奥州藤原氏と平泉(著:岡本公樹)

歴史書籍

奥州藤原氏は義経の逃亡を歓迎していた?『奥州藤原氏と平泉』書評

奥州藤原氏――。

歴史上、その名が登場する場面と言えば、主に源義経の逃亡潜伏先でありましょう。

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あるいは「黄金でギラギラした凄い人が平安末期にいた!」という曖昧な認識が、多くの人にとってのイメージではないでしょうか。

えさし藤原の郷・金色堂

しかしコトはそう単純でもありません。

藤原清衡に始まり、基衡、秀衡、そして最期の泰衡まで。

ともすれば地味な印象を持たれがちな東北地方に、華々しい平泉文化を拓かせた奥州藤原氏には、やはりそれだけの実力があり、歴史好きの琴線に触れるストーリーもある。

それを一冊で把握できるのが本書『奥州藤原氏と平泉(吉川弘文館)』(→amazon)です。

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「奥州藤原氏」から見える奥州の豊穣さ

この「人をあるく」シリーズは、フルカラーで図版が豊富な点が特徴です。

色鮮やかな奥州藤原氏の繁栄はやはりカラーでなければ、伝わり切りません。

地図・系図も多く、情報がスッキリ。

史跡を歩くガイドも豊富で、実際に現地に行ったような気分にもなることができますし、旅行ガイドとしても活躍しそうです。

基本的な情報から、旅のガイドまで、一冊で広範囲をカバーしているのがこのシリーズの特色であり、これは本書にもあてはまる長所です。

本書はまず藤原氏四代の履歴書から始まります。

藤原氏の特徴としては、遺体がミイラ化しているため、体型や体に残る傷跡から人生、そして死因までたどることができる点があげられます。

初代・清衡はアスリート体型で貴族化していなかったこと。

それに対して二代目・基衡、三代目・秀衡は肥満して生活が変わっているということ。遺体から判明するのです。

そうした遺体や史料によって甦る藤原氏の歩みを見ていくと、驚異的というほかありません。

この時代だからこその発展。中央とは違い、フロンティアのようであった東北だからこそ、その急速な発展ぶりは鮮やかというほかありません。

毛越寺に所蔵されている奥州藤原氏・三衡(上が藤原清衡、手前の向かって右が藤原基衡、左が藤原秀衡)/wikipediaより引用

そして藤原氏時代の東北が持つ、黄金の輝きに象徴される豊穣さ。

これは後の時代には見られないものです。

飢饉や冷害に悩まされ、収穫した米を中央へ吸い上げられるようになった江戸期の奥羽。

貧家が娘を身売りしなければならなかった、二十世紀はじめの東北地方。

そうした東北とはちがう、中央から切り離され、それゆえ独自の豊かさを持つ奥州の姿が、そこにはあります。

 


平泉に新政権を立てる構想があったのかも

哀しきことに、栄光はわずか四代で終わってしまいます。

源頼朝に追われた弟・義経をかばったため、中央から滅ぼされた――というのが通説です。

藤原泰衡
奥州の藤原泰衡は頼朝に騙された愚将なのか?義経を討ち最後は家臣に裏切られ

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しかし本書では、別の見方を支持しております。

源義経に関係なく、彼らは最初から頼朝の「仮想敵」とされていたのではないか?

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警戒されていた平泉に、軍事的カリスマの義経が逃亡したら、結果は火を見るより明らか。衝突は回避できません。

となるとやっぱり義経は当時の東北にとって厄介な存在にも思えてきますが、実は平泉側でも、合戦の神輿として祀り上げる貴種(源氏)を必要していたのではないか。そう本書は語ります。

三代・秀衡は、遺体をみると思いがけない突然の死であること。秀衡がもっと長生きしていたら、平泉に新政権を立てる構想があったのかもしれない……。

本書は北の大地にそんな可能性があったことを示します。

結局、その新政権も、奥州の豊穣さも、中央との合戦によって敗れ去ります。

中央と対立し敗北または服従する、このあとも東北は被征服者としての歴史を繰り返すことになるのです。

 


つわものどもが……

本書の読後感にふさわしいのは、まさに松尾芭蕉でしょう。

夏草や兵どもが夢の跡

遠い昔、奥州に光り輝く土地がありました。

奥州藤原氏の政庁があった柳之御所跡(岩手県平泉町)

数代のあいだに伸張し、そして戦の中で潰えてしまいました。

豊かで新鮮、そしてどこか儚い。

そんな夢のあとをたどることのできる一冊です。


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文:小檜山青

『奥州藤原氏と平泉(吉川弘文館)』(→amazon

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