頼朝から鎌倉入りを拒否された義経は京都に戻ってきました。
正妻の里は不満げです。
義経は自ら撒いた種だけれども、里まで帰れないのはどういうことか。こうなったら離縁して欲しい。父母や叔父上、叔母上に会いたい! そう訴えています。
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そこへ源行家がやってきて訴えます。
これ以上頼朝の好きにさせてはならぬ!
木曽義仲と組んで奴を討ち果たそうとしたができなかった。鎌倉に攻め入り、その首を取れと義経にけしかけます。
「私は、兄上とは戦いたくない!」
そう拒否はするものの、頼朝は必ず攻めてくると煽る行家。そのうえで、先手を打つしかないと言うのですが……そこには互いを認めつつ、信じられない兄弟がいます。
政治の頼朝、戦の義経――。
二人の天才が手を取り合うことを、後白河法皇は許さない。
そう語るナレーションがなかなか面白い。これまでこの兄弟は、天才義経と、それに嫉妬する兄・頼朝という構図が多かったものです。
本作では、タイプが異なる天才同士の対決になっている。
そしてもう一つポイントがあります。
人は、何かに長けた才能があると、別の能力が欠けてしまうことがある。
人類は、長いことその事実を受け入れられなかったため、時代の傑物を万能の天才にすべく、歴史と物語を紡いできました。
しかし、それはちょっとおかしいんじゃないか? と、気づいたのが現代です。
現代の例で挙げればスティーブ・ジョブスあたりでしょうか。
彼が天才であることに疑いはなくても、人間性については問題が大ありだと指摘されます。
以前ならそこにフタをして立志伝が描かれがちでしたが、昨今の伝記では無茶苦茶な性格まで描くことが定番になりつつあります。
本作の頼朝と義経でも同様に、そうした知見が反映されているのでしょう。
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伊予の受領に任官すれば
広元が良い手を思い付きます。
義経を受領に任じてもらうのです。
受領と検非違使は兼任できない。となれば検非違使の解任となり、京都へ留まる理由がなくなります。
鎌倉入りの前に京都で実務を経験していた大江広元に、こういうことはお任せください、と。
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頼朝も、義時に本音を語ります。
このままでいいわけがない。九郎に会って、戦を労いたい。出会って己の非を認めれば許す。
そう語る頼朝に、義時は伊予守の任命を頼んで欲しいと告げます。そうすれば義経も喜び、頼朝にしてもまんざらでもない様子。
京都での義経は、無邪気にはしゃいでいます。
伊予守にしてくださる!
そう浮かれている横に、弁慶と静がいます。いまいちピンときていない上に、静は伊予がどこかも知らない。
名前だけで別に伊予で暮らさなくてもよいと義経が説明するのですが、彼も初めて知ったとか。
鎌倉に帰れる!
検非違使でないなら帰れる!
そうはしゃぎ、静を頼朝に見せてやると喜びながら、彼女の手を取り踊り出す義経。
「いよっ、いよっ、伊予守!」
しかし、それを受け止める後白河法皇の反応は?
検非違使と兼任じゃ
側近の平知康が、苦々しい顔をしています。頼朝のやつめ、調子に乗っている。してやられた。
しかし法皇はケロッとしながら、つけ上がらせてやると言います。
義経の武功は伊予守にふさわしいと認めるのです。
ここで実務役の九条兼実が出てきました。
彼の衣装はフォーマルスーツですね。すごく真面目に仕事をしたい――そんな意思が見える人物ですね。
兼実が検非違使の任を解き、伊予守にすると言います。
そりゃそうなんですよね。検非違使は京都の治安を守る。伊予守は伊予国を統治する。東京にいなければいけない警視総監が、愛媛県知事を兼任するようなもので、無茶苦茶なのです。
が、法皇はこうきた。
「検非違使は、このままでよい」
兼実はギョッとします。
「未曾有のことでございます……」
「構わぬ」
「未曾有のことながら、かしこまりました」
そう応じるしかない兼実。内心は困惑の極みでしょう。
先例を破りおって、尻拭いをぶん投げおって!
そう毒づきたいでしょう。
当時の貴族は、とにかく先例が大事であり、それを破らぬためにも日記を残しました。
そんな九条兼実からすれば、もう、ブラックな法皇に仕える羽目になって胃痛がたまらない日々なんですよ。
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しかも、鎌倉には大江広元がいます。かつては兼実の部下であり、優秀だけど下級貴族で、いわば契約社員止まりだったような存在です。
本来ならば「ああ、そういう人いたね。仕事できたっけ?」ぐらいの部下が、ライバル組織のブレーンとして立ち塞がっているのですから、鬱陶しいことこの上ない。
そんなわけで、九条兼実さん、がんばってください!
義高殺しを大姫に聞かれ……
かくして義経は思惑も知らず、法皇に呼び出されます。
法皇はしれっと、忠義に応えるには検非違使と受領のいずれかではなく、両方にせよと命じます。
「ありがたきこと」とかなんとか言う知康。こういうプライドも何もない腹芸を、兼実ならできないでしょう。
そして「これからも京の安寧を守ってくれ、伊予守」と丸め込まれてしまう義経です。
その一報を受け、苦々しく吐き捨てるのが頼朝。
「どうやら九郎に戻る気はないようだな……」
すかさず義時が法皇の考えであり義経の意志ではない、断りきれないのだとフォローをするものの頼朝は取り付く島もありません。
「それが腹立つ! わしより法皇様を取るということだ。もう帰って来んでいい、顔も見たくないわ!」
黄瀬川の対面から、思えば遠くへ来てしまった。信じることができず、決裂しつつある兄弟。
頼朝は八重のもとへ向かいます。
幼子たちの面倒を見ていることを知り、殊勝なことだと褒めています。
と、幼子たちが蜘蛛の子を散らすように逃げてしまう。
頼朝のお供をしている安達盛長が一人を捕まえるものの……。
「やーだ、やだ!」
「偉いお方ですぞ!」
嫌がられてしまう。頼朝は傷ついたようにこう言います。
「もうよい。余計につらい……」
そして頼朝は盛長を下がらせ、八重に話しかけます。
九郎のことについて、八重の考えが聞きたいと言うと、彼女も義時から聞いていると返す。
頼朝は、実の弟だから許してやりたい。手も差し伸べた。しかし、奴はそれを裏切った。わしはどうすればいい?
そう訴える相手に八重は返します。
「子どもたちからも同じような悩みを打ち明けられます」
「なんだと」
「仲直りはどうしたらよいかと」
「子どもと一緒にするな!」
八重は謝ることもなく、キッパリと言い切ります。
子どもたちは、最後に仲直りをする。相手を信じる気持ちがあるから。それができるのならば、子どもたちの方が利口だと。
頼朝が説教か?と言い返すと、八重は認めてこうきた。
「説教か嫌味の他にお伝えすることはございません」
頼朝も相当参っています。かつては亀と逢えず、ワンチャン求めて八重のもとへやって来ました。
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あのときはロマンスを求めていたけれども、今はもう、優しい言葉を求めるところまで追い詰められている。
頼朝はそれでも笑い、話して気が楽になったと強がる。
このところ辛いことが続いた。義高だって殺したくはなかった。
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義高に死んでもらうことで……と子どもにはわからぬ大人の汚い理屈を語り出すと、八重が「あっ!」と声を上げます。
そこにいたのは大姫。
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彼女は全てを聞いてしまいました。
頼朝も思わずこう言うしかない。
「なんでいるかなぁ!」
大姫は、父が冠者殿を殺したことを心に焼き付けてしまいます。
全成の提案
北条政子は焦っています。
このままでは義経と頼朝がぶつかってしまう。
頼朝は武士の頂点に立ち、新たな世を作りたい。それなのに法皇様に気に入られたら義経は邪魔になる。政子はそこまで理解しています。
このあたりは亡き兄・北条宗時と同じ考えを感じます。
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彼は源氏とか平氏とか、どうでもよかった。坂東のことは坂東武者が仕切る。そういう世を目指していました。
義時はそこを忘れたのか、気づかないふりをしているのか。兄が平家を倒し世を救いたいところを重視しているけれども、それだけではないようです。
政子は妻としてわかっています。夫・頼朝は、心の底では義経が愛おしくてたまらないのだと。
それをどうにかできるのは姉上だけだと、実衣はボソッとつぶやく。
政子は、それでも皆が頼みだと訴えます。彼女は周囲の協力を得ることが上手なんですね。きっと【承久の乱】でもこの力を見せることでしょう。
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彼らの父・北条時政は、源氏兄弟のことは兄弟に任せればいいんじゃねえかというスタンス。
兄である源範頼はまだ壇ノ浦で宝剣を探していて、戻りがいつになるかわからない。無秩序な戦いを強行した義経に因果が祟っています。そもそも剣を落とさねばこうはならなかったのです。
「兄弟ならもう一人いますよ。この人も頼りになることだってあります」
実衣がそう指摘するでもなく、阿野全成がウロウロしていました。
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全成がおずおずと提案します。
今年10月は、兄弟の父である源義朝の菩提を弔い、平家討伐を報告する。その供養ならば義経も来れるのではないか?
「よい考え」
「さすが我が夫!」
それなら法皇もきっと許すと北条家の面々は納得。
しかし大事な点を見過ごしているかもしれません。相手の意表を突くと言う意味で、義経と法皇は似ている。法皇に、そんな人情は通用しないのです。
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