありでしょう。

もちろん、すっかり忘れ去られた永井尚志も気の毒でなりません。

VODはじめネット配信がこれからも発達するであろう時代です。

SNS一瞬の盛り上がりのためテレビをつける習慣は、どんどん薄くなっていくことでしょう。

むしろ古臭い。十年後には消えるような手法で数字を稼ぐ。そうまでしなければならないNHKサイドの事情も気になります。

こんな記事がありました。

◆<山田裕貴>「燃えよ剣」で冷静、冷酷な徳川慶喜「こんな将軍がいたら嫌だなぁ」を体現(→link

『燃えよ剣』に徳川慶喜として登場した山田裕貴さんの感想。これが史実に近い慶喜でしょう。

原作では、土方以下、新選組、会津藩士、幕臣はみな慶喜に絶望していました。

血を流し、忠義を尽くしているのに、将軍様は軍艦逃亡だ。

しかも女連れ! こんな情けないことあるか!

そういう土方の気持ちを想像するとどうなるか。

慶喜本人も、そしてその慶喜に忠義を尽くす甘っちょろい渋沢栄一も、彼とは対極にあると想像がつきます。

いちいち生き延びろだのなんだのヘラヘラ言っている本作の栄一なんて、それこそ『燃えよ剣』の土方とは正反対。

私が興味を持っているのは、どうしてこんな情けない幕末の人物像を、日本人はもてはやすようになったかということ。

『燃えよ剣』がベストセラーだった頃には、そうではなかったでしょうに。

 


論語読みの論語しらず

渋沢栄一といえば『論語と算盤』が有名です。

しかし渋沢大河である本作は儒教道徳に反した描写が頻出し、全くもって信じられません。

いわば「論語読みの論語知らず」。うわっつらだけすくいとって理解していないと。

この点、孔子が待ち望んだ麒麟到来をテーマにした『麒麟がくる』は秀逸でしたが。

そこで『論語』をもとに、本作の問題点をみてゆくこととします。

 


論語でツッコミ1「巧言令色鮮(すくな)し仁」

『論語』学而(がくじ)に

「巧言令色鮮(すくな)し仁――」

という言葉があります。

言葉巧みで、表情をニコニコととりつくろって人に気に入られようとする者には、仁の心が欠けている。

栄一がまさにこれですね。やたらと綺麗なフレーズを並べ、大仰に表情を作ります。

しかし、中身がない。

先週のフランスでの話にせよ、エレベーターがどうこうでなく、サン=シモン主義でも語らせておけば、それなりに格好もついたでしょう。

あれではパリで観光しただけにも見えてしまう。

 

論語でツッコミ2「怪力乱神を語らず」

本作の特徴として、スピリチュアルであるということがあげられます。

出演者のインタビューを読んでいても、『月刊ムー』を彷彿とさせる何かがあるのです。

◆【青天を衝け】ディーン・フジオカ、五代友厚は“恩人” 再登板は「見えない力で導かれた」(→link

真っ向から否定して申し訳ありませんが、この世界には“見えない力”というものはないと主張したい。

『あさが来た』の時点で、指摘されてはいたのです。

グラバーから武器を買い取り売り飛ばした、五代はそんな“死の商人“の一面があり、薩摩閥の政商を過剰に美化するのは何事か?と。

要するに「明治礼賛」の一部であり、その手の推察は私一人が言い出したことでもありません。

何度も指摘しておりますが、ディーンさんのルーツである福島県には、五代が買い取った武器で亡くなった方の慰霊碑があちこちにあります。

彼の先輩である福島出身の俳優といえば西田敏行さん。

彼は『翔ぶが如く』で西郷隆盛を演じるにあたり、福島出身ゆえに葛藤したと語り残しています。俳優ゆえに演じるのが仕事にせよ、そういう葛藤があっただけでも免罪にはなる。

誰かのスピリチュアルな部分をどうこう言う気はありませんし、本人の自由です。

ただ、本作のスピリチュアルは、漢籍教養の欠如を証明することになり、よろしくないように思えます。まさに「論語読みの論語しらず」という言葉通りなのです。

スピリチュアルという外来語ではなく、漢籍由来の言葉だとこうなりますね。

『論語』「述而」(じゅつじ)にある「怪力乱神を語らず――」です。

理屈では説明しきれない、不思議な現象や存在を語ってはなりませんよ。

本作において『論語』の理解すら危ういのは、こんなところで自然と露になっているのです。

ナビゲーターの家康なんてまさに超常現象の類ですし、そもそもが家康の築き上げた社稷(しゃしょく・国家の意)を迂闊なことを繰り返してぶん投げた慶喜は、それこそ儒教道徳でいえば祖先にあわせる顔もない。

いわば劉禅扱いの人物です。

王朝を破壊したダメな子孫をなぜ家康が庇うのか?

理由は推察できるところではありますが、それは別の機会に譲ることにして、とりあえず言いたいのはこれです。

「王朝を破壊した子孫を庇うご先祖の霊(か何か)」という設定時点で、作り手が儒教のことをまるで理解しておらず、ガッカリなのです。

ゆえに、こういう記事もあやしさが増します。

◆ 「資本主義の父」じゃない? 渋沢栄一が現代に問うもの(→link

この記事では、道徳と経済の両立を唱えたとされておりますが、渋沢栄一の『論語』解釈は鵜呑みにはできません。

というのも、言葉は悪いけれども儒教を魔改造したとしか言いようがなく、本場から見たら「どうしてそうなった?」と言われかねないものなのです。

渋沢は、危険な水戸学および幕末の陽明学にどっぷり浸かっています。

まっとうな中国思想研究者からすれば「なんかあかんやろ……どないなっとんねん」と首を捻るような超解釈をしている。

渋沢は中国思想の専門家ではなく、仕方がないかもしれません。

文学者かつ漢籍のエキスパートだった幸田露伴が、渋沢の話を語りたがらなかった理由もなんとなく想像はつく。

ゆえに『論語と算盤』論をふりかざすのは危険が伴います。

漢籍理解について突っ込むと、今年の大河はおかしい。『麒麟がくる』における漢籍理解の高さが素晴らしかっただけに、引っかかることばかりです。

 


論語でツッコミ3「朽木糞牆」

私のレビューについて、今年は厳しいと不平不満を述べられる方もおられます。

八重の桜』を評価しながら今年はなぜ?

そんな指摘については『論語』「公冶長」の「朽木糞牆(きゅうぼくふんしょう)――」と答えさせていただきます。

朽ちた木は彫刻できないし、腐った壁は塗りかえができない。要するに、手の施しようがない。

本作は扱う人物とテーマの時点で問題があり、どうあがいてもまともな歴史劇は作れない。

ゆえに厳しいのは致し方ありません。

『獅子の時代』は渋沢栄一大河だったものを変えたという説もありますが、山田太一氏が渋沢栄一なぞ大河で顕彰するにふさわしくないと思ったのであれば、納得できるところではあります。

彼ははなから腐ったテーマを加工できないと判断したのではないでしょうか。

その理由はSNS投稿や個人ブログでは散々指摘され、僭越ながら私のnoteでも指摘させていただいてました。

ネットニュースでも出てきています。

◆『青天を衝け』では描かれない!?  渋沢栄一韓国侵略の象徴などネガエピソードが続々噴出(→link

要するにドラマで歴史修正が行われ、ネガエピソードについては「噴出」も何も、ちょっと調べたら続々と出てくる基礎的事実です。

大河主人公どころか、新札の顔としても疑問符しかありません。

イギリスではチューリングを新札の顔にします。

コンピューターの生みの親であるとされ、ナチスのエニグマ暗号を破った人物です。

では、同じく対独戦で国を率いたチャーチルはお札の顔にふさわしいか?

イギリス政府は気遣いがありますので、チャーチルを起用することはありえません。

彼がインドに対する差別意識をあらわにしていたからです。

◆ 「ガンディーはぞっとするほど不快」チャーチルの極悪非道な人種差別 なぜ悪党ばかりが権力を手にするか(→link

チューリングの場合、インドへの態度がチャーチルとは異なる。かつ、彼自身が差別をされた被害者側です。

チューリングは当時違法とされた同性愛による差別を受け、自殺した悲運の人物なのです。

これはアメリカで紙幣に登用されるタブマンにも該当しますが、国家による差別被害者を顕彰することで、国家の過ちを償う意味もあるのです。

では日本ではなぜ渋沢栄一を選んだのか?

世論に対する過小評価ではないでしょうか。

韓国が渋沢栄一を批判するとすれば、それは「ネガティブキャンペーン」ではなく歴史の総括です。

まっとうなアメリカ人が『はだしのゲン』のような反原爆ものを「アメリカへのネガティブキャンペーンだ!」などと言うことは、かつてはともかく21世紀ではありえません。

ただ、そうはいってもこんな意見もありましょう。

「なんだかんだで渋沢栄一は日本の発展に貢献した人物だ!」

「ドラマはドラマだから大目に見ようではないか!」

そう言いたいのはわかりますが、渋沢には、日本人が振り返っても眉をひそめたくなるような言動がありました。

関東大震災で民衆に責任転嫁した「天譴論」を主張

譴論とは本来、為政者の悪徳を罰するために天災が起こるとするものですが、渋沢は民衆の行いが悪いと改悪した挙句、大々的に主張しました。

女遊びが強烈すぎる渋沢スキャンダル!大河ドラマで描けなかったもう一つの顔

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・労働者の権利を守る工場法(労働基準法の前身)を10年間にわたり成立阻止

要はブラック労働推奨派ですね。

・長州閥の政治家と蜜月関係を築く

明治の長州閥政治家は金に汚く、汚職三昧で悪名高いものでした。

・ハンセン病患者隔離の一因を作る

・大公害となった足尾銅山開発支援

・愛人と庶子多数で思想的にも男尊女卑が厳しい

当時はそんなものという擁護は厳しいと思います。

少なくとも『八重の桜』の新島襄や山本覚馬など、渋沢と同世代でも女性の権利を守ろうとした人はいました。

・皇国史観の元となる水戸学の強烈な信奉者

韓国のことはさておき、日本人の視点から見ても、顕彰するに値するとはとても思えない渋沢栄一。

ドラマでは経歴ロンダリングをした結果、最も活躍した明治期に入るまでに放送期間の大部分を要し、オリパラがあったにせよ、明治維新が9月まで引っ張られました。

誤魔化しに次ぐ誤魔化しをされたところで、何をどう評価すればよいのか。

私はただただ戸惑うばかりです。

※著者の関連noteはこちらから!(→link


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文:武者震之助(note
絵:小久ヒロ

【参考】
青天を衝け/公式サイト

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