革新的な「シン・大河になる」として、放送前は何かと盛り上がっていた、2023年の大河ドラマ『どうする家康』。
映画『レジェンド&バタフライ』は、その現象を表す好例でしょう。
『どうする家康』と同じ脚本家によって、三英傑の織田信長が描かれ、主演はジャニーズ。
地元の祭りに参加をすれば数十万人の見物客が集まり、前年大河『鎌倉殿の13人』の最終回では『吾妻鏡』を読む家康が登場したり、事前の盛り上がりは最高潮でした。
それだけに各メディアでも
「これは傑作になるぞ!」
と鼻息荒かったものですが、私の中では疑念が高まるばかりでした。
予告映像や番宣を見ている限り、とても戦国好きや大河ファンが堪能できる作品になるとは思えなかったのです。
だからこそ私は以下の記事にてドラマの仕上がりを「凶」と事前予想していましたが、
2023年大河ドラマ直前予想『どうする家康』はどうなる?消せない懸念
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結果は、予想をはるかに凌駕してきました。
「凶」どころか「大凶」すら超える「大々凶」だったのです。
なんせ視聴率は大河史上ワースト2位を記録。
ワースト1位『いだてん』の主役知名度を考慮すれば、『どうする家康』が事実上のワースト記録と言っても過言ではないでしょう。
徳川家康という超鉄板素材を主役にしておいて、この体たらくはあり得ません。
※以下はどうする家康の全視聴率まとめ記事となります
どうする家康全48回の視聴率速報&推移! 過去7年分の大河と比較あり
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では、本作のいったい何がそんなに酷かったのか?
大河ドラマの未来のため、総集編としてまとめておきたいと思います。
※今回はドラマの前半部(1~25話)を送り、続きは12月29日昼に公開します
なぜこの大河は失敗したのか?
なぜ『どうする家康』は失敗したのか。
原因は何だったのか。
もちろん複合的な要因が絡まって最悪の展開になったとは思うのですが、最近の傾向として特に注目しておきたいのが「ネット依存」です。
2023年末、こんなニュースがありました。
◆ NHK取材メモ流出 派遣スタッフ「SNSの盛り上がり見たかった」(→link)
NHK記者の取材メモがネットに流出した件で、派遣スタッフが以下のように答えているのです。
「SNSが盛り上がるのが見たくて興味本位でやった」
SNSでの盛り上がりのため、何かを犠牲にする――思えば2023年はそんなニュースばかりでした。
回転寿司店で醤油さしを舐める高校生ならまだしも、大のオトナまでもがなぜそんな愚行をしでかしてしまうのか。
実は『どうする家康』もまたそんな世相と合致したドラマと言えます。
SNSでの盛り上がりを都合よく切り取ったコタツ記事が出て、ドラマがさも盛り上がっているかのように誘導され。
ネットニュースと視聴者が共犯関係のような状態になり、ドラマの評価まで左右されるようになる。
近年の大河ドラマや朝ドラでは割とよく見られる現象となりつつあり、その始点は大河が2012年『平清盛』であり、朝ドラが2013年『あまちゃん』でした。
『平清盛』は視聴率が低迷する一方、Twitter(現X)のハッシュタグは異常に盛り上がった。ファンアートが神社に奉納される程の人気で、あれから10年以上経っても
『平清盛』という作品を認めていた自分の見る目がいかに正しかったか
を主張する人がいます。
彼らの中には翌年の大河『八重の桜』を必要以上に貶める人もいて、個人的には見苦しさを感じていましたが、その答え合わせが今年だと思えました。
『どうする家康』のプロデューサーが『平清盛』と同じ磯CPだったのです。
彼の立場からすれば、視聴率が低迷した『平清盛』を徹底分析して、次に活かすべき場面でしょう。
徳川家康をどう描くのか。
ネットの評価に惑わされるような事態だけは避けて欲しい。
しかし実際は、無反省のまま改善すべき点を悪化して引き継ぎ、『平清盛』の長所を捨てたのが今回の『どうする家康』のように思えてなりません。
おそらく大河視聴者のほとんどは、SNSやブログで発言するようなことはなく、近づくとしても眺める程度でしょう。
ネット上では一部のファンが投稿を執拗に繰り返し、ときには複数のアカウントを使い、偏った“民意”が形成されることがあり、それが制作サイドに伝播することを危惧していました。
視聴率やNHKプラスなどの数字を気にするあまり、中身など関係なく主演を見るファン層への需要ばかり考え、作品のクオリティを上げる努力が放棄されてはたまったものではありません。
そして結果は、こちらの懸念がドンピシャ当たってしまったような印象です。
磯CPや脚本家は『どうする家康』で掠りもしなかった家康の愛読書『貞観政要』を学んで欲しいものです。
『光る君へ』で一条天皇も愛読の『貞観政要』は泰時も家康も参考にした政治指南書
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というわけで第1話から振り返ってみましょう!
第1回:デカい主役が走り回る悪夢
前年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』に、主役世代の子役はいません。
序盤の三浦義村や実衣は相当無理がありながら、三谷幸喜さん大河の慣例でそのまま起用されました。
それでも、主人公の子供世代となると子役が起用されます。
まだ幼い子役から、童形のまま本役となった金剛(のちの北条泰時)。初登場時にはこんなテロップが出て、話題をさらいました。
「成長著しい金剛」
そうはいっても、そこは坂口健太郎さんです。子どもらしい所作を工夫していたとは思えます。
一方『どうする家康』では、松本潤さんがいきなり「竹千代」としてはしゃいで遊ぶ姿が映されました。
これは一体どういうことか?
突然の幼稚な描写に、目を逸らしたくなった視聴者は私だけではないでしょう。
確かに『鎌倉殿の13人』で主役の北条義時に子役はいませんでしたが、そもそも北条政子と源頼朝の出会いから動向が追える北条一族と、徳川家康とでは、状況があまりにも異なります。
家康を描くならば、竹千代の幼少期の逸話から始まることが当然なのに、なぜ子役は起用されなかったのか?
大河ドラマでは子役が話題を集めて数字につながることも期待できる。
なのになぜ、どう見ても姿かたちがオトナの竹千代に人形遊びをさせたのか。あれで一気に視聴者を減らした可能性は否定できないでしょう。
いくら松本潤さんのファンであっても、見てられないほどの恥辱だったとも思えます。
残念ながら、この子役カットは最終回まで祟ります。
最終回では、家康そっくりだという竹千代(後の徳川家光)が出てきます。
大河のお約束では、こういうとき主人公の子役再登場なのですが、そうはならず。
不可解なことに、回想シーンで登場する家康の子役はいます。あまりにも不自然です。
・現実逃避がしたいんだもん!
初回ではいきなり家康が戦場から逃げたとされます。
いくらなんでも総大将のすることなのか?
他にも、しばしばゲスい人間性が描かれる脚本。この点については、断固として揺るがないまま最終回まで完結しました。
もはや大河ではなく汚泥ドラマです。
・物理法則を無視した遺体損壊
本作では、初回から今川義元が討ち死にしました。
スケジュールが詰まっており、あまり長く出られなかったとか。第1回VPともいえる真っ当な義元が消えるとはどういうことなのか。
しかもその生首を、馬に乗った信長が投げる。
兜首の重さすら理解しない。死者への敬意もない。
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墓石を蹴ってイキっているような、人としての常識なきスタッフがいると、この時点でわかりました。
第2回:兎と狼でBL♪
「兎と狼」という意味不明なサブタイトル。
まさかカップリング表記をふったネタだとは思わないわけじゃないですか。
初回は瀬名とイチャイチャ。で、2回目からはボーイズラブの仕込み。
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・SNSが荒れていたのは序盤から
今年の特徴として、大河に絡むSNSファンダムの荒廃があげられます。
序盤から危険な兆候はありましたが、完全に自業自得でしょう。
主演のファンをモロに引き込もうとしている。
ポスターはじめ、本作のビジュアルイメージカラーは淡い青か、白でしょう。それがどういうわけか、大河ドラマ館では紫が用いられました。
このドラマを熱狂的に褒めるSNS投稿には、紫のハートマークが並びます。
主演のテーマカラーなのです。
そりゃあ公式がそういう目配せをしたら、大河ドラマが主演ファンクラブの延長線になるでしょうよ。
それが悪の元凶なんです。
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第3回:えびすくい♪
初回からしつこいほどに披露されたえびすくい。
もう、この単語を打ち込むだけで目眩がします。
なんでも磯CPのこだわりだそうで……そんなに好きならご自身のTiktokで披露してりゃいいのに、早くも第3回で出てきました。
えびすくいを流行語にでもしたかったんですかね。
NHK公式メディア「ステラ」でこんな自前提灯を書かせるあたり、恥を知らぬというのは恐ろしいことです。
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大森南朋演じる酒井忠次の海老すくいの3連発とか、ラストシーンで家臣たちに「どうする!」を連呼されるシーンなどはこれまでの大河ドラマにはなかった演出だった。
磯CPの意気込みが、そんなところからも伝わってくる。
・このころからトレンド1位にシフトする提灯記事
第3回目の放送を迎えたところで、中身など何もない。
視聴率もガタ落ちなので「トレンド1位」でアクセス稼ぎを始めました。
何を考えているのか。いや、何も考えていないのか。
家康の生涯を描くうえで三河平定より、えびすくいが大事だなんて、どうしてそんなことになるのでしょうか。
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第4回:清須城がまるでパチモン紫禁城
信長のいる清須城へ出向いた家康と家臣団。
「まるで紫禁城だ!」として放送直後から大いに話題となりました。
「いやいや、中国ドラマの紫禁城はあんなにしょぼくないよ」という指摘もありますが、問題はそこではありませんよね。
時代考証の芝氏も「(できあがった映像を見たら)紫禁城みたいで驚いた」と言ってるほどです(読売新聞→link)。
要するに、発注する制作スタッフにしても、注文を受けた制作会社にしても、あまりに知識がない。
なぜ引き受けたのか?と質問したいほどのレベルです。
現在、VFXは海外チームに発注することが定番ですが、それでもここまでの大失敗はありません。
ちなみに清須城だけでなく、本證寺もRPGに出てくる砦のようでした。
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・北の空に太陽が登り、南に虹が出る
放送回は違いますがVFXについては「虹があり得ない方向に出ている」というお粗末な間違いもありました。
誰も気づかなかったのでしょうか。
さらには、また別の放送回で「北の空に太陽が輝く場面」も指摘されています。
どういう体制でドラマ作りをしているのか? チェック担当はいなかったんですかね。
・コーエーテクモゲームスは逃げて正解
「どうする家康 VFX」
こんな風に検索をかけると、制作サイドからの言い訳、弁明記事がゴッソリ出てきます。
働き方改革だとか、革新的だとか、見る側にとってそんな話はどうでもいい。
要は、普通にきちんとしたものを作ってくれということです。
このドラマは「VFX撮影は自分たちから始めている」と言いますが、10年前『八重の桜』の時点でモーションキャプチャー兵士の導入や、フルCGの鶴ヶ城が出てきています。
まぁ、問題はそういった技術ではなく、基礎的な日本史知識の話だったりしますよね。
『真田丸』『鎌倉殿の13人』のように、コーエーテクモゲームスの協力があれば、こんな無様なことにはならなかったのでしょう。
ちなみにコーエーテクモゲームスは映画『首』ともタイアップしています。
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・とにかく“無理矢理でも擁護”する
清須城の描写があまりにもおかしい。
誰が見たってそうだからこそ、いわゆる炎上騒動となり、批判が殺到しました。
一方で、無茶苦茶な“擁護”も出てくるのが本作の特徴。
『どうする家康』の公式ノベライズを担当する著者が、あまりに強引な見解をこちらに掲載しています。
◆ 仮面が登場するドラマが続々 『どうする家康』での必然性と遊び心 冒頭の絵にも注目(→link)
一方、信長は恐怖の魔王的なイメージだ。
清須城の表側は妙に乾いた荒野のようで、灰色で、緑がまったくなく、異国のように見える。内側に入るとやや緑もあったが、入り口と広場のビジュアルはこれまでの時代劇ではあまり見ない。
アジア映画のように感じたが、この頃の城はいわゆる日本の城ではなく、京都御所のような平地に広く作られていたそうだ。
それにしても緑がなさすぎて不安感があるわけは信長のこれまでの武将たちとは違う存在感の現れであろうか。
おかしいならおかしいと、ハッキリ指摘しませんか?
なぜ、こんな奥歯に物が挟まったような物言いになるのか。
まぁ担当編集から、そういう原稿に仕上げろ、という発注が来ているのかとは想像できますが。
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