【編集部より】
大河ドラマ『べらぼう』がついに最終回を迎えました。
最終盤を迎えて平賀源内の生存説が流れたり、東洲斎写楽がチームプロジェクトにされたり、毒饅頭で大勢の者が死んだり……。
なにやら非現実的な展開の連続となっていましたが、それもすべては一橋治済というモンスターを退治するためでした。

徳川治済(一橋治済)/wikipediaより引用
当初は阿波藩で幽閉される予定だった一橋治済。
それが隙をついて逃げ出し、刀を天に掲げたところで、あっと驚く落雷! そして絶命してしまいましたが、果たして彼は本当に死んだのか?
おいおい、さすがにあれは逝ったでしょ……とは言い切れないかもしれません。
戦国時代の九州、大友家に「雷切」という日本刀を持つ戦国武将がいました。
その名も立花道雪。
“大友家の三宿老”と呼ばれる猛将で知られる方ですが、この道雪には以下のような伝説があります。
【若い頃、雷に打たれて左足が不自由になった】
戦国時代からの言い伝えですから信憑性に疑問符は大いにつくところでしょう。
確かに「雷に打たれてピンピンとしていた」なら嘘と言い切れそうなものですが、「左足が不自由になった」とは何だかリアルにありそうな話でもあります。

立花道雪/wikipediaより引用
「雷に打たれても生きていられる」としたら、一体どういう可能性が考えられるのか?
歴女医の馬渕まり先生に、現代医療の観点から斬り込んでもらいます!
※以下本文へ
大木の下に居てはいけませんっ
こんにちは、馬渕まりです。
雷に打たれたとはどういうことなのか?
まずは、立花道雪の落雷伝説をwikipediaからの引用で確認してみましょう。
道雪が故郷の藤北で炎天下の日、大木の下で涼んで昼寝をしていたが、その時に急な夕立で雷が落ちかかった。
枕元に立てかけていた千鳥の太刀を抜き合わせ、雷を斬って涼んでいたところを飛び退いた。
これより以降、道雪の左足は不具になったが、勇力に勝っていたので、常の者・達者な人より優れていた。
さて千鳥の太刀だが、雷に当たった印があった。これより千鳥を雷切と号するようになった。
大木の下で昼寝をしていた道雪さんに落雷――。
このエピソードは必ず道雪の愛刀「雷切」と一緒に語られますね。
※雷切の姿については立花家史料館公式サイトでご覧いただけます
さて、今回はまず、医学的ではなく科学的なツッコミから進めてみたいと思います。
それは……
落雷の恐れがあるときに大木の下に居てはいけません!
というものです。
雷はどこにでも落ちる可能性がありますが、近くに高いものがあるとこれを通る傾向がある。
気象庁のホームページにも、“高い木の近くは危険ですから、最低でも木の全ての幹、枝、葉から2m以上は離れてください”と書いてあります。
道雪さん、木の下で昼寝をしている場合ではないんです。
さらには
通電しやすい長いものを持つのも危険です!
落雷には、【直撃】と【側撃】という2つの落ち方があります。
木に雷が直撃した場合、電流は木を伝わって地面に流れますが、より伝わりやすい性質のものが近くにあればそちらにも流れるのです。
雷による事故の殆どは、こうした【側撃】によるもの。
高い木などから離れる必要があるのはこの側撃を避けるためなんですね。
道雪さん、も、も、もしかして、【千鳥の太刀】を持っていたのが雷に打たれた原因じゃないの?
黒焦げになっちゃうワケではありません
さてここからが本題『雷に打たれたらどうなるか?』のお話です。
そもそも雷に打たれたらどうして死ぬのでしょうか?
黒こげになっちゃうから?
実は雷による電流は一瞬で流れ終わるため、一般的な感電にくらべ火傷は軽度であることがほとんど。
死因の多くは『心室細動』なのであります。
ご存じの通り心臓は血液を送るポンプの役目を持っています。
心臓の筋肉が足並みをそろえて働かないときちんと血液を送り出すことができません。
そのため心臓には電気信号を出す場所がありそれが伝導路を伝わり心筋細胞の動きを統率します。
落雷を受けるとこの信号が乱れ、
【心室の心筋の興奮が無秩序になる(心室細動)】
場合があります。
心室細動になると、心室全体としての均一な収縮がなく、心室からの血液を送り出せなくなるため意識は消失、数分以内に正常調律に戻らない場合、死に至ります。
雷に打たれた場合の死亡率は10-30%といわれています(ただし日本は死亡率が高く70%)。
稀に電撃麻痺が永続することがあり
続いて、道雪の左足の後遺症について考察したいと思います。
私が実際に『雷に打たれた人を診察したことがない』点はご了承ください。
雷が直撃するとまず死にます。
なので、状況からして道雪も側撃であったと推測。
雷に打たれて助かった場合、後遺症が残らない場合も多いそうです。
しかし、脳がダメージを受けたり神経が損傷する場合もあり、左足の後遺症として考えられるのが電撃麻痺の永続でしょう。
落雷を受けた後、両脚が一時的に麻痺して青白くなり、感覚を失うことがよくあります(雷撃麻痺)。
これは交感神経が不安定になることで起き、通常は数時間で治るものの、稀に症状が永続する場合もあるようです。
馬ちゃん先生的には、この電撃麻痺が原因だと思っております。

35歳で雷に撃たれ、57歳で誾千代さん誕生
他にも「落雷による神経損傷」や「落雷の衝撃で吹っ飛ばされて左足に外傷」、あるいは「鎧などの金属部分まわりの火傷」などが考えられます。
足が不自由になった道雪さんですが、その後も騎馬に乗って戦ったり(しかも強い)、晩年は輿に乗り戦場に出向いていたり、ほんと凄い♪
というか、道雪さんが中心だったころの大友家は、九州を制する勢いで、他にも勇猛果敢な名将がおりましたので、よろしければ以下の関連記事をご覧ください。
ちなみに道雪さん、35歳の時に雷に打たれ、57歳の時に娘の誾千代さんが生まれております。

九州の女城主として知られる娘の立花誾千代/wikipediaより引用
さすがタフな御仁。
真ん中の脚も丈夫だったようで……ナンチャッテ。
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◆拙著『戦後国診察室2』を皆様、何卒よろしくお願いします!
【参考】
雷から身を守るには/気象庁
雷撃傷/MSD
立花道雪/wikipedia
落雷による外傷/メルクマニュアル医学百科
人が雷によって死亡する確率はどのくらい?とっても意外な雷の被害!/Naverまとめ
安心安全情報/イッツコム







