こんばんは。
武者震之助です。
32回放送は「薩長同盟」でした。
皆さんは、いかがでしたか?
今週、制作側は自信満々だったそうです。
◆「西郷どん」ついに薩長同盟成立! 鈴木亮平、監督に「普通のシーンじゃないんですよ!」(→link)
なんせ制作統括の櫻井賢氏はこんな風に応えているのでありました。
「歴史に残る薩長同盟のドラマができたのでは」
えぇと……。
「黙れ小童ぁ!」と言わせて貰ってよろしいでしょうか。
※『黙れ小童っ!』5連発
このドラマの制作陣は、日本史知識が中学生レベルにも達しておらんのか?……って、いやいや、そんなワケがない。
時代考証がついています。つまり付いているからには、知っていて色んなことを歪曲しながら、時には史実を踏みつけるようなことも辞さないのでしょう。
今週を一言で申しますと、
【制作者の良心を疑う出来】
であります。
では早速見て参りましょう。
【TOP画像】
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ドコでフランスと交渉しとんねん
今週は、フランスのロッシュが登場。
一橋慶喜の妾・ふきが舞っているところからスタートします。
もう、この時点で最低ですよね。
幕府がゲイシャ接待しているとでも言いたいのでしょうか?
外国人相手に妾を踊らせる慶喜が最低だと言いたいとでも?
こんな女が踊る場所で外交的な交渉するかよ。アホか!
ナレーションの内容もきつい。せっかくの西田敏行さんの声を台無しにする誤報のようなお粗末な話。
「諸外国の圧力を受け、倒幕の機運が高まっていた」
って、そういう機運は、関西にはありました。その仕組みを見てみましょう。
攘夷テロが起こりまくり、幕府が賠償金を支払う羽目になる
↓
年貢があがる
↓
「幕府さえなければこんなことないのになあ、倒幕すればいいのに」
↓
明治政府以降も、賠償金の支払い義務は残る
↓
結論:攘夷テロやらかした連中が悪い
そもそも誰が悪いんや?というと、下関から外国船に無差別砲撃していた長州藩と、生麦事件を起こした薩摩藩あたりなんですね。彼らおせいで、幕府(日本)は莫大な賠償金を払わされている。
自作自演?とツッコミ突っ込みたい気分で一杯ですわ。
薩長だって外国とベタベタじゃん
それと気になるのが、幕府とフランスの関係を悪いものとして描くこと。
ええとですね。
この当時、薩長ともに外国勢力とベタベタですってば!
薩摩だって薩英戦争以来、イギリスと蜜月関係を築いていたでしょうに。
ここまで来ると【悪意ある見せ方】を通り超えて、【悪意ある嘘】とすら思えてしまいます。
幕府は外国に身を売るような真似はしておりません。
実際、幕臣の間では、長州征伐の際に外国の力を借りるべきだという議論もありましたが、結局は却下されております。
外国からの干渉を懸念したんですね。とてもマトモな判断力ではないでしょうか?
実は、幕府って、かなり冷静。
本作のように、目的のためならば外国の力をホイホイと、しかもゲイシャ接待で引き出す慶喜は、史実から見れば真逆です。
長州が暴れて京都ボロボロになったばかりでしょ
しかし、慶喜が連合艦隊を呼んだせいで、京都の人も大混乱に陥ります。
とは、いやいや、いやいや……あまりに白々しい話でしょう。
わずか1~2年前の攘夷テロで京都の治安を悪化させたの、どなた?
武力勢力を率いて京都に入り「禁門の変」を起こし、京都を焼け野原にしたの、どなた?
薩摩と長州、全部あんたらでしょ。まさかこれも全て慶喜と会津が悪い?
そして天皇の取扱についても、恐ろしいことをやってのけます。
連合艦隊に怯えた孝明天皇を利用して、慶喜が第二次長州征伐の勅を出させたことになった。って、こういうの、全部この先「倒幕の密勅」で巨大ブーメランぶっささると思うんですけど、ええんかい?
疑惑と陰謀にまみれた「討幕の密勅」薩長が慶喜を排除して幕府を潰すためだった?
続きを見る
気弱な孝明天皇を利用して慶喜がズルいと言いたげですが、史実の孝明天皇はむしろ意志強固です。
その後を継いだ明治天皇は、いかに聡明だろうとまだ十代。
そういう若い天皇を担いで好き放題しおって、という批判は当時からありました。
ここで西郷どんが、
「あのとき下関まで行って薩長同盟結べば……」
と嘆くのもシラけます。
薩長同盟って策士と策士のヤリトリめいたところがあって、薩摩が思わせぶりに長州を翻弄しています。
そういうのを一切合切省いて、ヤンキー漫画の高校生同士の友情コメディにするつもりのようです。
「非義の勅命は勅命にあらず」
このあと場面は、大久保の妾・おゆうの家へ。
実は彼女、幕末史において名を残しております。
新政府軍サイドで「錦の御旗」を作る際に、材料を買ってきたと言われているのです。
誰もいないから密談にうってつけな家であります。
んで、このあとの会話が酷い。
大久保が書き記した書き付けに西郷が目を通し、わなわなと感動します。
「非義の勅命は勅命にあらず」
天子が許そうが、天下万民が納得しないものは勅じゃない、従わなくてもよい――んですと。
「倒幕の密勅」での巨大ブーメラン、まただ……。
天下万民というか東日本の民が納得しなかったのは、江戸幕府ではなく明治政府に対してです。
江戸っ子は、こんなふざけた世の中早く終われと呪っていました。戊辰戦争の戦地となり、住む土地を焼かれた人々は言うまでもありません。
この場合、大久保の「義」とは薩摩にとっての損得ですよね?
本作って、
「長州藩をいじめる幕府は悪いんだーー!」
と言いたがります。
今後、薩摩が戊辰戦争で、奥羽列藩をボコボコにするときはどう言い繕うのでしょう。
それとも江戸無血開城でドラマを終わらせ、明治維新は無血革命だと言い切るつもりかな。
密書がすでに密書じゃなく若手藩士も鼻息荒い
西郷が名前を入れ、大久保と連名とした書き付けが出回って「世の中は大興奮!」という流れを迎えます。
確かにこの書き付けはありました。
しかし、あくまで密書だったんです。
少し考えてみればわかるでしょう。こんな堂々と晒せる内容ではなく、正直、酷い展開だと思います。
薩摩藩の若手藩士は、中村半次郎(桐野利秋)を筆頭に「そうだ!そうだ!西郷先生の言う通りだ!」と浮かれているのもおかしい。
本作は「勅」の意味ご存じですか?
尊皇思想が広まったこの時代は「勅」こそ大正義でした。
だからこそ長州藩は、天皇を【玉(ぎょく)】と呼び、奪われるなと言ったほどです。
それをこんな軽いノリで否定するなんて、天皇制の持つ意味、尊皇、全否定では?
幕末史で「勅」の重要性を全否定するし、それを「エエこといったった」扱いってどうかしてます。
このあと、孝明天皇の勅で痛い目に遭った薩長は、幼い明治天皇をガッツリと抑え込んで勅を出しまくりです。
勅の正義について、臣民が口出ししてグチャグチャ言えるのならば、そういうこと必要ありませんよね。
せめて史実準拠で、控えめにすればいいのに。
「勅」というのは、天皇のご意志によるもの。
薩摩藩士風情が鑑定眼を持てるものではありません。
こういう日本史の、基礎の基礎すらあやうい本作。
制作者に日本史を勉強し直せとは言えません。その道の専門家もいらっしゃるでしょう。
代わりにこう聞きたい。
あなたの歴史を知る者としての良心は、一体どこにおありかと。
こんな歴史捏造ドラマに関わって、恥ずかしくはないのでしょうか。
思い切り、歴史を馬鹿にしているでしょ?
以前も書きましたが、コレを作っているのがNHKでなくて、BBCが『お馬鹿な日本史』という名目で作ったら大炎上ものですよ。
日本を、日本史を、土足で踏んづけているようなものです。
脚本ボロボロだからアドリブも放置?
薩長のヤンキー漫画ウダウダ。
本作って、台詞から演出まで、全部センスゼロだから、見るのが辛くなってきます。
イケメンキャスト揃いだしBL要素ぶちこんだから女性ファンたまらないでしょ、とか思っていそうで鬱陶しいです。
本作関連のニュースを読むと、アドリブを放置したというものが多い。
◆<西郷どん>鈴木亮平&瑛太の“アドリブ合戦”に視聴者興奮「こういうのが欲しかった!」(→link)
同日には、「西郷どん」公式サイトで鈴木と瑛太のインタビュー記事を掲載。“友情のチェスト”シーンの裏側が明かされた。
“薩摩隼人の血”を強く表現したい思いから「チェストーッ!」のセリフを大声で叫んだという瑛太。鈴木は「まさかあんなふうに瑛太くんが『チェストーッ!』を言うとは」「リハーサルのときは普通の声量だった」と撮影時の心境を告白。こみ上げるものがあり、腹の底から「チェストーーッ!」と脚本にはない一言で応えた。
鈴木の「チェストーーッ!」を瑛太も「『あ、それ、おもしろいじゃん、ずるっ(笑)』って思いました」「くそぅ、吉之助さぁに負けたなぁ、とか思って」と回想。感動を呼んだ“友情のチェスト”シーンが2人のアドリブ合戦だったことが明かされている。
この手のアドリブを放置して、視聴者受けを狙おうという本作の狙い、ぬけぬけと公式サイトで公開するあたりも、苛立ちを感じます。
公式SNSも、歴史を茶化すようなイラストばっかり流していますし。
やっぱり歴史ドラマ、作る気がないでしょう?
幕末史は複雑です。
そんな中でも西郷と大久保は、自藩に有利なるよう、謀略を駆使した策士です。
これ、例えばの話なんですけど、一昨年と昨年の本多正信が、アドリブで騒ぐとか考えられますかね?
あの徳川家屈指の軍師が。
そういうアドリブが本多正信にあったら、「実在の人物にあわない」と却下じゃないですか。
西郷と大久保だって、そういう智謀の持ち主ですよ。
西郷と大久保に、こういうヤンキー漫画ノリの絶叫をさせて、それを受けると思っているあたり、本作スタッフがいかに勉強嫌いか、嫌いだから役者のノリだけで埋めようとしているか、わかろうというもの。
では、なぜアドリブだらけなのかというと、理由は明白。
脚本がズタボロで、読んだところで役者さんが入り込めないし、演技プランも立てられないのです。だから、単発インパクト重視のアドリブで誤魔化すしかないのです。
本作関連記事を読み、スペシャル番組も見ておりますが、脚本が褒められることはまずありません。
一昨年、昨年には見られない現象です。
こういう、誰も脚本を褒めないドラマは要注意です。
『跳ぶが如く』では7/1だった薩長同盟
話が脱線し続けてスミマセン。
正直、展開が無茶苦茶すぎて書きようがなくて。
ドラマのストーリーとは、皆さんご存知の通り単純そのものです。
①長州征伐の勅が出される
②西郷と大久保慌てる
③「非義の勅命は勅命にあらず」が世に出回る
④桂小五郎との面会を龍馬にお願い
⑤薩長同盟の条件は、武器と米のトレード
⑥薩摩やたらと大勢で桂小五郎と対談
薩摩が輸入した新型銃が、龍馬を通じて長州へもたらされます。
このときの試し撃ちのシーンも、軽~くフザけた感じでしたよね。
銃が人を殺すためのものという認識が感じられない。
会津視点の『八重の桜』では、ヒロイン八重は幼少時代で既に、
【銃は狙った相手を殺傷する】
ということを父親から習います。
薩摩の剣術も、殺人剣なわけですからいくらでもそういう重さを見せるところはあったはずなのに、本作の龍馬や長州藩士は、八重の幼少期以下の精神レベルにしか見えない。
ともかく、色々と画策して、桂小五郎との面会を実現化させたい西郷。
かなり時間かけてウダウダやっておりましたが、今後の放送時間はどうやりくりしていく予定でしょう?
現在8月最終週です。
かつての幕末大河で【薩長同盟】が取り上げられたのは、
『龍馬伝』8/29
『八重の桜』4/14
『花燃ゆ』8/23
です。西郷が主役だった『跳ぶが如く』では7/1でした。
坂本龍馬が、維新を迎える前に死を迎える『龍馬伝』と近いです。それだけでヤバイ雰囲気がプンプン。
主人公が明治に余生のある『八重の桜』は4月ですけれども。『花燃ゆ』と近いということは、やっぱり平成の幕末大河駄作薩長同盟を意識したのでしょうか。
あるいは西南戦争はやらない?
篤姫と無血江戸開城して終わり?
最終回は、
「こうして西郷どんのおかげで無血の明治維新が成立し、日本は幸せになったのです。今宵はこのへんでよかろうかい。チェスト気張れー」
とナレーションが閉めて終わりとか?
あり得るんですよねぇ。
西南戦争を描こうとすれば、どうしても明治政府の内乱、西郷と大久保の対立、征韓論を描かないといけません。
ハッピーイケメンがヤンキー漫画調で顔をつきあわせているドラマで、そんなの無理というか邪魔ですしね。
やっぱり久光はバカかーい
西郷と大久保は、薩長同盟の本交渉の前に、桂小五郎から条件を提示されました。
それは「長州と共に戦う」という趣旨が含まれており、事前に国父・島津久光の許可は得られていないもの。
西郷どんは、久光の許可をガン無視して進める決意をして、小松帯刀や桂久武のムリヤリ了承させます。
「長州からお願いされた」というカタチならOKだと、彼らは条件を出します。
はいはい、久光をさんざん馬鹿殿扱いしているから平気なんですよね。
明治維新後、久光は新政府のやり方に反発します。
しばしば悪意のあるフィクションでは【久光が次の将軍になりたがったから】と馬鹿殿扱いされますが、そんな単純な話ではありません。
なんでも西洋にならう明治新政府の変節を度しがたいと思ったことが背景にあります。それに、周囲にも理解者がいました。
久光のように明治新政府のやり口に反発する人は、当時日本に溢れていたのです。それが不平士族の乱、自由民権運動にも繋がってゆきます。
もしマトモに歴史を辿るなら、このへんの久光軽視もきっちりやるでしょうけどね。
もちろん、そんなことは微塵もなさそうで、桂との交渉の始まった西郷どんの元に、若き日の伊藤博文がやって来てイギリスからの手紙を出します。
本作の不思議ポイントとして、薩摩とイギリスの関係をほぼスルーするというのがあります。
もうここまで無茶苦茶やってるんでしたら、薩摩と外国と絡ませて『あさが来た』で演じたディーン・フジオカさんを、五代友厚役で出しちゃっても良かった。
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だから、伊藤博文が手に持ってた手紙も突然すぎて意味がわかりにくいのです。
そこに映っていたのは5名の日本人留学生。
薩摩と長州の若手藩士です。
海外では仲良くやってそうな雰囲気を醸し出しております。まさか、これが……。
写真一枚で全員仲間だ!
ここから先は、御花畑と呼ばれる小松帯刀の邸宅で、最終的なグダグダ交渉ですね。
このイケメン俳優を並ばせればいいと思っているだけの脚本と演出には、失笑しかありません。
イケメンがずらりと並んでいるのに、大山らがギャーギャー騒ぎ出します。
「禁門の変」で薩摩藩士から死者が出たから長州とは結べない、ですって。
本当に本作は、歴史の勉強をしていないのか。それとも隠したいのか?
これ、もしももっとマシな理由を考えるとすれば、次のようなものを挙げると思います。
「禁門の変」で御所に砲撃した長州とは結べない
「薩英戦争」の後、薩摩船を沈め、国父久光の殺害予告まで出した長州とは結べない
そもそも孝明天皇は長州に激怒している
こういう史実を隠蔽したいとしか思えません。
ここで西郷どん、こう宣言します。
「長州と結ぶのは、日本を守るためじゃ。こん国に先はなか!」
は、ハア???
指摘するのも疲れましたが、
【無理な攘夷で日本を危うくした勢力】
ってどこでしたっけ? そんな勢力同士が手を組まないと日本を守れないってヤバすぎますって。
ちなみに明治政府は、薩長閥重視で人事を行いまして。語学や外交のエキスパートであった幕臣や他藩士を拒み、痛い目に遭います。
適材適所とは程遠い。これで日本を守るためだったとはチャンチャラおかしいものでした。
この後のドラマの展開も酷いです。
伊藤がイギリスからの写真を取り出します。そこには、薩摩藩士と長州藩士がともに映っています。若者はこうなんだ、敵意を捨てて結ぼうと。
もう失笑しかありません。
その若者も含めて、明治政府は薩摩閥と長州閥が火花を散らし、政治的混乱を招いたほどです。全然仲良くないっつーの。
写真一枚で反省して感動して薩長同盟。
「日本ちゅう一つの国の民なんじゃ」
だーかーらー。
明治以降、藩閥政治をガチガチにやらかして、「薩長土肥」の一角であり、英語と海外事情に通じた大隈重信すら、外していたような志向だったじゃないですか。
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「異国の恐ろしさをよう知っちょう!」
なんてとてもじゃないけど心に響かない。
かつて佐幕派の東北諸藩はロシアの恐ろしさを熟知しておりました。
しかし彼らは戊辰戦争の敗北で政治の中枢より追い出されます。
結果、樺太が軽視され、あっさりとロシア領にされております。
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そもそも慣れている幕府のほうが外交は強いんですよ。
異国を軽んじて攘夷をして、城下町まで攻め込まれた薩長が、異国の怖さを知っているとドヤ顔はあまりに苦しい。
「今のままなら日本は飲み込まれる! 日本を救う道ぜよ」
と簡単におっしゃられますけど……欧米諸国が日本を植民地化しようとしていたかどうかは、難しいところです。
そこまで考えて徹底的に外交を成し遂げたのは、そもそも、幕臣ですからね。
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幕府が防ごうとした、交渉しようとした外交に茶々を入れた連中が、ドヤ顔でこんなことを言う。
エエBGM、エエ(と脚本家が思っている)台詞、イケメンの顔アップで8時38分。
よくもここまで嘘をつけたもんだと、呆れるばかりです。
そういや来週予告ですと、ハリー・パークスが登場する見たいですね。
よろしければ以下の記事に本人の生涯がまとまっています。よろしければどうぞ!
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総評
「薩長同盟」なんて、政権で中心になりたい薩摩が、落ち目の長州に恩着せがましく手を差し伸べて、ライバルだった一会桑に対抗したものです。
それをヤンキー漫画の高校同士が、殴り合いながら手を結ぶようにしました。
こんな歴史捏造をして、何がしたいのですか?
明治維新150周年ならば、勉強できるドラマにしましょうよ。
本作を日本史専攻受験生が見ていたら、私は警告します。落第の原因となりかねないくらい、嘘っぱちです。漫画およびアニメ作品『銀魂』で幕末を学んだ方がマシでしょ。
それにもう、言葉を失うほど嘘まみれ。
・長州征伐には皆反対していた!
・薩長は仲良し!
・薩長あってこそ外国から植民地支配を受けずに済んだ!
・日本人はみんな仲間!
・倒幕こそが日本を救う道!
・薩長の倒幕で、日本人は皆仲良くなってラブ&ピース!
こうした描写は全部大嘘です。
信じている視聴者さんが周囲におられたら、さり気なく史実へ誘導されたほうがいいレベルです。
もう、ハッキリ言いましょう。
本作は西郷隆盛の人生を描きたいわけじゃないし、興味もないでしょ?
西郷なんて年表形式で起こったことをそのまま並べれば、それなりに見られます。
しかし、本作は敢えて嘘をついてつまらなくしているとしか思えないのです。
大河ドラマに関わったという功名を得るためとか。イケメンだらけのドラマをテキトーにいじくり回して楽しみたいとか。
そういうレベルの作り方という感じで。
このドラマでどうしても描きたいこと。
幕末史の重みや意味。
そういった志みたいなものはすべて度外視していますよね?
ここまで書くのはイヤですけど、そうとしか思えません。
なんて思っていたら、証言みたいなものを発見しちゃいました。
◆「西郷どん」プロデューサーが語る“革命編”の見どころ【テレビの開拓者たち・櫻井賢】(→link)
史実に忠実に描くよりも、フィクションで独特の切り口を
と、おっしゃられております。
これを言ったのが一昨年の『真田丸』、昨年の『おんな城主 直虎』ならば納得できたかもしれません。
しかし本作は、独特の切り口で出そうとしたフィクションが、ぜ~んぶヤンキー漫画みたいな演出に留まっているだけじゃないですか。
もう、つくづく、今年の制作陣は史実にこれっぽっちも興味がないし、よいドラマを作ろうという意識がないんだなぁと思いました。
テキトーに話題性があるドラマを、一年間なんとなく作れたらいいだけ――そんな印象です。
そういえばこのPさんは『マッサン』を手がけた方です。ウイスキー作りについては考証がシッカリしておりました。
しかし、登場人物の描き方については疑問も多かった。
ヒロインの夫はモデルより愚かで、妻の描き方も当時ノスコットランド人女性からはほど遠い、戦後外国人女性のステレオタイプのようでした。
史実ではおとなしい女性であった姑を、嫁いびりするステレオタイプにしたことも残念ポイント。
本作はあの作品の悪いところと、やはり脚本はじめスタッフで共通する『花子とアン』の悪いところを掛け合わせたように思えます。
『花子とアン』は、関東大震災や戦時中に関わる史実描写、主人公の翻訳への態度はかなり酷かったものです。
よりによって翻訳者に、辞書を漬物石にさせるのはどうかと。
歴史の取扱の難しさ、朝ドラで味わったはずなんですが、そういう反省はなさそうですね。
特に、ガッカリ感が半端ないのが、明治維新を「革命」だととらえていること。
これ、大変いけません。
明治維新がフランス革命のようなものと同一視できるかどうか、議論の分かれるところ。
英語ですと”Meiji Restoration“で王政復古となります。
要するに、武士から天皇に国のトップが入れ替わっただけであり、市民がひっくり返したフランス革命のような事例とは、別物という認識です。
実際に相違点はかなりあります。
当のフランス革命だって、礼賛だけの作品は今時ありえません。
ルイ16世とマリー・アントワネットの処刑、恐怖政治、ヴァンデ戦争といった流血を引き起こしております。
さらにヨーロッパ全土を巻き込んだナポレオン戦争の一因でもあります。
能天気に「革命ばんざーい」とやらかす作品なんざ、今時作ったところでぶったたかれるだけで。
ハリウッドがたまにそういう映画を作ります。
2001年の『マリー・アントワネットの首飾り』が、その一例です。
フランス革命の一因となった首飾り事件を肯定的に描いたもので、歴史的にみればただの詐欺師であったジャンヌ・ド・ラモットを、革命を引き起こす女傑として描いているのです。
んで、この映画は総スカン。
歴史を無視しているわ、フランス革命が引き起こした痛みを無視して能天気に礼賛するわ、ラモットを史実と異なる人物とするわ。
歴史知識がない奴をくだらん嘘で釣るな、と総スカンになるのです。
これは、2006年『マリー・アントワネット』も同様でした。
様々な不運や苦悩もあった王妃を、革命を引き起こす痛いセレブ女としたことに、反発が巻き起こったのです。
本作『西郷どん』も、まるでこうした歴史的に不正確で、制作者が思い込みだけで作ったハリウッド映画のようです。
明治維新=革命という考え方を流布し、維新で起きた苦痛をブン投げる。歴史を軽く見ている証拠でもあります。
歴史的に論争になっていることを、無邪気に堂々と、深い考えもなしに言うあたりから、それを感じてしまいます。
『にしても、武者しょ、お前はなぜそこまで怒る? さすがにムキになりすぎでは?』
なんてツッコミもありますが、これまで本作は以下のような不義理を働かれておりました。
孝明天皇という皇族の意志をねじ曲げ、洗脳されるほど愚かに描く。
薩摩藩士を、遠回しに馬鹿扱いする。
史実では聡明だった人々を、馬鹿扱いする(橋本左内の瀉血、島津久光や徳川慶喜がただの馬鹿、皇族公家が軒並み麿化、川口雪篷から岩山糸まで軒並み劣化他)。
史実では奄美大島を搾取しまくった西郷を、讃えるための歌声をOPに入れる。
そもそも西郷隆盛が、魅力のない偽善者の愚か者にしか見えない。
こんな惨状を前にして、どうしたら黙って見ていられましょう?
いや、無理です、ってなわけで怒りが止まりません。
最近つくづく感じること。
それは2016年と2017年の両作品が、どれほど戦う大河ドラマであったか?ということです。
2016年は、知名度の割に大河からほど遠い「真田信繁」が主役です。
彼は、勝ち組ではなく一国一城の主になれず、敗死という結末ゆえに、大河という成功者を描きたいドラマからは遠かった。
それを【こういう人生もある!】と描いた点が素晴らしい。
2017年の井伊直虎も、大河ヒロインらしからぬ属性です。
生涯未婚で子供なし。良妻賢母、内助の功をヒロインに背負わせたい大河からすれば、画期的でした。
そもそも史料が少なすぎて、周辺の情報から作り上げていく作業も必要でした。
こうした2年間を挟んでいるのが『花燃ゆ』と『西郷どん』って、どんなギャグっすか。
・花燃ゆ
・真田丸
・直虎
・西郷どん
秀逸な戦国をクソ幕末でオセロしちゃって全部黒くなってしまいそう。
『西郷どん』は『花燃ゆ』よりはマシという意見もありますが、賛同できません。
個人的には「より悪い」と思います。
『花燃ゆ』は主役選びの時点で問題があると言い訳できます。
しかし今年は維新三傑であり、日本史上屈指の有名人物です。
諸説あり、ドラマにすることは難しい人物ですが、それを理解しているならば避ける手もあったはずです。
いざ取り上げるからには全身全霊を賭して真正面から取っ組み合うべきですが、今年は全くヤル気なしで、男優同士のイチャイチャで最後まで押し通される雰囲気です。
2015年と2018年、大河ドラマは存在しなかったと言ったほうがよいかもしれません。
彼らが一年間かけて言いたかったことは、
「明治維新を実行した側は気のいいねえちゃん、にいちゃんで、維新はクリーンな革命です!」
という無理のある正統化にも思えてきました。
いやいや、普通に幕末なんて陰謀だらけでしょ。
150年後の現時点でも、論争の種ばかりですよ。
2015年は強制的にスタッフを連れてきた感がありました。
今年は違います。
「大河に絡めればそれでいい。面白いドラマを作らなくてもいいんでしょ」
と感じさせる、志が低い人だろうな、と予測ができてしまうのです。
今後、大河がこの失敗から逃れるにはどうすべきか?
最低でも今後20年、【幕末】は手がけないことかもしれません。
おまけ
本作の恋愛描写がくだらない理由を解説する記事がありました!
◆『西郷どん』を見ても、西郷隆盛のどこがスゴいかよくわからない(→link)
本記事の指摘、大変秀逸です。
本当に本作の西郷どんは、何をしたのかわからない。ただなんかエエことをシャウトするだけ。
今にして思えば『花燃ゆ』って良心的でした。
ヒロインがいかにお菓子作りとイケメンとの恋に邁進していようと、
「知名度が低くて偉業を成し遂げていない吉田松陰の妹だもんな」
で、終わりましたから。
それが今年は通じない。
「あれ? こんな、エエことシャウトだけ芸人が、なんで維新屈指の英傑なの?」
となってしまう。
そもそも本作が大好きな【今までにない西郷隆盛像!】とやらも、デタラメばっかで、しかもツマラナイからどうしようもない。
西郷について調べる気がない、史実をなぞらない結果、誰も見たことがないし見たくもない像ができるだけです。
本作の脚本家は『花子とアン』において、飲酒厳禁のメソジストであったヒロインにワインを飲ませて泥酔させた前科があります。
史実をなぞり、歴史人物に敬意を表するなんてことは、どうでもよいのでしょう。
本記事は良いものですが、首をヒネる箇所もあります。
「『西郷どん』は、今までにない西郷隆盛像を描こうとしています。西郷の女性関係を描くことに重点が置かれた脚本なので、幕末の群像劇を見たい人にとっては、寺田屋事件などで京が大変なことになっているときに『西郷が嫁を迎えるかどうかなんてどうでもいいよ』って感覚なのでしょう。
奄美大島に流された西郷が、大恋愛の末に島の娘・愛加那(二階堂ふみ)と結婚して子供を2人もうけているところもホームドラマ要素が強い。志士としての彼を知るには、不完全燃焼感があるのかもしれません」
えぇと、本作に恋愛描写ありましたっけ?
一昨年のきりちゃんの紆余曲折を経た恋、昨年の直虎をめぐる直親、政次、龍雲丸描写には引き込まれたんですけど、今年はそんなものなかったなあ。
そう思っていたら、その理由が判明する現在バズり中のビデオを発見しました。
“Born Sexy Yesterday”(昨日生まれたばかりでセクシー)
要するに、SF等で多い女性像です。SF以外でもあるあるです。SF特有というより、いわゆる【セクシーな据え膳】ですな。
手抜き、発想のどん詰まりです。
この手のヒロインは、こういう特徴があるそうです。
無知。特に性的なことに無知。
だがナゼか、どういう格好をすればエロいかはわかっているとしか思えない格好をする
無知ゆえに、突然男の前で脱ぐ等、お色気シーンをあっけらかんとやらかす
男性経験がないため、他の男性と性的な部分で比較することはしない
これって本作の愛加那はじめ、ヒロインもあてはまるやーん!
本作のヒロインって、男女の規範が厳しい幕末の薩摩藩とは思えないほど、萌えを狙ったような言動かましますし、ご都合主義の塊です。
無駄にエロいっていうか、都合がいい。
愛加那なんて自分から裸になるし、島妻を辞める時も自分から身を引くんですよ。
エッチなゲームかよ!
島妻になるための葛藤とか、言い訳程度。西郷どんにどうやって身を捧げるか、そこしか見所がないようです。
本作のヒロインたちって、ワンパターンで個性ゼロですよね。
見た目や服装、境遇が違うだけで、全員が男に都合のよいことをするばかり。
例外は、西郷どんと敵対する慶喜の妾となったふきくらいでしょうか。
史実のモデルとなった女性準拠の言動なんて、ほぼありません。
篤姫なんてもっと気が強くて、本来は、断固西郷どんに敵意を燃やすべきなんですよ。
そもそも、篤姫が西郷どんに恋心を抱く事態、史実からすればありえない。
島津の姫君が、下級藩士にラブ? ははっ、冗談キツいですよ。
幕末 薩摩と徳川の緊迫したヤリトリがわかる 篤姫と西郷隆盛の殺伐とした関係
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不仲だったとされる最初の妻・須賀すら、ラブラブっぽかった。
西郷1人目の妻・伊集院須賀とは?わずか2年でスピード離婚した理由
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岩山糸も、史実をなぞっているとすら思えない。
西郷3番目の妻・岩山糸~夫の銅像を見て「こげなお人じゃなかった」と頑なに否定
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史実準拠の個性はいらない、常に無知で可愛らしく、主人公を受け入れなければいけないというのが、本作のヒロイン像。
まさに“Born Sexy Yesterday”(昨日生まれたばかりでセクシー)です。
こういう男にとって見ていれば都合のよい描写ばかり流して、しかもつまらない。もう駄目。
一昨年のきり、昨年の直虎が受け入れられたことをお忘れでしょうか?
本作は『マッサン』チームが関わっているそうです。あの作品のエリーも、史実のモデルと比べると、異世界から来た無知ゆえにセクシーなことをするこの手のヒロインにされておりました。
そういうのはもう決別しません?
本作は原作者と脚本家が女性であるため、BL要素といった女性向け要素が多いとされています。
そうでしょうか?
遊郭に入り浸る西郷どん。西郷どんの目の前でホイホイ服を脱ぎ始める愛加那。
男性向けサービスも多いことを忘れてはおりませんか?
一事が万事こうなんです。
史実よりも、その人がどういう性格かよりも、見ている人にナイスガイ、ナイスガールと思わせるかどうか、それが行動の基準。
そんな話に、一本筋が通るわけもないし、史実を終えるわけもない。
日曜の夜に45分間、そんなものが流れている。それが2018年です。
薩長同盟は、以下の記事でキッチリとした史実をご確認されたほうが良さそうです。
薩長同盟は何のために結ばれた?龍馬が西郷と木戸を繋いだ理由とは?
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著:武者震之助
絵:小久ヒロ
【TOP画像】
『西郷どん完全版第壱集Blu-ray』(→amazon)
【参考】
西郷どん感想あらすじ
NHK西郷どん公式サイト(→link)等