『おんな城主 直虎 完全版 第壱集 [Blu-ray]』/amazonより引用

おんな城主直虎感想あらすじ

『おんな城主 直虎』感想レビュー第37回「武田が来たりて火を放つ」

2017/09/18

こんばんは、武者震之助です。

◆ おんな城主 直虎:“虎松”菅田将暉がついに解禁 新ポスタービジュアルのテーマは「未来へのバトン」(→link

ついに新ポスターもお目見えです。

きりっとした表情の井伊直政にも注目したいところですが、やはり気になるのが直虎の表情です。

前半ポスターのきりっとした凛々しい顔とは違う、多くの悲しい別れを体験した、そんな年月が刻まれているようです。

昨年の『真田丸』のポスターもそうでしたが、主人公の過ごした歳月や経験が表情の違いとなって積み重なる、そんな変化が素晴らしいと思います。

ポスターには映っていませんが、どこからか直親と政次が見守っているような気もします。

そんなしんみりした気分を吹っ飛ばす、「武田が来たりて火を放つ」のサブタイトル。

ヒャッハー! 遠江は消毒だー!

そんなマッドマックス的内容しか想像できません。もうやめてください。

 


キレた信玄が遠江への侵攻を開始!

さて本編です。

井伊家再興をあきらめた井伊直虎は、還俗し龍雲丸と生活を送っています。

百姓としての暮らしは穏やかで、それなりに満ち足りたものでした。

粗末な百姓の衣装を身にまとっても、輝くように美しい直虎にはうっとりさせられますなあ。眼福眼福。

しかし魔の手は迫ります。

徳川家康が今川氏真と和睦したことに怒っていた武田信玄が、遠江に侵攻を開始したのです。

元亀3年(1572)、井伊谷の人々は、そんな迫る危機の中平和な暮らしを送っています。

瀬戸方久は刺繍に商機を見いだし、刺繍が得意なあやめの婿となります。

これで唯一定まらなかったあやめの結婚相手が決まりました。

 


「とわも、ともに(堺へ)行かぬか?」

井伊の民はたくましく暮らし、祐椿尼は龍潭寺に身を寄せています。

直虎は、龍雲丸に会いに来た元龍雲党のたまきを浮気相手と勘違い。長芋でポカスカと龍雲丸を殴りつける仕草が豪快かわいい。

たまきは堺に逃れた元気賀商人の中村屋から、書状を預かっていました。

商人がおさめる大都市、堺。そんな夢のある場所に、龍雲丸が思いをふくらませます。

直虎が魅力を感じているのは、そんな大きな夢を見ている彼の姿でした。

「よいのではないか。頭の性に合うた話だと思うぞ」

「とわも、ともに行かぬか?」

龍雲丸の言葉に対し、行けるわけがない、井伊を離れるのはあまりに罰当たりだ、と拒む直虎でした。

菩提を弔わねばならないのに、還俗したうえで、故郷を捨てるわけにはいかない、と言うのです。

負い目はないのかと直虎から尋ねられた龍雲丸は、ここで炭を焼いていてもどうにもなるわけじゃねえし、と言います。

「あんたがここで百姓してたって、但馬様が生き返るわけじゃねえし」

そんなことは一番知っていると言い残し、立ち去る直虎でした。

 

小野政次が指摘した通り、高瀬は間者だったのか!?

近藤が城主となった井伊谷城に、行商人が訪れていました。

男は高瀬の顔を見て正体をあらわします。

武田の間者でした。

「しかし、井伊はもう滅びましたし」

「だから、今の城主を殺して欲しい。しくじれば命はないと思え」

ここで再浮上した、高瀬武田間者説!

小野政次の睨んだ通りでした。高瀬は果たして恩義ある近藤を殺せるのでしょうか。

直虎は祐椿尼に龍潭寺まで呼び出され、堺にはいつ行くのかと急かされます。

孫を抱きたいから、これがラストチャンスなんだから龍雲丸を手放さずについていけ、と迫る祐椿尼。孫欲しさに強引に迫るような言葉ではありますが、これも彼女の優しさですね。

堺から井伊にひょいと戻れるとは思えません。

こう言えば、親孝行のためだから、誰かのためだからと直虎が思うだろうという、背中を押す優しさです。

直虎は自分のためではなく、誰かのために生きようとする性格です。

そんな娘だからこそ、多少デリカシーに欠けた背中の叩き方をしなければならない、と。愛ですねえ。

 


上杉謙信は動けない もはや織田も徳川も為す術ナシ

堺行きを今回は断ろうかと龍雲丸が考えているところに、直虎が戻りました。

直虎は行くと決めたと、龍雲丸に告げます。

2人は、祐椿尼に堺行きの決心を伝えます。堺出立は来年になると告げられ、祐椿尼は喜ぶのでした。

そんな中、武田のヒャッハー、もとい遠江侵攻が開始されました。

徳川に殴り込みをかけつつ、織田にもパンチを放つ凶暴すぎる武田。

しかも上杉は一向一揆に手間取り動けないという、絶体絶命のピンチです。

なんなんだ、このまがまがしい集団。

あの本多忠勝すら「丸裸ではないか」とうつろな笑いを漏らすこの状況に、家康は碁盤を前に現実逃避寸前だ!!

 

織田を見限って武田に付こうとした、そのタイミングで……

直虎と龍雲丸は、南渓らから堺出立を急かされます。

しかし二人とも断り、井伊谷の民を逃すために働きたいと決意を語ります。

ここは全力で、どう逃げるか。近藤に降伏を促すか。皆で知恵を絞るのでした。

武田は破竹の勢いで進軍を続けます。

織田信長からの援軍も到着しそうにありません。家康はもうここは遠江を割譲して和睦してしまおう、と言い出します。

「織田だって滅ぼされそうだし、ここで織田を見限って武田につけばいいじゃない!」

よっしゃ、ここは思い切ってそうしちゃえ、織田には誤魔化せばいいや……と思っている所に、やってきたのは佐久間信盛。ものすごくいい顔をしております。

しかも二万の相手に援軍の兵が1000名って……焼け石に水というか、何というか。

敵に包囲網を敷かれて動けない信長が今できる精一杯の助力なんでしょうねえ。

「……これはもう、戦うしかございませんなあ」

かつてないほどうつろな顔で出撃する徳川勢。

 

焼き味噌ジョーク、しかみ像ポージング

始まりました武田vs徳川。

合戦シーンは、ヒャッハーしながら走り回る、武田マッドマックス軍団の映像のみです。

そこで徳川家の皆さんが顔芸をしまくって、この危機的状況を伝えるしかない、と。

そうやって討って出た直後、画面が切り替わるとボロボロになって、「ぶほっ!」と放屁しながら家康敗走。

今回は方久のプロポーズシーンのエコーといい、この放屁音といい、なんだか音響効果、変な方向で頑張っていませんかね。

「臭い! なんか漏れていませんか!?」

家康の尻のあたりから漂う異臭に気づく家臣たち。

戦国ファンにはお馴染みのアレですね。

三方ヶ原の戦い定番、家康のウンコ漏らしエピソードです。

武田信玄のイメージイラスト
三方ヶ原の戦い1573年|なぜ家康は信玄に無謀な戦いを挑んだのか

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「焼き味噌じゃ! 焼き味噌が落ちたのじゃ!」

放屁のSE、焼き味噌ジョーク、しかみ像ポージング、「家康は脱糞をするほどの、大敗北を喫したのじゃ」というキレキレのナレーションで、三方ヶ原の戦いが終わりました……。

脱糞もしかみ像も、後世の創作というのが有力ですが、本作は敢えてわかって入れている演出である気がします。

武田信玄や織田信長の衣装スタイルもそうですが、皆がイメージする像をあえて取り入れる部分があるんですね。

「史実ではわかっていますけど、このほうが面白いでしょ」

そういうポーズがちゃんとできるのが、今年の強みです。

調べて、わかった上で遊んでいる。そう視聴者に伝わるんです。

受け手との信頼関係が構築できている作品だと思います。

浜松城に展示されている徳川家康の「しかみ像」photo by 戦国未来

コチラは実物版の「しかみ像」photo by 戦国未来

 

直虎たちの工作で百姓たちは逃散完了

井伊谷の百姓は、直虎らの工作によって逃散完了しました。

川名の隠し里は異次元ポケットというか、もはや何でもアリだな、と思わないでもありません。

行く手を必死で探し回る近藤は、龍潭寺に駆け込みます。

南渓たちは

「皆戦いたくありませんしね~」

「井伊谷の百姓は逃散得意ですしね~」

とシラを切り通します。

「ここはいっそ、武田にくみしてはどうだろうかのぉ」

シレッと促す南渓和尚。

さらに弓を空射ちして挑発する傑山。

これに対し近藤は傑山に迫り「空射ちは怪我をするぞ!」そう凄むのでした。

ここで「無礼者!」と言うのであれば、近藤は小者感溢れるんですけどね。こういう細かいところで筋を通すから、この人は嫌いになれなくなってくるんですよ。

 

近藤に毒を飲んで欲しくないのは何故だろう?

そのころ、近藤暗殺指令をくだされた高瀬は挙動不審です。

かわいい高瀬を苦しめる武田が憎い!!

一方、直虎と龍雲丸は、中野直之と協力して井伊谷城に潜入しました。

さて、どうするつもりか?

高瀬は近藤の食事に毒を盛ります。ここで近藤が口をつけるのか、どうするのか。

ハラハラさせられます。

あれ、何故だろう……近藤に毒を飲んで欲しくないのは何故だろう?

高瀬に逃げるように優しく促すし、近藤っていい人なんですよね。

近藤が食事を口にする寸前、武田襲来の知らせが入ります。

高瀬は口をつけなかった椀を取り捨てに行きます。

近藤が家臣に報告を受けていると、何者かがこう言い放ちます。

「それでもまだ戦うおつもりですか?」

男装し、潜入した直虎でした。

 

「井伊谷城にだけ奇跡が起こるとお思いか?」

直虎の声と同時に、中野直之が近藤の喉に刃をつきけます。

この場面、柴咲コウさんの目力、低い声、男装の麗人ぶりが際立ちます。

二千で守る二俣城も落とされた、五百の井伊谷城は持たない。

そう分析する直虎。

第15回で直之に変装した時もしみじみと思ったものですが、柴咲コウさんの男装姿の美しさは、キラキラと光を放つようで見惚れてしまいますね。

豪華絢爛な衣装を着た時よりも美しい気がするんですよね。

ポスト天海祐希さんと言いますか、この路線をもっと見たいです。

綾瀬はるかさんは『八重の桜』で女戦士役に開眼し、『精霊の守り人』で主演をつとめています。柴咲コウさんにもこの路線で何かドラマ作りませんかね。ここで終わりじゃもったいない!

「井伊谷城にだけ奇跡が起こるとお思いか?」

直虎はそう言います。

あぁ、彼女は変わってしまった……。

 

奇跡は起きない だからこそ厳しい決断を

幼い頃から、可能性をこじあけ、無理矢理にでも答えを見つけてきた直虎。

城主になって以来、不可能を可能とできるはずだと挑み続け「なんとかなるじゃろう!」と言い続けた直虎。

そう信じても、肝心な時に奇跡は起こりませんでした。

愛する者は死に、家は滅びてしまった。ここまで生きてきてはっきりとわかったのは、奇跡は起きないということ。

奇跡を待つより、現実を。

無力な者なりの、解決策を。

最小の犠牲で切り抜けることの重要性を、直虎は学びました。

だからこそ、直虎は降伏を迫ります。そして近藤も決断を下しました。

「三十六計逃げるにしかず、か。よかろう、そなたの言う通り皆とともに逃げよう。ただし帰順はせぬ!」

近藤は武田に城を渡すことだけは拒みました。

直之は苦悩の表情で「ここが落としどころでしょう」と直虎に告げます。

城を敵に渡さないために燃やすのは常套手段ともいえます。意地と命のせめぎあいの落としどころと言われればその通り。直虎は目を見開いて燃えさかる城を見つめます。

直之は逃亡の指揮を執る一方で、直虎は高瀬と龍雲丸を救いに城内に戻りました。

龍雲丸は炎に吸い寄せられるようにさまよっていた高瀬を救出し、直虎と合流を果たします。

燃えさかる井伊谷城で焼死した者はおりませんでした。

しかし、これだけの被害で終わるのでしょうか。

高瀬の件も、堺行きも、結論は先送りにされました。

 

MVP:近藤康用

次点は高瀬か焼き味噌家康。

近藤というのは何とも困った男ですよ。

第33回のあとは、憎しみしか抱けなかった視聴者が大半でしょうに。今はもう「この人、結構いい奴なんだな」と振り上げた拳をおろしようがない、そんな気分にさせられます。

高瀬や直之への態度も丁寧です。

目下の人に頭を下げる人っていいですよね。

政次のことをふまえますと、彼は善人とは言い切れないけど、あたたかみというか、味があります。

本当にただの嫌な男なら、直虎や直之も見捨てていたっておかしくはないでしょう。

彼なりの武人としての義の通し方、人間性、不器用さ。そういうものがつたわってきます。

演じる橋本じゅんさんの演技も大きいですね。

◆「政次の最期については、高橋一生くんと話して、僕なりにお芝居でお別れをさせてもらいました」橋本じゅん(近藤康用)(→link

 

総評

今回は恐ろしいことに気づいてしまったんですね。

ハバネロ展開に慣れてしまって、今回のようにほっと一息付ける回があると「物足りないんだよなあ」と思ってしまうことに。

第30回くらいからボコボコにされてきて、今週はこんなぬるま湯でしょう? 政次退場の第33回あたりは見終えたあと阿鼻叫喚、虚脱状態でしたからねえ。

サブタイトルもおどろおどろしかったし。

こんな、誰も死なない、不幸にならない回だと気が抜けてしまうのです。龍雲丸が高瀬を救って焼死くらいするかと思っていましたよ。安心したのはいいけれども、拍子抜けです。

……こういう状態、刺激中毒状態にしてしまうのが本作の恐ろしさなんですよ!

とはいえ不安でもあります。

直虎が龍雲丸と堺に行き、我が子を抱いておとなしく暮らす、なんて展開にはならないでしょうから。龍雲丸との別離も先延ばしにされただけの気がしてしまいます。

「イケメンはリレー方式ですので、直政登場までは龍雲丸でつなぎます。しかし直政が出たからもうこれでおしまい」

そんなことになるのではないでしょうか。

ジェットコースターが登るときのように、これからの衝撃に備えてしまっている自分がいます。

しかし、これからは、明るくなるかもしれません。

政次の死が最も暗い時で、これからは光が射し込んできているのかな、そんなふうに思えた回でした。

全体を通して見ると、キャラクターの持つ推進力でくいくい進むような回でした。

直虎の茶目っ気と凛々しさ、家康のびびりぶり、近藤の優しさ、傑山の目力、娘の決断を後押しする佑椿尼などなど。

ある程度推進力をつけた自転車が漕がずにすーっと走るような感じです。

エンジンはかかっていません。

エンジンをふかして走り回るのは、青年直政登場からでしょう。


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絵:霜月けい

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【参考】
NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』公式サイト(→link

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武者震之助

2015年の大河ドラマ『花燃ゆ』以来、毎年レビューを担当。大河ドラマにとっての魏徴(ぎちょう)たらんと自認しているが、そう思うのは本人だけである。

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