大正元年(1912年)12月1日は、警視庁で初めて警察犬が登用された日です。
今でも各地の警察にとって欠かせない存在であり、たまにニュースでお手柄が報じられたりしますよね。
お仕事をしている「使役犬」の中でも身近な存在です。
ドイツ中部の街ヒルデスハイムで生まれた
日本で警察犬が本格的に使われるようになったのはこの日(12/1)からで、世界に目を投じてみると、もう少し古い歴史があります。
概念が生まれたとされるのは19世紀のドイツ中部。
ヒルデスハイムという町で警察犬の概念が生まれたと言われています。
ヒルデスハイムは世界遺産に認定された教会が二つあることで有名な町で、8世紀から存在しているそうですから、平安京とほぼ同世代ということになりますね。すごい。
残念ながら第2次世界大戦で多くの建造物が破壊されてしまいましたが、多くが再建され、再び当時の姿を見ることができるようになっています。
細かな装飾が施された木造建築が多く、メルヘンな雰囲気と申しましょうか。
ここで警察犬が必要とされた具体的な理由は、正直わかりません(´・ω・`)
ヒルデスハイム市の公式サイトにも書かれていないようです。
よってこれは私見になるのですが、
「古い歴史を持っている」
「司教座(カトリックの拠点)が置かれたこともある」
「学問も盛んな町」
ということで、人の出入りが多くなり、犯罪も起きやすくなったからではないでしょうか。
元は城塞都市だったそうなので、「人間が馬に乗って追いかけるより、犬に追わせて飛びかからせたほうが合理的」と考えられたのかもしれません。
衛星写真で見ても弧を描いている細い道が多いことがおわかりですかね。19世紀のドイツというと、ナポレオンにボコられたり、帝国になろうとしてアレコレやってた時期なので、治安が良いとはいえなかったでしょうから、警察官の手に余る状況であったとしても不思議ではありません。
また、15世紀にフランスのモン・サン・ミッシェルで警察犬っぽいものがあったとされていますので、こちらの話がヒルデスハイムに伝わった可能性もあります。
「両方とも宗教施設で有名なところ」と考えると、意味深な予感ががが。犬なら賄賂は通じませんものね。肉で釣れるかもしれませんが。
ちょっと違う仕事をしていた犬としては、スイスの修道院で17世紀に番犬を飼っており、19世紀には山岳救助犬がいたという記録があります。やっぱり宗教施設。
牧羊犬は数千年の歴史がありますし、「犬に訓練を施して、人間を助けてもらう」という概念は、ヨーロッパでは珍しくなかったのでしょうね。
犯人逮捕を目指したり、災害や麻薬捜査などで活躍したり
では、警察犬のお仕事の中身はどんなものでしょうか。
実は意外とシンプルで、足跡をたどったり、匂いを元に犯人逮捕を目指します。
他に麻薬などのイケナイ物を捜索する犬や、災害時に人間を探す犬など、複数の仕事こなす「警備犬」がいます。
どちらも警察のパートナーなので、一般では警備犬のお仕事についても警察犬のイメージがあるようです。
警備犬の有名例では、2004年の中越地震の際、92時間ぶりに2歳の男の子を救出したレスター号(当時2歳のシェパード・2015年に死去)がいますね。
警備犬は首輪やハーネスを付け替えることで、「今はこの仕事」と頭を切り替えて働いているんだとか。すごい。
その機能、ぜひ人間にもほし……ゲフンゲフン。
ちなみに、日本では警察犬になれる犬種が明確に決まっています(7犬種)。
獰猛な性格の犬だけではなく、温和な犬も複数含まれているのが興味深いところです。共通点は「訓練についていける」「従順である」ことでしょうか。
簡単に紹介していきましょう。
日本で警察犬になれる7犬種とは?
・ジャーマン・シェパード
たぶん「警察犬」といわれて真っ先に思い浮かぶ犬種でしょうね。実際の登録件数も一番多いそうです。
ストレスに強く、訓練に向いている。
知的な遊びも好きなため、訓練も「ちょっとむずかしい遊び」と捉えているのかもしれませんね。人間でも、「勉強が面白い」というタイプもいますし。
一方で、小さい頃から同じ飼い主の元で訓練していないと、きちんと仕事をできないという性質もあるとか。「生まれながらの仕事人(犬)」というところですかね。
・ドーベルマン
「警察犬」と聞いて思い浮かぶ、もう一つの犬種でしょう。
徴税係をしていた同名のドイツ人が「人に恨まれやすい仕事だから、俺を警備してくれるような犬がほしい」と考えて改良し、生み出した犬だといわれています。その際の選定基準は「見ただけで人がビビるような犬」だったとか……確かに慣れてないとちょっとコワいですよね。
誕生から20年ほどでドイツの警察犬に採用されたのをきっかけに、各国で用いられるようになりました。
ジャーマン・シェパード同様、飼い主や家族への忠誠心が非常に強い半面、敵や他人への敵対心も強い性質を持つため、警察犬や番犬に向いている犬種です。一般家庭で飼うのは難しい、といわれることもありますね。
・ゴールデン・レトリバー
大型犬の中でも温和な性格で知られますが、警察犬としてもバッチリ働けるお利口さんです。
他の犬種同様、警備犬や災害救助犬、介助犬、盲導犬など多くの分野で活躍しています。
・ラブラドール・レトリバー
「番犬としては向かない」といわれるほど温厚な犬です。
社交性が高く、水遊びを好む性質があるため、どのような場所でも活動できることが高く評価されたものでしょうか。
レトリバーの二種は、捜査員の方々の癒しとしても特に大きく役立っていそうです。もふもふは正義。
・コリー
スコットランド原産の、牧羊犬として暮らしていた犬種です。いかにも犯人追跡に向いている感じがしますね。
「運動不足でストレスを感じる」というあたりも警察犬向きの性格といえるでしょう。
「名犬ラッシー」はこの種類で、世界でも有名かつ人気の高い品種です。
・エアデール・テリア
ぬいぐるみのような愛らしさを持つテリア系の中でも、大型の品種です。ディズニーの「わんわん物語」のトランプもこれなんだとか。そのうち「かわいいほうのトランプの種類」なんて言われたりしてw
イギリスで品種改良され、害獣駆除や狩猟に活躍してきた関係もあり、イギリスでは真っ先に警察犬として選ばれたそうです。英連邦という関係からか、カナダでも多く用いられているとか。
可愛い外見とは裏腹に、忍耐強く賢明・温厚で頑健な体を持つ、意外に(?)タフな犬種です。
・ボクサー
すらりとしたブルドッグのような姿の犬です。品種としての来歴や名前の由来には諸説ありますが、後ろ足で立って闘うことから来ているのではないか、とされています。
ドーベルマンやジャーマン・シェパード同様、「仲間には優しく、敵には容赦なく」というタイプが多いようです。また、「ほめてしつける」ことが向いているため、その二種とは違う意味で訓練向きなのかもしれません。
一方で、被毛が短いため、極端な暑さ・寒さに弱いという特徴もあります。これは短毛種の動物に共通ですが、日本の夏は大変そうですね……。
緊急時に招集される嘱託警察犬は多種多様
「嘱託警察犬」という緊急時にだけ招集される犬の場合は、もう少し種類が増えます。
奈良県警が採用したチワワの子は、数年前にニュースになりましたね。チワワのような超小型犬が警察犬の試験に合格するのは、世界でも珍しいことだったとのことで、他の国でも大きく報じられました。
チワワはストレスに弱い種類とされていますので、ちょっと心配ですが、普段は他の犬と同じように過ごしているとのことなので、まあ大丈夫かと。
体の小ささから「他の犬種が入れないようなところにも入れる」ことが最大のメリットといわれていますけれども、出動機会がないほうがいいですよね。今はご老犬になっている年齢ですし。
他にミニチュアシュナウザー(和歌山県警)・柴犬(岡山県警)・トイプードル(鳥取県警)・ジャックラッセルテリア(山口県警)などが嘱託警察犬としての採用例があります。
日本の犬として代表的な柴犬が、公的な警察犬の品種として認められていないのは、ちょっと意外な気もしますね。「性格的に頑固で、飼い主以外になつきにくい」からとのことですが、上記の通り、似たような特徴を持つ犬種は認められています。
柴犬の頑固っぷりがハンパないんでしょうか。教えてエ◇いひと。
動物を使役することについてはさまざまな意見がありますけれども、本人(犬)が訓練についていくことができ、喜びを見出しているのなら、生きがいになっていいですよね。
引退後は警察で過ごしたり、一般家庭に引き取られたり、ケース・バイ・ケースのようです。
厳しい仕事をこなした後は、”ご隠居様”のように穏やかに暮らせるといいですね。
長月 七紀・記
【参考】
警察犬/wikipedia
警備犬/wikipedia
ヒルデスハイム/wikipedia