渋沢栄一と渋沢喜作は一橋家から俸禄をもらいます。お百姓になってから初めての禄。
「よし久しぶりに酒でも」
と喜作は笑みを浮かべますが、栄一がそれを制します。
借金返済ですね。
暮らしが楽にならないのは、それまで散々お酒を飲んでどんちゃん騒ぎしていたからで、「志士あるある」と単純に片付けられがちですが、相応の理由はありました。
それは密談です。
攘夷は血生臭いモノ。テロの相談なんて大っぴらにできませんからパーっと遊んで金ばらまいて、盛り上がったら綺麗なお姉さんたちは部屋から出ていってもらってヒソヒソと話をする。
ちなみに前回、栄一が幕府崩壊論をぶちまけておりました。
文久3年頃にはそうそう珍しいものでもなく、栄一が際立って聡明とは言い切れません。意地悪な見方をすれば主人公をクレバーに仕立てるための細かい仕掛けですね。
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家康による参与会議崩壊の解説
平岡円四郎は二人に新たな名前をつけると言い出します。
栄一は篤太夫。
喜作は成一郎。
幕末から明治は改名が多くてややこしいかもしれません。
江戸時代は複数の名前を持つことはおかしなことでもなく、幕末から明治前半は「一文字」を訓読みするブームばありました。
一(はじめ)、鴨(かも)、密(ひそか)などなど。
武士らしくなったと喜ぶ二人です。
そしてここで家康タイム。
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元号が元治になりました。主人公たちがようやく我がファミリーに入ったと言います。
京では徳川慶喜による「大愚物騒動」で参与会議は崩壊しました。
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これは残念なことでもあります。
というのも、参与会議って画期的なまでに斬新な構想、合議制だったんです。民主主義へ近づくような体制とでも言いましょうか。
歴史に“IF”はありえませんが、あの参与会議が崩れずにいたら、幕府が崩壊しなかったかもしれない。要は先進的な政治体制を破壊してしまったんです。
そこをふまえると家康が能天気に語ることにはどうにも引っかかるものがあります。
一橋家にて
二人は一橋家のみなさんと交流します。
水戸学の話を聞いて張り切る栄一ですが、それがどうにも最先端の話についていけない。
ここで慶喜が良いことをしたエピソードが入ります。
幕末ちょっといい話のようですが、この手の話は注意せねばなりません。ヒトラーが子どもを抱く写真で好印象を与えるようなもので、よくある手口です。
それにしても、このドラマは観光案内ガイドのようにわざとらしい口調で説明台詞を言うのが好きですね。
仕事場に来たのであれば、仕事の内容が気になりませんか。
にもかかわらずそうした手順の話はなく、「うちの社長のほっこりエピソード」が披露される。これが職場の初日だったら、その日のうちに退職したくなります。そういう会社って危険な雰囲気がしちゃうんですよね。
桃李成蹊(とうりせいけい)――という言葉があります。松坂桃李さんの名前の由来でもあります。
モモやスモモのように、花も実もある木。そんな芳しくて素晴らしい木に続く道は、整備せずともできあがる。
人徳者はそういうことをアピールしなくてもよい、という意味合いであり、わざわざほっこりエピソードなど入れなくてもよろしいということ。
一橋家に集まる人々の話を聞いて喜作は戸惑います。
かつては攘夷派だったのに、今は開国派! 心変わりが激しすぎではないか? ということですが、そもそも幕末は次から次へと価値観も変わっていきます。彼はついていけないのかもしれません。
反省中の長七郎だが
二人きりになった栄一は、喜作に打ち明けます。
自分たちだけでも、攘夷の気持ちを持ち続けよう。ここで世の中の流れを探りつつ、君臣まとめてたちあがろう。
ということですが、それではあまりに不誠実ではありませんか。
一宿一飯の恩という言葉があります。俸禄をもらい、いったん仕えると決めたらそう簡単に背いちゃいけない。人の道理ということですが、栄一の腹はどうやらそうでもないらしい。
こういうタイプは“獅子身中の虫”とも呼ばれたりします。主人公なのに、劇中の展開を見ているとそう思えてしまう。
策略を練り、力づくの行動に出るのは水戸学の悪しき傾向でもあります。
彼らは徳川斉昭を藩主とすべく、江戸まで向かい、そして実現した誇りがある。力づくで変える思想があるのですね。それが暗殺や武装蜂起にもつながると。
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そんな栄一と喜作は、飯炊きには慣れたようです。本当は、水戸学にこだわってないで、もっと勉強を進めてほしいところではありますが……。
その頃、関東では長七郎が牢の中で反省中です。殺人を後悔しています。意識が朦朧としていたとはいえ、何の罪もない飛脚をいきなり斬ってしった凶行だけに、さすがに言い訳はできないでしょう。
長七郎の釈放を願う尾高惇忠。
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それだけでなく栄一の活動による影響で、父の市右衛門まで呼び出しをされていました。
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一橋家に武家として出入りするようになり、その確認ですね。
それ以前には攘夷というテロを行使しようとしていただけに、その辺の追及をされてもおかしくありません。
薩摩の折田を探ってこい
血洗島でお留守番をしているのは長七郎らの弟・平九郎。
ていがやってきて「『八犬伝』より平九郎さんが好き」なんて告白をしていますが、江戸時代の恋愛はこんなものではないとは指摘しておきたいところです。
時代考証的にもマズいですが、そもそもこんな萌え狙いのラブコメって、古すぎやしませんか。
若者がテレビを見ない理由がギュッと詰まった場面と言えそうです。
◆ 10~20代の約半数、ほぼテレビ見ず「衝撃的データ」(→link)
栄一は、円四郎から重大ミッションを託されました。
薩摩藩士・折田要蔵に近づき、どんな人物か探れ――。
お台場建設の際に、海岸防備に優れた折田が抜擢されたのです。
薩摩藩は優秀ですね。というのも折田の作った大砲は実戦に使用でき、薩英戦争で活躍しました。
慶喜は徳川家茂が成人することから後見役を辞退し、帝を守りたいと考えています。その人材として折田を引き抜きたい。要はスパイです。
機密情報をペラペラ漏らす悪癖持ちの栄一にそれを任せるのは危険過ぎる気もするのですが。
そう言えば、序盤に登場したイケメン高島秋帆は今後どう絡んでくるのでしょう。水戸藩で作った大砲がどうなるか。ちょっと楽しみではあります。
栄一は薩摩藩ミッションに乗り気です。
血の気の多い薩摩隼人相手だと心配する円四郎。
国のために役立ちたいというアピールをする栄一ですが、ここは自身のスキルを披露してほしい。やる気だけのアピールは、かえって自信のなさをごまかしているとも見えてしまいますので。
三島と川村から身元を疑われ
折田は南朝の楠木正成ファンで猛プッシュしています。
南朝大好きというのは水戸学の大きな特色。推している孝明天皇が北朝だけどいいの? というツッコミはさておき、ともかく南朝プッシュは水戸学アピールの一環ですね。
今ならSNSで「国を憂う普通の日本人です」とプロフィールに書いている系のおじさんみたいなものでしょうか。
それにしても栄一ってドジっ子ですね。
「しぶさわえい……」まで名乗るって緊張感のなさを感じて悲しい。
さらに折田要蔵から始まる薩摩の描写も痛々しい。
まず薩摩ことばが絶望的に酷く、コミカルな表現と相まって『小馬鹿にしている?』とすら感じてしまいます。
隠密活動が抜群だった薩摩藩なのに、セキュリティも甘すぎる。
字幕付きで薩摩ことばをバカにするような演出もあり、鹿児島の人は怒らないのでしょうか。三年前には『西郷どん』を放送したばかりなんですけどね。
まぁ福井県(松平春嶽や橋本左内)も大概ですし、会津藩士の訛りも最悪でした。東北言葉の指導は『おかえりモネ』に取られちゃったのかと心配になる。なじょすて『八重の桜』の人さ連れてこねえのが?
本作は、こういった細部の手抜きがどうにもチラつきますので、もっと真剣にやりきってほしい。
大坂で折田塾に入った栄一は、台場にかかわる文書や下絵図の書き写しミッションをこなしていきます。
そこにはいろんな人が出入りしています。
しかし、どうにもクセのある折田。栄一のスパイ活動がコントのようで『折田もさしたる人物じゃないだろう』と思えてしまう。
そう思っていたら、眼光鋭い三島通庸と川村与十郎から身元を疑われてピンチです!
史実はさておき、のちに警視総監になるほどの三島ですから、本気を出されたら栄一など一瞬で刀の錆になりかねないと思います。
でもチートがあるからなんとかなる。この三島通庸は、2019年大河『いだてん』三島弥彦の父です。
会津で長州よりも嫌悪された男・三島通庸「鬼県令」は薩摩の精忠組出身だった
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福島県の歴史ではちょっと有名な方ですね。
◆喜多方観光物産協会 弾正ヶ原(→link)
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