松浦武四郎

松浦武四郎/wikipediaより引用

幕末・維新

蝦夷地を北海道と名付けた松浦武四郎~アイヌ搾取の暴虐に抵抗する

こちらは4ページ目になります。
1ページ目から読む場合は
松浦武四郎
をクリックお願いします。

 

彼は己の探究心と、その果てみ見出したアイヌのことを考え抜き、生きた人物でした。

そういう彼は世間から見れば異色で、理解しがたいものがあったのかもしれない。

攘夷志士であることを強調した戦前の伝記は、迷いながらキャラクター付けをしたあとすら感じるほどです。

松浦武四郎という人物は、江戸から明治においても、戦前ですら、理解しにくい先進性のある人物であったのではないでしょうか。

ヒューマニスト、人間とは何であるかをひたすら追い求めた。そんな人物だと感じます。

彼以上に、北海道の誕生にふさわしい人物はいないでしょう。

それは、彼が北海道の名付け親という名誉を担っているからだけではありません。

松浦は、あまりに先進的でした。

人は人らしくあるべきだ。

人種による差別ほど愚かしいものはない。

そう理解していたからこそ、アイヌのことを考えてきました。

人間は、人間だ。

そう人類が学び、到達できたのは、松浦が世を去ったずっとあとのことです。

松浦は、その先進性ゆえに苦労を重ねました。

しかし、だからこそ、現在でも錆びつくことのない、そんな人物なのです。

 

松浦武四郎と『ゴールデンカムイ』杉元佐一の比較

ここから先は、蛇足かつ彼自身の人生とは離れるものです。

松浦武四郎は、北海道の歴史を扱う漫画および『ゴールデンカムイ』主人公・杉元佐一との共通点もある人物ではないでしょうか。

 

作者の野田先生がそこをふまえているのかどうかは、わかりません。

ただ、そうであっては不思議でない要素があります。

・家の束縛を受けない立場ではぐれもの

→松浦は嫡男ではなく浪人の期間が長い。杉元は家そのものを失い、かつ除隊済み。

・激烈な怒りの持ち主

→両者ともに、特にアイヌに対する迫害には激怒を見せます。

・名誉欲が薄い

官位返上した松浦。軍人としての功績や勲章に未練を見せない杉元。

・金銭欲も薄い

→実際にそんな記録の残る松浦。アイヌの金塊を必要以上には望まない杉元。

・頑健でサバイバルスキルに長けている

→幾度にも渡る探検をこなした松浦。満身創痍でも死なない杉元。生まれついて頑健なだけではなく、サバイバルスキルを身につけていきます。

・アイヌへの敬意

→著作の数々でそれを残した松浦。アシリパを「知恵を持つ戦士」として敬意を示す杉元。

・恋愛感情が薄い

→40過ぎるまで妻帯を考えたことすらなかった松浦。アシリパ側からの好意はうっすらと描かれていますが、実は杉元側からの描写は一切ありません。

・合理的で柔軟性がある

→松浦の生き方からは、「二君に仕えず」という理論が感じられません。尊王攘夷の志士という捉え方もありますが、そう単純なわけではない。幕府側の箱館奉行とも懇意であり、維新後も幕臣である勝海舟と親しく交流しています。

勝海舟
史実の勝海舟にはどんな実績がある? 江戸っ子幕臣77年の生涯まとめ

続きを見る

松前藩とは次第に対立を深めてゆきますが、はじめのうちは交流があったわけです。

そういう彼の言動を見ていると、あまりに態度を変えすぎているように思えなくもありません。

ただ、これも彼にすれば当然のこと。

目的達成のためならば、手を組む相手を変えることは何の不思議もありません。

これは、杉元にも同じことが言えます。

もしも裏切っていると察知すれば、仲間だろうと倒すと笑顔で言い切ります。その反面、あれほど死闘を繰り広げてきた第七師団と手を組むのです。

目的のためならば、仲間を選ばない。

そんな合理性が両者ともにあります。

・アイヌよ、そのまま生きてくれ!

→松浦は、儒教的な倫理に従って導けば同じ人間であると著書に書いてはいます。

ただ、本気でそう思っているとは考えにくい。そんな要素があります。

アイヌがありのままに生きることこそ最善の道だと信じている。そんな考え方が伝わってくるのです。

杉元も、アシリパに和人として生きろとは言いません。

ウイルクがアシリパを戦士にしたいと知った時は、あのまま生きていって欲しいと自分の願いをぶつけています。

両者ともに、あれほどの苦労をいとわないにも関わらず、その願望はシンプルなことなのです。

こうした要素はかなり重要です。

こういう要素があればこそ、アイヌを差別せずに、描くことができる。そんな配慮を感じます。

杉元とその一行は、作中でもアイヌに差別意識がないように描かれています。

・杉元および彼の一行は、アイヌ女性を性的に搾取しない

→谷垣の場合、彼もインカラマッとの恋愛関係は相互の許可と意志を確認した相思相愛である。

アイヌ女性の性的虐待をふまえると、これは重要な点。

アイヌ女性の授乳をいやらしい目で見ていた白石ィ! おいちょっとお前、杉元に殴られて来い。

・杉元および彼の一行は、アイヌを金銭的に搾取しない

→鯉登は、樺太アイヌであるエノノカが提示した犬橇の経費をそのまま支払っています。

それどころか、交渉のあとは握手までして、対等の契約であるように思えます。

かなりの高額。アイヌを搾取した和人が多い中で、これは重要です。

・杉元および彼の一行は、アイヌと同じ環境で行動している

→食卓や寝台を、人種によって分けることはありません。

実は、彼らは差別からほど遠い行動をとっているのです。

白石が差別発言をした際には、杉元がきっちりと制裁をしております。

松浦は、自分の著作が漫画(イラスト入りの本)や双六に利用され、庶民の間に広まってゆくことを歓迎していました。

漫画やアニメを通して、アイヌの知識が広まる『ゴールデンカムイ』は、現代版松浦武四郎の作品とも言えるのではないでしょうか。

「金塊争奪戦だ!」
それが表向きのアピールでありながらも、主役である杉元はそこまで金塊に執着していない。

むしろ彼は、アイヌであるアシリパがそのまま生きてゆくこと。

そこに、全力を注いでいるのです。

杉元佐一は、現代の目線から見ても差別意識がない、先進的なヒューマニストです。

その勇気のみならず、差別と無縁の言動が、大きな魅力と言えます。

そしてここで忘れてはならないのが、明治生まれの杉元佐一の以前に、文化生まれの松浦武四郎が実在したということです。

彼はまさしく、そういった意味で素晴らしい人物です。

 

松浦武四郎の思いを忘れるな

なぜ、杉元は松浦武四郎に近いのか。

そういう振る舞いを見せてこそ、2010年代という時代において、ふさわしいヒーローであるからではないでしょうか。

松浦武四郎にせよ、杉元佐一にせよ。

こういう極めて差別から程遠い和人がいたからと、そこで安心して救われてはなりません。

「白人救世主」という概念があります。

人種差別を行う人物が多い舞台の中で、差別される側に理解を示すマジョリティを描くこと。

『ドライビングMissデイジー』
『ジャンゴ』
『ヘルプ』
『グリーンブック』
といった名作とされる映画でも、このことは指摘されています。

 

この概念を、噛み締めねばなりません。

よい和人もいた。

だから何なのか。

松浦に安心している場合じゃない。彼を安易な救世主にして、安心してはなりません。

できることならば、松浦武四郎ではなく、アイヌ目線でアイヌ自身を描いたドラマが見たい。

スパイク・リー作品のような、痛みを感じるほど厳しいアイヌ差別と戦う映画が見たい。

こうした流れを踏まえ、そう言いたくなる。

ただ、残念なことに、日本はそこまでの段階に達していない。

だからといって諦めてはいけません。

『永遠のニシパ』には、エカシ役に宇梶剛士さんがキャスティングされました。アイヌに、アイヌが配役されること。これは画期的な一歩です。

まだここまで――と、そう思うのか。

ようやくここまで来られたか。ここから進むぞ――と、前向きに捉えるのか

松浦武四郎の生き方を通じて、和人が暗い歴史と問題を受け止めるのであれば、それは素晴らしいことです。

アイヌの問題は、アイヌだけのものではない。

和人の、いや人間のことなのだ。

そんな松浦武四郎の思いを、忘れてはならないでしょう。

あわせて読みたい関連記事

西郷隆盛
西郷隆盛 史実の人物像に迫る~誕生から西南戦争まで49年の生涯とは

続きを見る

相楽総三
最後は西郷に見捨てられた 相楽総三と赤報隊は時代に散った徒花か

続きを見る

3700kmも漂流し10年かけて帰国~大黒屋光太夫はロシアで何を見た?

続きを見る

ロシア外交官ニコライ・レザノフ 諸国に翻弄された報われない生涯

続きを見る

江戸・明治時代の日露関係はアイヌを見落としがち~ゴールデンカムイで振り返る

続きを見る

幕末のロシア南下政策
ロシアの南下政策を警戒!幕末から蝦夷地=北海道は危機に晒されていた

続きを見る

本居宣長
国学者・本居宣長の何が凄いのか?医学をやりつつ『古事記伝』を完成

続きを見る

文:小檜山青

【参考】
NHKドラマ『永遠のニシパ』(公式サイト
松浦 武四郎/更科源蔵/吉田豊『アイヌ人物誌』(→amazon
筒井清忠『明治史講義 人物篇』(→amazon
更科源藏『北海道と名づけた男 松浦武四郎の生涯』(→amazon
加藤博文/若園雄志郎『いま学ぶ アイヌ民族の歴史』(→amazon
中川裕/野田サトル『アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」』(→amazon

TOPページへ

 



-幕末・維新
-