武者震之助の歴史映画レビュー 中国

映画『ブレイド・マスター』&『修羅:黒衣の反逆』レビュー 地獄の公務員よ!

オススメしたい歴史作品とは思っていながら、なかなか重い腰を上げられなかった。

それが本稿で取り上げる2作品、

【映画】
『ブレイド・マスター』
『修羅:黒衣の反逆』

です。

楽しみながら中国史を学べる――その一方で、内容が複雑ゆえに理解されず、『暗いな……』『ゲスしかいないじゃん』と誤解されてしまうおそれもある。

ゆえに逡巡しておりましたが、自粛生活の皆様に少しでも刺激をご提供できればと思い直した次第です。

というわけで明朝を舞台にした中国映画!

両作品ともアマゾンプライムでご覧になれますので、お取り寄せ食品を注文したついでにでもどうぞ。

基本DATA info
タイトル 『ブレイド・マスター』
原題 繡春刀 Brotherhood of Blades Their Finest
制作年 2014年
制作国 中国
舞台 中国、北京他
時代 明朝・崇禎年間(17世紀)
主な出演者 張震(チャン・チェン)、劉詩詩(リウ・シーシー)、王千源(ワン・チェンユェン)、李東学(リー・トンシェ)、金士傑(チン・シーチェ)
史実再現度 歴史的背景を持つオリジナル作品、かなり真面目な出来、だからこそ……
特徴 地獄の公務員ライフ、全然心休まらない!
amazon視聴 アマゾンプライムで無料(→link

 

基本DATA info
タイトル 『修羅:黒衣の反逆』
原題 繍春刀II修羅戦場/Brotherhood of Blades 2
制作年 2017年
制作国 中国
舞台 中国、北京他
時代 明朝・万暦末から天啓年間(17世紀)
主な出演者 張震(チャン・チェン)、楊冪(ヤン・ミー)、金士傑(チン・シーチェ)
史実再現度 歴史的背景を持つオリジナル作品、かなり真面目な出来ゆえに……
特徴 やはり地獄の公務員ライフ! エピソードゼロも最悪。なお中身は反逆というか陰謀
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あらすじ

明朝の天啓7年(1627年)――暗君・天啓帝熹宗が崩御を遂げる。

子がない彼の後継者は、五番目の弟・信王とされていた。

彼こそが明朝ラストエンペラーとなる崇禎帝だ。

崇禎帝は、兄である先帝の威を借り、腐敗政治を行なっていた魏忠賢一派の粛清に意欲を燃やしている。

問題は、その腐敗政治断罪に駆り出される側の嫌な事情だ!

制服だけがかっこいいけれども、やっていることは逮捕&拷問。恐怖政治の手先として世間から嫌われまくる錦衣衛の出番である。

主人公は、そんなブラック地獄の公務員三名だ。

劉備・関羽・張飛の「桃園三兄弟」のように、義兄弟の誓いを交わしている彼らは、逮捕のために向かってゆくのである。

主人公

長兄・劉備ポジション:盧剣星(王千源 ワン・チェンユエン)

次兄・関羽ポジション;沈煉(張震、チャン・チェン)

三弟・張飛ポジション:靳一川(李東学 リー・トンシェ)、

『ブレイド・マスター』の原題にある「繡春刀」(しゅうしゅんとう)とは、錦衣衛の公式装備である。

これを見るだけで「ヒィッ!!」と驚かれる刀なのだが……そう、錦衣衛(きんいえい)たちは嫌われ者だった。

続編『修羅:黒衣の反逆』は前日譚。

主役の沈煉の過去に何があったかを描く。

明・万暦47年(1619年)、明朝は女真族との戦いに赴き、大敗を喫してしまう。

それから8年の天啓7年(1627年)、沈煉は怪事件に遭遇する。調べていくうちに、宦官派と反宦官派の政治闘争の影が見えてきた。

果たして、その背後にいた人物とは……?

 

本作の主人公は公務員、敵の側なのです

まず、彼らの職業について語らないと、わかりにくいと思います。

本作はアクションがカッコいいだけに「武侠映画」、「中国のアクション時代劇」で括られがちではあるのですが、これが結構ミスリードなのです。

武侠ものは、民間にいる強い剣客たちが武を以って義侠を達成する世界観です。『水滸伝』を思い出していただければよろしいかと思います。

彼らのアイデンティティは民間人として悪に立ち向かうこと。それゆえ『水滸伝』は、

「梁山泊のみんなが公務員になった後半はいらんよな」

とカットされたバージョンが、中国では定番となっていた時代が長かったほどです。

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それなのに、本作の主人公は公務員。明の宮廷に仕えてお給料をもらっています。

本来の武侠ものであれば敵に回る側なのに、彼らが敵対する側の方が「江湖の義侠」側なのです。

なかなかわかりにくいですが、そこを踏まえて、本作が「武侠映画」に分類されているのを観ると何かが違う。

モンスター側が主人公だったら、ありがちなRPGと同じ舞台設定でも、全く別物になるでしょう。そういう構造なのです。

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錦衣衛という時点で、公務員は公務員でも地獄です

そんな彼らはただの公務員ではありません。

錦衣衛(きんいえい)という「秘密警察組織」です。

彼らを主役としたフィクションはないわけでもありません。ドニー・イェン主演の『処刑剣 14BLADES』(原題:錦衣衛)があります。

それでも少数派です。『処刑剣』だって、元・錦衣衛であって退職後の話だし。

 

錦衣衛のよいところね。せいぜい制服がカッコいいくらい。あと強い。業務内容は真っ黒です。

政治に批判的な人物を監視、逮捕、拷問をする。

そういう恐怖の警察組織だと思ってください。場合によってはこういう処刑を担当していたりもするので。

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本作の主人公たちは露骨に嫌われている場面が登場しますが、それも無理はない。関連検索結果に、ゲシュタポやソ連国家保安委員会が出てくる――いわば憲兵ポジションなのです。

そんな錦衣衛によるさわやかな青春群像劇は当然ありえません。彼らが正義を貫いたら貫いたで……。

「ふざけんなよ、綺麗な錦衣衛なんて死んだ錦衣衛だけなんだよ!」

と、突っ込まれかねないのです。この時点で、お察しください……。劇中で主人公たちは嫌われまくっておりますが、それはそういうものなのです。

というわけで……錦衣衛が主人公という時点で、スッキリ爽快な展開は全く期待できません。それの何が辛いか?

「錦衣衛が死んだってよ」

「へ〜、なんかどうせ悪いことしてたんでしょ」

「ざまあみろ!」

と、同情されそうにもないところですかね。

設定の時点で地獄です。そこにいるだけで嫌。そういう存在です。

 

上司が酷いと部下は辛い

明朝とは、そんな錦衣衛が目を光らせてくるくらい、締め付けが厳しい時代。

皇帝もなかなか個性的な暗君揃いですが、そこに悪徳宦官が関わるとさらに酷くなりまして。

両作ともに、中国史でもワースト宦官候補になる魏忠賢がメインキャラクターとして出てきます。

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こうなると「そんな悪徳宦官から皇帝を救うんだ!」となりますかね……。しかし、本作に出てくる皇帝は、酷すぎる二択です。

【天啓帝】宦官に政治を任せているからどうでもいいよ

【崇禎帝】宦官をぶっ殺すためなら陰謀をどんどんするよ

どちらも酷い。もう、地獄です。そしてこれが切ないことに史実準拠。

本作の感想で「主人公がゲス!」というものがあるのですが……彼らがゲスというより時代ごとまとめてゲスなので、そこは何も望まない方がよろしいでしょう。

時折、中国人の国民性と結びつける偏見もお見かけしますが、そう単純な話でもないのです。

明末はゲスの極み時代だからさ。
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