こんばんは、武者震之助です。三連休いかがお過ごしでしょうか。
今週は、アバン(オープニング前の映像)がこれまでの直虎の歩み総集編ショート版です。
ここから新しい展開という合図でしょうか。
一方、今川ではもう一人の女大名・尼御台こと寿桂尼が奮闘しておりました。
今週は時系列が少しさかのぼります。
災いをもたらす男・武田信玄、登場!
桶狭間の戦いで英主・今川義元を失った今川家。
同盟相手の武田家が、今川から嫁いだ鈴(氏真の妹)の夫であり嫡男の義信を切腹に追い込みました。鈴は夫の死後も甲斐に留め置かれていました。
本作では天災のように思われている武田信玄がついに登場したのです。
鈴を涼しい顔で飼い殺しにするような冷酷さを持つ男ですが、達磨像のような姿で鷹に餌をやる姿はどこかひょうひょうとしていて茶目っ気すら感じさせます。
あぁ、これが真田昌幸の師匠か、と納得させられるものがあります。
今川から鈴返還を要求する使者が来たと聞いて追い返そうとする信玄。しかし相手は寿桂尼と聞いて驚きます。
「心の臓がいかれおったのではなかったのか? 化け物か、あの婆は」
昨年『真田丸』で死の淵から甦った「化け物老女枠」の真田幸綱正室が、時代的に、このころはまだピチピチの若い娘で、武田に在住していたかと思うとちょっとニヤニヤしてしまいますね。
それはさておき、化け物呼ばわりを隠して寿桂尼の前に現れる信玄。
敢えて「晴信」呼ばわりでちょっと小僧ぽくあしらう寿桂尼。まだよく元気ですね、と声を掛ける信玄に皮肉をこめて返す寿桂尼。
これぞ京都の女、という感じですねえ。
「神仏もまだ私には会いたくないようで」
「それは神仏も正直な」
と切り返す信玄。
『神仏だけでなく、俺もアンタにゃ会いたくねーわ!』と言うのが本音でしょうか。
化物の前では、直虎と龍雲丸のヤリトリも高校生の弁論大会
さらには義信の死に追いやった信玄に、お悔やみを述べる寿桂尼。
会話が全て高度な嫌味で構成されていて辛いです。
後に今川氏真と北条幻庵の対話シーンがありますが、氏真の稚拙さを際立たせる布石にもなっているような印象です。
寿桂尼は鈴の返還を申し入れます。
「まだ武田に尽くしたいようで」
間髪入れずに返答する信玄。
ここで井伊家の人間レベルなら「ウッ」と黙ってしまいそうですが、さすが百戦錬磨の寿桂尼、
「なんということを! 吾が説き伏せましょう!!」
と強い口調で更に切り返します。

信玄が、気鬱で臥せっていると断ろうとしても、今度は「説き伏せましょう」と寿桂尼が乗り出します。
なんとかこちらで説き伏せるから、と信玄が言うと、やっと矛を収めたかに見えた寿桂尼。
しかし、かつて信玄が追放した武田信虎の話を持ち出してチクリとするのですから、やはり女大名と称されるだけのことはありますね。
信玄も「親子断絶している」と答えに窮しているような状態で、これに対して信虎と織田の関係を持ちだし「尾張の若造に脚をすくわれますように」とさらにチクリと釘を刺す寿桂尼、さすがです。
こういうベテラン、高知力、脚本家ノリノリの場面を見ると、先週までの直虎と龍雲丸の会話なんて高校生の弁論大会みたいんだったなぁ、と思えてきます。
いや、あれが両者の一生懸命ですけどね。あれはあれでいいんですけどね。
寿桂尼が化け物なんです。
己の老いすら手札に使う 病弱老婆の凄みがパネェ
国に戻った寿桂尼は、鈴奪還のためさらなる手を打ちます。
コトの成否を尋ねる氏真に対しては、「私が言ったくらいで手放さないはずだが、今後の手を打ちやすくなる」と寿桂尼は答えます。
一手二手先を読む寿桂尼の行動についていけない氏真。寿桂尼は春(氏真の妻)に、北条の父(氏康)に仲介を頼む手紙を書いて欲しいと頼みます。
寿桂尼は手紙を手に北条に行こうとします。弱った祖母を見た氏真は自分が代わりに行きたいと言うのですが、寿桂尼には計算があります。
病弱な老婆が孫娘を帰して欲しいと頼めば、相手も情けをかけるだろうということです。
己の老いすら手札にするこの凄味!
北条家では寿桂尼の訴えを聞き、北条幻庵(早雲の末子)を武田に派遣し、鈴とその子の奪還に成功するのでした。
ちなみに幻庵は大河発登場だそうです。シブいですね。
しかし武田もさるもの、タダでは返さない。
「誓紙を出せ」と迫ってきました。
今川まで来た幻庵にそう聞かされ、武田の対応に困惑する氏真。幻庵に武田の挑発に乗って戦になったら勝てますか、と言われて氏真は怒りを爆発させます。
桶狭間からずっとため込んできた鬱憤を幻庵にぶつけるようにキレる氏真。寿桂尼は「泣き言を言ったら負けますよ」とたしなめます。
氏真が気の毒です。彼だって一生懸命でしょうに。普通の人に厳しいドラマだ……いや、戦国とはそういうものか。
何もかも思い通りにならず」、目がどんよりとしていく氏真。
もうどうでもいい、俺は祖母ほど頭が良くないんだもん、と劣等感をおぼえた氏真は、踊り狂う馬鹿殿ルートまっしぐらなのでした。
凄腕・寿桂尼を前にして、氏真は落ち込むだけ……
一方で気賀を手にして祝宴真っ最中の直虎。
ところでこの城って、大雨、高波、巨大台風が来たら、一発で終わりそうな印象が……。
それはさておき、直虎は瀬戸方久を城代にすればおさまるよね宣言。気賀の商人も大喜びです。
龍雲丸ともここから世を変えようね宣言しちゃったりして。このウキウキ楽しい祝宴は何かのフラグのような気がします。
何だかあまりに能天気なんですよね。
氏真は、寿桂尼から上杉との同盟成立を聞かされます。
しかし水面下の交渉は寿桂尼担当で、氏真は決済印を押すだけのような状況。
もう俺じゃ駄目だな、と落ち込む氏真です。寿
桂尼は別に実力差ではなく、武田や北条とはつきあいが古いだけですよ、と慰めるのですが氏真は聞く耳を持ちません。
「龍王!」
思わず幼名で語りかける寿桂尼ですが、これが逆効果。こんな時だけ幼名で話しかけないでよね、とますます頑なになります。
「いつまでおれるかわからぬのです、ですから……」
身を震わせそう言おうとした寿桂尼は、ストレスによる発作か。
寝込んでしまいます。
美男美女、お神楽の舞、優美な今川の家風
氏真は妻の春に「俺がうつけなんだ」と泣き言を言います。
春は夫をうつけと思った事はありません、でも今は初めてそう思ったかもしれません、そう言います。
この人も戦国を戦っているんですよね。
春は今川に嫁いだ時、その雅さが夢を見ているようだったと語り始めます。
美男美女、お神楽の舞、優美な今川の家風。
それをつないでゆくのは殿しかいないと言われた氏真は、館中の楽器を集めて演奏を始めます。華やいだ調べで戻って来られるかも知れない、そうでなくても美しい調べで冥土へと送りたい、そんな気遣いでした。
美しい調べが奏でられ始めると、寿桂尼は夢を見ます。
夢の中では美男美女が舞い、義元と龍王丸が微笑んで蹴鞠をしています。極楽浄土のような夢幻の世界です。
井伊から見れば白塗りの恐怖であった義元も、幻の中では優しく慈愛に満ちた父親です。
このまま神仏に会いに行くのかと思っていたら、寿桂尼は目を覚まします。
「太守様、辛い思いをさせました……婆を許してくだされ。婆はただ取り戻したいだけなのです。光に満ちた今川を、そなたともに。今川のために……」
氏真は寿桂尼の手を握り、そのためには何を為せばよいか教えを請います。
弟子の成長を喜ぶような寿桂尼 直虎の目標だった人が今……
井伊では、直虎と小野政次が気賀も収まりそうだと井戸の前で語り合っています。
政次はそろそろ戦のことを考えねばならないと告げます。
寿桂尼の容態が悪い、このまま亡くなれば一気に動く可能性があると。このまま無策では今川方として無謀な戦いに駆り出される。その前に手を打たねばならないのです。
直虎は複雑な気分です。
今川は敵とはいえ、寿桂尼は目指すべき大先輩でした。
そんな直虎に、寿桂尼から呼び出しの書状が届きます。話したいことがあれば行っておいで、と南渓。
以前ならば駿府から呼び出された時点で大事件、殺されるかも知れないと大騒ぎだったなあ、と感慨深いものが。
呼び出された直虎と出迎える寿桂尼。直虎は美しく染められた綿布を贈ります。
後見を許されて三年、いろいろあった綿花栽培、綿布産業もここまで来ました。
京都出身でファッションにはこだわりがある寿桂尼も驚くほど美しい仕上がりの布です。それもこれも貴女が認めてくれたから、と恩義をにじませる直虎。弟子の成長を喜ぶような寿桂尼です。
直虎が返答すると寿桂尼は涙を流し、今川への助力を願う
寿桂尼は苦しそうに「直親のことをどう思うか」と尋ねます。
恨むなという方が無理だろう、今でも恨んでいるかと続ける寿桂尼。
直虎は一瞬呆然しながら言うのでした。
「家を守るということは綺麗事では達せられません。狂うてでもおらねば、己の手を汚すことが愉快な者などおりますまい。汚さざるを得なかった者の闇はどれほどのものか……そう思います」
寿桂尼は涙を流し、声をつまらせながら、直虎のこれまでを思い出します。
家を救うために鞠を蹴った姿。瀬名の命乞いの姿。徳政令を覆しに来た姿。
「そなたが我が娘であればと、ずっと思っておりました……」
直虎も涙で目を光らせながら、直虎と名乗るようになったころ励まされたのは『仮名目録』であった、女子である寿桂尼が作ったものだと知りどれほど力強かったか、としみじみ語ります。
互いに理解しあう美しい姿がそこにはあります。
寿桂尼は、今川は武田に戦を仕掛けられそうになっている、どうか自分の死後も今川を見捨てないで欲しいと訴えかけます。
直虎は深々と頭を下げ、「ご安心くだされませ」と返すのでした。
これが「死の帳面=デスノート」か!!
直虎は廊下に出て、他の者も寿桂尼に呼び出されているのを見ます。
一方で寿桂尼は黒い帳面に何かを書き付けています。
井伊に戻った直虎は政次に、寿桂尼はゆかりのある人に挨拶してみるみたいだよ、と報告。政次は恩義を売って離反を食い止めたいのだろうと分析します。
駿府では、氏真が離反者を呼び出し、粛清を行っていました。氏真が見ているのは、寿桂尼が手にして何かを書き込んでいた黒い帳面です。
そこにあるのは家臣の国衆の名前。
そしてその名の上には赤い×印……。
これが「死の帳面=デスノート」か!!
氏真が頁をめくると、井伊直虎の上には、なんと大きな×印がありました。
氏真は困惑しつつ、寿桂尼に「お気に入りではなかったのか?」と問いかけます。
「あれは、家を守るということは、綺麗事だけでは達せられぬと言うたのじゃ。いつも吾が、己を許すために己に吐いておる言葉じゃ。おそらく同じようなことを、常日頃思うておるのであろう。吾に似た女子は衰えた主家に義理立てなど決してせぬ」
その言葉を聞き、目を泳がせながら氏真は言います。
「では井伊については筋書き通りに」
「ええ、例の話をお進めください」
直虎は寿桂尼の試験に合格してしまった!
心情を理解できるからこそ容赦はできぬ
直虎はかつて寿桂尼が歩んだ修羅の道をゆく覚悟を完成させてしまっていた。
あのとき「目を真っ赤にして直親のことで恨み言を言えば」こうはならなかったのだ!
直虎は、合格したからこそ死なねばならない……互いが理解しあうからこそ、容赦はできぬと判断されたのです。
うわーっ、戦国だ。これが戦国だ。なんて嫌な世の中なんだ!
寿桂尼が静かに決意を表明すると画面は暗転。井伊に切り替わります。
直虎は南渓から勢力について語られます。地図の精度が上がっているのは情報主収集力のアップかな?
今川は上杉と同盟を結ぶ、そこでポイントになるのが徳川だと聞かされた直虎。
じゃあ徳川に働きかければいいね、徳川が武田と組まなければいいね、と考える直虎です。
政次はそんなことを今川に知られたらどうするんだ、と焦ります。直親と徳川の接触があの結果になりましたからね……。
しかし直虎は止まらず、瀬名に書状を出します。
瀬名は一人囲碁を楽しむ夫・徳川家康の碁盤にスライディングして書状を手渡します。
昨年に続き謎の癒やし系・徳川家。あの信玄を見たあとだと、今川に引導を渡すのは家康でよかった、と思えたりして。
MVP:寿桂尼
美しく、凛々しく、そして冷酷な寿桂尼。
信玄のやり取りはまさに化かしあい。昨年の昌幸と家康のやり取りを思い出しました。
信玄は相手を化け物扱いしていますが、両者とも十分化け物です。
彼女の凄味は「弱った老婆」であることすら利用していることです。自らの弱点すら手札に使う、持てるものは何でも使うわけです。
その姿は主人公の未来でもあるわけです。
京都から嫁いできたころは深窓の姫君らしかったでしょうし、政治に関わるようになってからも今の直虎のように青臭く理想論に燃えた女性であったかもしれません。
それが今ではおとぎ話の魔女や妖怪のようにも思えます。
しかしそれは一途に家を守ろうとした結果なのですね。直虎の将来もこうかもしれない、と示しています。
キラキラしたお姫様と悪の魔女は別の存在ではなく、段階の変化に過ぎない。いつまでもキラキラスイーツをしていたら死ぬだけだ。
今週も本作は、スイーツ大河に容赦ない一撃を加えてきました。
特に直虎とのやりとりは録画して二度見たい出来でした。
一度見た時は「ああ、彼女は直虎の成長を頼もしく思いじんと来て泣いているんだ」と思えます。
二度見ると「ああ、この人は直虎が成長し過ぎて危ないから殺そうと思い、そのせいで泣いているんだ。それかその気持ちを誤魔化すために泣いているふりをしているのかも」と思えてきて、背筋がゾクゾク……。
信玄は義信を始末しました。息子であろうと、かつての自分のと同じ、父に背く可能性があれば容赦無く始末しました。
信玄と同じく、寿桂尼も娘のように思う直虎を容赦なく始末する決断を下します。
妖怪変化(へんげ)だらけ、戦国らしさを感じる秀逸な回です。
総評
今週からは新たなターン。いよいよ牙を剥く武田!
とぼけた味わいもある信玄ですが、どこかユーモラスながらえげつないところは、流石真田昌幸の師匠だと思いました。
『風林火山』の真田幸綱(劇中では幸隆、演じた野は佐々木蔵之介さん)から昨年の昌幸には容貌はともかく、性格的にはまっすぐ繋がらないのですが、間にこの信玄を入れるといろいろと納得できます。
腹の底を隠しながらシレッと嫌らしいことを連発するあたり、そっくりじゃないですか。
直虎や寿桂尼、そして昨年の真田信尹は手を汚す時に苦しみを感じていましたが、信玄と昌幸についてはどうもそれすら怪しい。
直虎の言葉を借りれば「狂っている=マッド」、武田は戦国の中でもぶっちぎってマッドマックスなのでしょう。
寿桂尼と信玄が妖怪対決をしている一方で、氏真のいじらしさが際立ちました。
常人は反発するというのが氏真の反応ですね。氏真が悪いとか劣っているとか、そういうことではなく、妖怪の前で常人は無力なのです。
テレビの前のあなただって、寿桂尼が直虎の上の×印を書いていたところでのけぞったでしょう?
氏真と同じ気持ちでしょう?
彼は人並みに善良で人並みの頭脳を持つ、愛すべき男なんですね。
開始前には「今川が悪く描かれないか心配で」という意見もあった本作。
それを見事裏切り、今川の美しさを描いたことも感動しましたねえ。春が夢のようだと語った雅さと、戦国大名としての実力、両方備えていたのが今川でした。
その美しさはたっぷりと血を吸ったもので、その血の中には井伊のものも含まれています。
一輪の大きな花を咲かせるため、小さな花は間引いてきた結果ではあります。
もうすぐ散る今川の花。短い命を長引かせるために、どれだけの血が流れるのでしょうか。
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絵:霜月けい
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【参考】
NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』公式サイト(→link)













