青天を衝け感想あらすじ

青天を衝け第31回 感想あらすじレビュー「栄一、最後の変身」

2021/10/18

父である渋沢市郎右衛門の葬儀やら初七日が終わりました。

葬列だけの描写でしたが、住職の手配や周辺住民とのヤリトリなど、色々なことも見たかった。

経済・商売に強い栄一であればテキパキとこなす、そういうシーンから垣間見えたはずです。

『麒麟がくる』では宗教考証がしっかりしていました。

 


愛人くにが大きなお腹で同居を開始

そんな栄一のもとに、ていの夫として渋沢家を継ぐことになった須永才三郎がやってきました。

栄一は「自分が継がなかった」だのなんだのウダウダ。

この辺り、慶喜と似た君臣だと感じます。

明治になると、天璋院篤姫は宗家・徳川家達の養育に気を配りました。家達も「慶喜が家を潰し、自分が再生した」と口にしていたとか。

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慶喜や栄一の無責任さが表に出ないのは、このドラマが幕末明治の家父長制をないがしろにしているからでしょう。

そして栄一は大蔵省へ戻り……いや、その前に浮気告白タイムだ!

突然すぎて、口ポカーンとなった方も多かったでしょう。

どうせなら開き直って「妻妾同居宣言」をドヤ顔でしてしまった方が良かった気もします。

言い訳はできましょう。大阪で単身赴任で身の回りの世話をする“友人“(渋沢栄一流の“愛人”という意味)が必要だった。それで妊娠しちゃったなら面倒みなくちゃ♪ ということです。

大きなお腹でやってきたくには「一人で産むつもりだった」とかなんとか言いますけれども。

あれでは、まるでくにが誘惑したようなニュアンスにも取れてしまう。

なぜ、手を引っ張っって部屋へ連れ込んだ栄一の責任を最小化するような言い訳になるのでしょう。セコくありませんか?

しかし千代はわきまえた女です。

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このあと彼女から妻妾同居を提案。爽やかに笑顔でそう提案して、あとでため息をついています。

本当に気の毒……生身の人間というよりも、都合のいい女性という概念と言いますか。むしろここで激怒するくらいの方がむしろよいのでは?

おとなしい女性って、日本古来からの伝統でもありません。

「後妻打ち」という、先妻が後妻を襲撃する風習もあったほど。

来年の『鎌倉殿の13人』では、北条政子亀の前襲撃を命じます。それまで楽しみに待ちましょうか。

あっ、渋沢には後妻の兼子もおりますので、そっちが先ですかね。

 


成一郎が戻ってきた

シーンは牢獄へ。

幕臣が釈放されます。

忘れられていた永井尚志もやっと出て……こない!

渋沢成一郎だけですか!

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この成一郎との再会で感動させたいようですが……。

ここで脳内コメントでも。

収監中の榎本武揚に差し入れをしていた福沢諭吉さん

「いや、心配しているのであれば、もっと書物や日用品差し入れくらいするもんでしょ? そういう場面ありましたっけ?」

そんな風に思っていたら、説明セリフでぱぱっと差し入れの本や金子があったとされます。うーむ……。

福沢諭吉さんのコメント

「あのですね、私は榎本さんの好きそうな書物をセレクト差し入れしているんです。相手の好みを踏まえたものを選ぶ。そんな場面を入れるだけでも違うと思いますよ」

栄一は道が違ったと言います。

しかし成一郎は「死ね死ねレター」&「薩長と仲良し」だった栄一にムカついてキレます。気持ちはわかります。

しかも栄一の表情は、相手を痛ましいとは露とも思っておらず、いつもの睨みつけるような顔。いったい何を表現したいのでしょう。

まるで成一郎のほうが主役のような葛藤を抱いていて、栄一が敵役にすら見えてきませんか?

栄一は「なんであんなことした」と言い、彰義隊から箱館戦争までどうせ負けただろバーーーーーーカ!みたいなことを言います。

まんまヤンキー漫画のノリ。栄一って、永井尚志らとも面識あったのに、無茶苦茶冷徹ですよね。

しかもまた「は? 俺知らねえし」みたいな感じの悪い顔を作っている。

本当に思い入れができない性格になってしまった……。

しかし、成一郎も成一郎で、突如、泣きだすんだからワケがわからない。

思っていることを全部説明していると、栄一が「生きてるから文句言えるんじゃね? よかった」とか言い出してハグ。本作って、やはり度し難いです……。

ただでさえ彰義隊は動向が追いにくい。それを追える貴重な機会が渋沢成一郎です。にも関わらず、成一郎は土方の添え物でした。

こうなると「生きていたら文句も言える」という栄一のセリフは、土方や平九郎にも失礼千万でしょう。

もちろん戊辰戦争の死者は彼等だけではない。多くの犠牲者に対して、あまりに失礼ではありませんか。

本作は、渋沢栄一が生き延びたことこそが大事だと言い、同時のその価値観は「死人に口なし」と表裏一体に見えてくる。

史実よりも悪化していて、大河の主人公をどう表現したいのか。

例えば、生き延びた成一郎を励ますとか、生きて幕臣の力を見せることが忠義につながるとか、そういう言葉だってあるでしょう。

明治人の行動原理には、そうした価値観があります。

それが栄一にはない。自分が楽しく生きていけさえいればいい、短絡的な価値観ばかりが前面に出てきてガッカリです。

成一郎の妻・およしもやってきて、いきなりハグ。これまた明治人とは思えません。それを見て笑っている栄一もなんだかなぁ。

そして結局、成一郎もコネで大蔵省へ入るのでした。

 

今日も悪人路線バリバリの大久保

明治政府は岩倉使節団が外遊中。

サラッと流されていますが、もったいない。

この使節団には新札の顔である津田梅子も最年少の女子留学生として参加しています。

女子留学生という斬新なアイデアを出したのは、五代様こと五代友厚と何かと因縁がある黒田清隆です。

もしも津田梅子なり、五代友厚なり、分厚く真面目に描くのであれば、かなり大事なハズ。

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使節団はさておき、留守組をクローズアップですね。

相変わらず風雨が来たら書類が全滅しそうなオープンオフィスで、本作らしい雑魚キャラ感満載の公家・三条実美

廊下でよく栄一とすれ違って話す西郷隆盛。

であーる!であーる!の大隈重信。

何をした人なのか全然わからない!江藤新平。

栄一になんでもお任せ、下半身事情は描かれない、井上馨

そして栄一です。

留守だし色々やっちゃえと思っていると、事前に大久保利通が止めていました。留守中は廃藩置県だけにしとけとストップをかけていたのです。

木戸孝允すら出てこないのにクローズアップされる江藤新平については理由も推察できます。

【大久保利通サイテー! 江藤になんてことするのよ枠】でしょう。

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薩摩閥と佐賀閥の対立なら、江藤新平のことも説明が必要ではありませんか?

新政府のシーンになってから、大久保だけが悪党扱いですが、薩摩閥には西郷隆盛や五代友厚も含まれ、佐賀閥を嫌っているのは長州閥も同じ。

大隈が決定的にしてやられるのは、栄一と親しい長州閥の伊藤博文の手によるものです。

その辺どう描かれるのでしょう。

五代様は陰険大久保と違うのよ!という誘導も随所にありますが、五代と本作で出てきそうにない黒田清隆は大久保路線の継承者です。

にしても今週もゲスな大久保ですね。余計なことをするな、という悪人顔だけクローズアップして、さも権力を振りかざす人物に描かれている。

岩倉使節団があまりにグダグダしていて、予定以上に日程が長引いたことも問題だったりしたのですが、ここは栄一が出し抜いてバンクを作ることにクローズアップするようです。

 


銀行と富岡製糸場

栄一は言います。

廃藩置県だけやれってことは、それ以外やってもいいんじゃね」

うーん。そんな出し抜くことばかり考えず、真正面から切り出してはいけませんか。

いくら栄一が有能だと言われたところで、セコく見えてしまうのです。

というか明治政府初期のしょうもないミスを踏まえると、小栗忠順を殺してしまった損失がしみじみと感じられてしまう。劇中の登場人物にそんな反省でもあれば、もっと真っ当な人物たちだと思えてくるのになぁ……。

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途中で大隈邸に切り替わり、食事をしています。

その所作も、どうしてもキレイに見えないのはさておき、栄一は、大隈重信が使節団に入れない理由を聞いています。

なんでも大久保が嫌いなんだとか。

薩摩閥の動きがちゃんと描かれないから、まるで大久保がネチネチいびるだけ平成OLのお局状態です。

そして五代の大久保ダメ出しレターでケラケラ笑う連中。

くどいようですが、五代は大久保に相当庇われていた。もしも五代が大久保のことを心底嫌っていたら、かなりの恩知らずになってしまいます。それが栄一も揃って陰で悪口を言うように見えて、辛い……。

そして話題は銀行の命名へ。

「国立銀行」に決まりました。

本作は明治の翻訳語のセオリーを丸無視ですが、それもひとまず置いといて(詳細は後述)、三井と小野がやってきて銀行設立の会議がスタートです。

どうやら見所らしいのですが、学園ドラマの文化祭準備程度にしか見えない。

この辺の経済話をジックリ描けないからこそ、幕末をウダウダやっていたのでしょうか。

商人を睨みつけてばかりで、説得力のあるセリフがない。気になることといえば、栄一の大仰な動作です。

明治時代の日本人は、いちいち手をうったり、腕組みするでしょうか?

著者が腕組みしたり、ろくろ回しポーズをとっているビジネス書の帯写真みたいなんだよなぁ。

一行は、富岡製糸場の視察へ。

楫取素彦「なしてうちらの出番がないんか!」

美和「せわぁない」

そんな脳内伝説カップルの声が響いたのですが……いや、まさか本当に出てこない?

あの二人なしで富岡製糸場はありえないのでは?

私は2015年大河ドラマ『花燃ゆ』を通して学んだんですよ!

もうがっかりだ。それだけを楽しみにしていたのに。美和のおにぎりを頬張る渋沢の一行を見たかった。

 

ハウスも製糸場もVFX合成が荒すぎて

三井組ハウスが出てきました。

旗のVFX合成が荒すぎて、結構な驚き。本作の映像処理はどうなっているのでしょう。

その後も、いかにも明治村っぽいパーティ場面です。明治村を使うなとは申しませんが、もうちょっと小道具やセットを頑張れたのではないか?と疑念ばがりが湧いてきます。

そして、またもや栄一は廊下で歩きながら話しています。

相手を脅すような口調で、本当に何のドラマなのでしょう。凄腕の経済人・商売人にはとても思えません。

だから悪代官のシーンを回想されても、奪われる側から奪う側になっただけで、まるで同情できない人物になっている。

尾高惇忠の娘・尾高ゆうが出てきました。

彼女に頭を下げながら女工のスカウトをしていますが、彼女は上級女工になれるのかな。

この女工スカウトも要注意です。

ゆうの器量やら何かを美談仕立てにしていますが、要するに明治のガチャ当たりはうまい人生を送れたというだけの話です。

いわば格差社会の勝ち組話。まぁ『あさが来た』から終始一貫しているといえばそうです。

彼女たちの働き口は『女工哀史』のように悲惨ではないとされますが……。

・公的機関としてのうちはまだしも、そうでなくなるとかなり過酷な労働が課された

・壮絶な藩閥ガチャの世界で、長州藩といった勝ち組出身女工は簡単な作業を任され、そうでないと辛い仕事ばかり

藩閥ガチャは政府上層部だけでなく、こうした女工にまで及んでいたことを描いて欲しかった。

史実の渋沢栄一も、そういう格差社会の打開に貢献したどころか、むしろ工場法成立を十年以上阻害したこともありました。

 

西郷と豚鍋思い出トーク

そしてここから渋沢一族の親族賞賛タイム。

成一郎も気張るとかなんとか言い出し、イタリアに行くそうですよ。

なんだかなぁ。戦場へ命を投げ出すことができず悔いていたかと思ったら、結局は、政府の上層部とコネがある親族枠を使っている。

薩長に無理やり戦争を仕掛けられ、敗北者となった者たちから見ると恐ろしいほど恵まれた世界です。

北海道の屯田兵なんてリアルに生死の境目にいたのに、本作ではそういった状況を鑑みることはなく、自分たちがどうやって「おかしれぇ」生き方をできるかどうかばかりを考えている。

そして栄一と千代の子・篤二が生まれます。

彼に関するゴタゴタはドラマでちゃんとやるのでしょうか。

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というか、くにの子はもっと早く生まれているはずで、しかも同じ屋根の下にいるはずですが、まったく出てきません。同居する場面だけ流しておいて残酷すぎる。

一方で、政府はまとまらない。

絶叫でしか表現できないおなじみのパターンですが、一人ドッチラケだった西郷が、なぜか栄一へ面会に来ます。

どんな政治外交の話をするんだろ?と思いきや、幕末時代の豚鍋トーク。

本当にこの明治政府はダメダメだな。しかもその違和感が「おかしろくねぇ」だもん。どんだけ語彙力がないんですか。

西郷のセリフも魅力に欠ける。幕末が良かったとネチネチ言い始め、「慶喜公がすごすぎるから潰しちゃった! それなのに申し訳がたたん」と無理矢理持ち上げてます。

いやいや……明治初期に慶喜を持ち上げるような人、いないでしょう。

駿府でコスプレ写真を撮影し、自転車で近隣の畑を荒らし、女中との間に子作り三昧ですよ。

西郷隆盛はそういうキャラじゃない。何か恨みでもあるのでしょうか?

西郷が西南戦争を起こした一因として、明治政府の改革が鹿児島にまで及ばず、士族が困窮する様を見過ごせなかったことも指摘されます。

幕臣の苦難をよそにヘラヘラ遊び呆けている慶喜なんて、それこそ風上にも置けないはず。

『八重の桜』で、ヒロインの兄である覚馬を西郷が引き立てた理由はわかります。山本覚馬は優秀で、人格も誠実でしたから。

それが西郷まで【栄一や慶喜を褒める】枠にするなんて、さすがにやりすぎでしょう。

そしてラストに、栄一は大蔵省を辞めると言い出しました。

まぁ、食べていけるだけの金はあるし、コネもあるし、何とかなりますしね。

「一人の民(みん)」とかなんとか言っていますが、史実では長州閥政治家とべったりくっついて生きている。

最後の変身ってのは何なのでしょう。

結局、政府と密着していて、中身は何も変わってないのでは?

 

総評

明治時代は藩閥ガチャ!

テロ仲間のコネを使えばウハウハだー!

毎週そう言われている気がします。

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『花燃ゆ』でも、長州閥コネでウハウハ。

『西郷どん』でも私的な目的のために血税を使うことを美談に仕上げていて、呆れたものです。

本作にしても、なぜこれほどまでに葛藤がないドラマなんでしょう。

すべてを美談に仕立てるなんて、まるで軍国主義下のプロパガンダ映画ではありませんか。

上流階級の欺瞞や腐敗を描くドラマはあります。

それが成立するのは悪役として問題提起として描くから。

しかし、このドラマの渋沢栄一から何を学べばよいのでしょう。

戦場で少しは葛藤があったかのように見えた渋沢成一郎も結局コネを使った就職をしている。

社会的には餓死者もいる状況で妻妾同居を始め、そのシーンも最初だけでなんだか有耶無耶。

本作の制作チームなら山守親分目線の『仁義なき戦い』でも、やさしい作品にできそうで恐ろしくなってきます。

そして作品全体に漂う昭和臭。カッパを連発したり、妾の話をゲスに盛り上げたり、若い世代が「大河なんて見ないですね」と言うのであれば、そりゃそうでしょ、と頷くばかりです。

本作は主にTwitterの感想を拾い「ネットでは好評」と言い張ります。

しかし、そもそもTwitterって若者の声を反映しているかどうか?

◆ツイッターとフェイスブックは、10代の若者の間で全く人気がない —— 最新調査(→link

ツイッター、フェイスブックが好きだと答えたのは、わずか2%だった。

若者はそもそもTwitterで大河実況をしていない可能性が高いですね。

SNS公表と言い張った大河といえば2019年もそうでしたが、あれもSNS以外は低調でした。

 

小道具班とVFXチームは大丈夫でしょうか?

今週はあらすじに使われる写真を見て、思わず目を疑いました。

◆【青天を衝け】第31回見どころ 日本初の銀行作りに乗り出す(→link

この「國立銀行」という文字。もう少しこう、綺麗にできませんか?

私はそこまで書には詳しくありませんが、例年の大河はもっと美しかったと思います。特に画面の中で大々的に使うのであればなおさらです。

なんてことを感じてしまうのは、最近中国や韓国の時代劇も目にしているからかもしれません。

小道具の字が実に綺麗。三国志ものですと、竹簡に隷書で書いている場合もある。

要は、かなりの手間をかけていることがわかるのです。

それに比べて本作は、小道具が全体的にお粗末。

墨ではなく、ポスターカラーを使ってそれっぽく見せていると思えるもの。

Illustratorで作ったと見た瞬間にわかるもの。

そういうものが毎回のように出てくる。

時間がないことは理解できますが、もう少しなんとかならないのでしょうか? 大河ってNHKの看板コンテンツですよね。私の高望みなのでしょうか?

極めつけは三井組の旗です。

小道具班が手一杯だからVFXを起用したのでしょうが、まるでPS2程度のレベルで合成箇所が浮いていたように見えます。

 

西郷隆盛を褒めていればいいもの?

【大久保と違ってナイスガイ枠】の西郷。

西郷が強硬に戊辰戦争をやらかしたせいで、平九郎や土方が死に、成一郎が苦労したことを栄一はどう思っているのでしょうか?

考えてみたいことがあります。

西南戦争が勃発すると、当時、警視庁にいた斎藤一、会津藩士たちはハッスルしました。

「戊辰の仇!」と絶叫しながら戦った会津藩士の記録が残されております。

会津藩出身の柴五郎は、西郷と大久保の死は当然のことだと受け止めており、そのことを後悔しないと言い切っています。

要するに彼らと比較しますと、西郷隆盛にヘラヘラしている渋沢栄一って、所詮はステルス倒幕派であり、幕府になんの思い入れもない人間ってことが証明されてしまっているのです。

それで自分の言うことをザルのようにスルーするから西郷も「大久保と違って器量が大きい」となる。

しかし、これも要注意です。

西郷って、上野公園のあの銅像のイメージが大きいのですが。あの着流し浴衣で犬を連れている姿からして、糸子夫人がガッカリしたとされています。

実物の西郷は、本作でもおなじみの西洋軍服姿がふさわしい。和装であるにせよ着流しでなく、ちゃんと袴はつけている。

そんなありのままの西郷像はあまりに禍々しかった。

明治新政府への不満が凝縮し、西郷星伝説が生まれるほどカリスマがあったとされ、西郷は反政府アイコンと化した。

そういうイメージを緩和するため、上野の銅像ようなラフなスタイルで顕彰したという説もあるほどです。

それに西郷はメンタルが不安定です。

自殺未遂もありますし、精神状態が悪化しているとわかる言動がかなりある。

明治以降は島津久光に不義理をかなりしつこく責められ、精神状態がますます歪んでいます。

ニコニコとやさしい西郷は、願望ありきのものだと思いましょう。

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近年大河の西郷像で一番史実に近いものは2013年『八重の桜』の吉川晃司さんと思われます。

吉川さんはすっかり時代劇にふさわしい役者となりましたね。『MAGI』の織田信長も素晴らしいものがありました。

ではなぜ、渋沢栄一は西郷隆盛を褒めたのか?

大事なのはそこですね。

それは反政府アイコンとして人気が絶大である西郷と、そんなスゴイ西郷と理解しあえた自分をアピールすることにはメリットがあったんでしょう。

渋沢栄一の言動って、自分のイメージアップを常に考えていますから。

 

栄一と大久保の対立は所詮“ヤンキー漫画”

何度となく指摘していますが、このドラマの大久保と渋沢の対立軸はしょうもない。

というのも、大久保が本気で潰そうとすればどうなるか、歴史が証明しています。

今週登場した江藤新平です。

彼は明治7年(1874年)に非業の死を遂げました。

江藤は新政府でも屈指のシャープな頭脳の持ち主でした。

にもかかわらず、斬首刑に処され晒されたうえに、その写真が土産として販売されるほど悲惨な最期を迎えたのです。

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士族反乱の中で命を落としたようで、ことはそう単純でもありません。

確かに江藤は反乱を起こしました。

しかし、処断があまりに厳しい。

なぜ?

そのヒントはわざわざ佐賀まで裁判を見に行った大久保利通の言葉に隠されています。

「江藤醜態笑止なり」――江藤のオロオロするところときたら、みっともないったらない!

乱そのものよりも、江藤のシャープな知性が大久保の憎しみをかっていたのです。

佐賀の乱の鎮圧は強引であることは指摘されています。

超法規的ともいえる不可解な鎮圧。これも大久保の個人的な感情があったのではないかと指摘されるところです。

天狗党の乱】の処断をみて、幕府は滅びると書き記した大久保。

そんな大久保でも感情的に有能な人物を私怨で死へ追いやり、憎しみをかってしまう。

歴史の闇がそこにはあります。

江藤と大久保の対立が、重厚な小説だとすれば、本作の渋沢と大久保は?

残念ながら「ヤンキー漫画」程度の対立でしょう。いや、幼稚園児のおもちゃの取り合い? その程度の無邪気なものに見えてきます。

木戸孝允や黒田清隆は登場人物一覧におりませんが、江藤新平はバッチリ出てきましたね。

大久保利通が江藤を葬ったとき、栄一が大仰にキレるのでしょう。

 

くには明治の“匂わせ女”か?

先週から不倫が話題になっています。

史実よりむしろ遊び方が汚くなったと指摘しましたが、それも明治基準だったのだろうとはわかりました。

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それというのも、くにはどう考えてもおかしいことをしていた。

足袋を、なぜ赤い糸で繕ったのか?

そもそも足袋を繕うことは業務範囲外で、言い出すこと自体が不自然です。

仮に、繕うことを依頼されたにせよ、白い糸を使うでしょう。

そんな疑念が解決しました。

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ああ……「匂わせ女」ですか。

この「匂わせ女」そのものがSNS発達ありきの概念ですが、それを明治に持ち込んだんですね。

くにの設定はおかしいのです。公式設定は変えられました。

京都生まれ。夫が戊辰(ぼしん)戦争に出たまま行方知れずとなったため、女中として生計を立てる。大蔵省で働く栄一が大阪造幣局へ出張していたころ、三野村利左衛門が設けた宴席でたまたま女中として働いていた。

京都生まれで、夫が戊辰戦争に行ったと。それで行方知らずになって女中として生計を立てている。

ここから「察しろ」ということでしょうか?

明治初期には同じような境遇で、娼妓に身を落とす女性も多かった。そこを読み取れということでしょうか。

そういう女が、金持ち男を狙い、わざとらしく接近した。男が一人だけの部屋に女性が行くということにはリスクが伴う。そういうリスクも承知で近づいたんでしょ! と、そうなりかねない。

接客業では失礼なほど栄一の顔をジロジロ見て、自分から足袋を縫う。全部仕組んだんでしょ! というわけですね。

なんだか嫌なことを連想します。有名男性芸能人の性犯罪スキャンダルです。

ああいう事件があると、こんな意見はSNS上で渦巻くことは見かけます。

「でも、そんな彼の部屋までホイホイついて行く女が悪いでしょ!」

「あざといよね。狙ったんだよね。こんなのこの女が悪いじゃん!」

男が悪くないと免罪するために、ことさら女性側の落ち度をクローズアップする風潮です。

明治の価値観が受け入れられないからといって、ここまでしなくともよいのではありませんか?

そしてこの不貞のシーンで、本作を見る姿勢も見えてきました。

◆「青天を衝け」艶福家・渋沢栄一を演じる吉沢亮の“不貞シーン”から目が離せない!(→link

『“あーちと”というセリフと、二度腕をつかんだだけで、何か想像させる脚本とカメラワークが見事。かえってドキドキさせられた』といった声が寄せられました

この寄せられた声なんて、まるでレディースコミックの感想と言いましょうか。

序盤から、女性視聴者が褌、排泄、裸の場面に興奮すると報道されてきた本作。結局そういうネタで引っ張っているのかと再確認させられます。

しかし、世の中にはさらにすごい言い分もありまして。

 

“戦争未亡人を愛する=平和を愛する”って?

先週からの不貞をかばうコメントは,凄まじいものがありました。

「くには明治の匂わせ女だから栄一は悪くない!」

これですら、かわいらしいものがあると言いますか。

「浮気をやらないと思っていたからエライ!」

そこまでハードルを下げますか……。

「このくにとの間にできた子の子孫が、このドラマにも参加しているから」

そんなトリビアで庇われてもわけがわかりません。

そして、そんな中でも最も気宇壮大なものを見つけました。くにが戦争未亡人だということがポイントです。

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このエピソードで押さえておきたい点は、くに夫が戦争に出て帰らぬ人になったことである。一般庶民も巻き込んだ刀で殺し合う武士の時代は終わったと思いきや未だ戦の火種は残っていた。

この書き方ですと、まるで明治維新以降、日本人が平和になったように思えますが、逆でしょう。

そもそも、まだまだ戦の火種は消えないどころではない。

内戦は【西南戦争】まで継続します。

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内戦後も、世直しと称したテロリズムが残る。

『いだてん』でチラッとだけ描かれた、関東大震災後の民衆暴力でも思い出しましょう

明治維新こそ、実は日本人の暴力性を正当化した起点とされます。水戸学と【桜田門外の変】でスイッチが入った。

渋沢栄一は、その水戸学信奉者なのです。

以下の文章も注目です。

もうこれで戦もおこらず、くにのような戦争未亡人も誕生しないといいと栄一が思ったかは定かではないが、戦がなくなれば民は巻き込まれないことは確かである。

こんなこと劇中で全く描かれていません。

それどころか、このドラマの栄一は戦争マニアの西郷隆盛が大好きじゃないですか。

成一郎の奮戦を無意味と嘲笑うような言動をするし、どこが平和を愛しているのか……。

思えば焼き討ち計画もしていましたし、天狗党とも仲良しです。

それに明治時代って、徴兵制の時代ですからね。むしろ民衆を戦争に巻き込んでいった。

真逆の認識を植え付けるとしたら、これほど有害なドラマもなかなかありません。

くにの夫も農民ではないが同じようにコツコツと生きてきた労働者であって、そんな人が戦争でいなくなるようなことを承服できないのが栄一である。くにとのことも彼女の哀しみを放っておけなかったのではないか。栄一が戦のない世を作ることは、父の守ったこの美しい故郷を守ることなのである。

くにの夫も農民ではないと、どうして言い切れますか?

幕末は農民でも兵士として運用するようになっています。

「戊辰戦争にいった=武士」

そう決めつける認識からして非常に危うい。

それにドラマでの栄一が「戦争未亡人ダメ絶対!」と思っていたのかどうか。

平九郎のこともロクに思い出さないし、土方なんてましてや忘却の彼方だし。

戦争未亡人を同情しておいて、やることが腕を引っ張って子作りとは?

「くにの哀しみを放っておけない=子作り」ってどういうことでしょうね。未亡人を救う手立てなんて他にあるでしょうに。

くにを戦争未亡人にする史実改変には、本当に賛同できない。

なぜなら、戊辰戦争負け組の女性が被った性的搾取が悲惨だったからです。

戊辰戦争の戦地では、勝った側が負けた側の女性を平然と妾にするようなことがあちこちであった。

没落した武家女性が、芸者や遊女に身を落とした悲惨な例もあります。

未亡人ではなく武士の娘ではありますが、『ゴールデンカムイ』の人気キャラクター・尾形は没落した水戸藩武家女性が母親ではないかと推察できる。

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そういう実在した悲劇を、下劣な不倫のダシにする。

しかも史実を改悪してまでそうしたとなれば、もう本当に絶望します。

どうして彼女らの苦痛がネタにされなければならないのでしょうか?

 

漢籍教養の不足を憂う

毎週ネチネチと漢籍タイムをしてきましたが、このあたりで根源的な話をさせてください。

幕末から明治の知識人は漢籍教養が重視されました。

それがないと一流の人間とは思われない。本作に出てきた幕臣も漢籍教養があり、漢詩を作り続けた人物がおります。

例えば永井尚志栗本鋤雲あたりですね。

栗本鋤雲
幕府と仏国を結んだ栗本鋤雲は小栗の盟友|明治では二君に仕えず友の志を世に残す

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漢籍は、明治という国家を考える上でも重要です。

明治時代、西洋からの概念を学ぶ際、日本語でどう呼ぶのか?と考えられました。

というのも漢籍由来の訳語を当てたことが実に多いのです。

本作のテーマでもある経済は「経世済民」から。

世を経(おさ)め、民を済(すく)う。

エコノミーをこう翻訳しました。漢籍教養ありきの見事な翻訳でしょう。

ゆえに漢籍本場の中国でも感心され、そのまま取り入れられた語も多い。

清からやってきた留学生たちも、日本人の漢籍教養に親しみを感じ、感心していたものです。

「ステイホーム」とか、なんでもかんでも横文字というかそのまま使う風潮に批判もあり、この辺りは明治を見習いたいところかもしれません。

現代人にも関係があります。

漢学者の父を持つ中島敦『山月記』は有名です。

夏目漱石の『薤露行』だって、題材はアーサー王伝説のイギリス由来でも、タイトルは漢籍由来。

幸田露伴『運命』。

土井晩翠『星落秋風五丈原』。

日本人の教養に漢籍由来の知識は組み込まれていたのです。

日清戦争以来、それが低下していったとはいえ、本来欠かせないものでした。

「大丈夫です、大河を見てください!」と『麒麟がくる』の2020年ならば、そう言えました。

しかし2021年、むしろ大河がハッキリと漢籍教養の危機を証明しています。

タイトルが渋沢栄一作の漢詩でありながら、書き下し文ではなく現代語訳で紹介。

「累卵の危」という、さして難しくもない言葉を「つみあげた卵のような危険」と言い換えてしまう。

たとえば昭武が栄一と慶喜を「スペシャルな仲」と呼びましたが、ああいう仲を示す漢籍由来の言葉はそれこそたくさんあります。

水魚の交。膠漆の交。刎頸の交。断金の交。管鮑の交……そういうのをすっ飛ばして「スペシャル」ですか。

栄一にしたって、西郷隆盛にしたって、明治の世を作る高揚感を「抜山蓋世」(『史記』項羽紀より)とでも表現してもよいでしょうに。

明治政府が不満なら、こんな言い方もできますよ。

「なんだあいつら、いばるばかりでろくなことをしておらん! これぞまさしく“沐猴(もっこう)にして冠す”だ!」

沐猴にして冠す。『史記』「項羽紀」

サルに冠を被せたようなもの。見かけ倒しの人物であるということ。

くどいですが、昨年の『麒麟がくる』ではできていた。

それが今年はおかしい。本作の語彙力は明治を舞台とした作品とは到底思えません。

一体どうしたのでしょう?

それでも書がちゃんとしていれば、東洋の教養や伝統を感じられるのですが、それすらないとは。

 

渋沢栄一のめざした百年後とは

本作は渋沢栄一が百年後のことだのなんだの連呼しますが、明治政府の作った「この国のかたち」は一世紀も持たずに崩壊します。

アジア・太平洋戦争という最悪の結末です。

その根底には、水戸学から吉田松陰を経由して残ったアジアに領土を広げる発想があります。

水戸学を称賛する渋沢栄一もその思想に浸かり切っていました。

近代とは、戦争が決定的に醜くなった時代とも指摘されます。

むろん、戦争なんてもとから綺麗でもありません。それでも、ナポレオンのころまでは、総大将が馬に跨って戦うロマンはあった。

それが近代以降、戦争を始める連中は従軍すらしない、金勘定ばかりをする老人になった。

決定的に汚らしい、正義ではなく金のために戦うものになった。

渋沢栄一のような近代商人は、その象徴なんですね。

渋沢栄一がえらそうに説くビジョンなんて、所詮は一世紀も持たずに最悪の崩壊をした代物です。

それをこうも歴史修正する。

だからこそ悪質なドラマとしか思えないのです。

いったい受信料で何をしているのでしょう。


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【参考】
青天を衝け/公式サイト

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武者震之助

2015年の大河ドラマ『花燃ゆ』以来、毎年レビューを担当。大河ドラマにとっての魏徴(ぎちょう)たらんと自認しているが、そう思うのは本人だけである。

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