『おんな城主 直虎 完全版 第壱集 [Blu-ray]』/amazonより引用

おんな城主直虎感想あらすじ

『おんな城主 直虎』感想レビュー 魂の総評【チャトラ編】※前編

こんにちは、武者震之助です。
最終回の放送以来、直虎のことを思い出そうとすると、どうにもボーッと魂を抜かれたようになってしまい、総評どころではありませんでした。

今年の大河は、始まる前から密かな期待は抱いておりました。

ポスターの直虎があぐらを掻いていて、目つきがとても鋭い。
それを見た瞬間、
「あっ、これはいいかも」
と感じたのです。

とはいえ、序盤はどう評価したらよいかわからなくて、どちらに転ぶかわからないとも感じていました。

それが春先、直虎が城主となるあたりから
「絶対にこれはよくなる! この調子で変なテコ入れをせずに突き進んだら凄いことになる! あと、みんな絶対政次ロスになる」
と確信するようになりました。

正直、この時点では叩き記事が多く、編集部に無理をお願いして「四分の一時点で総評」まで書かせていただきました。

4分の1が過ぎた『おんな城主 直虎』は刺さってる! 国衆&女性ストーリーは未来への架け橋に

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「今年の大河は『マッドマックス 怒りのデスロード』みたいなものだよ!」と書いたことを覚えています。
そして『その通りだったなぁ』と今なお感じています。

視聴率が低い点でも同じで、『マッドマックス 怒りのデスロード』もファンの熱量は高かったのに、興行収入はふるわなかったんですよね……。
どちらも熱い女戦士が駆け抜けた傑作だと思います。

さて、前置きが長くなりましたが。
今年は二回に分けて、にゃんけいにあやかり【チャトラ編】【キジトラ編】にしたいと思います。

今回は、褒めることしかありません。
その分ものすごくうっとうしい、ファン特有のウダウダした文になると思いますので、そういうのが苦手な方は大変申し訳ないと思います。

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『おんな城主 直虎 完全版 第壱集 [Blu-ray]』(→amazon

 

主人公そのものに感じた魅力

今年について振り返ってみて、まず思うのが、自分がどれだけヒロイン好きになれたかということです。

大河ドラマの主人公が大好きだというのは、あまり感じないものです。
昨年の『真田丸』そのものは好きですが、真田信繁自身は魅力的ではありませんでした。

昨年も書いたことですが、彼にはあまり自分自身の強い意志や特性がなく、その時一番身近にいる人の意見を反映していました。
それが、国衆の二男として生まれ、父や兄のために生きる宿命であった彼の限界であったとも思います。

その点、直虎というひとは、第一回からこうという芯があって。
それは何かというと、人の命を救いたくて奮闘することですね。しかも、それが成功することもあれば、小野政次のように失敗することもある。

冷静に考えれば、打率は低いのです。

それでも、結果がわかっていても突き進む。そんなところが魅力的でした。
その様子を一年間見ていたからこそ、最終回で自然を機転で救うところは感無量でした。

 

己の生き方は己で決めるからこそ

直虎は女性だからこういう生き方をすべきだという規範を、ことごとく無視するという点でも斬新でした。

酔っ払って槍をヘシ折り、龍雲丸にからみ、金がなければ方久からぶんどるという、元がお姫様とは思えないワイルドさです。
序盤で畑から盗んだ野菜を、泥がついたまま食べているところからして、このヒロインは何かちょっと違うな、と感じてはいたんですね。

そしてラストまで南渓と、
「願いが叶ったら酒を飲むぞ!」
と言い合っていたので、ある意味安心しました。

そんな彼女ですから、当然、最愛の人と結婚して、子供を産むという選択肢すら外してきます。
両思いだったイケメンの幼なじみが、自分と結婚しようと言ってきて断ることはなかなかできないと思います。

それでも考えたうえで、断ったのは自分の道じゃないと判断したから。
本編では黴びた饅頭に喩えていて、自分でも割り切っていないところがあったんでしょうけれども、隠し里で妻となり母となり、直親の帰りを待つ人生は私の歩む道ではないという思いがあったんでしょうね。

直親のプロポーズを断る一方で、龍雲丸を受け入れるのも、直虎らしさだと思います。

直親はありのままの彼女ではなく、隠し里で生きる別の女になれば妻にすると条件をつけました。
しかし、龍雲丸はありのままの彼女をまるごと受け入れる、ありのままだからこそ好きなんだという態度がブレなかった。

直虎みたいな人は、モテテクとか媚びとか、そういうことを考えるとドツボにはまって頭が爆発するタイプではないでしょうか。直虎は猫のような人で、しつけなんかできないのです。

 

猫のようなキラキラした目、凛とした声、お茶目な笑顔

そんな直虎のキャラクターは、柴咲コウさんが演じることで完成していました。

猫のようなキラキラした目、凛とした声、お茶目な笑顔。
城主時代は元気よく、万千代を見守るようになってから威厳がありました。透き通った歌声は、謡い曲とサウンドトラック収録曲で魅力を発揮しました。

直虎の魅力を引き出していたのは、演技だけではありませんでした。

直虎は国衆の姫という出身身分もあってか、全体的に地味な衣装でした。
尼の時代は墨染めの衣。
城主時代はシックな色合いのシンプルな裲襠や袴姿。
農婦時代は地味な野良着。
それでも直虎の美しさや魅力は十分に発揮されていました。

中でもはっと目が覚めるほど美しかったのは、中野直之の衣装を着て男装をした時と、甲冑を着て兵士に紛れ込んだ時です。
どちらも男姿でした。

柴咲コウさんは、淡いパステルカラーよりも、ダークで落ち着いた強い色合いが似合う顔立ちなんですね。
臙脂色、紺色、黒の衣装は、彼女の魅力を引き立てていました。

「女性大河だからと、綺麗な衣装をキラキラと着せ替え状態で着せればいいってもんじゃないだろ!」
と、以前の路線をキッパリ否定し、各人似合う衣装を着せていたことは大変素晴らしかったと思います。

 

女性陣の誰もがそれぞれに役割を果たしていた

他の人たちも同様で、年配の寿桂尼はパステルカラーの頭巾、若い高瀬にもシックな色合いの着物を着せていました。
単純な若さやイメージではなく、着る人の顔色や個性にあわせた色合いを用意しておりまして、衣装が大変頑張っていたと思います。

手強い敵でありながらも規範となり、時に直虎を励ます存在でもあった寿桂尼。
優しさだけではなく、しっかりと実務をこなすことで戦国女性の働きを示した祐椿尼。
キレる恋敵からしっかりと成長して、我が子との別れにも気丈だったしの。
政次のことも直虎のことも敬愛していた、なつ。
スパイと姫という二つの顔を見せた高瀬。
誇り高く、覚悟の上で散っていった佐名と瀬名の母娘。

中でも於大は、孫を死なせるように我が子の家康を諭すという、普通ならば逆転しているような、戦国女性としての悲しい役割を果たしていました。

ここであげなかった女性たちも、皆強く彼女らなりの魅力をしっかりと持っていました。

彼女たちの交流も素晴らしい。
一人でも素晴らしい人が複数になるのですから、相乗効果が発生するのは当然です。

拳で殴り合うように対立し、好きだった男をスケコマシと罵ることで団結した直虎としの。
腹の底を探り合いつつも、相手を尊敬し合い、こんな関係でなかったらと悩みつつ対峙する直虎と寿桂尼。
乱世の中でただ流されまいと、手をとりあっていた直虎と瀬名。

誰もが力強く、一生懸命生きていました。
美しいヒロインも、優しく癒されるヒロインもいたけれど、こんなに厄介で刺激的なヒロインって、今までいたでしょうか?

 

ヒロインが槍でぶっ刺す乙女ゲーがドコにある!?

はじめから井伊直政を主役にすればよい、という意見もありました。
知名度が低いため、視聴率が低かったという意見もありました。

◆NHK大河『直虎』12.8%で史上ワースト3! 「雑な乙女ゲーム」「主人公が無名」の批判(→link

しかし、こういう記事は、無視してよいのではないかと思います。
日本史を学んだ人なら(というか日本人の)ほとんどが知っているビッグネームが主役でも低視聴率だった『平清盛』、知名度が高くない天璋院篤姫が主役だった『篤姫』が高視聴率であったのは一体どう説明するつもりでしょうか。

もう一つ、上の記事に突っ込ませていただくと、
「ヒロインが、男性キャラを槍で物理的に攻略する乙女ゲーがあるんですか?」
と言っておきたいです。

イケメンが次から次へと惨殺される、こんな欝シナリオの乙女ゲーってドコに売ってるんです!

私はむしろ、知名度が低い女性でも、しかも妻でもなければ母でもない女性。
(一時、龍雲丸の妻ですが、架空キャラの妻ということでノーカウントで)。

それでいて、これだけ説得力のある歴史ドラマとして成立したのだから、むしろこれこそ偉業だと言いたい。
素晴らしいチャレンジでした。

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