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【『べらぼう』感想あらすじレビュー第41回歌麿筆美人大首絵】
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歌麿の絵と、ていの案思が耕書堂を盛り立てる
江戸市中では人相見が大流行していました。
蔦重はこれに目をつけ、人相見の大当開運先生がいると宣伝し、歌麿の美人大首絵をセットで売ることにしたそうですぜ。
これには歌麿も、大した宣伝だと微笑み「たま下駄駒下駄東下駄」と返すしかありません。
人相見も喜んでそんなにギャラを払わなくてもきたそうですぜ。さらには歌麿に会いたい客もいると言い出し、サイン入り販売まで行います。
歌麿はそんな蔦重の営業センスを誉めます。
それしかできねえ、文も書けなきゃ絵も描けねえと蔦重。そのうえで蔦重は歌麿にギャラを渡しつつ、次の揃いもののことを言い出します。
それはあの市中の美人ブームを当てこんだものでした。
蔦重は娘を描けば店としても宣伝ができると、ちゃっかりスポンサー料まで見込んで話を進めようとしてきます。
江戸のためだのなんだのいう蔦重に、入銀狙いを指摘する歌麿。そのうえで引き受けています。
ていはそんな二人の様子を見つつ、茶を出せなくなってしまうのでした。
そして雲母が輝く背景を覗き込んでいます。
なぜ背景が気になるのか?
おていさんは、千蔭先生の書を背景が黒い状態で出したいと言い出しました。
石摺(墨一色)みたいなものかと千蔭先生は言い、金がかからないかと心配しています。
彫るのは楽でもインク代がかかりますね。蔦重は金がかかってもその方がいい。近頃見ないと推してきます。
これがなかなか複雑で、ていは蔦重と歌麿に嫉妬するどころか、発想を得ているのです。
『光る君へ』のまひろにそんなところも似ているタイプと言いますか。愛より己の知的好奇心や発想が好きなタイプなんですね。
こうして『源氏物語』の抜粋を千蔭先生が書いた女性向け書の手本『ゆきかひふり』も出来上がり、尾張の書物問屋「永楽堂」へ、交渉に向かうことになりました。
「ババア」でなく「おっかさん」と呼ぶ重三郎
蔦重が出かけようとすると、つよが髪を結い直したいと声をかけます。
普段の蔦重は、世間を知るため、髪結床に行くのだそうです。作中には出てきませんが、湯屋もきっと常連なのでしょう。
つよが蔦重の髪を梳かしながら、おとっつぁんと同じ頭の形だと言います。
すると夫婦喧嘩の思い出を語り始める蔦重。なんでも蔦重の両親は、二人で自分たちの子ではないと言い争い、二人して子を置いて出ていってしまったのだとか。
「駿河屋さんからまだ聞かされてないのかい? 口が堅いねぇ、さすがだよ」
さて、何があったのか。
蔦重の父は間が抜けていて博打で莫大な借金をこしらえました。
それで江戸から逃げることになった。とはいえ逃げた先の暮らしがわからない。ならば蔦重は吉原で育てたほうがよいと考え、駿河屋に預けた。
それでも借金取りは蔦重を追いかけてくるかもしれない。だからこそ親として縁を切るため、両親ともに色狂いだとして、出ていくことにしたのだそうです。
蔦重はこれを聞かされ、親に捨てられたという恨みを捨てました。
かつては、そう素直に言えず、自分は公方様の隠し子で、親は隠密だとか、あるいは桃太郎だとか、そう思っていただのと軽口を叩いています。
つよはしょぼくれた話だというものの、蔦重は自分が考えていたよりもよい話だと言います。
「柯理(からまる)、あんたは強い子だよ。でもなんでそんなに強いかって言ったら、そりゃ私が捨てたせいさ」
そう優しく呼びかけるつよ。「ありがた山」と返す蔦重。
「でも裏を返しゃ、あんたは強くなけりゃ生きていけなかったんだよ。下を向くな、前をむけ。泣いてる暇があったら人様を笑わすことを考えろって。それでここまでやってきて、そりゃもうあんたはもう立派だよ。でもね、大抵の人はそんなに強くなれなくて強がるんだ。口では平気だって言っても、実のところ、平気じゃなくてね。そこんとこもうちょっと気付けて、ありがた〜く思うようになったら、もう一段男っぷりもあがるってもんさ!」
そう我が子をポンポンと叩くつよ。
「んだよババア、親らしいことをいうじゃねえか」
「そうかい? じゃあ、あんたも息子らしいことしなよ」
そう言われ、尾張土産を買ってくるという蔦重。
つよはおとっつぁんも尾張生まれだと言います。その上で、うろついていたら土産に頼むと軽く言うのでした。
「合点承知。じゃ、行ってくらぁ。おっかさん」
「頼んだよ、重三郎」
「おう!」
そう親子は言いあいます。今生の別れになる予感がしますが、しかしこれで蔦重が母を礼賛する墓碑銘を頼んだ理由がわかりますぜ。
さて、蔦重が旅立ったころ、江戸には正親町公明が帝のことを伝えにきておりました。
尊号一件です。
朝廷が幕府に無断で処理しようとしたことを問題視している定信。そのうえで「将軍は、定信なら認めるだろうと言っていた」だとか。
定信は目を怒らせ、一橋治済に抗議します。
すると治済は家斉に渡した心得を取り出し、そこにある尊皇の思想を持ち出します。さらには朱子学の「孝」を持ち出し、天皇が父を思う心を否定できないだろうと言い出しました。
定信は心遣いを感謝しつつ、御公儀威信を損ないかねない、己に一任するようにと言います。
定信は尊号の件を拒否する旨を文書にして朝廷に出しました。
それでほっと一息かと思いきゃ、ロシア船がやってきたとの知らせが……幕政がもう大変です。
『逆賊の幕臣』予習の時間です
『逆賊の幕臣』では、大沢たかおさんが勝海舟を演じると発表されました。
『花燃ゆ』では良さを活かせなかった、むしろ記憶から焼き消したくなるような役を演じさせられた大沢さん。
小栗大河の招致運動までしていたのに、呼んでもいない大河ドラマがやってきた挙句、インターネットスラング「グンマー」のような描かれ方をした群馬県。
そんな『花燃ゆ』の呪詛が干支が一巡してやっと解かれると思うと、感無量です。
井上真央さんや川井憲次さんの呪縛もそうなればよいのですが……。繰り返しますが、あのドラマは出演者のせいで駄作になったわけではないでしょう。
そんな呪詛の話は横におきまして、2025年と2027年は、実にすんなりつながるところも注目ですぜ。
蔦屋重三郎だけが世を耕したわけでもなく、これからますます締め付けが強化される中、文人版元は幕府の目を掻い潜って出版を続けてゆきます。
ナポレオン伝に、アヘン戦争情報などなど。実はペリー来航も既知であった。
そういう江戸情報論といえば、再来年大河考証の岩下哲典先生が強いのです。
岩下先生の本を読めば『べらぼう』の復習ができ、『逆賊の幕臣』の予習ができてまさしく一石二鳥。是非とも手に取ってください。
私としては岩下先生が考証だとよいなあと思っております。事後諸葛亮じゃないという証拠として、今年の大河レビューをあげておきやす。
ここでも何度か歌川国芳『きたいなめい医 難病療治』について言及していますが、この研究についても岩下先生は実に興味深い論考をされております。
『べらぼう』は仕方ないっちゃそうなんですが、歌川国芳と歌川広重が生まれる歳でドラマは終わりになります。
しかしメディアとして見た浮世絵の進化はまだまだこれから。ここで止まるのは勿体無いんですね。
それを『逆賊の幕臣』の予習だという名目で、特に歌川国芳とその弟子である玄冶店派まで導けるとなれば本当にありがた山でやんす。
そうそう、予習といえばもうひとつ。
今回の最後の場面で一橋治済が、朝廷を使って公議にヒビを入れる嫌な姿を見せました。
そして再来年の「むかつく一橋」を担当する慶喜は、ヒビを入れるどころか粉砕します。
治済を超える苛立ちが待ち受けている可能性が高いので、これまた期待しましょう……これは期待といってよいのかどうか。
誰が演じるにせよ、生田斗真さんを霞ませるほどに視聴者を心の底から苛立たせる。顔も見たくないほど嫌われてしまう。そんな気合いで挑んでいただきたいものです。
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2027年大河ドラマも“一橋”が憎い! 慶喜こそ『逆賊の幕臣』ではラスボスか?
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小栗と勝がセットになることで、両者の立ち位置も見えてきましたね。
小栗は定信タイプ。まっとうなことを言うし真面目で賢いけれど、人に鬱陶しがられる言動をする隠キャです。
定信は失脚後、幕閣には入れないのですが、小栗は定信以上に面倒臭い性格なのにしつこいほどに再登用されます。
幕末という切迫した事態であるため、性格上の欠点どころではなかったのでしょう。
無茶苦茶感じの悪い演技をする、そんな松坂桃李さんに期待しましょう。
ただし、小栗にはそれでも信頼できる親友の栗本鋤雲はじめ、理解者はおります。
そして勝は、口がうまくて思わず乗せられてしまう。そういう陽キャですね。蔦重タイプです。
再来年はまたしても高い解像度で「正論を言っていようが、その言い方ではダメだ」となる人物が描かれるのかと思うと、楽しみになってきます。
大河でも明智光秀、まひろ、定信、おていさん、そして小栗と、隠キャに理解を深めるよう描いていただけるのはありがた山です。
こう言う人間性に難がある人物は、往々にして視聴者受けのために性格の棘が抜かれてきたもの。
それがありのままの隠キャが見られるようになったのは、時代の進歩でしょう。
第三弾キャストは栗本鋤雲、一橋慶喜、井伊直弼、道子あたりか。予習して楽しみに待ちたいところです。
◆ペリー来航絵巻「金海奇観」を読み解/東洋大学入試情報サイト
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