剣豪・忍者

忍者の忍術(知恵)は科学的にも認められる?『麒麟がくる』の菊丸も実践

2020/04/06

2020年大河ドラマ『麒麟がくる』で、岡村隆史さん演じる“菊丸”とは何者?

神出鬼没の三河農民――当初はそう説明されていた菊丸ですが、第9回放送で正体が明かされました。

忍者(忍び)です。

松平竹千代の命を守るべく、母方の伯父・水野信元から尾張や美濃へ遣わされていた菊丸。

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信元と、その妹であり竹千代の母である於大の方は「菊丸だけが頼りだ」と願いを託すほどです。

忍者はそこまで有能だったのか?

令和の時代に生きる皆さんは「NINJAって、フィクションでしょw」と笑われるかもしれませんが、実のところ彼らのすべてが荒唐無稽な存在というワケではありません。

むしろ、今にも通ずる素晴らしい技を持っていた。

そんな【忍者の忍術(知恵)】を科学的な視点から見て参りたいと思います。

 


忍者菊丸 ただいま参上!

正体を明かされてから見返すと、なるほど菊丸の周辺では奇妙なことがありました。

・初登場時は三河農民でありながら、治安の悪い美濃で野盗に捕まっている。怪しげな動きがあったとか?

・尾張の熱田まで商売の手を広げている。熱田が賑わっているからとはいえ、明らかに行動範囲が広い

・菊丸と行動している光秀が敵に襲撃された時、複数の何者かがが敵に石つぶてを投げつけ、光秀が窮地を脱していた。誰がそうしたのか明かされていない

・医者の見習いである駒が使う薬草。それが生えている位置を知っている。医学の知識もあるようだ

・時々、政治情勢を踏まえた鋭い発言をする

あやしいといえば怪しく、気のせいといえばそんな気も。

ノホホンとしているようで、どこか鋭い――その奇妙な点も、正体が明らかになれば納得できるのです。

 


【陽忍】と【隠忍】

菊丸が忍者――そう言われてしまうと色々なことを考えてしまう。

例えば身体能力は?

医者の助手である駒が綱渡りで見事な技を披露したことから「忍者になれる!」という意見も出ていました。

でも……忍者の必須スキルって、そういうアクロバティックなものでしょうか?

ここで問題提起です。

忍者ってそもそも何?

「武士の起源」も謎めいておりますが、忍者もややこしいものがあります。江戸時代から延々とフィクションで誇張されたばかりに、かなり真実が見えにくくなっているのです。

※『ニンジャスレイヤー』にまで到達する

フィクションにおける典型的なものとしては、優れた身体能力で屋敷に忍び込み、暗殺や情報収集をするパターンでしょう。

「曲者じゃ! であえ、出会え〜!」

そんなセリフと共に、すばしっこく屋根の上を走ったり、塀を飛び越える姿、日本人なら誰もが一度はご覧になったことがあるはずです。

彼らは、時代劇の枠も飛び越え、アメコミの世界でまで活躍するようになりました。

※『デッドプール2』にはミュータント忍者・ユキオが登場します

ただし、あくまでこれはフィクション。

しかも菊丸は、忍者としての分類が【隠忍】なんですね。

忍者には【陰】と【陽】があります。

【隠忍】:姿を隠して情報収集をする。フィクションはこちらの姿を扱うことが圧倒的に多い。

【陽忍】:姿を隠さず、普通の人として行動して情報収集をする。僧侶、山伏、商人、芸人等の場合、怪しまれずに諸国を歩き回れるため都合がよい。

菊丸の場合、第9回で天井裏に潜む【隠忍】としての一面が確かに出てはいました。しかし、普段は【陽忍】としての行動が目立っておりますよね。

この【陽忍】の特性は、菊丸だけに備えられたものではなく、他の登場人物でも役割を果たせる者がいます。

公家にも大名にも出入りできる医者の望月東庵とその弟子・駒。

芸人一座を率いて、東は常陸、西は薩摩まで移動する伊呂波太夫。

彼らにも、何か別の顔があるのかもしれず気になりますね。

ちなみに、こうしたスパイがフィクションで誇張される現象は、どこの国でも起こり得るものであります。

一例として挙げられるのが、やはりジェームズ・ボンドでしょう。

諜報員経験もあるイアン・フレミングが小説で生み出したこのスパイは、フィクションで映像化されるたびにどんどん大袈裟になってゆきました。

一発で正体がわかるコードネーム。

アストンマーチン。

そしてカクテルの好みなど、正体を隠すことが第一のスパイからすれば、本来ありえない話です。

やたらと美女とお近づきになることもガードが甘すぎますよね。

しかし、それがジェームズ・ボンドでもある。

彼の誇張ぶりは、忍者が数世紀かけて大仰になっていく姿を、早送りで展開したようなものですね。面白いことは確かですが。

※『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(2020年公開予定)

ボンドブームに対抗したわけでもないのでしょうが、リアルなスパイ作品も存在します。

本物の諜報員であったジョン・ル・カレは、地味でリアリティのある小説を発表しました。

映画化された作品も多く、彼の生み出したスパイだちは派手な車を乗り回さず、やたらと銃撃戦をするわけではありません。地に足のついたスパイの姿にご興味があれば、ご確認ください。

※『裏切りのサーカス』

にしても、私がなぜ、わざわざこんなことを言うのか?

というと、菊丸が、このル・カレ作品のスパイに近い気がしてならないからです。

その点をマトメて参りましょう。

 

大麻は「あほう薬」薬物知識は現代にも応用できる

菊丸は、駒と薬草を採取しておりました。

薬草は、割と身近な存在でもありますし、ドラマを見ながら取り立てて注意を払う方は多くはなかったでしょう。

実はここにポイントがあります。

忍者こそ、薬草のエキスパートだったのです。

野草をどう使えばよいか。

彼らは熟知しておりましたので、ドラマの中での菊丸も知り尽くし、かつ駒から新たな情報と知識を得たいと考えても、何ら不思議ではありません。

史実の一例として、大麻の利用があげられます。

忍者は大麻を「あほう薬」と呼び、敵の錯乱に利用していたとも伝わります。

もちろん大麻は法律違反ですが、忍者の知恵は、現代にも応用できるものがあるんですね。

例えば、忍者の末裔がいたとされる三重県伊賀市や滋賀県甲賀市。

現在まで忍者が存在していたわけではありませんが、その地場産業には特性が関係してると言えます。

甲賀市は「薬業」の長い伝統があるのです。

◆忍者が育てたくすりの里(→link

太平の世ともなれば忍者もその伝統を日常生活にシフトさせるのは当然のことであり、販売して生計を立てることも自然な流れと言えましょう。

 


オフィスを生き抜け!

忍者の薬物知識は、他にも現代で応用できます。

【兵糧丸】です。

何かとんでもない能力を発揮する――ときにそんな誤解も受ける【兵糧丸】ですが、基本は保存性の高い携行食であり、決して薬物でもなければ毒物でもありません。私たちにも応用できます。

その効能をおさらいますと……。

兵糧丸の効能

・噛めば元気が湧いて来る

・疲労回復に効果あり

・気分を落ち着けるリラックス効果

・お腹が降っていたら胃腸を整える

・血行促進効果あり

・喉の痛み、しつこい咳に

・免疫力アップ

なんだか万能すぎてちょっと首を傾げたくなりますが、まぁ、現代人が求める滋養強壮剤と同じですね。通勤やオフィスで欲しくなるやつ。

兵糧丸の成分を見ても、納得できるものがあります。

朝鮮人参のようなエナジードリンクに含まれている生薬が含まれているレシピもあるんですね。

製法を再現してゆくと、あまりの酸っぱさに驚くものも。

酸味の元は梅干し――。

兵糧丸に梅干しが練り込まれることがあり、その酸っぱさの素であるクエン酸は、体内でエネルギー源を燃やすことを促進し、疲労の元となる乳酸の蓄積を防ぎます。

レモンの蜂蜜漬け。スポーツドリンク。運動のお供として口にする飲食物にクエン酸が豊富なのは、理由があるんですね。

当時のレシピ内容によっては、あまりの甘さに驚く兵糧丸もあるようですが、結局のところ糖分も即効性のあるエネルギー源として、長距離走や自転車競技ではおなじみの成分ですしね。

UHA味覚糖の「忍者めし」(→amazon)も、単なるパロディにとどまらない「小腹満たし」だったんですね。

大河ドラマにからめて【兵糧丸】を考えますと、一つだけ惜しくなってくることがあります。

『いだてん』の主役だった長距離走者・金栗四三です。

金栗四三
日本初の五輪マラソン選手・金栗四三~初の「箱根駅伝」も開催した92年の生涯

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明治45年(1912年)、オリンピックのストックホルム大会に出た金栗四三はマラソン競技中に倒れ、とある地元の家族に助けられました。

救出してくれたぺトレ家で金栗が口にしたのは、クエン酸と糖分が含まれていたラズベリー味のレモネードと菓子です。

それで復活を果たし、翌日、マラソン競技もとっくに終わってからホテルへ戻ることができました。

マラソン競技中に失踪した金栗四三、ペトレ家に救助され都市伝説となる

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スポーツ医学で言いますと、金栗の症状はハンガーノック(※極度の低血糖状態)です。

忍者の知恵には、ハンガーノックを防ぐものが含まれていたわけです。任務の際、彼らは離脱を防ぐ術を実地体験から学んでいったのでしょう。

 

【呼吸法】は自律神経を整える

利用者が年々増えているスマートウォッチ。

その機能の一つとして、定時に呼吸法を促すアプリがあります。

ガイドに従って呼吸をしていくと、自律神経を整え、リラックスとリフレッシュ効果があるのです。

実は忍者にも、呼吸法がありました。

忍者の呼吸法とは、ざっとこんな感じ。

・二重息吹(ふたえいぶき)

・息長(おきなが)

・逆複式呼吸

こうした呼吸法を実践し、脳波を測定したところ、自律神経がリラックスした状態になると証明されたのです。

息の吸い方だけでなんだか気力を充実させるなんて、嘘みたいだなあ。不思議な忍法ってどうせでたらめでしょ?

そんな疑念を吹き飛ばし、科学技術が証明してくれたのです。

 

【九字護身法】でパフォーマンスを高める

【九字護身法】をご存知でしょうか?

「臨、兵、闘、者、皆、陣、列、在、前……」
(りんぴょうとうしゃかいちんれつざいぜん……)

そう重々しく唱え、印を結ぶ。

すると忍者がドロンと消えてしまう――。

※九字護身法

いかにも荒唐無稽なイメージがついてしまった【九字護身法】ですが、現代人が応用しても効果が期待でき、実際にいろんな場面で実践されています。

代表例がアスリートでしょう。

競技前に決まったポーズや動きを取る場面をご覧になったことはありませんか。

ラグビー:キックを蹴る前の五郎丸歩選手のポーズ

野球:イチロー選手のバッターボックスに入る前のポーズ、入ってからの動作

体操:内村航平選手の両手を肩の高さに挙げる動き

フィギュアスケート:羽生結弦選手の十字を切って合掌する動き

陸上:ウサイン・ボルト選手の走る前に弓を引く動き

験担ぎ?
宗教的なもの?

そう思ってしまいますが、これらは【プレ・パフォーマンス・ルーティン】と呼ばれる動作です。

一連の動きにより、心の動揺を抑え、集中力を高めて力を引き出す――。

要は、おのれの持つ能力を最大限に発揮させるための儀式ですね。

もちろんこの動作だけで勝てるわけではありませんし、すべては実力と日頃の鍛錬に依りますが、せっかくですから【常にハイパフォーマンスでいたい】というのは全スポーツ選手の願望でもありましょう。

この効果を得られるのは、アスリートだけではありません。

プレゼンやスピーチ、音楽の発表会など、ここぞという時に【プレ・パフォーマンス・ルーティン】は有効なのです。もちろん日頃からの訓練が必要ですけどね。

忍者の【九字護身法】は、

宇宙や神秘の力を得て最大限の力を発揮する

なんて説明がされたりします。

あなたがここ一番の商談前に「臨、兵、闘、者、皆、陣、列、在、前……」と唱えて印を結んでいたら、周囲は怪しむかもしれません。

しかし、バカ正直に声を出さないやり方を考えれば良いだけの話で、自分の工夫次第で非常に良いメンタルトレーニングになりそうではありませんか?

忍術とは非科学的な迷信のようで、実は理由がある――科学の進歩がそれを解き明かしつつあるとも言えそうです。

 

忍者の身体能力は身を守る

忍者は、周囲に忍者と知られたら終わり。

ゆえにフィクションのような忍者装束はむしろ利用されませんでした。まぁ、当たり前ですよね。

※伊賀忍者ショー

例えば忍者刀。

刀の鍔に足を引っ掛ける使い方が有名ですが、そのためにはかなり大きな鍔でなければできません。代償として、武器としては重たく、実用性がなくなる。そのへんで何か見つけるとか、縄のほうが使い勝手がよいでしょう。

毒を塗った手裏剣も、実用性はありません。尖っていて、手で投げるものに毒を塗っておくと、敵よりも使用者自身に危険が及びかねません。

この類の戦闘員像は、やはりフィクションエンタメだけの話ですね。

忍者の体術は殺傷力よりも、むしろ任務における疲労や負担軽減のために工夫されたものが多いのです。

戦うにせよ、やむを得ない近接戦闘術もあるとはいえ、あくまで非常措置。武士のように、正面切って戦うことはそこまで想定しておりません。

鍛え抜かれたタフな筋力を発揮するよりも、関節の柔軟性、自分の体重、バランスを利用して勝利を狙う合理的な技が多くみられます。

柔よく剛を制す動きこそ、忍者の真髄です。

 

今こそ見直したい、忍者の知恵

明治維新以降、日本や東洋由来の伝統は軽んじる傾向がありました。

スポーツひとつとってもそうです。

柔道のようにスポーツとして活路を見出す競技がある一方で、古式泳法やナンバ走りはよろしくないものとして軽んじられてしまいました。

日本古来の走法・ナンバ走りを映画『サムライマラソン』に学ぶ!

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忍者の知恵も、なまじフィクションのイメージが強すぎるのか。迷信由来として面白がられ、消費されてきたと感じます。

しかし、改めてみてくると、現代人の労働にも使える知恵が詰まっているんですね。

忍者は社会に入り込み、様々な情報を集め、持ち帰ることが主な任務。人当たりの良さ、コミニケーション、人脈の形成といった能力も必要とされました。

必須能力は、暗殺でもなく、ドロンと姿を消すでもなく、巨大なガマガエルを呼び出すことでもない。

人として、いかに生き抜くか――そんな基礎的なことでした。

だからこそ、現代社会を生きる私たちにとっても有用な知恵があるのです。

今後、世界の進歩とともに、忍術の知恵も解明されてゆくことでしょう。

2020年現在の知見で描きなおした菊丸は、そんな最先端忍者研究の象徴です。

タフに生き抜き、目標を達成するその姿から、学べることはたくさんあるはず。そんな菊丸を応援しましょう!

文:小檜山青

【参考文献】
『忍者学講義 (単行本)』(→amazon
『国史大辞典』


 



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小檜山青

東洋史専攻。歴史系のドラマ、映画は昔から好きで鑑賞本数が多い方と自認。最近は華流ドラマが気になっており、武侠ものが特に好き。 コーエーテクモゲース『信長の野望 大志』カレンダー、『三国志14』アートブック、2024年度版『中国時代劇で学ぶ中国の歴史』(キネマ旬報社)『覆流年』紹介記事執筆等。

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