歴史ドラマ映画レビュー

映画『ブレイド・マスター』&『修羅:黒衣の反逆』レビュー 地獄の公務員よ!

2020/04/28

オススメしたい歴史作品とは思っていながら、なかなか重い腰を上げられなかった。

それが本稿で取り上げる2作品、

【映画】
『ブレイド・マスター』
『修羅:黒衣の反逆』

です。

楽しみながら中国史を学べる――その一方で、内容が複雑ゆえに理解されず、『暗いな……』『ゲスしかいないじゃん』と誤解されてしまうおそれもある。

ゆえに逡巡しておりましたが、自粛生活の皆様に少しでも刺激をご提供できればと思い直した次第です。

というわけで明朝を舞台にした中国映画!

両作品ともアマゾンプライムでご覧になれますので、お取り寄せ食品を注文したついでにでもどうぞ。

基本DATAinfo
タイトル『ブレイド・マスター』
原題繡春刀 Brotherhood of Blades Their Finest
制作年2014年
制作国中国
舞台中国、北京他
時代明朝・崇禎年間(17世紀)
主な出演者張震(チャン・チェン)、劉詩詩(リウ・シーシー)、王千源(ワン・チェンユェン)、李東学(リー・トンシェ)、金士傑(チン・シーチェ)
史実再現度歴史的背景を持つオリジナル作品、かなり真面目な出来、だからこそ……
特徴地獄の公務員ライフ、全然心休まらない!
amazon視聴アマゾンプライムで無料(→link

 

基本DATAinfo
タイトル『修羅:黒衣の反逆』
原題繍春刀II修羅戦場/Brotherhood of Blades 2
制作年2017年
制作国中国
舞台中国、北京他
時代明朝・万暦末から天啓年間(17世紀)
主な出演者張震(チャン・チェン)、楊冪(ヤン・ミー)、金士傑(チン・シーチェ)
史実再現度歴史的背景を持つオリジナル作品、かなり真面目な出来ゆえに……
特徴やはり地獄の公務員ライフ! エピソードゼロも最悪。なお中身は反逆というか陰謀
amazon視聴アマゾンプライムでレンタル500円(→link

 


あらすじ

明朝の天啓7年(1627年)――暗君・天啓帝熹宗が崩御を遂げる。

子がない彼の後継者は、五番目の弟・信王とされていた。

彼こそが明朝ラストエンペラーとなる崇禎帝だ。

崇禎帝は、兄である先帝の威を借り、腐敗政治を行なっていた魏忠賢一派の粛清に意欲を燃やしている。

問題は、その腐敗政治断罪に駆り出される側の嫌な事情だ!

制服だけがかっこいいけれども、やっていることは逮捕&拷問。恐怖政治の手先として世間から嫌われまくる錦衣衛の出番である。

主人公は、そんなブラック地獄の公務員三名だ。

劉備・関羽・張飛の「桃園三兄弟」のように、義兄弟の誓いを交わしている彼らは、逮捕のために向かってゆくのである。

主人公

長兄・劉備ポジション:盧剣星(王千源 ワン・チェンユエン)

次兄・関羽ポジション;沈煉(張震、チャン・チェン)

三弟・張飛ポジション:靳一川(李東学 リー・トンシェ)、

『ブレイド・マスター』の原題にある「繡春刀」(しゅうしゅんとう)とは、錦衣衛の公式装備である。

これを見るだけで「ヒィッ!!」と驚かれる刀なのだが……そう、錦衣衛(きんいえい)たちは嫌われ者だった。

続編『修羅:黒衣の反逆』は前日譚。

主役の沈煉の過去に何があったかを描く。

明・万暦47年(1619年)、明朝は女真族との戦いに赴き、大敗を喫してしまう。

それから8年の天啓7年(1627年)、沈煉は怪事件に遭遇する。調べていくうちに、宦官派と反宦官派の政治闘争の影が見えてきた。

果たして、その背後にいた人物とは……?

 


本作の主人公は公務員、敵の側なのです

まず、彼らの職業について語らないと、わかりにくいと思います。

本作はアクションがカッコいいだけに「武侠映画」、「中国のアクション時代劇」で括られがちではあるのですが、これが結構ミスリードなのです。

武侠ものは、民間にいる強い剣客たちが武を以って義侠を達成する世界観です。『水滸伝』を思い出していただければよろしいかと思います。

彼らのアイデンティティは民間人として悪に立ち向かうこと。それゆえ『水滸伝』は、

「梁山泊のみんなが公務員になった後半はいらんよな」

とカットされたバージョンが、中国では定番となっていた時代が長かったほどです。

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それなのに、本作の主人公は公務員。明の宮廷に仕えてお給料をもらっています。

本来の武侠ものであれば敵に回る側なのに、彼らが敵対する側の方が「江湖の義侠」側なのです。

なかなかわかりにくいですが、そこを踏まえて、本作が「武侠映画」に分類されているのを観ると何かが違う。

モンスター側が主人公だったら、ありがちなRPGと同じ舞台設定でも、全く別物になるでしょう。そういう構造なのです。

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錦衣衛という時点で、公務員は公務員でも地獄です

そんな彼らはただの公務員ではありません。

錦衣衛(きんいえい)という「秘密警察組織」です。

彼らを主役としたフィクションはないわけでもありません。ドニー・イェン主演の『処刑剣 14BLADES』(原題:錦衣衛)があります。

それでも少数派です。『処刑剣』だって、元・錦衣衛であって退職後の話だし。

 

錦衣衛のよいところね。せいぜい制服がカッコいいくらい。あと強い。業務内容は真っ黒です。

政治に批判的な人物を監視、逮捕、拷問をする。

そういう恐怖の警察組織だと思ってください。場合によってはこういう処刑を担当していたりもするので。

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本作の主人公たちは露骨に嫌われている場面が登場しますが、それも無理はない。関連検索結果に、ゲシュタポやソ連国家保安委員会が出てくる――いわば憲兵ポジションなのです。

そんな錦衣衛によるさわやかな青春群像劇は当然ありえません。彼らが正義を貫いたら貫いたで……。

「ふざけんなよ、綺麗な錦衣衛なんて死んだ錦衣衛だけなんだよ!」

と、突っ込まれかねないのです。この時点で、お察しください……。劇中で主人公たちは嫌われまくっておりますが、それはそういうものなのです。

というわけで……錦衣衛が主人公という時点で、スッキリ爽快な展開は全く期待できません。それの何が辛いか?

「錦衣衛が死んだってよ」

「へ〜、なんかどうせ悪いことしてたんでしょ」

「ざまあみろ!」

と、同情されそうにもないところですかね。

設定の時点で地獄です。そこにいるだけで嫌。そういう存在です。

 


上司が酷いと部下は辛い

明朝とは、そんな錦衣衛が目を光らせてくるくらい、締め付けが厳しい時代。

皇帝もなかなか個性的な暗君揃いですが、そこに悪徳宦官が関わるとさらに酷くなりまして。

両作ともに、中国史でもワースト宦官候補になる魏忠賢がメインキャラクターとして出てきます。

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こうなると「そんな悪徳宦官から皇帝を救うんだ!」となりますかね……。しかし、本作に出てくる皇帝は、酷すぎる二択です。

【天啓帝】宦官に政治を任せているからどうでもいいよ

【崇禎帝】宦官をぶっ殺すためなら陰謀をどんどんするよ

どちらも酷い。もう、地獄です。そしてこれが切ないことに史実準拠。

本作の感想で「主人公がゲス!」というものがあるのですが……彼らがゲスというより時代ごとまとめてゲスなので、そこは何も望まない方がよろしいでしょう。

時折、中国人の国民性と結びつける偏見もお見かけしますが、そう単純な話でもないのです。

明末はゲスの極み時代だからさ。

 

こんなマイナーなゲス話を入れるだけでもすごい

で、本作の難点ですが。

難易度が無茶苦茶高い!

酷い時代だと書きましたが、明末というのは本当に憂鬱でして……。

王朝末期、しかも宦官の腐敗で無茶苦茶。北から女真族が迫るわ、朝廷は腐敗しきっているわ。

マイナーかつ爽快感が全く期待できない時代なので、映像化作品は言うまでもなく、関連書籍すら豊富とは言えません。

誰が明末に興味あるんだよ!
そういうツッコミはしておきたい。この時点で、はっきり言って厳しいし、難しいのです。

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『2』は、メインプロットに天啓帝の船遊び事件が組み込まれています。

こんなマイナーでよろしくない話を……よくぞ盛り込んだと感動すらしました。

どういう話かというと、天啓帝と宦官・魏忠賢が舟遊びをしたら、皇帝の方が小さい船でひっくり返ったというもの。

宦官の方が皇帝より権勢がある――そういうどうしようもない話として、記録に残っております。

こんなゲスな話をわざわざ取り上げる時点で、半端ないものがある。ある意味、センス抜群だとは思えるんですよね。

 

銃撃戦と倭刀術だけでも見る価値はある!

本作は考証面でもかなり気合が入っています。

銃が武器として流通しており、部隊単位で射撃しておりますが、当時のことを考えれば当たり前です。日本ならば江戸時代初期ですので、銃はあって当然なのです。

ただ、武侠だと火器は避ける傾向がありますので、この時点で面白い!

もうひとつ、ご注目いただきたい武器があります。

日本刀です。

中国では「倭刀」と呼ばれておりました。

『2』にはこの「倭刀術」、「戚家刀法」を使う女侠・丁白纓(てい・はくえい/演:辛芷蕾 シン・ジーレイ)が出てくる!

実はここがものすごく見て欲しいところでして。「倭刀術」とは、日本の剣術です。

どうして日本刀を使えるのか?

これが興味深い。

倭寇に苦しんだ明朝。それというのも中国では刀剣は廃れており長柄の武器が主流です。

『三国志』の関羽と張飛もそうですし、『水滸伝』でもそう。

けれども、船のような狭い場所での接近戦となると、日本刀に勝てないのです。

そこで戚継光が、日本刀で戦う戦闘術を導入しました。

これが「戚家刀法」なのです。影流の影響が強いとされております。

戚家刀法の使い手というのは、実は武侠ものでもそこまで出てこない。いわばレア。

「戚家刀法」を中国映画で見られるだけでも、強力にプッシュしたいのです。

『2』は前日譚なので、前作を見ていなくても大丈夫です。これだけでも、ぜひ見ていただきたい。

倭刀術は日本の剣術のようで、そうではない。アレンジされていて、素晴らしい。本当にいいんですよ。アクションが全体的に本作はハイレベルかつ斬新です。

武器特性やリーチを考慮していて、アクションはリアリティを追求。ワイヤーアクションでバンバン飛ばすものから進化していて、バッチリ見どころがあります。

銃器あり、集団戦闘あり、倭刀術あり。

倭刀術の使い手が来日して、柳生一族と戦ってくれないかなあ。そう妄想できるほど、おもしろい!!

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むしろゲス時代劇先進性があると思える

そんなわけで、個人的には全力で勧めたいのですけれども……。

設定が暗いし、難易度高いし、ハードルがありすぎて辛いのは否めない。

時代設定が明末、主人公が錦衣衛という時点で厳しいなぁと尻込みしながら、脳内で一人問答してしまう。

「錦衣衛が主人公で、史実重視で、ひたすら暗い。いいよね!」

「そうかなあ?」

「明末の腐りきった時代感をよく描いている!」

「それ、アナタ以外、誰が求めている要素なん?」

「いやあ、この倭刀術がいいよねえ!」

「いや、だから、誰が求めているの?」

「暗い、陰謀まみれ。そういう話があってもいいと思うよね!」

「…………」

実際に感想漁りをすると、チャン・チェンかっこいい、萌え〜……あたりに行くとか、あるいは地味、暗い、わけがわからないで終わるとか。

最近のキラキラした中国時代劇恋愛ものにハマった人には薦められないし、武侠ものの爽快感を求める人にも勧められない。

割と八方塞がりの作品だな。そうしみじみと思えてくる。

ただ、ここまで時代考証が精密で、アクション面でも生々しく魅力的であるとなると、可能性はとても感じられる作品だとは思うのです。

見て欲しい、おもしろい――そう言いたいけれど、強くは勧められない。

そんなドツボのようなお話。

ちょっとでもこのレビューを読んでピンときたら、ぜひご覧いただければと思います。

「ふざけやがって、最悪の気分になった!」と言われたら、「それはそうですね」と返すしかないのですが……。

ただ、時代の先を見据えているという可能性はあります。

 

『成化十四年』の放送に合わせて……

2020年、鳴り物入りのテレビドラマ時代劇として『成化十四年』が放送されます。

イケメン二人が主人公で、ダブル主人公の一人は錦衣衛。イケメンが逮捕、拷問をするのかと思うと胸が熱く……なるかどうかはさておき。

だいたい成化帝年間という時点で、ろくでもない予感がビシビシとしてきます。

ただね……。

そういうゲスな時代劇ブームがこれから来るのかもしれません。

誰の需要なんだよ!

というのは自分で突っ込みたいところですが、そんなゲス時代劇ブームが来た時、本作を見ていればこう笑顔になれます。

「明が舞台で錦衣衛だって? そりゃもうゲスで酷いよね」

その前振りのためにも、ゲスで、勉強になって、そしてアクションが最高な本作をぜひ見ていただきたいところです。

もちろん単にゲスなだけではなく、権力の腐敗とそれに巻き込まれる人間の悲哀も学べます。

映画としては自信を持って勧められる。されど、見た後の精神状態については責任を負えない。

観るも観ないも自己責任――どうかご自身お決めください。

どちらもAmazonプライムで鑑賞できます。

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『修羅:黒衣の反逆』500円(→link


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武者震之助

2015年の大河ドラマ『花燃ゆ』以来、毎年レビューを担当。大河ドラマにとっての魏徴(ぎちょう)たらんと自認しているが、そう思うのは本人だけである。

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