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【朝ドラ・カーネーション】
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糸子は魅力的だが「よい子」ではない
ヒロインの糸子は、魅力的で精力的な女性です。
しかし、所謂「お嫁さんにしたいよい子」ではありません。
ワーカホリックで、気が強く、したがって押しも強い。
しかも、朝ドラヒロインにはあるまじき恋愛も展開してしまい、視聴者からは賛否両論でした。
糸子は周囲から愛される優等生であろうとするよりも、自分の思うまま、理想にそって生きたいと願う女性です。
そんな彼女は、だんじりから始まり、様々な偏見や壁にぶつかります。
女性として生きることうえでぶつかる壁を、本作はごく自然に描きます。
そんな壁の中には、
「男が浮気しても許されるのに、ナゼ女の場合は周囲から糾弾されるのか」
という難しい問いかけもあるのです。
ここまで際どい問いをぶつけてくる。
それだけでも、本作がどれほど異色で、挑発的かわかるというものです。
王道だが陳腐ではない
本作は、朝ドラの「王道」ともいえる、戦前戦中戦後まで生き抜いた、女性の一代記という体裁をとっています。
描写は生真面目で、奇をてらったところはありません。
しかし、それは決して陳腐ではないのです。
独身時代の淡い初恋、姑との対立、育児と仕事の両立で悩む……そうした型にはめ込むことをしないため、本作はどの場面であっても目を離すことができず、息を詰めて見入ってしまいます。
時計代わりにチャンネルを合わせる朝ドラというフォーマットには、あっていなかったのではないか、と思うほど。
朝ドラとして傑作というよりも、朝ドラにはふさわしくないほどの傑作といえるかもしれません。
誠意あふれる姿勢
本作最大の魅力は、誠実で妥協がないことです。
成功の鍵は、制作側、特に脚本家の力量だと私は思っています。
コシノ三姉妹の厳しい目に答えられるよう、全力で誠意を尽くした――それが本作の、妥協のない誠意につながっているのではないでしょうか。
本作は、終盤ヒロインを演じる役者が交替します。
様々な憶測が流れましたが、脚本家の明言により、
【老いを侮らず、誠実に表現するため】
であったということがわかりました。
若い女優がいくら頑張って老年期を演じても、どうしてもまがいものになってしまう。
そんなことではいけない――そんな本作スタッフの誠意によるキャストの交替でした。
主演の尾野真千子さんは、加齢に応じて貫禄を出すことのできる、極めて演技力の高い女優です。
それでも本作は、老いを演じるために役者を交替させました。
なぜ朝ドラではこの覚悟を、他の作品でも出来ないのか? と愚痴のひとつも言いたくなります。
この対応ひとつとっても、本作は“いつもの朝ドラ”ではありません。
若手女優が無理矢理孫のいる年齢を演じる、そういう作品とはまったく違うのです。
まるで隙のない本作。
それでも敢えて欠点をあげるとすれば、その隙のなさと言えるでしょう。
あまりに優等生で、反発を感じる人がいるかもしれない。
あまりの濃密さに、1回が15分では耐えられない人がいるかもしれない。
時計代わりに見るには、あまりに熱中してしまう。
そうなのです。
本作の欠点をあげるとすれば、その濃密な秀逸さが朝ドラというフォーマットを突き破っている感があることです。
いくら美味でも朝食でステーキやすき焼きが出てきたらとまどってしまうように、本作はある意味「良すぎた」。
それでも今回で6度目の再放送を迎えるのは「また見たい!」という声が高く、今の時代にも十分通じる力強さ濃密さがあるからでしょう。
本日見逃しても日曜日に一挙6話の放送がありますので大丈夫ですよ!
【放送スケジュール】
2024年9月23日から
◆月~土曜日:午前7時15分~30分(NHK BS・4K)
◆毎週日曜日:午前8~9時30分 6話連続(NHK BS)
◆毎週日曜日:午前10~11時30分 6話連続(NHK4K)
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文:武者震之助
【TOP画像】
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【参考】
NHK公式サイト(→link)