麒麟がくる感想あらすじ

麒麟がくる第34回 感想あらすじ視聴率「焼討ちの代償」

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麒麟がくる第34回感想あらすじ
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帝と京都の怖さ

さて、京の内裏では――。

帝こと正親町天皇が東庵と囲碁を売っています。なんでも、世間ではこんな戯言があるとか。

帝が織田信長を使い、比叡山から覚恕を追い払ったのではないかと。

不埒千万な戯言と一蹴する東庵ですが……ん、待てよ?

信長に対する評価は、当然のことながら時代ごとに変わりました。

今よりもずっと天皇への忠誠が重視された明治から第二次世界大戦終結前までは、信長は勤皇であるとされてきました。

しかし思えばこの説って、私が前述したように帝の弟を苦しめたことを無視しているわけです。

信仰心があればその心をも痛めつける所業でもあると。

ただ、明治以降の国家神道からすれば、天皇家の仏教帰依なんて無視されたのでしょう。足利一門の評価も低い。そう考えると、何かストンとくるものがある。

第二次世界大戦後は、信長が勤皇か、それとも天皇にすら牙を剥いていたのか、さまざまな考え方があります。

はっきりしているのは、本作はなかなか挑発的な歴史観が根底にあるってことですね。

ここで帝は「あるいはそうかもしれぬ」と関白に言ったと漏らします。

東庵が驚くと、関白は呆れたと帝は明かす。

信長は荒々しきものゆえ、あまりお近づけにならぬ方がよいのではないかと苦言を残し帰っていったのだと。

それでも帝は問うてしまう。

信長の他に、誰があの覚恕を叡山から追い払うことができた? 僧侶でありながら、有り余る富と武具で大名を従え、この都を我が物にせんとしたではないか。

そう問いかけます。

なんだろう? 雲も上から声が降ってくるみたい。この帝の言葉は、比叡山焼き討ちを擁護する意見そのものではあるのですが……。

東庵が、信長が参内したことを尋ねると、帝はこう言います。

「褒めて欲しそうであった。褒めてやった。まことを申さば無残な戦じゃ」

ああ、なんという、このおそろしさよ……。そう、これが京都だ。

京都はよいところではある。それは認める。ただ、歩いていて裏表のような、京都らしさを知ると、外から来た者は恐れ慄く、そういう瞬間がある。

ぶぶ漬け問答じみた話です。

むろん、だから京都の人は悪いとか、そういうことではありません。

どういう歴史的な経緯を経て、京都に住む人の意識が形成されていくのか?

そういうことが腑に落ちる気がするのです。

本音と建前を使い分けねばならない。そういうことが学べた気がする。

問題は……信長に、そういう使い分けが絶望的なまでに通じそうにないところですけれども。

そしてこの帝、坂東玉三郎丈は今日もおぼろに漏れる光のような美しさで、このふわっとした感覚が役柄そのものだと思えます。

 


ぶっちぎりの正統派信玄

京都からはるか東、甲斐国では――。

覚恕が織田信長に全てを焼き尽くされた口惜しさを訴えています。

背後には「諏訪大明神」。

その男は、比叡山の痛ましい有り様はつぶさに聞き及んでいると言います。信長は仏法の火を消した鬼である、と。

「覚恕様、憎き信長を、この信玄が討ち滅ぼしてご覧に入れまする!」

数珠を引きちぎる、今週も絶好調の春風亭小朝さん・覚恕。

そしてこの武田信玄

個人的には、松永久秀よりも「お前がそれを言うか?」感満載、それがこの武田信玄ですよ。

こやつ……風林火山を掲げ、あの真田昌幸を育てた、そんな煮ても焼いても食えない『孫子』マニアのくせに、何が仏法の火だ! それを利用する気満々ですよね。

汚いなぁ。本音と建前を使い分ける器用な大人、実に汚い!

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と、憎まれ口を叩きたくなるのも、石橋凌さんが素晴らしすぎるからかもしれない。

一周回っての正統派信玄。

圧迫感が半端ない、そんな武田信玄。

ご本人は『武田信玄』で信長を演じ、そして今回信玄ということに「なんの因果でしょうか」とコメントしているそうですが、因果というか、必然でしょう。

そこまで迫力ある顔、演技力、人間になってしまったということです。おめでとうございます!

これはもう、なんというか、信玄が生きて蘇った感がある。

岐阜県旅行で、織田と武田のはざまで生きた悲劇の女城主・おつやの方関連史跡である岩村城を見たことを思い出しました。

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岐阜県も、エリアによっては武田領が非常に近い。そりゃおつやの方も苦労するわ。

嫌だなあ、武田信玄、この圧迫感、嫌だなぁ……そういう圧迫感を擬人化した信玄が、画面に映っておりました。

すごいとか、そういうことを超えて、なんだかおそろしかった、とでも言いましょうか。

信玄が幕府につく過程を丁寧に描けばよいという意見もありますが、本作はあくまで織田視点です。

なんだかわからんけど、いきなりなんかすごいやつが敵対心燃やしている!

そういう演出の方が、むしろ効果的ではありませんか。

 


MVP:松永久秀

武田信玄に脳みそ蒸発しかけましたが、いやいや、今回は審美眼の男・松永久秀でしょう。

何よりも、自分の美を見抜く目を信じ、愛する男。そういう一歩間違えると勘違いしたナルシストになりそうな人物像に、吉田鋼太郎さんは命を吹き込みました。

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ここの松永久秀は、筮竹を持っていた風情もあり、占い師そのもののように見えた。

そしてその言葉からは、こんな言葉を思い出します。

きれいは汚い、汚いはきれい――。

『マクベス』において、主人公マクベスの運命を暗示する、三人の魔女の不思議な言葉です。

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下克上を達成すれば、どんな悪事も綺麗にできる。そういう意味とか、さまざまな解釈ができますが、ここでもグルグルと万華鏡のように回ります。

光秀の心はきれい。でも、そのきれいな心でする戦は汚い。

義昭の心はきれい。でも、その義昭の幕府がすることは汚い。

信長の心はきれい。でも、その心で何もかもを壊し、汚いものを残してゆく。

それに、これは久秀自身の運命でもあるかもしれない。

久秀と光秀のヤリトリでは、東大寺大仏殿焼き討ちはどうなんだ! というツッコミもあることでしょう。

近年の研究では、意図して焼いたというよりも、失火原因であるとわかってきている。久秀主犯とも言い切れない。

では、なぜそうなったのか?

というと、信長が久秀の悪名をことさら後世まで吹聴した結果ではありませんか。

きれいなところもある英雄が、汚い梟雄そのものになる。きれいな大和を、汚い梟雄がおさめようとした。その報いを受けた!

と、なりそうですが、本作はひねってきます。

信長が久秀を責める言葉は、自分自身を棚上げした身勝手なものだとして定義し、久秀はその美意識ごと破壊され、吸い尽くされる、そんな犠牲者となりそうで……今後の運命はどうなるのでしょうか。

結末はわかっていても、解釈次第でこうもおもしろくなるとは。

久秀は、物語に何かを吹き込む存在です。

彼の予言が正しかったと、このあときっと思うのでしょう。マクベスが魔女の予言を思い出したように。

 

総評

武田信玄で思考力が蒸発しそうですが、そういうわけにもいかない。

本作からは、誰かの影を感じる。

それは池端さん世代の、父親の像です。池端さんはインタビューでお父様のことを語っていました。そこからも思うところはあったけれども、たまとのやりとりで見えてきたものがあります。

このドラマからは、戦争の臭いがします。第二次世界大戦の臭いです。

今回、光秀が比叡山で殺された中に我が子の幻を見て、それが夢だとわかり安堵しつつも動揺するあたりに、圧倒的な生々しさを感じました。

我が子にやむを得なかったと言われても、納得していない戸惑いにも、何かがあった。

戦争から帰ってきた兵士が、我が子や孫を抱いた瞬間、ふっと蘇るものがある。自身が手にかけた誰かにも、こんな子や孫がいたのではないか? そう思うことで、罪悪感が襲ってきて、涙がグッと盛り上がってくる。唖然としてしまう。

正しい戦争だった? 仕方なかった?

そうはいえども、この手に残る生々しさは消えん。

たまと光秀の姿は、池端さんとお父様の反映では? そう思えてしまうのです。

我らが父の罪――。

そういう言葉もある。そんな池端さんの父親世代への愛憎が入り混じったものを感じるドラマなのです。

漢籍の知識が豊富で、優しかった父。そんな父が、戦争の話になると暗くなる。こんなものじゃないと言い出す。どうしてなのか? そこへの探求を感じます。

そういう人物像を、池端さんの子世代のハセヒロさんが演じているところが、これまた素晴らしくて。

記憶を継承する意義を感じますし、そういう役柄に彼が選ばれたことは、必然だとも思えるのです。

このドラマで描きたいのは、有名な合戦での武勇だとか、おなじみの場面ではなく、人間の心そのものだと思えます。

信長の人の心に無頓着な無邪気さ。

久秀の美しさを求める心。

義昭の濁る心。

光秀の揺れる心。

そういうものが素晴らしいとは思うけれども、演じる側は長いセリフなり、しゃべりっぱなしの現場で、とても大変だとは思うのです。

歴史はただの豆知識とか、終わったことであるとか。いろいろそういうことは言われる。

でも、そういうもの?

そう単純ですか?

その時代を生きた人間の心を読めば、もっとおもしろいはず。

そんな歴史を探る根源を思い出させてくれるから、今年の大河は見逃せません。こう、心がつかまれるのです。

※著者の関連noteはこちらから!(→link


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文:武者震之助
絵:小久ヒロ

【参考】
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