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【鎌倉殿の13人感想あらすじレビュー第19回「果たせぬ凱旋」】
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日本一の大天狗
義経が失踪したため、頼朝は鎌倉へ引き上げました。
そして義経を探し出すため、時政を京都に遣わし、法皇様の力を借りて橋渡しをせよと言いつけます。
頼朝にそう命じられ、思わずオロオロする時政。
「無理でございます!」
義時もこうだ。
「父ではやや荷が重いかと……」
それでも頼朝は、舅殿にはいざというときの胆力がある、法皇様とわたりあえるのは舅殿だけだと推してくる。
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時政は家に帰ると、オロオロとして「わしでないと駄目かな」と言ってしまいます。
りくが勇気づけても、とんでもねえお役目だとまだ弱気な時政。
そんな夫の態度にしびれを切らしたのでしょう。大きなお腹を撫でながら、こんなお腹でなければ私が行きたいくらいだ!と怒鳴ります。
ここが我らの正念場という義時に対して、まだ「おっかねえよ」とウジウジする時政。子どもみたいなことを言わない! と、さらにりくからたしなめられています。
かくして時政と義時は京都の御所へ。
都は初めてかと法皇に問われ、大番役を一度務めたとしおらしく返している。
頼朝が元気かどうかも聞かれ、「疑いを抱いている」と答えると、宣旨はあの若造に脅されたからだと、あいも変わらず飄々とした対応。
さらには全部あいつのせいだと悪びれない法皇に、義時はこういいます。
頼朝は法皇を「日本一の大天狗」だと思っている。
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「天狗?」
そう訝しむ相手に、義時と時政は畿内はじめ西国諸国を治めたい、我らの手で米と兵を集めるという頼朝の言葉を伝えます。
法皇様を支えるために、我が主人の願いを聞いて欲しいと訴えるのでした。
「まるで平家を滅ぼすためだけに生まれてきた」
夜。北条父子は、鎌倉殿の脅しが効いたと二人で話しています。
と、人の気配がする……。
誰かと思えば、義経でした。
捕まえたければ捕まえるがよい、逃げるにも飽きたと開き直る義経。時政は、九郎殿は九州に逃げたと聞いている、かようなところにいるはずがない、偽物だろうとシラを切ります。
義経は、今からでも兄上のことなんとかならんか?と最後のお願いに来ました。
しかし時すでに遅し。
法皇から宣旨が出されたばかりで、どうにもなりません。
「はあ……祈るような思いでここに来てみたが無駄だったか。平家を倒したのはついこの間ではないか。私の何がいけなかった?」
そう嘆く義経に、時政は人を信じすぎるといいます。策に長けたものはかえって騙されやすいと。
義経はおよそ中間ということがない。なんでも極端に触れるのです。
冷たいとかなんとか言うけれど、腰越の藤平太に芋を届けた。そういう優しいところと、冷たいところと、極端で中間がない。
だから騙すことも、騙されることも、極端なのです。
この後、どうするつもりかと問われ、義経はこう返します。
「さぁ……奥州にでも帰ろうか」
と言うと、すかさず義時が反対します。
義経が逃げた先には戦の火種が生まれる。戦はもう終わりにしましょう!
「戦のない世で、私のような者がどうやって生きていけばよいのだ?」
義時は懇願するように、あれだけ平家を振り回したお方なのだから、その知恵でどこでも生きていける、と返します。
そんな義時の言葉を信じたのかそうでないのか。彼は寂しげに言います。
「御台所へ伝えてくれ。九郎は御台所の膝の暖かさを生涯忘れないと」
「必ず」
義時がそう返すと、時政も続けます。
「あなたはおっしゃった。経験もないのに自信がないなら何もできない。では自信をつけるには何がいるか? 経験でござるよ。まだまだこれからじゃ」
「さらばだ」
そう言い残し去ってゆく義経の姿を見送り、時政はこうつぶやきます。
「まるで平家を滅ぼすためだけに生まれてこられたようなお方じゃな」
「九郎殿はまっすぐ過ぎたのです。羨ましいほどに」
そう語る義時は、箱根の山のように曲がりくねった道を歩くしかありません。
登るだけで息が切れる、そんな道を登る義時。なまじ経験を積み長く生きればこそ、その眩しさは義経には及びません。
それぞれの天命を彼らは歩いてゆきます。
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MVP:後白河法皇と源行家
後白河法皇は、つくづくしみじみと、最悪だと思います。
彼は悪事を成し遂げようという思いはない。ただ、自分がエヘラエヘラしながら生きていければよい。
そのために周囲を平然と振り回します。プライドも何もあったものでもない。
大江広元や九条兼実のように、誇り高く、教養があり、前例を踏まえて次の一手を考える相手は、かえって対応ができません。
検非違使と受領を兼任しても別にいいし。宣旨なんて出して引っ込めて、引っ込めて出して……それでいいもん。
こんなルールも何もあったものじゃない相手に、まっとうな大人は対処ができません。
そしてそういうことをするから、武家の政権が成立することもわかる。
自分のことしか考えられない幼稚な人間は、実に罪深いことをやらかすものです。
西田敏行さんという大河の常連で大物。
そんな役者さんがこの役目というのが、もう、毎回見事で笑うしかない。
しかも丹後局は鈴木京香さん。
お二人は奥州、つまりは福島県と宮城県の出身。後白河法皇当人の時代には、それこそ野蛮とみなされた場所の出身なのです。
そんなお二方が京都に生まれ、人々を手玉にとる側を演じている。歴史っていうのは皮肉だと思いますし、痛快爽快なキャスティングだと思えます。
そして源行家。
義経のように殺傷力の高い天才戦略家よりも、自分のために誰かを使い捨てにする行家の方が邪悪です。
何もいいところがない。どこにも、ひとつも、いいところがない。ただ自己保身のためにやらかす。反省しない。
いつも誰かに責任転嫁して、平気で嘘をつく。
悪というのはこういうものだと思わされる。
法皇と行家は、悪とは何か?ということを考えさせてくれる、秀逸な人物像でした。
流石にこの二人と並べるとかわいそうだけれども、里も悪い。
あの襲撃計画についてきっちり素直に説明して謝罪すれば、ああはならなかった。自己保身のために破滅します。
八重の言葉が真実をついていると思えます。
信じられないところが子ども以下としか思えない――そんな醜い大人が事態を悪化させてゆくのです。
総評
義経は人を信じすぎる。まっすぐ過ぎた。
こう作中でまとめられたことが実によかったと思います。
ネット発の「バーサーカー」はまだしも、「サイコパス」は一歩間違ったら危ういと私は心配でした。
サイコパスは精神病質者という意味で、定義が難しいうえに、素人判断による判定は差別につながりかねないわけです。
数年後には禁止用語認定されていても不思議はない、そういう危険な定義だと思います。
この義経はサイコパスかどうか。私では判断ができませんし、するつもりも全くありません。周りにいたら困るかもしれないけれど、だからといって異常者扱いしようとも思えない。
ただ極端に触れてしまう――そんな義経の個性を強烈に描きながら、同情もできる造形に落とし込んだこと。これが素晴らしいと思った。
やっと義経が神話から解き放たれて、人間に戻って、それゆえ子どものように泣きじゃくってしまう。
そんな変貌を見ていて、ようやく義経に再会できたような感無量の気持ちになりました。
そう、ドラマに感動するだけでなく、義経みたいな人と今まで出会ったことがないか、そこも振り返ってみたい。
むろん、崖を駆け降りるとか、そういうことではなく、日常の中でもいますよね。
学校や仕事でものすごく活躍するけれど、一言余計なことを言うものだから、どんどん孤立してしまう人。
悪い奴ではないことはわかるけど、なんかウザい。
周りもいつの間にか「アイツ空気読めないよね」とバカにするようになったから、自分もなんとなく冷たくするようになっていた……そして気づいたとき、その人は消えていた。
もう二度と連絡も取れなくなっている。
そういう誰かを知りませんか?
皆さんの周囲にいませんでしたか?
普遍的な悲しい奴として義経は帰ってきて、そしてまた消えて行こうとしている。そんなことを考えてしまう、忘れがたい人物像になりました。
もう少し何かがズレていたら、彼はこうならなくて済んだかもしれない。
もちろん因果応報で、悪いこともたくさんしたけれど、こんな破滅的な最期でよいものなのかどうか。
同時に考えたいのが頼朝の天才性です。
彼はこの弟の破滅劇を、自分にとって最もうまく使える形で実現することでしょう。
天才という猛獣同士が組み合って、酷い有様にならないはずもない。
ここから先は、頼朝がその天才的な政治家ぶりを見せつけます。
頼朝はなぜ義経のやらかしを許せなかったか? 軽視はできない安徳天皇の怨霊
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※著者の関連noteはこちらから!(→link)
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文:武者震之助(note)
絵:小久ヒロ
【参考】
鎌倉殿の13人/公式サイト