日本のとあるアダルトゲームが中国でバッシングを受けました。
中国では未発売だったのにナゼか?
ヒロインの一人が「林黛玉」という名前だったからです。
これ以前から、三国志の人物名でも同じような論争があったそうですが、その比ではありません。完全に虎の尾を踏みました。
林黛玉(りん たいぎょく)とは、『紅楼夢(こうろうむ)』に登場する、中国文学史上、最高の美少女であり、永遠の恋人なのです。
それをいかがわしい作品に出すとは、さすがに彼らの反応も致し方ないものでしょう。
では林黛玉ってどんなヒロインだったのか?
そもそも実在するのでしょうか。
日本人にはあまり馴染みがないため、その辺から説明して参りましょう。
【TOP画像】
『紅楼夢~愛の宴~』(→amazon)
お好きな項目に飛べる目次
お好きな項目に飛べる目次
美少女だけ側にいて欲しい究極の美少女小説『紅楼夢』
主人公の周囲には十代の美少女しかおらず、皆それぞれ個性があって、彼女らは主人公が好き――。
そんなあらすじだけ辿れば「それって少年誌の漫画であったね」とか「それ、なんてゲーム?」と思う方もおられるかもしれません。
こうしたストーリーは、何も漫画やゲーム、ライトノベルだけの専売特許ではありません。
18世紀中頃に中国で成立した長編小説『紅楼夢(こうろうむ)』の世界観が、まさにこうしたものだったのです。
つまり林黛玉(りん たいぎょく)は、実在の人物ではないんですね。
この小説のあらすじはザッとこうです。
中国の大貴族・賈(か)氏。その貴公子である美少年の賈宝玉(か ほうぎょく)は、「栄国府」と呼ばれる賈家の大邸宅で楽しく暮らしています。
そんな彼の周囲には、繊細でプライドの高い林黛玉、しっかり者で穏やかな薛宝釵(せつ ほうさ)がいます。
さらに個性豊かな美少女が、宝玉の周囲におりました。
そんな宝玉と美少女たちの華麗なる日常を描く――。
それが『紅楼夢』の世界です。夢幻の如き世界がそこにあります。
「中国版『源氏物語』」と形容されることもありますが、ヒロインが多い点と、恋愛要素が強いという点ぐらいしか共通点はない気がします。
『源氏物語』のヒロインは男の身勝手さにげんなりすることも多いのですが、『紅楼夢』の美少女たちはひたすら愛くるしく、宝玉を慕い続けるのです。
理想のハーレム、といえばこちらではないでしょうか。『源氏物語』はヒロインが結構死にますしねぇ。
本作を象徴すると言われてい主人公の台詞は以下の通り。
「女の子の体は水から出来ているのに、男の体は泥から出来ているんだ。女の子にといるとすっきりと爽やかな気分になるけど、男といるとマジ汚くて臭くてウザくて最低」
「女の子も処女のうちはいいけど、男と交わると泥臭くなって駄目」
この台詞を二百年前に通過しているって、凄くないですか?
伝統的に中国では、歳をとって経験を積んだ男性が賞賛の対象でした。
ところが本作では、若い女性こそ最高だと賞賛しているわけです。
価値観の逆転であり、本作はただのハーレムものじゃないぞ、ということではあります。
林黛玉は萌え要素てんこ盛りデス♪
メインヒロインは林黛玉と薛宝釵の2人です。
『エヴァンゲリオン』のファンが、レイとアスカどちらが好みか?で争うように、中国の人々は、彼女らのうちどちらが好みかで盛り上がっておりました。
そんな彼女らのスペックはこうです。
◆林黛玉(りん たいぎょく)
外見:病弱で弱々しく、やせ形。字は「顰児」(眉をひそめる女の子)。心痛や体調不良でよく眉をしかめるのは、古代中国伝説の美女・西施を意識した設定と思われます
性格:繊細可憐でひたすら健気。ちょっとしたことでもプライドを傷つけられ怒りやすく、そこが欠点とされることも
主人公への態度:ややツンデレ気味。好き過ぎて素直になれない
どうですか、これ。中国では「恋をするなら林玉で、結婚するなら宝釵だよねえ」と言われているそうで、いかにもそんな感じですね。
他のサブヒロインには、おっとり天然系、おてんば系、クール系と揃っています。
それでもやはり彼女らが二大人気であることは言うまでもありません。
この黛玉には名場面がありまして。庭に散った花びらを小さな鋤で集め、庭に葬るのです。
「黛玉葬花」と呼ばれるこの場面は、黛玉の感性のやさしさ、花びらを集める仕草の美しさから、大変人気があります。
黛玉を描いた絵は、たいていこの場面をモチーフとしています。
しかも黛玉は、作中で唯一リッチニート状態の主人公に、「アンタもっとちゃんとしなさいよ」と言わない存在です。
他の人は、ろくに勉強もせず、美少女とキャッキャウフフする主人公にちくりと嫌味も言うのですが、黛玉は絶対にそんなことをしません。
最高だな、黛玉たんは……ここまで読んでおわかりいただけたでしょうか。
二百年の歴史ある美少女キャラを、隣国が勝手にアダルトゲーに出してしまったことに対する憤激を……。
※続きは【次のページへ】をclick!