小説『秋蘭という女』(講談社文庫)より

幕末・維新

幕末の才女・若江薫子は一人でも断固攘夷派~建白女47年の生涯とは

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新政府はもっと攘夷を断行せよ!

薫子は、強い尊皇攘夷思想の持ち主でした。

男相手だろうと一歩も退かず、滔々と自説を展開する彼女の姿に、父親はじめ周囲はハラハラ。

有り余るエネルギーを、皇后女官として発散している限りはよかったでしょう。

教え子が皇后になったのですから、「尊皇」という意味では彼女の思想は成就したといえます。

問題は「攘夷」でした。

徳川幕府が倒れ、いざ天皇を中心とした国ができたと思っていたのに、新政府はいっこうに「攘夷」を実現しようとはしません。

それどころか、西洋人の真似をした制度を取り入れ、お抱え外国人を招く始末です。

「一体これはどういうことか! 外国人なんて犬猫に等しい連中なのに、かえって頭を下げて真似をするとはこの恥知らずめ!」

漢籍や儒教にどっぷりと浸かった薫子にとって、新政府の態度は度しがたいものでしかありません。

しかも皇后付き女官という立場から、新政府を批判する建白書を立て続けに出すのです。

かつて攘夷を唱えていた幕末の人々は、相手の持つ圧倒的な力に屈し、その非をさとり、方針を180度転換しておりました。

すでに倒された江戸幕府が当初から掲げていた方針と似たようなものであります。

しかし、京都で暮らし、外国人に接したことすらない薫子は、攘夷思想のアップデートができませんでした。

ペリー来航時あたりで止まってしまった、カチコチの攘夷思想をふりかざし、新政府を公然と批判。

建白書が無視されると、さらに激烈な建白書を提出します。

そして、ついたアダ名が「建白女」という……。

 

小楠の凶報を聞いて大喜び

新政府が攘夷を断行しないことに怒っているのは、なにも彼女一人ではありません。

当時は「幕府は弱腰だから外国人を追い払えないでいるが、新政府なら断固として攘夷を実現するはず」と期待していた人々も多かったのです。

彼らにしてみれば、新政府のやり方は裏切りに他なりません。

そんな中、水戸学をおさめながらも途中から開国論に転じた横井小楠は、攘夷思想の持ち主たちから憎悪を向けられた一人。

新政府参与として出仕した小楠は、明治2年(1869年)暗殺されてしまいます。

薫子はこの凶報を聞いて大喜び。

「あのような奸臣が誅殺されたのはめでたいことです。下手人は報国赤心の者たちです。どうか何卒、死一等を減じてください」

流麗な漢文でそう嘆願してくる薫子に、新政府もゲンナリするしかありません。

ついには、あの岩倉具視も呆れ果て、木戸孝允宛の手紙で「手の付けようがない女」とまで突き放しています。

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となると方針は一つ。

こんなうるさい女は皇后付きの女官から外してしまえ、となるわけです。

薫子は女官の座を解任され、若江邸において二年の禁固刑となるのでした。

 

故郷を離れて

二年の禁固刑を終えると、薫子の父・量長は既に没していました。

若江家を継いだ範忠とはそりがあわなかったのか、居づらかったのか。

明治7年(1874)頃に、薫子は実家をあとにします。

そのあとは西国を転々として「婦道」を説き続けました。

そして明治14年(1881)、望郷の念を抱えつつ、丸亀にて世を去りました。

享年47。
天才女流学者、皇后付きの女官であった薫子の、あまりに寂しい最期でした。

薫子の人生を追うと、何とも虚しい気分におそわれます。

彼女の人生はどこにもすっぽりとおさまらない、そんな印象も受けます。

もしも男性であれば、どこかで頭角をあらわしていたのではないか?

そう思ったりもします。

あるいは、もっと柔軟な性格であれば、明治以降の近代的な女子教育の担い手として、活躍する場があったでしょう。

どこかでボタンを掛け違えて、時代のヒロインになりそこねてしまった。

そして人々の記憶から忘れられてしまった……。

そんな虚しさを感じさせる、才女の人生なのでした。

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文:小檜山青

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【参考文献】
辻ミチ子『女たちの幕末京都 (中公新書)』(→amazon
安岡昭男『幕末維新大人名事典』(→amazon

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