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イギリス料理をマズイと小馬鹿にするのはブーメラン~大英帝国の食文化考

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イギリス料理は控えめに言ってマズイ!
食えるのはHUBのフィッシュアンドチップスしかない――そんなイメージって往々にしてお持ちですよね。

実際、自国民ですら、
「俺らのメシに何を期待してんだ?」
なんてアピールをするぐらいです。

※V8エンジンで料理をし、狂気を見せつけるイギリス人

しかし、イギリスといえば大英帝国という歴史があります。

これはすなわち、イギリス料理が、大英帝国の拡張を通して世界に広まったということ。
植民地支配を通して、外国の食材や調理法が混ざり合った歴史があります。

要は、イギリス人が広めた食文化もあれば、変えてしまったものもあるということで、その中に日本が含まれていることも忘れてはなりません。

イギリス料理を小馬鹿にすることは、すなわち日本の洋食の手本も貶すことになりかねない。
衝撃的ですが、これは本当なのです。

世界に広まった、イギリス料理の歴史とその特質を見ていきましょう。

 

日本人がイギリス料理をバカにできる筋合いはない

「イギリスってメシマズだよね〜〜!」

というネタは日本でも定番ですが、最初にひとつ警告を。
我々が、彼らの食事をどうこう言えた義理はありません。

まず、あげてくる料理がおかしい。

嘲笑的に取り上げられるイギリス料理の代表例が「スターゲイジー・パイ」でしょう。

スターゲイジー・パイ/photo by Krista wikipediaより引用

コーンウォールの漁村で祭りの日に作る、いわばマイナーな郷土食です。

仮にですよ。

和食の代表例といえばコレ!」
と、マタギ料理が出されたら「えー、なんでそこ???」と思いませんか?

もちろんマタギ料理を馬鹿にしているとかそういうことではなく、地方や職業に依拠した、かなりクセの強い料理を恣意的に取り上げるのはおかしいということです。

ちなみに「激マズ料理」として悪名高いハギス(羊の内臓を羊の胃袋に詰めた料理)、揚げマーズバー(マーズというお菓子に揚げ衣を付けて揚げたもの)は、スコットランド料理です。
イングランドとは違います。

次のパスタをフライにするネタ動画も、イングランド人がスコットランド料理を茶化しているわけです。

※イタリア料理パスタを、スコットランド流フライにしてぶち壊すイギリス人

フランス人のアレクサンドル・デュマは『料理大辞典』でもっと的確にイギリス料理をバカにしきっています。
要約するとこんなところですね。

「あのイギリス人ですら、肉を焼く方法くらいは知っているようですよ」

そこまで言わんでも……。

「三銃士」や「岩窟王」を送り出したアレクサンドル・デュマの転落人生

 

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日本の洋食 実はイギリスが大きな役割を果たしており……

文明開化を迎えた明治時代。
日本は料理も西洋から取り入れることにしました。

そこで選んだ国は、イギリスです。
イギリスだけではありませんが、影響は極めて大きい。

「西洋料理を取り入れるのに、よりにもよってイギリスってないわ……」
と、イギリス人ですら突っ込んだ、そんな経緯があります。

今も我々の食生活に馴染み深い、その遺産を見ていきましょう。

1 ウスターソース

日本のソースで代表的な存在「ウスターソース」。
その発祥地はイギリスのウスターシャー地方です。

「そんなマイナーな、さしてうまくもないソースを取り入れるってどういうこと?」

イギリス人がそう困惑する中、日本で定着しました。

2 カレーライス

国民食となりつつあるカレーライス。
これも、
インド

イギリス

日本
という経路で伝播しました。

ちなみにコロッケと肉じゃがも、イギリスから学んだ海軍が広めています。

肉じゃがは、イギリスで食べたシチューを懐かしんだ東郷平八郎が、日本にある食材で作らせたものです(諸説あり)。
国民食・肉じゃがをもたらしたイギリス料理をバカにしてはなりませんよ。

日本海海戦でバルチック艦隊を撃破! なぜ日本と東郷平八郎は戦いに勝てたか?

3 ウイスキー

今や世界でも有名なジャパニーズウイスキー。
これも、スコットランドから竹鶴政孝が学びました。

ブランデーではない。
ラムでもない。
なぜウイスキーなのか?

かつての日本では【イギリスから学んでこそ!】という気風があったからなのです。

ジャパニーズウイスキーの歴史~世界五大ウイスキーになるまでの苦闘150年

4 牛肉

「よし! 今日は奮発してあの肉を食べるぞ」
となったとして、どの肉が一番高級だと感じますか?

牛肉でしょう。
ビーフステーキに憧れる、そんな時代もあったものです。

これも、フランス人あたりからすれば、こうなりかねない。

「肉を焼いただけの料理に憧れるんだ〜へえ〜〜〜!!」

さて、ここで疑念が生じませんか。
なぜ、牛肉?
豚肉ではなくて、どうして牛肉なのか。

答えはイギリスです。

『古き良きイングランドのローストビーフ』という歌があります。

 

イギリス海軍ではおなじみで、よく歌われ、現在でも演奏されるものです。

強きローストビーフがイギリス人の食物であればこ
我々の血肉を豊かにし、奮い立たせたものである
我らが兵士は勇敢であり、家臣たちは善良であった
おお! 古き良きイングランドのローストビーフよ、
おお、ローストロビーフ万歳

一体何を言っているの?
意味不明……。

と、ツッコミどころ満載かもしれませんが、イギリス人は
「牛肉を食ってこそ戦えるんだーーー!!」
とテンションを高めてきました。

我々の牛肉崇拝はイギリスから学んだものだったのですね。

実は、こうした状況はアジアでは例外的です。

東アジアで「牛肉と馬肉」は、一段下とされて来ました。
どちらも農耕や移動に用いる動物という扱いだったからです。

純粋に食べるお肉は豚肉。
牛肉と馬肉は、食べないわけでもないが、ちょっと落ちる。そういう扱いです。

牛肉こそ嬉しい――そう言っている時点で、あなたはイギリス食文化の影響下にあるんですよ!!
まさにブーメラン!!

美味で名高い米沢牛も、この地に赴任したイギリス人教師チャールズ・ヘンリー・ダラスあってのもの。
彼は米沢農耕牛の味に感激し、これからは牛肉だと熱烈に主張しました。

任期が終わった際わざわざ横浜まで一頭連れて行ったのです。

そしてイギリス人にふるまったところ、
「めっちゃうま!」
と大評判になったとか。

米沢牛の恩人であるイギリス人の味覚をバカにするの?
けしからんことではありませんか。

 

なぜイギリスだったのか?

ここで当時のイギリス人ですら抱いていた疑問を考えてみましょう。

「西洋料理を学ぶなら、イタリアやフランスではダメだったの?」

背景にあったのは政治情勢にほかなりません。

江戸後期以降、日本人は漠然とナポレオン、そしてその祖国フランスに憧れていました。

幕末のナポレオンブーム『那波列翁伝初編』を耽読した西郷や松陰

それが、普仏戦争を目の当たりにして、フランスは終わったな……とテンションが低下していきます。

不名誉な廃位に追い込まれたナポレオン3世 わずか4ヶ月で普仏戦争に負け皇帝制を終わらせる

中でも海軍は、当時世界最強と名高いイギリスをお手本としました。

イギリス海軍の強さの秘訣には、壊血病を防いでいた食料供給も含まれていたのです。
カレーも、まずは海軍から広まりました。

イギリス海軍の歴史~海賊行為で世界を制し海洋国家を樹立してから

そうした政治および軍事面の影響が、食文化にも及んでいるのです。

とはいえ、日本がフランスを取り入れなかったわけでもない。

警察組織は、川路利良の強い意向もあり、フランスを手本としています。

薩摩藩士・川路利良が導入した近代警察制度とは? フランス→イギリスの歴史から振り返る

しかし、食文化はややこしいものでして、すっきりしない、ごちゃまぜです。
だからこそ面白いのです。

九州地方には、戦国時代に宣教師が来日して以来、ポルトガルとスペインを由来とした食文化が根付いてます。

カステラが代表例です。
鶏卵を食べるようになったのも、宣教師の影響があります。

信長・秀吉・家康たち天下人が愛した「菓子」そして甘美は全国に広まった

外国人宣教師から見た戦国時代のニッポン 良い国?悪い国?鴨ネギな国?

北海道ではロシア料理も根付きました。

ロシア革命後は、亡命ロシア人貴族による食文化がもたらされたからです。
神戸のモロゾフやゴンチャロフがその代表例ですね。

ロシア革命の微妙な百周年 プーチン大統領も発言を避けたくなる理由とは?

明治時代、西洋諸国の正式なディナーはフランス式。
日本の皇室でも採用され、現在まで続いています。

ただし、テーブルマナーはイギリス式という混乱があります。

フランス料理は高級過ぎて、庶民には高嶺の花でした。

第一次世界大戦の後、ドイツ人捕虜が日本でも収容されました。
彼らを通して、ドイツでのソーセージ、パン、バームクーヘンが伝えられています。

伝えらたのは「第九」だけではなかったのです。

第一次世界大戦のドイツ人捕虜がベートーベン「第九」を国内初演

アメリカからは、トマトケチャップやハンバーガー。

イタリアからは、パスタやピザ。

このように、他の食文化の影響もあります。

しかし、そこを踏まえても圧倒的に大きいのがイギリスです。ここは認めましょう!

 

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あの大陸料理が羨ましいんだよ!

しかし、こうも思ってしまいます。

なぜ料理だけを、ピンポイントでフランスをお手本にできなかったのか?

これも難しい問題ですし、日本人の思考回路もあるでしょう。

「武士は食わねど高楊枝」

粗食に耐えてこそ、強い武士である。
そういう発想は、太平の世であった徳川時代を通しても根付いていたことでした。

平安時代まで遡っても、紫式部がコソコソ鰯を食べていたような、そういう歴史もあるわけです。

日本人なら知っておきたい和食の歴史~イワシ大好き紫式部、懐石料理は利休から

食べ物にこだわるなんて、ちょっとカッコ悪い。
そういう意識が日本人の中にあったとしても、不思議はありません。

これがハッキリするのは、中国と比較した時です。

「食事をケチる奴は話になりません」

「俺にうまいスープを食わせなかったあいつらは、もう滅びるしかないよね」

中国料理の歴史がマジぱねぇ!下手すりゃスープ一杯で国滅びます

彼の国では、食べ物に強い執着があってこそ、大人(たいじん・立派な人)なのです。

イギリス人は、フランス人に複雑な感情があるものです。

以下は侮辱語ですから、絶対に使ってはいけませんよ。

“Cheese-eating surrender monkeys”(チーズ食って降伏する猿ども)

うまいチーズを食って、すぐに降伏しやがるフランス人どもめ、あいつら弱いよな、うまいものばっかり食っているからダメなんだよ。
そんな複雑な心理も見えて来ます。

裏返しますと、
「フランス料理はうまいよな〜、勝てねえ!」
という気持ちがある。

EU離脱投票でも、残留派はこう言っていたものです。

「イギリスがヨーロッパから孤立すると、ただでさえ酷い飯が悪化するぞ!」

さてこの関係。
食にこだわりと歴史がある大陸と島国という関係は、似ていると思えませんか?

そうです、日本と中国です。

アジアでは例外的なほどにイギリスの影響が大きい――そんな日本のような食文化と先程書きましたが、数少ない文化圏があります。
イギリス領だった香港です。

そしてこれを指摘するのは大変辛くなって来ますが、書きましょう……。
イギリスとアジアの食文化の融合において、香港の方が上手ではないか?と、どうしても感じてしまうのです。

その好例なのがエッグタルトと鴛鴦茶(えんおうちゃ・コーヒーと紅茶のミックス)
絶品です。

エッグタルト

もちろん日本のカレーも、ウイスキーも、素晴らしいとは思うのですが、それを踏まえた上でも香港の食文化には嫉妬の目がギリリリ……ハッ!

島国が大陸食文化に嫉妬?
これもイギリス的ではないですか。

長くなりましたが、日本人がイギリスの食文化をどうこう言えた義理は、歴史的に見てありません。
そこは把握しておきましょう。

 

自虐ネタでイギリス人に勝利できない

イギリス料理のメシマズネタは、イギリス人自身に任せておきましょう。
自虐をすることで、イギリス人に勝利できる者がいるとは思わない方がよいでしょう。

イギリス人俳優といえば、紳士的でハンサムというイメージが日本であるようですが、そういう単純な話でもありません。

「イギリス人俳優ってなんか悪いよね」

「あと、よく死ぬ(劇中で)」

おいっ!
いやいや、これがイギリス人自身がネタにしたいイメージかもしれません。

こちらが「ハリウッドはイギリス人を悪役にするよね!」というネタを逆手にとったジャガーの広告です。

そんな悪役のイギリス人は死にやすい。

中でもレジェンドがこちらです。

 

イギリスの国民的俳優であるショーン・ビーンと言えば、死ぬことで有名。
しかも牛に追われて死んだりする他、斬首、八つ裂き、とレアなものが多い。

『ゲーム・オブ・スローンズ』での退場後は、
「あいつがむしろ死なないと思っていたのか? あれは歩くネタバレだよ」
とネタにされたほどでした。

そんなショーン・ビーンの伝説をご覧ください。

「真のナレ死を披露しよう! それはナレーターが死ぬことです!」

 

『ヒットマン2』では「きみもショーン・ビーン殺害にチャレンジ!」イベントが実装されました。

 

「ハリウッド映画で惨殺されてこそ、イギリス人俳優だ!」

そう言いたげなノリノリのイギリス人に、誰も勝てるわけがありません。

ちなみに死にキャラ宝庫である『ゲーム・オブ・スローンズ』の出演者は、ほとんどがイギリス人です。これはもう、十分国民性でしょ。

※閲覧注意

「クールジャパン」の元ネタである「クールブリタニア」も、イギリス人自らが一蹴しました。

「本当にクールな奴は、自分からクールって言わないよね」

以上です。

自虐ネタの一環であるメシマズネタで、本場に勝利できるわけがありません。
あきらめましょう。

※国民的児童文学をぶち壊したこの映画化に驚きの声がありましたが、むしろイギリス人に何を期待していたのか?という話なのでs

 

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メシマズ理由を考察◆有史以来不味かったわけでもない

ここからが本題です。

なぜイギリス料理はマズいのか。
歴史的要因から考えていきましょう。

ヨーロッパの歴史を紐解きますと、イギリスは有史以来食事が粗末であったわけではありません。

文明が交錯するローマ帝国領。
その西の端にあったイギリスは、その他辺境と大差ないと認識されていました。

イギリスも、フランスも。
程度の差はあれ似たようなもの。

むしろシェイクスピアの生きていた頃には、
「イングランド人は食い道楽」
とすら思われていました。

シェイクスピア劇でも有名なリチャード3世の遺骨を計測した結果、なかなかの美食家であったと判明しています。

ダ・ヴィンチやビスマルクはどんな料理を食べてたん!?『歴メシ! 世界の歴史料理をおいしく食べる』

しかし、歴史の流れで差がついていきます。

 

◆フランスが圧倒的リードを広げたのはあの王妃のおかげ

フランス王・アンリ2世に嫁いだカトリーヌ・ド・メディシスは、不幸な結婚生活でした。

「王妃相手ではムラムラしない。愛人に興奮させてもらってからでないと、子作りすらできない」

露骨にそういう態度をとられたのです。

中世フランスの美魔女ディアーヌ・ド・ポワチエ 19歳若い王を魅了した生き方

性欲という人間の欲求については、そういう諸事情があったカトリーヌ。
しかし、もう一つの欲求には絶大な貢献をしました。

それこそが食欲です。

今度はクレオパトラやチンギス・ハンのお食事も!『英雄たちの食卓』遠藤雅司(音食紀行)書評&実践レポート

アイスクリームをはじめ、嫁ぎ先のイタリアから、古代ローマ以来の伝統を受けつぐ、絶品レシピ、食材、調味料を持ち込んだカトリーヌ。
そのおかげで、フランス料理は大きく進歩を遂げます。




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美食大国は、この不幸な王妃によりもたらされたのです。
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