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【『べらぼう』感想あらすじレビュー第41回歌麿筆美人大首絵】
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MVP:つよ
つよは幼い我が子を吉原に置いていった鬼母のようにすら思えていました。
となると、蔦重はどうしてあんな愛情あふれる碑文を残したのか? その謎解きができましたね。
つよは悪い人でもなく、我が子の朴念仁ぶりにも困惑している。
そう描かれたところが実に興味深い。諌める母ですね。
この「諌める母」というのが実によいと思います。
母はなんでも甘やかし受け止めるのではなく、駄目だと思ったら嗜める。そこまで含めた関係性であるのが実に良いのです。甘えがない関係性ですね。
「諌める母」を尊敬する精神性が日本ではなくなっていたのかもしれません。
これを感じたのが朝の連続テレビ小説の再放送を見ていてのことでした。
『チョッちゃん』のころは、年上の女性への敬意や、諌められたら背筋を伸ばすような価値観がある。
それから時代設定がくだった『どんど晴れ』となると、母も、娘も、妻も、男性のわがままを察して先回りしてメンタルケアすることが当然とされている。
あのドラマを見ていると、平成にあった過剰な甘やかしは社会を悪化させたように思えてくるのです。
大河ドラマでいえば『どうする家康』がこれで、実際には母を敬愛していたはずの家康が、平成に育てられた甘えん坊男子のように母に反発する様があまりに醜悪だったものでした。
やっぱり2023年とは訣別すべきなんだぜ! そういう思いも感じますし、もっとブラッシュアップしていこうという思いを感じさせるドラマですぜ。
総評
歌麿が今週も切ないものがある。
セクシュアリティに関する問答もそうです。
そしてこのドラマが怖いのは蔦重が商業主義のせいでクリエイターの魂をへし折る元祖のように思えてくるところにもあるんでさ。
歌麿は蔦重を信じていて、自分のために最高の晴れ舞台を用意してくれるのだと思おうとしている。
それを蔦重が儲ける話に持っていくことで、心をペキッとへし折ってしまう。その音まで聞こえてきそう。
高尚な芸術性と、商品としての価値。どちらが大事か? なまじ浮世絵は市中で売り捌くものだから、発展とともにほどなくしてこの葛藤が出てきたのだとわかる作りになっています。
浮世絵師は芸術家なのか。商品を生み出す存在なのか。この二者択一を突きつけてくる。そう思えてきます。
歌麿は蔦重に愛着があるからより一層残酷ではあるのですが、それ以外の絵師もなかなか大変なことになります。
『逆賊の幕臣』予習枠でもう堂々と言及できる歌川国芳。
彼は商業主義に苦しめられた代表格です。
東洲斎写楽に完勝した歌川豊国に弟子入りしたものの、師匠の作風を真似できずに伸び悩みました。
自分の描きてえモンを市中が理解しねえ。その狭間で悩んだ絵師です。
売れっ子になってからも自信作が打ち切りになり、かなりメンタルをやられたこともあります。
その弟子である月岡芳年は、検索すると関連ワードに「精神病」と出てくる気の毒な絵師です。
ただ、明治維新で西洋から入り込んできた精神医学がもの珍しくて、誇張されたと思われますので要注意です。
心身不調は飲酒、脚気、眼病、金銭トラブル、人間関係もあるのでそこは差し引いて考えるべきかと思います。
ただし、明治維新のあと、ただでさえ精神的に苦労していたのに、自信作が売れないことで精神が限界に達したことは確かなようではあります。
上野戦争を目撃して描き、そのあと寝込んだそうですので、そりゃ精神状態も悪くなるでしょう。
こういう後進浮世絵師の精神崩壊問題を、先んじているのが『べらぼう』なのかと思うと恐ろしいものがある。
月岡芳年は明治以降も活躍し、弟子が多かったためか、言動が多く残されています。
金や名誉のためでなく、絵の研鑽を積むうちにそれがついてきたらよいのだと思えと教えていたとか。
そんな彼の記念碑には、本作の歌麿にも通じる言葉が記されています。
絵画は写生を以て本旨とすれど、写意ならざるべからず。其意を得ざるときは精神乏しく、見るに足らざるなり――絵画とは、姿形を写すものであるものの、それだけではない。その意まで描かれていなければ、精神が感じられず物足りないものだ。
歌麿は時代が先んじているだけにこうした言動は残っていないものの、絵師の精神性はドラマにきっちりと落とし込んであると思えます。
浮世絵師の三つ目は一体何を見て、何を生み出してしまうのか?
彼らの残した絵を見て、私たちは何を見てしまうのか?
そんな探求にまで踏み込んできて、大河ドラマをもう一段上の高みに引き上げてきたと思えます。
この作品が思わぬ効果を残してしまうということは、作り手も日々感じていることかもしれません。
森下佳子先生と藤並英樹氏のトークショーを聞いてきてそう思いました。
江戸中期にする。放送に合わせてメディアに関わる人にする。舞台で見た横浜流星さんを主演にする。史料が少なくても描ける森下先生にする。
そうした積み重ねが、その合計値だけでなく、はるかに上回るものを残していく。そんな手応えがあるのだと思えました。
『べらぼう』は視聴率が低いと言われておりますが、そんな数字以上のものを残してゆくことでしょう。
ますます目が離せない傑作です。
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【参考】
べらぼう公式サイト




