麒麟がくる感想あらすじ

麒麟がくる第21回 感想あらすじ視聴率「決戦!桶狭間」

2020/06/08

永禄3年(1560年)――。

大高城と鳴海城が今川方により陥落。今川義元自ら出陣し、沓掛城まで進軍して来ました。

馬ではなく、輿に乗って移動しています。

この輿というところが大事です。そのせいで、軟弱なイメージが定着しました。けれども、指揮をする総大将が馬以外で移動することは必ずしも悪いことではありません。

例えば『三国志』の諸葛亮は、車で移動しますね。劉備は「髀肉の嘆(ひにくのたん)」、馬に乗らずにいたせいで贅肉が脚についたことを嘆いたわけです。

どっちなの? 矛盾なの? そういう単純なことでもありません。

今川義元は、前線で馬に乗って指揮をするのではなく、「謀を帷幄の中に運らし勝つことを千里の外に決す」(テント内で作戦をたて、遠隔地の戦場で勝利する)という境地に至りつつある――ということでしょう。

輿での移動は、足利一門である今川だからこそ、許可を得たものでもあります。

これも余裕と戦力差、そして性格の違いではあります。

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地の利ある元康に任せよう

今川で軍議が行われました。

義元に対し、朝比奈親徳は松平元康の活躍っぷりを告げます。

丸根砦と鷲津砦を無傷で通過したのだと。これには義元も満足し、地の利を知っているといいます。

地形は大事ですからね。

義元は、引き続き元康に砦攻めを任せようと考えます。それでも気遣っていて、二つとなると荷が思いかと心配する義元。朝比奈泰朝に3,000で加勢させようと言います。

信長の援軍到着前に、一気に片付けようとしているのですね。そのうえで、明日、二つの砦を片付け大高城に入ろうとしている。

前回もそういう予兆はありましたが、今回は破綻の予兆が見えています。

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・義元の性格はわかりやすく、家臣もそうである

→元康自身は、織田勢がろくに攻撃しなかったことに疑念を抱いています。しかし、今川は信じ切っている。

・義元は気遣えて、性格もよろしい

→元康に無理をさせないように気遣っています。斎藤道三や織田信長よりも「理想の上司」だと思えるんですよね。人徳があるんだなぁ。

悪いことって、一つだけではそこまで困らない。

例えばネジが一本だけ抜けても、そうそう機械は故障しません。けれども、落ちるネジの数が増えていけば危険。

ネジが落ちる音がするような、高度な展開が続きます。

義元は、元康の大高城に大軍を集結させ、一気に清須城を攻めると言い切るのでした。

 


善人面の俊介元康が凄まじい

そのころ、大高城の松平元康は菊丸と話しています。

母は勝っても負けてもよいことはないと思っている。戦から手を引くと言っている。そう確認します。

菊丸も、今川がいる限り三河に日が当たらぬと思っていることを確認する。

菊丸は、殿ご自身もそう思われているはずだと言います。

でも、この元康は、自分の気持ちと目の前の現実を切断できる。「それはそれ、これはこれ」です。

元康は「此の期に及んで今川様に弓は引けない」という。

おっ? 義理堅い?

でもこれも、元康すら無意識でやらかすフェイクかもしれません。

元康は信長以上におそろしい。世間が求める善人としての仮面くらい、即座に被れます。

菊丸は、信長は三河のものは三河に返すと条件を提示する。そのうえで今川を切り捨てるよう迫るのです。

「何卒、今川様をお切り捨てくださいませ!」

元康はデータ分析野郎ですからね。大高城の軍勢と織田方を合わせても、数で勝てないとキッパリ言い切る。今川に到底及ばぬと言うのです。

「切り捨てられるのは、三河と織田ではないのか?」

そう反論します。母上のお気持ちも、そなたの申すこともわかる。そう言い切る。

元康は信長以上におそろしいので、人の気持ちをわかっているポーズが即座に取れるのです。

無駄に煽ったりあんまりしない。元康が不機嫌になっていたら、逆鱗に触れたということです。もう、手遅れかも、しれない……。

そして元康は、織田につくデメリットをまとめます。

◆元康の「ここがダメだよ織田方につくこと」

・家臣たちに勝てるかどうかもわからぬ今川との戦を強いるわけですよね……。

・裏切り者イメージがつくのは嫌なんですよね……。

→後年のことを考えると、石田三成からすれば「何言ってるの?」となりますが。外堀を埋め、幕府を開き、汚名を逆転させると確信してから動いていますもんね。小早川秀秋と比較しましょうか。

・犠牲者もでるでしょ……。

こうして理由をあげて、命じられた通り明朝、丸根砦を落とすしかないと断言します。母上にそうお伝えしてくれとも言い切れる。

先週、元康をマザコンだなんだと言うネットニュースがあったんですけど、男が女の意見を聞き入れるドラマを見ただけで、そういうことを断定するメディアっていかがなものでしょう。

マザコンだったらマシかもしれません。

というのも元康は、父の時点で「それはそれ、これはこれ」と切り分ける独自の考え方が出ている。情が通じないということです。

情が全く通じないで切り分けるって、見方によっては冷酷であり、敵に回したくないタイプではないでしょうか。

しかも、元康は外堀を埋める理由列挙野郎です。怒鳴って黙らせて、菊丸を追い払ってもありですよね。それを、真剣トークで理由を説明しまくります。

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例えばこういう元康が同じ職場にいたら……怖い。先週はうっすら、今週はあきらかに怖い。

で、風間俊介さんですけどね。もう、どうしろっていうんでしょう?

目に涙が溜まっていてこぼれないようで、滑舌が明瞭明確で、説得力と知性があふれている。

過去の家康を蒸発させるような、なんだかすごいものが目の前にいます。

風間さん「インタビューでは凡人に見えるかも……」みたいなニュアンスのことを言ってます。

いや、無茶苦茶怖いですから!

大迫力です。その中に善人みたいに見える要素も漂わせていて……私達は、ものすごいものを見ている。

 

光秀と左馬助は戦場へ急ぐ

さて、そんな中、光秀と左馬助は馬を走らせています。

戦が始まれば勝負がつくのは早いと考え、急いでいるのです。

光秀が目立たないだのなんだの言われていますが、やたらと濃い人々の中でむしろスッキリできます。

明智の皆様は涼しげですね。

特に左馬助は、目立たぬことが持ち味だと思うのです。透き通った清水のようだ。

5月18日、午前4時――。

そうテロップが出ます。現在の時刻で表現するところが、親切仕様です。本作はわかりやすさ重視。

織田方の丸根砦では、隠密らしき者が中にいるものを始末し、犬の鳴き声を真似ています。

元康……こいつ。隠密の使い方が相当こなれていますね。

服部半蔵というなまじ有名な人物がいるだけに、そのイメージが先行しがちな徳川家康ですが、菊丸がいるわけですし、三河は隠密の使い方が長所だとわかります。

で、隠密フル活用野郎が本作にいたじゃないですか。

斎藤道三ですね。

むしろ弱いからこそ、隠密を活用するのか、それとも賢さなのか。どっちみち、敵に回したらいけないんだよな……。

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こうして攻める順序を整え、螺貝の音と太鼓が響く中、喚声をあげつつ、元康の兵たちは攻め入るのでした。

戦国武将が兵法を知っているのは、プロ野球選手がバットを振るくらい当然っちゃそうなんですけど。

本作の武将ども、全員、兵法わかってるなあ。早朝に攻め込む。リアリストであり、強いとわかります。

あっ、今にして思えば織田信秀はちょっと甘かったのかな、という気もしてくる。

いや、信長や元康が強すぎるだけだから。

 


踊る信長 困惑する帰蝶

尾張清須城、午前6時――。

中条家忠がオタオタしている。織田方はわずかな兵力で立ち向かうしかないわけで、これが普通だとは思います。

「殿ー! 殿はいずこぉ!」

その殿こと織田信長は、簗田政綱から水野信元の作戦が不発だと聞かされております。

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譜代衆の中には、離反の余地もある者もいて、水野は引き続き説得へ動くそうですが。

やはり、今週も信長はめんどくさかった……何を食ってるんだよ! なんで露骨に不機嫌そうなんだよ! このあと、また室内ウロウロするしさ。

面接試験を通過できない男みたいな信長。帰蝶が「殿……」と困惑しています。

信長は、広間の家老たちに伝えて参れと言います。信長、籠城するってよ。外に出ても勝ち目はないからってさ。

帰蝶もこれには「籠城!」と絶句。それはもうダメってことですよ。

信長、なんか無言でまたオラついている。と、見せかけて怒涛の『敦盛』だ!

人間五十年、化天(下天)のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり

一度生を享け、滅せぬもののあるべきか

これを菩提の種と思ひ定めざらんは、口惜しかりき次第ぞ

かっこいいと思えるのは、事前にその知識があればこそであり、そうでなく冷静に考えると……どうでしょうね、これって。

重大な話題を話しているところで!

よりにもよって危急存亡の時に!

オレのテーマソングを、なんかバシバシ体を叩きながら歌い出す!

しかも、討死した武将がテーマの不吉な曲だ!

帰蝶が困惑しきっています。

川口春奈さんは言うまでもなく美形なのですが、その美貌を崩すことを躊躇しない。眉をしかめるし、本当に嫌そうな顔をモロに出す。そこが、素晴らしいと思う――そりゃこういう顔になるでしょう。

女性は男性よりも、愛想笑いを求められます。日本では長らく、女性が眉毛を剃ることを求められたわけです。男性でも剃る人はいたものの、圧倒的に女性がそうされると。

眉を剃ると、表情がわかりにくくなります。女性のマナーって、そういう感情を隠すことを求められることが多いもの。

でも、この帰蝶は、そういう女性像を壊してこそなのでしょう。川口さんの演技も、役の解釈も、素晴らしいと思えるのです。

 

兵数を見誤れば?「わしは死ぬ」

踊ったことで気が紛れたのか、信長はこう言い出します。

「政綱!」

【信長の兵数計算タイム】

総兵力:20,000

鳴海城の援軍:3,000

鷲津砦:2,000

大高城へ繰り出した兵:2,000

6,000から7,000が消えたぞ!

それに父上がよく仰せであったことを思い出してみよう。

「今川義元は用心深いから、それなりの兵を残す」

水野信元殿は、総数から5000か6000は差し引くべきと言っていた。つまり……実際は7000だ!

まぁでも、それでも倍は差があるんだよな。

そう踏まえて、善照寺砦で落ち合うと告げ、自らの出馬を告げるのでした。

帰蝶が「籠城ではないのか?」と尋ねると、城の中には今川に通じる者もいるから籠城と思わせておくと告げるのでした。

帰蝶が不安そうに大軍に勝てるかどうかと聞くと、信長は大軍でない可能性を示唆するのです。

もし大軍なら?

帰蝶にそう聞かれると、信長はきっちりとこう言います。

「わしは死ぬ」

気持ちを和らげる答えをこの信長に期待するなって話ですね。そりゃ、土田御前も絶望するよね。

そして信長は、興奮してこう言います。

そなたの親父殿が生きておられたら、こう仰せであろう。

宿敵・今川義元がのこのこ出てきたのじゃ。打ち破るなら今しかない、城の外にいる今川を討つなら今しかないぞ――。

「それでも負けたら?」

「死のうは一定。いずれ人は死ぬ」

そういう問題じゃないだろ、信長!

土田御前の小鳥を死なせた時にもそう言ってないでしょうね。

なんか脳内補完してみんなかっこいいと思うし、染谷将太さんは最高だし、いいとは思うけれども……。

もしも信長が近くにいたらイライラしかねない点は大事だと思うのです。

 

兵法の基礎である兵数算定

さて、ここで名前が出てくる斎藤道三ですが。

この展開の伏線はありました。

光秀と義龍とのやりとりであった、数珠の数あて問答です。兵法の基礎である兵数算定の話でした。

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義龍、義元、信秀らは、素直なタイプ。

相手が大軍であると知れば、それだけで困惑し、戦意を喪失します。逆に自分の兵数が多いと、油断してしまうこともある。

道三、信長、元康は疑ってかかるタイプ。

ですので、数字がこうだと言われても、疑念を抱き実数の洗い出しに取り掛かる。

『三国志』の【赤壁の戦い】がこの手の好例です。

曹操が大幅にふかした軍勢数を知っただけで、降伏すべきだと言い切る家臣たちの中、周瑜は大袈裟だと見抜き抗戦を訴えたのです。

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兵数や人口、犠牲者数とは、実際には正確なものはわかりにくいのです。

比率、発掘されたものの状態、そして年表を作っていくと明らかに変化が見えてくるとか。そういう諸要素を組み合わせないと、見えてこないことがあります。

「大幅に人口が減ったって? 多数の犠牲者がいた? 統計が雑なだけじゃないの? 嘘でしょ?」というようなことを言う人はいます。

歴史にせよ、兵法にせよ、数字なり統計は大事です。ただ、それだけでは見えてこないこともあります。

 

人間は、本質以外のものを飾ろうとする

【兵数を盛る】というテクニックは、現代人でもできます。

一例として学歴詐称。

頑張っている人が過去にそんなことしようと、どうでもいいって?

その見方は危うい気がします。

これだけ学歴が幅をきかせている社会ですと、やはり有害になりえます。それに、そういう人は何らかの弱点や欠陥があったりするのです。不誠実であるとか、己を騙しているとか。

だいたい、なぜそんなに学歴を書くんですかね?

学歴以外に誇れる現在があるなら、そんなもん、ただの「お守り札」ではありませんか?

人間は、本質以外のものを飾ろうとする。華麗な経歴を誇ることもそのひとつ。義元は兵力を盛り、足利一門の特権である輿での移動を選びました。

斎藤道三は、土岐頼芸を「お守り札」と追い出した。そして己の血を飾る義龍を罵倒した。

織田信長は、神に頼る者を馬鹿にする。将軍だろうと不満を抱く。

外面を飾らず、自分の力で突き進み、切り開くこと。これだけで、十分革新的だと本作は突きつけてきます。

今週の信長のしていることは、実は兵法の基礎をふまえたことなのです。

それでも斬新なのは、自らをさらけだし、突き進むからこそ。

で、この脚本を書いているのが、ベテランの池端俊策氏というところです。そしてこれは大河ドラマです。

伝統がある。それだけでネームバリューはある。時代劇最高峰だと認識されている。

どうやら大河は、今までのことを「お守り札」だと割り切って、捨て去るように見えてきます。

これぞ原点回帰。斬新で、映画に負けない時代劇を作ること。それが大河の原点でした。そこまで本作は戻ってきた!

 

子の無い正室に子を任せることの意味は

ここで信長は、帰蝶に会わせたい者がいると案内していきます。

幼い男児でした。

名は奇妙丸。のちの信忠です。

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「わしの子じゃ」とあっさり説明する信長。吉乃という女が産んでくれて、今日何があるかわからぬから、呼び寄せておいたと言うのです。

そのうえで、申し訳なさそうにあとじさります。

「すまぬ。黙っていたことは謝る。ただ、わしたちには子がおらぬ。織田家を継ぐ者がおらぬ。それを皆が案じておった。わしが死んだら、あの子を育ててくれ。そなたに預ける。わしはこの十年、そなたをたよりに思うてきた。今もそうじゃ。尾張の行く末をそなたに任せる」

帰蝶は呆然として、「殿……」と言います。

「許せ!」

「殿!」

むしろ、帰蝶は感動しているようにすら思えるのです。ここまで、大河も到達したか!

近年の大河って、側室がいない主人公が多い。

直江兼続、黒田官兵衛。それは愛のためとされる。

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これがわけわかりません。直江兼続は婿のうえに、相手は格上の家柄です。そうホイホイ側室を持てない立場だということは考えられます。

同性愛傾向があるとか、性愛に興味関心が薄いとか、めんどくさいだけとか。いろいろそこには理由があるのでしょうけれども。

どうにも、愛だとか、妻が嫉妬深いからとか、そういうワイドショー的なところに落ち着きますよね。

戦国ものでは側室を避けるくせに、モテモテで愛人作りに定評のある長州藩士の育て方をぶちかましたり、西郷隆盛の現地妻をクローズアップしたり。

最近の幕末大河は何がしたいのかサッパリわからないものがあった。それがきっちり修正されてきた感はあります。

帰蝶だろうが、実子がいればまた違うのでしょうけれども。

別の女性が産んだ子を、正室に養育させることは妻への最大限の敬愛。

『源氏物語』の紫の上がそうです。

それをかわいそうだと思ってしまうのは、無責任であり、人の上に立つものの立場でもない。

実はそれを破るのが豊臣秀吉なんですね。

産んだのが淀の方だろうが、北政所に預けてしまえばよいものです。

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それを生母である淀が授乳するような、いわば普通の育児させてしまった。

それは北政所のプライドを破壊する侮辱でもあるのです。北政所と淀の方の対立は、後世、誇張されてはいます。ただ、その動機として納得できるだけの不均衡があったということです。

一方で、家康は怖いほどそこを踏まえていると言いますか。

秀吉は、美貌の女性を集めたがる好色さが強調されます。実際に美人であったかどうかというよりも、身分の高い女性への憧れのようなものを感じるところではあります。

【美女・身分が高い=妊娠しやすい】わけでもないのに、性欲というより、高貴な女を屈服させる征服欲を感じるといえばそう。

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その反面、家康は出産経験のある女性を側に置くことが多い。これは野生動物でも見られる話なのですが、ピチピチの若い相手よりも、出産経験があり、確実に子孫を残せる相手を選ぶ。

サラリと当時の価値観をぶまえ、三英傑の閨房周辺もにおわせるから、本作はすごいものがあります。気が抜けない!

 

帰蝶と面会する光秀 すでに信長はおらず

午前8時――。

丸根砦と鷲津砦陥落。今川勢の勝利でした。元康がこう叫んでいます。

「エイエイオー! エイエイオー!」

腹の底から声が出ていて、よいですね。

この元康のどこが青臭いのか? そう突っ込みたくなるほど、どっしりしている。本作の出演者は発声がクリアです。太い声は、太く出すからたまらない。

午前9時――。

信長は、丸根砦と岩出砦が敗れたことを睨みながら、善照寺砦へ。それにしてもタフですね。砦二つの陥落を見ても挫けません。

同じ頃、義元は沓掛城を脱出し、大高城を目指していました。

そして午前9時半――清須城に光秀が到着し、帰蝶の元へ来ました。

出迎えるのは奇妙丸を抱いた帰蝶。

「帰蝶様、おひさしゅうございます。左馬助よりこちらのご様子を聞き、いてもたってもおられぬゆえ駆けつけました。ご無礼の段、お許しくだされ」

「十兵衛、よう参った。だが来るのが遅い。会うていろいろ知恵を借りようと思うていたが、殿はもはや出陣された……もはや打つ手はない」

光秀は呆然とします。

はい、光秀はそういうもの。そして奇妙丸を気にしています。

帰蝶は、「天から降ってきた大事な預かり物じゃ」と説明するのです。

そして光秀が信長の動向を問いかけると、善照寺砦だと言うのです。そこで信長を討つと。

兵数は不明。光秀はいてもたってもいられぬ様子で出立します。

「どこへ行く!」

「お役に立てるかどうかわかりませぬが、善照寺砦へ!」

帰蝶は口を尖らせてしまいます。せめてもの話相手にもならない、そんな光秀ですもんね。やはりこの二人の恋愛感情を本作は薄めに描いていると思えます。義龍の光秀執着の方が強烈だった……。

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光秀は信長が気になって仕方ありません。

脳裏には斎藤道三の言葉が響きます。

「あの男から目を離すな。信長なら、そなたはやれるやもしれぬ」

こうして二騎は駆け抜けてゆきます。

それにしても、光秀は道三を尊敬していますね。義龍のことは全く思い出さないのに。悲しい義龍の片思いだったんだな……。

 

今川の本軍をもう少し減らす手は?

午前10時――。

信長は善照寺砦の兵数を確認しています。

ざっと2,500。熱田と丹下で400から500集めて、3,000にはなる。それでも敵は倍以上いると。

そのころ、今川義元は桶狭間の山の上にいると報告されます。そこから一気に、清須城へ攻め込むのだと。

「その前に決着をつけねば。今川の本軍をもう少し減らす手はないか? 大高城の元康の動きも気になる。我らが義元の本陣を攻める時、背後をついてくるとすれば元康であろう」

信長はそう気を揉んでいます。

やはり、隙がなくて本作はいいな。

元康は当初の手筈通り、裏切ってはこない。じゃあ、先週のあの作戦は失敗だったのか? 無意味だったのか?

そうではありません。

戦うということは、いきなり倒すことだけがやり方ではない。弱くすること。ネジを抜いていき、そこを思い切り叩けば、倒れることは出てくるものです。

本作の桶狭間は、信長がネジを抜いていく過程を見せていくことが面白い。

天才だから。革命児だから。ともかくすごいから。ガーッと突撃して、パーッと勝っちゃった♪ やろうと思えばそういうこともできる。信長だもの、桶狭間だもの。

しかし、本作はネジを外す過程を面白く見せる。惚れ惚れするほどの超絶技巧です。

それに、武将だけでなく作り手も兵法マニアにならないとなかなかこうはいきませんね。

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どんだけ『孫子』あたりを読んでいるんでしょう。

 

「三河守」に困惑しかない元康

午前10時30分――――。

鵜殿長照は、松平元康のお手並を褒めています。

「さすが三河衆! 砦のひとつやふたつ、ものの数ではなかったろう!」

ここでの元康、疲れもあってか若干の塩対応が出てきています。長照が「三河守になってこの快挙!」と褒めると、喜ぶどころか不信感すらうっすらと漂わせています。

「三河守? 殿が?」

「まだご存知なかったのか?」

そう前置きしつつ、朝廷から三河守を受けたと長照は言います。

「名実ともに三河の主じゃ!」

元康、全然嬉しそうじゃないぞ。だから、いちいち、怖いって……。

※加筆

ここ、私も誤認識していて申し訳ありません。義元が「三河守」になったわけです。

三河を自分たちのものにする。そのうえで、三河の主人である元康を部下にする。傀儡国家システムですね。

世界史で例をあげると、イングランド王の太子は”Prince of Wales”と言います。日本語だと「王太子」や「皇太子」になるので、ニュアンスが伝わりにくくなるのですが、本来これは「ウェールズ大公」ということです。

ウェールズを支配していた大公を打倒し、イングランド王が自分の息子に称号を与える。
イングランド王が、その息子ともども「名実ともにウェールズ支配者じゃ!」と宣言する。なかなかえげつない話ではあります。

でも、それをやらかす側は、
「ちゃんと支配者を置くし、保護しているし、よいことではないか」
とプライドを踏みつけつつ、威張りちらすと。

元康は信長ほど露骨に怒らない。故に舐められがちなのかもしれませんが、激怒やむなしの場面でしょう。

「鳴かぬなら 泣くまで待とう ホトトギス(怒りを込めてそちらの失点数えながら待ってますね。待った先でこちらの餌にしても恨みっこなしですよ……」

くらいに、本作の家康像は突っ込んできました。「殺してしまえ」と即座にならないぶん怖い。

信長は、何で怒るかわからない。いきなり地雷を踏みそうで怖いところはあるのです。

でも、元康はさらに怖い。

信長は地雷を踏んだ瞬間、態度に出るから「わっ、やっちまった!」となるのですが、元康の場合、どこに地雷があるかわからない。

踏んだことすら認識できない。時限式装置で爆発する。いや、場合によっては爆発すら気づかないまま葬られている。そういうステルス時限式の何かがあるから危険です。

長照としても、そして義元としても「気遣ったぞ、チーム三河守としてがんばろうな!」という気分ではあったのでしょう。

想定する反応は、きっと笑顔と奮起です。それが……。

「……ではわれらはこれで」

わー、むしろ逆効果だ。なんか怒ってません?

でもこれ、現実社会でもあるあるですよね。

大変な労働をしている人に、メッセージで励まそうという試みが今あります。あれを素直に受け取って感激する人もいれば、集団には少数派ながら元康タイプもいる。

応援で解決したら苦労しない、と舌打ちするタイプです。あと、むやみにチームやユニットにされると嫌がりそう。個性を重視しろと。

「ONE TEAM! 団結してがんばろう!」

「……ハァ(俺の好きなようにさせて欲しいんですけどね)」

というような反応になりそうな場面。

しかし、長照が「待たれよ! 殿からお下知があったのじゃ」と声を荒げると、元康以下、君臣一同、膝をザッとつくあたりが美しい。なんでしょう、規律の取れた美がある。こういう所作ひとつとっても本作は綺麗です。

 

戻って来たばかりで鳴海城へ行け

下知の中身は、労働搾取のような話でした。

戻ってきたばかりなのに、その脚で鳴海城に行け――というのです。

なんでも、鳴海城のそばにある善照寺砦に織田方がいるとか。

元康は苛立っています。

我らは一戦を終えたばかり。兵糧米を運び、昨晩は一睡もしていない。明朝まで御猶予をいただきたいと交渉します。

「皆、疲れ果てております。せめて一刻(二時間)のご猶予を」

ここで三河武士も苛立ちを見せています。三河武士が我慢強いと誰が言いましたっけ?

それでも長照は、猶予すら許しません。

兵法のミスをやらかしました。孫子は別に優しい性格では全くありませんが、それでも兵士に思いやりは見せています。部下を虐待する奴はダメだとも言い切っている。

孫子とならぶ兵法家の呉起は、兵士の傷口の膿を吸い出しました。

そのことを息子の戦友から聞いたある母親は泣き出してしまいました。

「将軍様が膿を吸い出すんです。よいことじゃないですか」

「私の夫もそうだった。膿を吸い出され、この将軍様のためならば死ねると奮闘して戦死した……」

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人心掌握術ってやつですね。

高いモチベーションを引き出すためならば、慈悲を見せるべき。現代ならば福利厚生をしっかりしろってことです。

シリコンバレーにあるIT企業の社員食堂は豪華だと言います。これも現代流の人心掌握なのでしょう。

豪華な食事と、高いモチベーションの費用対効果を考えたら、安くつくってことです。

しばきあげだの、根性論だの、同調圧力だの。そういう士気の高め方は危険です。高まるのはむしろストレスと不満だけです。

鵜殿長照は、チーム三河守(のエースプレイヤー)という名誉で釣って、威圧して、言うことを聞かせようとしました。そんなことは結局のところ、危険で非効率なだけなのです。

この場面で、不満をため込んだ元康の顔からそれを読み取らねば、良い仕事はできません。

 

乱取りする自軍に激昂する義元

午前11時――。

今川方は余裕を持って食事をしています。

バンド演奏と踊りもあって、優雅なものです。でも、だからといって義元が愚かなわけでは全くない。

「何? 織田の軍勢が来る?」

絵図を持たせ、兵数が300ほどだと確認します。

鷲津の泰朝とともに向かえばよいと言うのですが……それがまだ鷲津砦で乱取りをしていると聞き、義元は激怒します。

「愚か者めが!」

敵が残した食料なり、金品を漁ることは野盗と変わらぬ下衆の振る舞いであると言うわけです。

やはりこの義元は、理想的な人物です。「本軍から兵を出して始末せい」と命令します。

本作は、綺麗事とは現実的で効率がよく、必要なのだと教えてくれます。

乱取りをすることを悪とするかどうか?

これは難しい話ではあります。それで効率があがることもあるようで、規律が乱れることもある。

午後0時――。

織田方は300の兵。対する今川本陣は1,000。残りは5,000。それを聞き、信長はそれならやれると言い出します。

※編集部注:『信長公記』に信長が善照寺までくると「佐々政次と千秋季忠が兵300で今川に突撃し50騎ほど討たれる」という記述があり、それを活かしたものと思われます

「よいか、この先山沿いの道を桶狭間に向かう。他の者には目を配るな。塗り腰が目印じゃ。出陣!」

ここで雨が降り始め、雷鳴が響きます。

「雨か、雨か!」

天佑とはこのことでしょう。雨と雷鳴は、視覚や聴覚に悪影響を及ぼします。両軍ともに厄介ではありますが……。

・行軍距離が長い

・地形の知識で劣る

こういう条件があるからには、攻め手がより不利にはなります。

今川方は、雨を避けるために移動しようとするのです。岩陰まで移動するように促され、義元は移動をするのでした。

 

床を拳でぶっ叩く元康と三河武士たち

そのころ、元康は食事中です。

そこへ鵜殿長照が来ました。

「飯など食うておる場合ではない! 物見からの知らせじゃ、信長の軍勢が桶狭間に向かっているという!」

「それで?」

「ただちに兵を率いて桶狭間へ向かい、信長を背後から攻めるのじゃ!」

「先ほどは鳴海城、今度は桶狭間……」

元康が無茶苦茶不機嫌、見放すモードに突っ込み始めました。こうなったらもう、手遅れ感がある。

「悲運の三河大名」とキャストビジュアルにコピーがついているし、実際に苦難の生活を送ってはいる元康ですが、個人的には全く同情できません。

同情すべきなのは、彼と対峙する側だもの……。

「松平殿!」

「我ら三河の者は、桶狭間へは参りませぬ。本日はここを一歩も動きませぬ。あしからず」

怒涛の冷淡反応を見せる元康。

しかも、隣でお食事中の三河武士は、床をドスドスと叩き始めます。

三河者の立場が弱い。つらいというのは確かではあるのですが、それも状況次第ではあります。

元康の怖いところは、常に反撃できるしなやかさだと思いますね。どんな苦労をしても、自分自身の意思さえあれば、跳ね返すことはできる。古狸どころか、鎖に繋がれぬ猛獣めいたものを見せ始めています。

元康は、信長のように激しく怒りを炸裂させない。ただ、箸を握りしめている。そして脳裏には、幼き日の誓いが蘇ります。

「今川は敵です。いずれ討つべきと思うております」

数で劣るからには、今川に逆らえなかったけれど、内心は、打ち果たしてやりたい気持ちが渦巻いている。

消極的なようで、おそろしい一撃を元康は放ちました。

今週の元康怖いぞポイントまとめです。

・幼少期から隠し通す敵意

→あんなかわいい子が、ブレない敵意を抱く。師匠である太原雪斎に習わせたし、元服の面倒を見たし、チーム三河守エースにしたよっ! 一緒に頑張ろうね! 義元はそう思っているのでしょう。相手があまりに悪かった……。彼はプレイヤーでなくて監督志願なんです。

・両立できるたくましさ

→普通の人間は、そこまでずぶとくなれるものでもない。でも、この元康は違う。先週、家康は「祖母に会うのか、将棋をしたいのか」と聞かれ「両方」と答えました。今週の彼も両方と言えます。今川と織田、どちらのために戦う? 両方。そういうことができる。おそろしい人物です。

・ステルス裏切り

→このやり方だと、元康の本心はわかりにくい。消極的な一手ならば目立たない。言い訳もできる。そういう巧妙な裏切りを元康はやらかした。真の裏切り者とは、そもそもがそうだと認識されないのかもしれない。

元康、今週も怖い……。

 

「輿はどこじゃー、輿に向かえー!」

午後2時――。

そして雷鳴と豪雨の中、信長は桶狭間へ向かいます。

一方、お昼時ということもあり、今川勢は油断して食事中です。

そんな相手に、織田方の弓矢が襲いかかります。

「かかれー!」

毛利新介が叫びます。

何気ないようで、兵法大好き本作は基本をおさえている。織田方は敵に対して、高いところに陣取っています。

自転車で走ることを考えてみると良いかもしれません。

同じ距離でも、登るのと、下るのでは、どちらが早いか? 言うまでもないことです。上から下へと向かうと、勢いがつく。

水の手が確保できないとか、物資補給に問題がある場合は別として。

『三国志』の馬謖はこれで失敗しておりますけれども、そうでなければ基本的に高いところを取るのが有利です。織田方は高低差を把握する「地の利」があればこそ、把握できたのでしょう。

今川方も騒ぎを察知します。義元も輿から外をのぞきます。

一方で信長はこう叫んでいるのです。

「輿はどこじゃー、輿に向かえ、輿じゃー!」

義元は家臣に導かれ、逃げ延びようとしています。

そのころ、奇妙丸を抱いた帰蝶は何かを察知し、光秀は馬を走らせているのでした。

 

「毛利新介、今川義元討ち取ったり!」

義元の身に、危険が迫ります。

せめて屈強な護衛がいればまだしも、どうなることか。

結果はわかっていても、そう思えるのだからすごいものがあります。

槍と刀のリーチの差を考慮しているし、動きがなまなましいのです。

見た目の美麗さとリアリズム、どちらを取るか? そこが殺陣の直面する悩ましさですが、ここも元康のように「両方!」が最も恐ろしく見えるのでしょう。

ここでの義元は、弱々しさどころか、片岡愛之助さんの怪力が結晶したような迫力がありました。

熱気にあふれ、勝てるのではないかと思ってしまうほど!

「あああ〜ッ!」

ここで毛利新介、怒涛のワイヤーアクションで吹っ飛んで来ます。

義元の瞳に、その相手が映る。

槍に甲冑であんな飛べるのかとか。いろいろ突っ込みどころはあるようで、人間が最期の瞬間に目にするなまなましい恐怖と思えば納得できる。そんな場面でした。

「毛利新介、今川義元討ち取ったり! 毛利新介、今川義元討ち取ったり!」

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そう叫ぶ中、ジャイアントキリングに織田方は湧き上がります。

そうか、わかりきっているようで、桶狭間とはこうも劇的だったのか! そう新鮮に感動できる激闘でした。

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相手の本音を引き出す光秀の魔法

日が暮れてゆく中、家康はあの丸薬を握っています。

結局、大高城を動かず、桶狭間に向かうことはなかったのです。

義元が討ち果たされて、何を思うのでしょうか?

わざとそうしたのか、それとも巨大な運命に飲まれてしまっただけなのか?

両方? そうかもしれない。

自分の意思とは関係ないところで、気がつけば、天下をかき回してしまう。元康の悲運とは、一体何なのでしょう。

光秀は、勝利をおさめ帰ってくる信長を待ち受けていました。

馬をとめ、信長はこう言います。

「水を所望したい」

光秀が差し出す水を飲む信長です。

「ああ……勝ったぞ!」

「おめでとうございます。お見事でございました」

「褒めてくれるか?」

「誰もが褒めそやしましょう。海道一の弓取り・今川義元を討ち果たされたのです」

予想はできてきた。光秀は何もしていない、水を飲ませただけ。そうでしょうか?

ここの短い場面には、信長の本質が詰まっています。信長は、相手の本音を引き出す光秀の魔法にかかり、秘めていた気持ちを語るのです。

「昔、父上を裏切った男(松平広忠)の首を取って帰ったことがある。父上はわしを褒められなかった。余計なことをするなと叱り付けられた。わしは何をしても褒められぬ。子どもの頃から、誰もわしを褒めぬ。母上も、兄弟も……」

寂しい。

圧倒的に寂しい、そんな信長がそこにはいます。ピュアなんだな、褒められたいんだな。

 

そうだよ、目の前の信長だよ!

「帰蝶様は、お褒めになりましょう」

光秀はそう言います。

わかっているねえ。本質的にあの夫婦は相性がよくて、褒めてくれるとわかっているんだねえ。

でもさ、光秀。ストーカーを見つけちゃったって、気づいたかな?

義龍よりもある意味おそろしいストーカーが、自分を理解してくれるとわかってドキドキしちゃってるよ。

そうだよ、目の前の信長だよ!

……なんか本作、光秀が影が薄いだのなんだの言われていますが。戦国武将を虜にする、魔性の存在みたいになってるんじゃないかと思いますよ。

斎藤道三「光秀と話していると、なんかこう、考えがまとまる気がするんだよな」

松永久秀「光秀、今度お茶しない?」

細川藤孝「光秀に近寄らないでもらえますか!」

斎藤義龍「光秀といると、心が洗われるよね……」

織田信長「光秀〜こっち来いよ〜」

で、そういう光秀を演じ切る長谷川博己さんは、涼やかで爽やか。この光秀の写真を印刷してどこかに貼り付けたら、夏場は室温下がりそうじゃないですか。

信長は心を開き、恥ずかしそうにこう言います。

「帰蝶は何をしても褒める。いつも褒める。あれは母親じゃ。また会おう!」

はい、マザコンの指摘はもういいです。母親というよりも、承認が欲しかったんですね。母親は我が子を認めるはずだという認識があるがゆえに、こう言ってしまうと。

光秀は考えつつ、こう聞きます。

「今川を倒し、次は何をなされます?」

「美濃の国を取る。美濃は帰蝶の里じゃ。美濃を取って、帰蝶を喜ばせてやる」

「そのあとは?」

信長は答えず、去ってゆきます。

 

大きな国を作るのじゃ

駿府では、駒と東庵がぼんやりとしていました。

「ここの療治もこれまでか……」

京都に戻ることを話しています。

今川義元討死で潮時を迎えたと。元康様とは戦が終わったら将棋をさす約束だけれど、もうよかろうと言います。

ここも堺正章さんが素晴らしい。

食べながら演技をする場面が本作にはありますが、口の中身を見せずに、滑舌もきれいに、きっちりできているのがよいのです。

駒は、元康から来た文のことを語ります。

戦が終わり、母上にお会いになったとか。母子は泣いてばかりで、ろくに話もできなかったそうです。

東庵は16年ぶりに再会した母子のことを思いやります。

元康は冷酷でなくて、母への愛はちゃんとある。目的と情愛の切断ができるだけです。

信長は考えがあって、他の今川家臣とは別の扱いにしたとか。岡崎に戻れるようになったというのです。源応尼も大喜びであろうと東庵は確認し、京都へ戻ると告げるのでした。

出立前に、駒は芳仁という人物が会いたがっていると言います。

駒は京へ戻ることと、別のお灸がうまい人が来るようにしたと告げると、芳仁はあの丸薬の処方を伝えてきます。

世話になった駒にこそ渡したいという、あの薬のこと。誰にも教えたことはない、駒さんだけに教えると言います。

安く手に入る処方で、元手はかからない。しかし、何にでも効く薬である。いつか作ってみれば、皆が喜ぶと芳仁は言います。

これは先週から気になっていたのですが……徳川家康は医術マニアで、自ら薬を調合できたほど。

この丸薬の処方が、今後家康にまで伝わるのではないかと、ちょっと期待してしまうところではあります。ただの丸薬ではないようです。

光秀が、馬を走らせています。

脳裏には、道三の言葉が浮かぶのです。

「大きな国を作るのじゃ。だれも手出しのできぬ大きな国を」

タイトルにもなったこのテーマがあるのでしょう。

自己承認を求めた小さな信長の願いが、大きな国と、悲劇へと突き進む――。

そんな再開を待ち望みつつ、本作は一時休止となるのでした。

 

MVP:今川義元

一人を選ぶのがとにかく難しい。

織田信長もいいし、毛利新介も見事でした。

ただ、彼の死、流した血が信長を決定づけること。そのことを受け止め演じ切った片岡愛之助さんのことを思うと、やはり、ここは義元で。

人間は、知勇兼備、優しく、正義感が強く、誠実で、素直で、力強いリーダー像に憧れるもの。

今川義元は、その条件を満たしていたと思えるのです。

輿はあくまで権威であって、身体壮健、最期まで戦いぬく。そんな戦う姿がひたすら神々しかった。死んで欲しくないと思えました。

斎藤道三は討死でも、身を挺して一太刀返した何かがあったけれども、義元はそうでもない。

強かった。高潔だった。賢かった。勇猛果敢だった。

そういう義元の姿が、ずっと胸に焼き付いてはなれません。

 

総評

さて、今週で休止ですね。ロスだの、本作が愛される理由だの、そんなもん考えている暇があるのかって思ってしまいます。

正直、私が歴史好きを名乗っていいのかわからんし、名乗るつもりもないし、他の誰かが好きな理由を推察されると言われたら断る。自分の心情が一番大事じゃないですか?

はい、いきなり煽りましたが、特に意味はありません。

戦国時代の新説をいかに追っているのか、それが本作の重要な点ではあるのですが。

でも、それって、味噌汁にいい味噌を使っているくらい当然ではないでしょうか。それをしない残念大河もあったけれども。

個々では味噌汁の味噌じゃない話でもしながら、考えていきたいと思います。

公式ガイドで興味深い点はいくつもありますが、吉田鋼太郎さんのページに注目です。

シェイクスピア俳優として知られている吉田さんが、本作のヒロインとシェイクスピア作品のヒロイン像を比較するのです。

今回の桶狭間ですが、シェイクスピア作品で似たプロットのものがあると思えました。

『ヘンリー四世 第1部』です。

ハル王子は、父王を嘆かせるうつけで、遊び呆けてばかりいる。

ライバルの跡取りである“ホットスパー”ことヘンリー・パーシーは理想的で、父王はどうして我が息子はこうなんだと嘆くのです。

ハル王子はそんなホットスパーを打ち倒し、何かに目覚めます。

そして第2部では、戦上手な王・ヘンリー五世として即位するのです。

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義元がホットスパーで、信長がハル王子のような。そんな構図が本作からは感じられました。

義元がホットスパーのような、人格高潔で熱気にあふれ、ともかく強いのも、構図的に納得ができます。

そういう存在を倒さなければ、英雄像を形成する通過儀礼は描けないのでしょう。

どうしてそんな地球儀をぐるっと回した英雄像と近づけないといけないかって?

これって、シェイクスピアの知名度ゆえだけとも思えません。

というのも、時代的には近接しているのです。

日本独自の信長像ではなくて、16世紀という時代にふさわしい、人類が通過した時期の英雄像だと思えばどうでしょう?

本作はこういうふうに、地球儀をぐるっと回すとおもしろい人間像を描いてきます。

信長が自己承認を求めている、怖いのか、幼いのか、ピュアなのか、よくわからないセリフもありましたが。

地球儀をぐるっと回すと、時代はかなり遡って『三国志』の曹操がいます。

彼も若い頃はうつけで、わけのわからんクソガキ扱いをされていたものです。

それが名士である橋玄から才能を認められて、何かに目覚めたような変貌を遂げるのです。

あの「墓泥棒するクズ」と敵陣営から罵倒されたこともある曹操が、橋玄の墓にはきっちり手厚くお供えをしたというのですから、何かものすごい感銘を受けたのでしょう。

褒められたい人は、古今東西いる。

通過儀礼を求め、ウズウズしている人はいる。

「褒めてくれるか?」

信長がこう口にしたとき、いろいろと何かがストンと落ちて、わけのわからないほどの感動を覚えてしまいました。

帰蝶は信長との間に子はできない。

でも、特別な人だとつながった。それは彼の才能を褒めるからだと。そこも理解できた。

信長みたいな人は、きっと今だっている。

才能がないわけではないのに、周囲から理解されず、スポイルされて、悲しい気持ちに沈んでいってしまい……そういう人のこと。

休憩時間にアイスクリームを食べていただけで、頭の硬い新人指導係から「非常識だよね」みたいなことを言われる新入社員、そこのきみだよ!

しみじみ、つくづく、思いました。

人間って本質ってもんを見てるようで見ませんよね?

義元は輿に乗る、兵力を水増しする。愚かだからじゃない、むしろ生きる知恵なんです。

そういう権威を見たら、ほとんどの人間がなんとなく平伏するんですよ。ほへーっ! 戦う前から平伏してくれるなら、それが賢いってことになりませんかね。

でも、世の中にはそれが通じない人もいる。

ワクワクと立ち向かってくる信長もそう。

そして、疑念を漂わせ、ステルス裏切りをして、とんでもないカタストロフを善人顔でやらかす元康も。

褒められたい。そんな信長は純粋で悲しいと思えました。

でも、そんな信長すらかわいらしく見えるのは、元康のせいです。

元康は、褒めればよいわけじゃない。

元康が納得する理由を添えてください。ただなんとなく褒めたところで、元康はむしろイライラし始めかねないので、ひたすらめんどくさいのです。

理由を添えたところで、元康側の意図と一致しないと、特に喜びません。

ありきたりな理由で褒めたところで、喜ぶどころか塩対応します。

元康は信長以上に猜疑心の男です。

チーム三河守の4番扱いに喜ぶどころか、心底ムカついている。プレイヤーでなくてチーム三河の監督になりたいわけです。

元康は褒められると「褒めておだてて、何かコキ使うつもりなんでしょう?」とやらかしかねないので、本作最強にして最凶なのだと思えます。

先週、義元の抱いていた猫は、演出として元康の象徴なのだとか。

元康は「チーム三河の犬ソリを引っ張ってがんばろうな!」と義元に言われても、即座に逃げ出します。ネコ科だからさ。従順なわんちゃんだと思っていたら、ネコ科の猛獣でした。

桶狭間を描くようで、三英傑のこと、今後の伏線までみっちり入れてきて、圧倒的な回でした。

このくらいやらねば、今後の歴史ドラマとしては通じない。

そういう意識を感じます。

本作について不安は一切ありません。

休止されても、特に嘆くわけでもない。

休止期間でじっくり考えると、見えてくるものもあるでしょう。放送は休止されようが、こっちが休止することはないのです。それだけのことです。

ロスだのなんだの言う前に『孫子』でも読み返します。


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【参考】
麒麟がくる/公式サイト

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武者震之助

2015年の大河ドラマ『花燃ゆ』以来、毎年レビューを担当。大河ドラマにとっての魏徴(ぎちょう)たらんと自認しているが、そう思うのは本人だけである。

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