青天を衝け感想あらすじ

青天を衝け第31回 感想あらすじレビュー「栄一、最後の変身」

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青天を衝け第31回感想あらすじレビュー
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くには明治の“匂わせ女”か?

先週から不倫が話題になっています。

史実よりむしろ遊び方が汚くなったと指摘しましたが、それも明治基準だったのだろうとはわかりました。

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それというのも、くにはどう考えてもおかしいことをしていた。

足袋を、なぜ赤い糸で繕ったのか?

そもそも足袋を繕うことは業務範囲外で、言い出すこと自体が不自然です。

仮に、繕うことを依頼されたにせよ、白い糸を使うでしょう。

そんな疑念が解決しました。

◆「赤い糸」で白い足袋を縫う... 「青天を衝け」渋沢栄一の前に現れた女中の「匂わせ女」ぶりに騒然(→link

ああ……「匂わせ女」ですか。

この「匂わせ女」そのものがSNS発達ありきの概念ですが、それを明治に持ち込んだんですね。

くにの設定はおかしいのです。公式設定は変えられました。

京都生まれ。夫が戊辰(ぼしん)戦争に出たまま行方知れずとなったため、女中として生計を立てる。大蔵省で働く栄一が大阪造幣局へ出張していたころ、三野村利左衛門が設けた宴席でたまたま女中として働いていた。

京都生まれで、夫が戊辰戦争に行ったと。それで行方知らずになって女中として生計を立てている。

ここから「察しろ」ということでしょうか?

明治初期には同じような境遇で、娼妓に身を落とす女性も多かった。そこを読み取れということでしょうか。

そういう女が、金持ち男を狙い、わざとらしく接近した。男が一人だけの部屋に女性が行くということにはリスクが伴う。そういうリスクも承知で近づいたんでしょ! と、そうなりかねない。

接客業では失礼なほど栄一の顔をジロジロ見て、自分から足袋を縫う。全部仕組んだんでしょ! というわけですね。

なんだか嫌なことを連想します。有名男性芸能人の性犯罪スキャンダルです。

ああいう事件があると、こんな意見はSNS上で渦巻くことは見かけます。

「でも、そんな彼の部屋までホイホイついて行く女が悪いでしょ!」

「あざといよね。狙ったんだよね。こんなのこの女が悪いじゃん!」

男が悪くないと免罪するために、ことさら女性側の落ち度をクローズアップする風潮です。

明治の価値観が受け入れられないからといって、ここまでしなくともよいのではありませんか?

そしてこの不貞のシーンで、本作を見る姿勢も見えてきました。

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『“あーちと”というセリフと、二度腕をつかんだだけで、何か想像させる脚本とカメラワークが見事。かえってドキドキさせられた』といった声が寄せられました

この寄せられた声なんて、まるでレディースコミックの感想と言いましょうか。

序盤から、女性視聴者が褌、排泄、裸の場面に興奮すると報道されてきた本作。結局そういうネタで引っ張っているのかと再確認させられます。

しかし、世の中にはさらにすごい言い分もありまして。

 

“戦争未亡人を愛する=平和を愛する”って?

先週からの不貞をかばうコメントは,凄まじいものがありました。

「くには明治の匂わせ女だから栄一は悪くない!」

これですら、かわいらしいものがあると言いますか。

「浮気をやらないと思っていたからエライ!」

そこまでハードルを下げますか……。

「このくにとの間にできた子の子孫が、このドラマにも参加しているから」

そんなトリビアで庇われてもわけがわかりません。

そして、そんな中でも最も気宇壮大なものを見つけました。くにが戦争未亡人だということがポイントです。

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このエピソードで押さえておきたい点は、くに夫が戦争に出て帰らぬ人になったことである。一般庶民も巻き込んだ刀で殺し合う武士の時代は終わったと思いきや未だ戦の火種は残っていた。

この書き方ですと、まるで明治維新以降、日本人が平和になったように思えますが、逆でしょう。

そもそも、まだまだ戦の火種は消えないどころではない。

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内戦後も、世直しと称したテロリズムが残る。

『いだてん』でチラッとだけ描かれた、関東大震災後の民衆暴力でも思い出しましょう

明治維新こそ、実は日本人の暴力性を正当化した起点とされます。水戸学と【桜田門外の変】でスイッチが入った。

渋沢栄一は、その水戸学信奉者なのです。

以下の文章も注目です。

もうこれで戦もおこらず、くにのような戦争未亡人も誕生しないといいと栄一が思ったかは定かではないが、戦がなくなれば民は巻き込まれないことは確かである。

こんなこと劇中で全く描かれていません。

それどころか、このドラマの栄一は戦争マニアの西郷隆盛が大好きじゃないですか。

成一郎の奮戦を無意味と嘲笑うような言動をするし、どこが平和を愛しているのか……。

思えば焼き討ち計画もしていましたし、天狗党とも仲良しです。

それに明治時代って、徴兵制の時代ですからね。むしろ民衆を戦争に巻き込んでいった。

真逆の認識を植え付けるとしたら、これほど有害なドラマもなかなかありません。

くにの夫も農民ではないが同じようにコツコツと生きてきた労働者であって、そんな人が戦争でいなくなるようなことを承服できないのが栄一である。くにとのことも彼女の哀しみを放っておけなかったのではないか。栄一が戦のない世を作ることは、父の守ったこの美しい故郷を守ることなのである。

くにの夫も農民ではないと、どうして言い切れますか?

幕末は農民でも兵士として運用するようになっています。

「戊辰戦争にいった=武士」

そう決めつける認識からして非常に危うい。

それにドラマでの栄一が「戦争未亡人ダメ絶対!」と思っていたのかどうか。

平九郎のこともロクに思い出さないし、土方なんてましてや忘却の彼方だし。

戦争未亡人を同情しておいて、やることが腕を引っ張って子作りとは?

「くにの哀しみを放っておけない=子作り」ってどういうことでしょうね。未亡人を救う手立てなんて他にあるでしょうに。

くにを戦争未亡人にする史実改変には、本当に賛同できない。

なぜなら、戊辰戦争負け組の女性が被った性的搾取が悲惨だったからです。

戊辰戦争の戦地では、勝った側が負けた側の女性を平然と妾にするようなことがあちこちであった。

没落した武家女性が、芸者や遊女に身を落とした悲惨な例もあります。

未亡人ではなく武士の娘ではありますが、『ゴールデンカムイ』の人気キャラクター・尾形は没落した水戸藩武家女性が母親ではないかと推察できる。

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そういう実在した悲劇を、下劣な不倫のダシにする。

しかも史実を改悪してまでそうしたとなれば、もう本当に絶望します。

どうして彼女らの苦痛がネタにされなければならないのでしょうか?

 

漢籍教養の不足を憂う

毎週ネチネチと漢籍タイムをしてきましたが、このあたりで根源的な話をさせてください。

幕末から明治の知識人は漢籍教養が重視されました。

それがないと一流の人間とは思われない。本作に出てきた幕臣も漢籍教養があり、漢詩を作り続けた人物がおります。

例えば永井尚志栗本鋤雲あたりですね。

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漢籍は、明治という国家を考える上でも重要です。

明治時代、西洋からの概念を学ぶ際、日本語でどう呼ぶのか?と考えられました。

というのも漢籍由来の訳語を当てたことが実に多いのです。

本作のテーマでもある経済は「経世済民」から。

世を経(おさ)め、民を済(すく)う。

エコノミーをこう翻訳しました。漢籍教養ありきの見事な翻訳でしょう。

ゆえに漢籍本場の中国でも感心され、そのまま取り入れられた語も多い。

清からやってきた留学生たちも、日本人の漢籍教養に親しみを感じ、感心していたものです。

「ステイホーム」とか、なんでもかんでも横文字というかそのまま使う風潮に批判もあり、この辺りは明治を見習いたいところかもしれません。

現代人にも関係があります。

漢学者の父を持つ中島敦『山月記』は有名です。

夏目漱石の『薤露行』だって、題材はアーサー王伝説のイギリス由来でも、タイトルは漢籍由来。

幸田露伴『運命』。

土井晩翠『星落秋風五丈原』。

日本人の教養に漢籍由来の知識は組み込まれていたのです。

日清戦争以来、それが低下していったとはいえ、本来欠かせないものでした。

「大丈夫です、大河を見てください!」と『麒麟がくる』の2020年ならば、そう言えました。

しかし2021年、むしろ大河がハッキリと漢籍教養の危機を証明しています。

タイトルが渋沢栄一作の漢詩でありながら、書き下し文ではなく現代語訳で紹介。

「累卵の危」という、さして難しくもない言葉を「つみあげた卵のような危険」と言い換えてしまう。

たとえば昭武が栄一と慶喜を「スペシャルな仲」と呼びましたが、ああいう仲を示す漢籍由来の言葉はそれこそたくさんあります。

水魚の交。膠漆の交。刎頸の交。断金の交。管鮑の交……そういうのをすっ飛ばして「スペシャル」ですか。

栄一にしたって、西郷隆盛にしたって、明治の世を作る高揚感を「抜山蓋世」(『史記』項羽紀より)とでも表現してもよいでしょうに。

明治政府が不満なら、こんな言い方もできますよ。

「なんだあいつら、いばるばかりでろくなことをしておらん! これぞまさしく“沐猴(もっこう)にして冠す”だ!」

沐猴にして冠す。『史記』「項羽紀」

サルに冠を被せたようなもの。見かけ倒しの人物であるということ。

くどいですが、昨年の『麒麟がくる』ではできていた。

それが今年はおかしい。本作の語彙力は明治を舞台とした作品とは到底思えません。

一体どうしたのでしょう?

それでも書がちゃんとしていれば、東洋の教養や伝統を感じられるのですが、それすらないとは。

 

渋沢栄一のめざした百年後とは

本作は渋沢栄一が百年後のことだのなんだの連呼しますが、明治政府の作った「この国のかたち」は一世紀も持たずに崩壊します。

アジア・太平洋戦争という最悪の結末です。

その根底には、水戸学から吉田松陰を経由して残ったアジアに領土を広げる発想があります。

水戸学を称賛する渋沢栄一もその思想に浸かり切っていました。

近代とは、戦争が決定的に醜くなった時代とも指摘されます。

むろん、戦争なんてもとから綺麗でもありません。それでも、ナポレオンのころまでは、総大将が馬に跨って戦うロマンはあった。

それが近代以降、戦争を始める連中は従軍すらしない、金勘定ばかりをする老人になった。

決定的に汚らしい、正義ではなく金のために戦うものになった。

渋沢栄一のような近代商人は、その象徴なんですね。

渋沢栄一がえらそうに説くビジョンなんて、所詮は一世紀も持たずに最悪の崩壊をした代物です。

それをこうも歴史修正する。

だからこそ悪質なドラマとしか思えないのです。

いったい受信料で何をしているのでしょう。

※著者の関連noteはこちらから!(→link

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◆青天を衝け感想あらすじレビュー

◆青天を衝けキャスト

◆青天を衝け全視聴率

文:武者震之助(note
絵:小久ヒロ

【参考】
青天を衝け/公式サイト

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