文覚

文覚/wikipediaより引用

源平・鎌倉・室町

伊豆で頼朝に用いられた破戒僧の文覚~実はストーキング殺人事件の被疑者だった

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文覚
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頼朝に挙兵を勧めたとされ

再び人物関係を整理してみましょう。

文覚:流罪となった僧侶でとにかく思い込みが激しい

源頼政:源氏で初めて公卿となった野心家

源頼朝:伊豆にいる源義朝の三男

平家に対して不満が渦巻く伊豆の中に、文覚なんて投げ込んだらどうなるか?

まるで油の中に投げられたマッチのようにも思え、実際『平家物語』では、伊豆配流中の文覚が、頼朝に対し挙兵を勧めたとされます。

吾妻鏡』でも、千葉常胤の子・千葉胤頼と共に、文覚が頼朝に挙兵を勧めたことが記述されています。

かつては源頼朝、近年では足利直義では?とされる神護寺三像の一つ(肖像画)/wikipediaより引用

いったい文覚は、どこまで関与していたのか?

ハッキリとはしないものの、頼朝と関係が深かったことは間違いないでしょう。

日本三大弁財天に数えられる神奈川県藤沢市の江島弁財天は文覚が勧進しています。

江島神社

江島神社(江島弁財天)瑞神門

 


後ろ盾を失ってからは反発を受けて

源頼朝や後白河法皇など。

当代きっての実力者から支援を受けた文覚に対しては誰もがひれ伏する――藤原定家は日記『明月記』でそう記しました。

しかし、その威光は後援者あってのもの。

後ろ盾である後白河法皇と源頼朝の死後、状況は一変します。

後鳥羽上皇や朝廷は、文覚に対して厳しい態度で臨みました。

後鳥羽天皇(後鳥羽上皇)/wikipediaより引用

なぜなら文覚はあまりに強引な性格であり、寄進を迫る手法は多くの人々から反発されていたのです。

正治元年(1199年)には佐渡国へ流され、さらに建仁3年(1203年)には対馬国へ流刑。

そしてこの歳、鎮西で亡くなったと伝えられています。

享年65。

 


強引な性格が歴史を変えた

文覚を調べてみると、どうしても人格に問題があるように思えてなりません。

袈裟御前の伝説がどこまで事実なのか。

国史大辞典でも

「全て事実とは認めがたいが、何らかの恋愛トラブルが出家の動機になった」

と記されており、良からぬ事件があった可能性は高そうです。

さらに、いかに動機が立派であろうと、勧進を強要するため後白河法皇の御所まで押しかけるのもやりすぎでしょう。

当時の記録でも、その粗暴さを嘆くだけでなく、文覚が学問を嫌っていたり、人の悪口を言ったりする様子が記されています。

僧侶というよりもはや猪武者なのです。

ただ……そもそも人妻へのストーキングが厳禁だったら、悲劇は起きず、世に出ることもなかったかもしれませんね。

北条泰時が制定した『御成敗式目』には、不倫禁止、路上女性拉致禁止が盛り込まれました。

北条泰時の母が八重というのは史実的にありなのか

和田合戦の北条泰時(歌川国芳作)/国立国会図書館蔵

人間の意識の変革を見るという意味では、貴重な逸話と言えます。

ドラマの中で文覚を見たら、気分が悪くなるかもしれませんが、それが当時の“悲劇”であったということでしょう。

最後に。

岐阜県中津川市には、なめくじ祭りという奇妙な行事があります。文覚の墓に出没したなめくじを祭るのです。

なぜ、なめくじを?

なんでも出家して罪を償った文覚を慕い、なめくじとなった袈裟御前が墓を這うのだとか。

ストーカー殺人の被害者である美女が、死後なめくじとなって、加害者を許す……って、なかなかシュールな由来ですよね。

大河ゆかりの祭りとして説明するには難しそうですが、祭りの日は屋台や夜店が並び賑わうそうです。

文覚に思いを馳せつつ、めぐってみるのも一興でしょう。


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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link

【参考文献】
佐藤和彦/谷口榮『吾妻鏡事典』(→amazon

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