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中国

北斗の拳にも影響大!中国エンタメ「武侠」と日本の深い関係

更新日:

三国志』はじめ中国文学を楽しむとき。
知っておくと知らないとでは格段にその深みが変わってくる事柄があります。

中国伝統のエンターティメント「武侠」です。

歴史ファンの皆さまでしたら、中国作品を見ていて、一度はこんな疑問を抱いたことはありませんか?

・中国の映画では、なぜ人が空を飛ぶのか?

・中国のフィクションには、なぜ女性戦士が多いのか?

さらには「押川春浪」という名前まで出てくる方はかなりのマニアとお見受けしますが、ともかく「武侠とか、そんな中国人の変な考え方は知らんでエエわ、日本人には関係ないし……」で立ち止まるのは勿体無い。

武侠は、我々が幼き頃より親しんできた時代劇や少年漫画の世界にも、非常に大きな影響を与えているのです。

※国際的評価の高い武侠映画『グリーン・ディスティニー』

 

文学を広げろ! 唐宋のビッグバン

人が生きていくために、娯楽は絶対に必要です。

衣食住さえあればよいというのはとんでもない誤解。
我々は文明を築き始めた頃から、エンタメと共に歩んできました。

初歩的な絵に始まり、踊り、劇、読み物等々。

一冊の書物にまとまっていれば、とにかく人から人へと伝えやすいのが文字のエンタメ。
中国史では唐代と宋代にビッグウェーブが訪れます。

なぜ唐代・宋代なのか?

こうしたエンタメの隆盛は、一朝一夕に出来上がったものではなく、土台というべき時代があります。

それが後漢から三国時代にかけて。
英雄たちの活躍で人気のこの時期は、実は世界史上でも屈指の人口減の危機を迎えていた時代でもありました。

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漢民族が大幅に減り、それ以外の民族が雪崩込んできて、ひとまず帝国ができたその時代。

我々は何者なのか?
何処へ行くのか?

当時、そんな哲学的なことを庶民一人一人まで考えていたとはさすがに言えませんが、そういう本質的な疑念の雲がモヤモヤと頭上にあってもおかしくありません。

そこに投下された、文学のもたらす高揚感。物語。
そういう空気は「国民性」を作り上げるうえでも重要な要素であります。

新たな漢民族の帝国とともに、小説がドバーン!と爆発を見せても、それは不思議のないことでした。

ただし、司馬遷の『史記』が最高に面白くたって、庶民がいちいち読むとなればハードルが高いものです。
それが唐の時代になって、人々が一歩前進し、こう考えるようになりました。

「盛り場で講談にすればいい!」

「小説にして読みやすくしたら、絶対ウケるって!」

「カッコいいヒーローが苦境を救ってくれたらいいよねえ〜!」

オレたちは、小難しい書物ではなく、アゲアゲなエンタメを読みたいんだ――そんな熱い空気が唐で盛り上がったのです。

そんなのよくある話じゃん。
と思われるでしょうか。

実は中国には、孔子以来、こんな思想がありました。

◆孔子『論語』
「子不語怪力乱神」
【意訳】まともな人は、ホラーやオカルトを語っちゃダメですよ

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例えば科挙を受けるような真面目な文人が、妄想混じりの小説などはちょっとどうかな……という、ある意味テレのような葛藤があったのです。

とはいえ、彼ら科挙に合格できない文人たちも、生活するためには何らかの収入を模索していかねばなりません。

文才が、あるにはあるけど、いまいちパッとしない。科挙には落第してしまう。
そんな文人は、エンタメ作家として生きていく道を模索することになります。

「就職できないんで、エンタメ同人作家として生きていきます……」
こういう考え方は現代人特有の発想かのように思えますが、中国ではとっくの昔に通過していたのでした。

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つまり中国文学を牽引したのは、落第組による【はみ出し文人パワー】とでも申しましょうか。

言ってみれば科挙の偉大なる副産物ですね。

 

唐代伝奇小説の世界とは

そしてここからが、中国文学の空恐ろしいところで、当時から、今でも主流になるような世界観を生み出しておりました。

・美少女戦士(中国語では「巾帼英雄」=女性の頭巾を被った英雄と呼びます)

・人外美女とのラブロマンス

・義賊もの(『ONE PIECE』が典型ですね)

・超能力バトル

女性戦士の活躍は、マーベル映画ですら近年やっと目立ってきた感はあります。
女性がラスボスだった『ソー ラグナロク』、ともかく強いヒロインの『キャプテンマーベル』でも割と最近です。

それを唐代ですでに通過している中国文学――いやぁ、マジで凄いと思いませんか?

政治的な話はさておき、ともかくエンタメの歴史だけに注目していただきたい。
その点、彼の国からは凄まじい底力を感じるのです。

※典型的な女性戦士の映画『侠女』は1970年。原作は『聊斎志異』で、こうした源流は唐代からあるのです

 

「江湖」それはアウトローと義挙の世界

理想を見て、現実逃避したい庶民。
そのニーズを、科挙に落ちた文才のある者たちが掬い上げる――。

身も蓋もないマトメ方な気もしますが、そこには中国にある漢民族の理想形や、道徳心もありました。

美少女戦士にせよ。
超能力が使える道士にせよ。
彼らはざっくりと「非日常」にいる存在として描かれております。

こういうアウトローや異能力者がいる世界を中国文学では「江湖」と呼びます。

では、一般人がいかにして「江湖」に入るか?
そのイニシエーションも大事でして、典型例が『水滸伝』です。

あの物語を読んでいると「どこが好漢なのだ?」と突っ込みたくなることがあります。
なんせ出演キャラたちは、暴力的な重罪ばかり犯している。

・殺人
・公務員殺傷
・冤罪
・暴力沙汰
・仇討ち

『読めば動機は理解できなくもないけど、やりすぎでは……』そう言いたくなるような犯罪行為をして、彼らは梁山泊へとやってきます。

もちろん、キャラの中には犯罪歴がない者もいます。
けれども、スカウトしたい。
そんな相手には犯罪をせざるを得ないシチュエーションまで作り上げて、やらせるわけです。

時代がくだると、
「アウトロー行為をさせて集まるまでがいいけど、後半は公務員になって滅びるからがっかり」
と、打ち切りバージョンが定着したほどです。

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な〜んだ。
中国人ってアウトロー行為が好きなのね。
というのもちょっと違っておりまして、そこには漢民族の「義」という概念もあります。

圧倒的な力の差がある相手に対して、超法規的な手段で立ち向かう――現在の観点からすれば「テロリズム」であっても、古代中国の伝統からすれば「義挙」となりました。

始皇帝が何度も暗殺されかけましたが、実行犯たちの行為は、後世では賛美でありロマンだと賞賛され続けました。
「義挙」の考えがあればこそ、そう評価されるのです。

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これを、海を隔てた特別な世界観だと思わない方が良いでしょう。

「やっぱり真田幸村の大御所への突撃って、素敵だよね〜」

「『忠臣蔵』って最高だよなあ! 幕府という巨大な権威に立ち向かうなんて、カッコいいじゃん!」

そうやって、うっとりしていた日本人もあまり変わらないんですね。

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幕末の長州藩士が京都で大人気だったのは、気前が良く、よい男が揃っていたからと説明されます。
それは確かにそうですが、大きな力に立ち向かう若手の志士たち――そんな心意気に京雀が惚れていた点も見逃せません。

幕末でモテモテだったのドコの誰?1位が久坂で2位が土方 薩摩隼人はモテどころか……

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「義挙」のために「暴力」を駆使して、その結果「江湖」というアウトローに身を投じる。
これも中国文学の世界です。

堅苦しい漢詩は性に合わん!
で終わったら、それはものすごくもったいないことなんですよ。

 

全員悪人 そんなアウトレイジ三国志があった

『三国志』といえば、皆さま何を想像するのでしょうか。

正史→おっ、本気ですね?

演義系→そこは定番ですね!

多くはそんな反応かなと思われます。

エンタメでは『三国演義』が定番で、日本ですと吉川英治氏のアレンジがあったりして、ちょっとややこしいことになっております(後日別記事にて詳細を予定しております)。

そこで注目したいのが『三国志平話』です。
こちらは全ページイラスト入りの読み物で

・三国時代を楽しみたいけれども、正史はお堅いし、専門的でシンドイ

・ならば講談師のアレンジも踏まえて、コテコテの娯楽モノにしてやろうじゃないか!

そんな考え方から、元代14世紀初期に成立しました。

もう少し踏み込んで、特徴を説明しますと。

・前世の因縁があるというイントロが入っている

・一応は当時の官軍であったはずの三国志の英雄の皆さんが、『水滸伝』レベルでアウトローの住人っぽいやりとりをしている

・張飛が無差別殺人をスタイリッシュにやらかす。道案内を頼んだだけの女を殺したり。悪すぎるやろ!

・諸葛孔明すら、話がまとまらないと剣を振り回して相手を殺す

・ともかく何かあるとやたらと殺す

・超常現象もなんだかものすごく起こる

「全員、悪人。」
そう突っ込みたくなる、『アウトレイジ』状態なんですわ。

 

当時は、まぁ、ともかく何かあればぶっ殺すネタがよかったわけですね。

「どうしてこんなに殺すの? 無茶苦茶なの? いくらなんでもやりすぎでしょっ!」
そう突っ込んだのは『三国演義』の著者として知られる羅貫中らかんちゅうです。

『三国演義』は現代からすれば派手で荒唐無稽なようですが、実はかなりブラッシュアップされています。
今なお大人気なのは、その卓越した加筆修正のおかげなのでしょう。

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ともかく、中国大陸には、
【ありのままに殺しまくる】
バイオレンスエンタメが残っていたことをご理解いただければと思います。

 

愛すべき御都合主義エンタメの世界

筆者は中国文学が嫌いなのか。

そう突っ込まれるかもしれませんが、もちろんそんなワケありません。
むしろ、現在のエンタメにも通じる【御都合主義】は大好きです。

その例を見てみますと……。

ちょっと動いただけで、大事な部分がポロリとしそうな衣装。
胸が揺れすぎて、絶対に痛いであろう美少女戦士。

もっと露出度に気を使うだろ!
きつく胸当てをするだろ!
そういうツッコミが入ることは当然といえばそうです。

その究極サンプルが、中国文学エンタメの世界です。

中国では、悪しき伝統である纏足がありました。
女性の足の骨を叩き折り、極めて小さくする悪習で、足は痛むわ、肉は腐るわ、非常時は走れないわ。
ともかく虐待としか言いようがないものです。

それでも美女の必須条件とされ、長い年月の間、纏足フェチズムがあったものでした。

はい、あなたがそんな時代の作家だとして。

「美少女戦士を出したいよなぁ。けど、纏足で飛んだり跳ねたりってどうよ? 無理じゃね? うーん……」

そう悩んだとしましょう。
そんなとき、各キャラたちにどうやって派手な活躍をさせますか?

彼らが用意した答えはこんな感じです。

「靴の中に詰め物を入れれば、普通の足と同じように戦えるんだよ!」

「戦ったあと、美少女がおもむろに靴の中の詰め物をやれやれ系主人公に見せる。って、最高じゃね?」

足の骨が砕かれているのに、靴に詰め物したからって戦えるかーい!
御都合主義にもほどがあるだろ……。

そうツッコミどころが満載ではありますが、こうした設定が定番になりました。

ここで、もう一つの課題が持ち上がります。

「超絶強ぇえ美少女戦士が、無事に仇討ちを終えたわけだが、ここから最高にグッとくる、今、流行のエンドにしたいわけですよ」

はい、どうしますか?

「やっぱ美少女だしさ。仇討ちが終わったら、良妻賢母としてやれやれ系主人公と結ばれるのがいいよなぁ!」

これまた御都合主義が出てきます。

特に明清時代には、定番の終わり方になり
「才子佳人小説」
(イケメンと美少女カップリング)
というジャンルになったほどです。

凄まじく軽薄で薄っぺらに思えるかもしれませんが、その認識である程度はあっているとは思います。

不朽の名作『紅楼夢』は、ひねったバッドエンドですが、ファンはそれでは納得せずハッピーエンド二次創作をしておりました。

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・人外(蛇や狐)だろうが、美少女ならばハッピーエンドであるべき

・幽霊でも美少女であれば、妊娠出産できる

・美少女戦士も、最終的には良妻賢母としてハッピー主婦ライフに落ち着く

お前らな、いい加減にしろよ……そう突っ込みたくなりますが、そうなってしまったのだから仕方ない。

唐代伝奇の成立当初は、教訓めいた筋書きがあり、ホラーテイストであった原典が、明清になると結局カップリング萌えに着地する。そんな様相を呈してきました。

『児女英雄伝』という大傑作美少女戦士物語は日本にも紹介されていますが、最後はハッピー主婦エンドです。

 

日中融合武侠ビッグバン

繰り返しますが、中国エンタメと日本は無縁ではありません。

しかも娯楽と終わらせるだけでなく、教訓も持たせること。
これも大いにありで、江戸時代の武士は『三国演義』を読みながら「英雄とは何か?」を学んでおりました。

例えば薩摩藩でも郷中教育で『三国演義』を嗜んだものです。

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あの近藤勇にしても、
「関羽ってまだいるのかな?」
と大人に尋ねる少年時代を過ごしています。

そして江戸時代が終わり、明治時代以降になると、日本と清の間では留学生等を通して新たな交流が生まれました。

「日本には、満州族以前に漢民族が伝えた呉服がある。このほうがむしろ漢民族の伝統なのだ」

留学生の中には、そんな理由で和服を好んだ者もいたほど。
明治維新を成し遂げた人物たちを憧れの対象にもしておりました。

同時にエンタメにも、熱い目線が注がれます。

西洋からのSFやミステリが上陸し、東アジア全体のエンタメにもビッグバンが到来。
清の留学生が「これだ!」と熱くなったのが押川春浪でした。

大河ドラマいだてん「天狗倶楽部」でもお馴染みの押川です。

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彼は「武侠」という概念を日本国内に提唱しました。

日本の武士道をベースとし、義侠心でともかく主人公が暴れまくる――そんな豪快な世界観。
実際、彼の著作は「武侠」づくしです。

「武侠……これはいい!」

そう熱くなったのが、清から留学していた梁啓超りょうけいちょうでした。

清から民国へ。
革命を志した偉大なる革命家は、押川に魅了されていたんですね。

もともと武士道を伝える『中国之武士道』という著作もある梁啓超です。
押川の武侠を知り「これぞまさしく我々にもマッチするエンタメじゃないの!」と目をつけ、押川の著作をバンバン中国語訳で発行。
清末期民国初期、中国では「武侠」が現代に至るまでの一ジャンルとして熱い定着を見せるようになったのです。

かくして【武術】で【義侠】の行いをするエンタメは【武侠】と呼ばれるようになりました。

この「武侠」という言葉は、韓非子の「儒は文を以て法を乱し、武は侠を以て禁を犯す」が由来とされることもあります。
しかし

・梁啓超が使い始めた

・押川人気は清でもあった

・押川以前には使用例がない

といった論拠から、どうにも日本の押川春浪由来だと思われるのです。

綿々と語り継がれてきた【英雄と美少女戦士が駆け巡り、光と闇が戦う】そんなジャンルに名前がつき、「武侠小説」がどんどん発表されていきました。

しかし残念ながら、この日中交流は戦争を経て断絶してしまいます。
不幸な大戦、冷戦、文化大革命……日中間には深い亀裂が入ってしまうのです。

では
「ここでエンタメ日中交流終了!」
と、なったと思いますか?

いえいえ、文学とエンタメに国境はありません。

 

エンタメに国境なし

押川の小説は教科書には載りません。
それでも彼のようなエンタメ作品は、世の中に出回り、講談、映画、芝居、大衆小説として、日本人の生活に馴染んでいきました。

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中国のエンタメで【道士や少林寺僧がマスターした武芸】は、日本では【忍者や美少年剣客がマスターして】暴れ回ります。

そして戦後へ。
日本のエンタメ界は中国と奇妙な結びつきを始めます。

日本人の精神性に影響を与えたとして、GHQがエンタメですら禁止した【武士道】。
それに取って代わるようにして中国古典を題材にした小説が増えていきました。

が、これはあくまで一時しのぎ。
昭和が進み、とある一人のミステリ作家が世に出てきます。

山田風太郎――。
かの江戸川乱歩にも師事した新進気鋭の作家でした。

山田風太郎/wikipediaより引用

彼がある出版社から原稿料をもらおうとしたところ、現物支給をされたことがありました。

現物とは『金瓶梅』という、中国古典ポルノ。

『金瓶梅』って? 400年前の『水滸伝』エロパロ作品が今なお人気だと!

「 ...

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このポルノをベースにミステリを描いたら面白いのではなかろうか?

そう考えた山田は1954年、ミステリにアレンジした『妖異金瓶梅』を発表。
高評価を得たのです。

『金瓶梅』の次は『水滸伝』にしてみたらどうだろう?
次に山田はそう考えました。

かつて、かの滝沢馬琴は『新編金瓶梅』というアレンジ作品を書いていました。
そのあとで、和製『水滸伝』として『里見八犬伝』を書いているのです。
ならば山田の水滸伝もありでしょう。

滝沢馬琴 里見八犬伝の作者にして日本初・印税作家の生き様と逝き方とは?

「 ...

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梁山泊のように百八人を集めるのは面倒だ。
ここは忍者でいいだろう。
義侠とか、そういうことはさておき、異能力者同士をひたすら戦わせたらおもしろそうだ。

そんなアイデアのもと、1959年に発表されたのが『甲賀忍法帖』です。

伊賀と甲賀、徳川の継承争いに翻弄された哀しき忍者たちの戦い 山田風太郎「甲賀忍法帖」

こ ...

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忍者がひたすら殺しあうわ、首は飛ぶわ、エッチな展開もあるわ。

エンタメのA級とはされませんし、教科書には絶対に掲載されません。
むろん大河ドラマになるわけもない。

とはいえ、ここから忍者ブームが爆発的に広まりました。

忍法帖には、現在の異能力バトル漫画とも一致する特徴が、しっかりと備わっています。
異能力バトルといえばアメコミというイメージがあるでしょう。その影響もあるでしょうが、忍者も忘れてはいけません!

・チーム構成員の異能力は、事前には不明である。探りながら戦う

・圧倒的な戦闘力ではなく、能力の組み合わせや相性によって勝敗が決まる

・使い所がほとんどない能力でも、適材適所で時に極めて有効となる

※その典型例が『ジョジョの奇妙な冒険』ですね

真面目な大人が顔を背け、子供には「読むな」と言おうが、圧倒的に面白いので広まってしまう。
これぞエンタメの世界でした。

そういうバトルの元ネタが、実は『水滸伝』なのです。

甲子夜話』あたりから始まるエンタメ忍者ネタとか、真田十勇士とか、いろいろな日本のエンタメネタもあります。
それでも、日中エンタメがハイブリッドしてきたことは、否定できないわけです。

漫画が出たついでに、別の日中エンタメハイブリッド例もみてみましょう。

ブルース・リー
ジャッキー・チェン
ジェット・リー
ドニー・イェン
ウー・ジン


かようなカンフースターたちも日本では人気がありますね。

 

カンフー映画には、武侠小説の伝統を汲む物語の構成や世界観がありました。

『北斗の拳』のケンシロウがブルース・リーをモチーフにしていることは有名です。
彼が突く「秘孔」も、元ネタをたどれば武侠小説の「点穴」(=特定のツボをつくと動きを封じられる)にあります。

 

特定のツボを突くとあべし!
これは元をたどれば、中国でした。

『北斗の拳』とテイストが似た中国映画があっても、何ら不思議はないんですね。

 

『コール・オブ・ヒーローズ 武勇伝』北斗の拳世代必見のアクションは、あのデブゴン仕込み!

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『ドラゴンボール』も、モチーフは中国四大奇書『西遊記』です。

バトルで正義を為すところは、武侠やカンフー映画に通じるところが多い作品と言えます。
『西遊記』は『最遊記』という作品もありますし、『水滸伝』ともども日本でも映像化されていますね。

 

『機動武闘伝Gガンダム』に出てくる東方不敗ことマスター・オブ・アジア。

 

彼の名は、武侠小説のレジェンドにして先日亡くなられた武侠小説巨匠にして国民的大作家・金庸の代表作『笑傲江湖』の悪役由来です。

自分で去勢しているという衝撃的な悪役ですので、ぜひ原典やそのドラマ版でご確認ください。

中国史に必ず登場する「宦官」の恐ろしき実態!特に腐敗っぷりがヤバイのは明王朝

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中国エンタメを排除できるか?

最近、こんなご意見を見かけます。

中国憎しのあまり『三国志』好きの自分に葛藤を感じているとか。

『三国志』だけは例外と割り切ろうとするとか。

中国が関与したものはともかく貶すとか。

この言動に合理性はあるのでしょうか?
いくら中国が嫌いだろうと、中国に少しでもかすったものを排除しようとしたら?

無理です。
もう一度言います。絶対に無理です。

中国は無関係だと思っているエンタメも、元をたどればその要素があっても、何ら不思議はありません。

漫画だって、ゲームだって、中国人モチーフのキャタクターは定番です。

 

アメコミのマーベルなら大丈夫だろう、って?
そうでしょうか?

サミュエル・L・ジャクソン「ニック・フューリーは深作欣二監督映画の柳生十兵衛を参考にしている」

映画『魔界転生』は忍法帖が原作

前述のとおり、忍法帖シリーズの元ネタは『水滸伝』=中国

 

やっぱり無理、不可能なんです。

カンフー映画も「武侠小説」の影響は当然ある。
そのカンフー映画が、ここまで世界に大人気であること。日本発の忍法帖や異能力バトルだって、同じことです。

大切なことは、
【エンタメに国境はない】
ということではないでしょうか。

日本でも人気のある周星馳は、武侠にぞっこん惚れております。
彼の『少林サッカー』は、サッカーなのに空を飛ぶ超展開で大好評でした。

これも、武侠の設定を活かしているのです。

※『少林サッカー』も武侠でわかる!

他にも『カンフーハッスル』はじめ、彼の作品は武侠ネタがてんこもりです。

中でも日本と中国は、海を隔ててこの分野でもしっかりと足並みを揃え、互いに影響を与えあってきたのです。

「こういう発想ができるのは、日本人だけだ!」
とルーツを強調したいのであれば、まずそう思ってしまう前に中国文学史をあたってみることも大切なことではありませんか。

優劣を決めることに、さしたる意味はないはずです。
エンタメは、国境など無く、ともかく皆が楽しめればいい。そんな気持ちが大切ではないでしょうか。

「どうして私たちは、こんなにも『三国志』はじめ、中国モチーフのエンタメが好きなのか?」

それも伝統であり、歴史なのです。
我々はご先祖様からずっと、はるか昔から楽しんできました。これからも、その楽しみを広めていきましょう。

※ツッコミどころ満載の超展開でも「武侠だから」で許される。だがそれがいい

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文:小檜山青

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【参考文献】
『漂白のヒーロー』岡崎由美(→amazon link
『武侠小説』岡崎由美(→amazon link
『金瓶梅』日下翠(→amazon link
『破壊の女神』伊波律子(→amazon link
『中国侠客列伝』井波律子(→amazon link
『人間・始皇帝』鶴間和幸(→amazon link

 



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