比企尼が書状を読み、感無量になっています。
佐殿の挙兵を信じていたのですが、緊迫の嫁姑争いが発生。
嫁の道としては、こんな危ないギャンブルに家を巻き込みたくない。
嫌そうな顔して、義母がこっそり源頼朝を助けていたことに気づいていたと言います。
しかし、姑の比企尼は嫁の嫌味に気遣わずに前のめりで、間に挟まれた比企能員は迷うばかり。
結局、母には勝てません。早く戦の支度をしろ!と言いつける母に折れ、大声で家中の者に準備を命じます。
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そんなタイミングで、最悪の報告が届きました。
石橋山で頼朝が大敗したのです。
こうした反応は何も比企家だけではなく、関東のあちこちで起きていたでしょう。
そして女性が家の行く末に口を挟むこともありました。
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洞窟の頼朝と目が合う景時
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経俊と離れた梶原景時が、洞窟の中に潜む頼朝一行を見つけました。
雷鳴が鳴り響き、目が合う頼朝と景時。
この光景は前田青邨筆『洞窟の頼朝』という絵画が有名で、私も昔その絵を見たときに、なんて格好いいのかと胸がときめいたものです。
しかし、その思い出を上書きするような場面です。
眉毛をつぶし、猫が鼠を見つけたような梶原景時が圧倒的で、頼朝のなんと頼りないことか。
他の連中も捜索に来て穴を見つけますが、雨の中、引き返してゆきます。
九死に一生を得る頼朝。じっと楽しむように見つめる景時。
景時は「隠れるところはどこにもござらぬ」と嘘の報告をし、一行を助けると、頼朝は土肥実平に名前を聞きます。
梶原景時――。
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「覚えておこう」
そして、ほっと一息つくのでした。
「武田信義である」
頼朝の軍勢は壊滅しました。
援軍を求め、甲斐を目指す北条時政と北条義時。兄の北条宗時がこの世にいないことを、父子はまだ知りません。
それにしても敵が大勢うろうろしている中、甲斐まで向かわされるのだからたまったものではありません。
甲斐源氏の長である武田信義の陣にたどり着き、面会を果たします。
「武田信義である」
居丈高な相手に、頼朝の舅と名乗る時政。
しかし相手は見下すかのような尊大な態度です。手を組みたい、力を貸していただきたいという二人に、条件をつけました。
真の源氏の棟梁は信義であると認めること。
頼朝は名乗っているだけ、というのが武田信義の認識です。
武田は血筋では相手にならないと頼朝もバカにしていましたが、どっちもどっちでしょう。
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「かしこまりました」
そんな事情を無視して即答する父。慌てて嗜めようとする義時。佐殿はわしが説き伏せると言っていますが、時政を真似てこう毒づきたくもなる。
おめえ、先週、大庭景親を挑発するつもりが挑発されて大敗の原因になったじゃねーか!
案の定、無理だと義時はアッサリ断言しました。
頼朝が自身で兵を率いて平家討伐をすることを義時はわかっています。なぜ時政はそこがわからんのかなぁ。
信義はそんな時政を見抜いたのか、馬の前に人参をぶら下げてきます。頼朝に力を貸す気はないが、北条には味方するってよ。家人になるならという条件付きで。
案の定、浮かれる時政です。
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こうした、忠義とはほど遠い姿勢がドライだのなんだの言われますが、私は「原始的」と呼びたい。
原始時代、我々の先祖は「お前ら、俺に味方したらこの果物やるぜ」と言ってくる相手に「運が向いてきたな!」とついていったんですよ。そういうことだ!
そんなバナナを見た猿状態の時政は、後白河法皇の【院宣】を噂通り持っているという噂は本当かと信義に問われます。
噂だと誤魔化そうとする義時に対し、あっさり認める時政です。
父子だけになると、おにぎりを食べながら時政はウキウキしています。
運が見えてきたってよ。佐殿は先が見えたし、手を切るのはいいかもしれない。政子は不憫だが、またいい縁もある。
義時が佐殿を見捨てるのかと唖然としていると、北条のためだと開き直っております。
それ以外に北条が生き残る術があったら言うてみ。そうあっけらかんとしている時政を前に義時は落ち込むばかりで、目から光が消えていく……。
思えば熱血過ぎたけど、宗時は綺麗な目をしていましたね。
さて、頼朝一行は――。
頼朝に自害の作法を押し付ける実平
頼朝は洞窟で読経し、土肥実平は木の実を食べています。
やっぱりこいつらも原始的では?
実平は、なぜか楽しそうに自害の作法を語り出します。
「そういう話はしたくない!」
何を考えているんだ、実平よ。空気を全くよまず、自害の作法は「鎧を脱いで松葉を敷いて……」と具体的に語り出す。
そこへ安達盛長がやってきて、もう箱根権現を頼るしかないと悲壮な表情です。
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距離は北西へ25里。
時代によって差はありますが、1里4キロほどと考えるとこれは辛い。敵がウヨウヨしている中を100キロですから、死んでしまいますって!
一方、時政と義時親子はそんな「敵兵の中を走り回れ!」クエストを堪能しています。ゲームにされたら、ストレス溜まるだろうなぁ。
そして父子と敵兵の間で戦闘開始です。
殺陣が相当高度ですね。
本作は弓矢を用いていますが、弦が跳ねて当たると痛い。森の中の殺陣だと木にあたりかねません。
しかも走りながら刀を振り回している。まだ武術の型が荒削りなので、本当に危険です。
それを高度な撮影技術で、森の緑も実に美しく描かれていますね。
戦闘内容も戦国時代との差異も感じさせないといけないのですから、これは相当に骨が折れたことでしょう。
追手らしき兵を無事に討ち取った時政は、倒れた敵の竹筒を取り、水をごくごく飲んでいます。そして我が子に「戦はもういい」と言い出す。
おい、武士の本分はどうした!
と、思ったら心が折れたようです。
伊豆山大権現に向かい、りくを連れ出し、みんなでどこかでひっそりと暮らしたいってさ。
義時は抵抗します。
院宣はともかく、佐殿は放っておけないと。どうせもう殺されていると悲観的な父に対し、兄上が戻ってくると義時は返す。
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兄上が生きている限り、必ず道は拓けると言い切っていますが、その兄はもうこの世にいません。
しかし、弟には大きな責任感を残していきました。
野心なき時政と義時
伊豆山大権現で北条政子が、りく(牧の方)に「父のどこがよかったのか?」とぶっきらぼうに尋ねています。
しかしりくは、政子こそ佐殿のどこが好きかと聞き返す。
「あの方はいつか必ず何かを成し遂げる方……そういう人だとピンときたから」
艶っぽい声でそう語る政子。
小池栄子さんの魅力なんて誰もがもう語り尽くしていますが、私からも付け加えさせてください。
ぞんざいな時と、この頼朝がらみでうっとりしたときの声。どこか甘く酔いしれたような声音になって素敵です。これは惚れますね。
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りくは「私と同じだ」と政子に返します。そして私の番だと言い、亡き母上はどんな方であったかと聞いてきます。
おとなしい人だった。そう語り出すと、実衣も話を始めます。
母上を忘れないとは思っていたけど、近頃顔を思い出せない。大好きだったし優しかった。でも、どんどん忘れていく。
政子も同意します。どんどん、忘れてしまう……。
りくは「随分といい加減な人たち!」と呆れたようで、何か見出しています。
母が父に文句を言うことはなかった。言われるがままだった。つまりは正反対である。そう聞かされ、りくはこう返します。
「私と?」
政子はここでこう認めます。
だけど、りく殿と一緒になられてから、父上は変わられた。なんだか楽しそう。本当は色々言って欲しかったのかもしれない。
りくは完全に何かを吹っ切ったような宣言をする。
「戦が終わったら、もっともっと焚き付けてやります!」
おおっ! りく、政子、実衣という三者の生き方が見えてきましたね。
この3人には共通点があります。
3人とも“悪女”と呼ばれる。『鎌倉殿の13人』は悪女率が高いのです。
でも、彼女たちの弁護をさせてください。
こうやって誰かが焚き付けないと自分らしさを出せない男もいるから、悪女になってしまう。女だけで自己実現しようにも認められず、男の力を使わないとならないから、そうなるのです。
打算でなく、愛情だけで結びつけたいのならば、女性の権利を認めた方が手っ取り早い。
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実は、時政にも、義時にも、野心はありません。
伊豆山大権現に義時がやってきて「一緒にどこかで暮らそうや」と告げたとき、時政はそれでよいでしょうが、りくは不満でしょう。
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この場面で、時政とりくという二人の野心が対照的に描かれました。
義時だって、平家の統治にそこまで不満はないような姿勢だった。
それが政子が頼朝と結ばれて、兄・宗時が何かに取り憑かれて――そんな何かを吸い取って、彼は変わりつつあるのです。
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